無限の剣を持つゴブリン   作:超高校級の切望

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今回のあらすじ

ついに出会う、新旧ゴブリンスレイヤー!


再会

 黒い鎧を着た男は街の外の、森の奥を歩く。と、緑の肌を持った小さな影が飛び出してくる。振り向き様に裏拳を叩き込み頭を潰す。

 矢が飛んでくる。掴んで、投げ返す。

 練習した。増えた弟子達に毎朝毎夜、隙が出来たと思ったら殺しに来るよう命じた。その弟子の中で弓を不得意とする力の弱い圃人(レーア)の小娘の方がまだ威力も正確性も高い。

 

「GROORB!!」

「GBOORO!!」

「通常種ばかり……祭りで浮き足立ってるとはいえ、冒険者のいる街に………素人(ヌープ)が」

 

 無数の短剣を何処からともなく取り出し両手の指に挟む。その数、6本。腕を振るい放たれた短剣はゴブリン共の心臓を貫く。何体か考える頭があるゴブリンが仲間の死体を盾にしたり質のいい短剣を抜こうとした瞬間、死体が燃え上がり炎に巻き込まれる。

 

「GROO!!」

「GRAABO!!」

 

 炎に巻かれる仲間に巻き添えになっては敵わぬと手に持っていた槍で燃えたゴブリンを突き刺すゴブリン。仲間が死んだ、彼奴のせいだと喚き鎧の男に向かっていく。

 頭を狙い飛び出した一体が足を掴まれる。

 

「GUGI──GYA!」

 

 逃れようと暴れたゴブリンだったがそのまま他のゴブリン達を殺すための道具にされる。叩き付けられ骨が砕け肉が潰れ皮膚が裂け、肉塊になった身体が飛ばされていく。

 男は残った足を見て兜の一部を消すとかぶりつく。

 

「「「─────!!」」」

 

 ゴブリン共はそれで怯える。自分達は常に食う側だと、奪う側だと思っているから、食われる側であると自覚するととんと戦う気が失せる。

 背を向け逃げ出すゴブリン達は、隙だらけの背をさらす。それを見逃す理由などありはしない。

 その場から逃げられる者は存在せず、死体が増える。実に簡単な作業だ。

 しかし()()も面倒な頼みごとをしてくる。いや、新しい魔剣を得るためには必要な行為ではあるのだから、一概に彼女の我が儘とは言えぬのだが………それでも大半は彼女の探求心だろう。何せ神代の神の残した道具なのだから。()()()()()()()()()()()が今更盤上に興味を持つとは、面倒な話である。

 とはいえやはり力が欲しい。それを解っているからこそ彼女も神代の権能を復活させようとしているのだろうし……。

 と、鎧の男は突然その場から飛び退く。先程まで立っていた場所が、白光に飲まれる。

 

「そこか───」

 

 着地地点の木を蹴り飛び出す。わざわざ連発の利かない威力の高い魔法を放つなど莫迦な奴だ。せめてシャーマンを揃えていたなら解るがその気配はない。単なる莫迦。そのくせ図に乗って何でも出来ると勘違いしやることは派手。まるでゴブリンだな。

 木々を抜け、驚愕した表情の闇人(ダークエルフ)を見つける。

 

「───くっ!?」

 

 金属音が響く。防がれた。どうやら多少の近接戦の心得があるようだ。しかし───

 

「男か、つまらん」

 

 女なら鎮静剤代わりに持って帰ったのだがどうやら男らしい。憎々しげに睨んでくる男の視線を受け流し短剣を投擲する。が、闇人(ダークエルフ)の動体視力は森人(エルフ)と同等。かわされる。

 

「ちぃっ、よもや私の計画を見抜くような手合いが、この街にいるとはな………」

「それ、寄越せ」

 

 闇人の言葉など知ったことかと無視して彼が手に持つ一本の腕を指差す鎧の男。闇人は「何?」と訝しむ。寄越せ?破壊する気か?しかしそのような目的には見えない。

 

「これを手にしてなんとする」

「てめぇにゃ関係ねぇだろ。こっちは急いでんだ、さっさと寄越せ」

「───っ、貴様ぁぁぁ!」

 

 相手にされていない。その事実に闇人は激高し叫ぶ。自分は混沌の神々より託宣(ハンドアウト)を受けた無秩序の使徒。しかし激高したところで強くなるわけでもない。魔法を放とうとして、見失う。背後の気配に気付き、振り返ろうとする前に剣が振られる。

 

「ぐああぁぁぁぁっ!?」

 

 鮮血が舞い二本の腕がくるくる宙で回転する。その内片方を掴む鎧の男。闇人は取り返そうと迫り──

 

「あ、いた!」

「───あ?」

 

 やってきた少女に吹っ飛ばされた。

 

 

 

 勇者の勘を頼りに森に向かえばゴブリンの死体を見つけた。この時点で3人は頷き合い、駆けだしていた。道中何か強力な熱魔法が放たれた痕も見つけ、そこをたどり見つけたのは黒い鎧。誰かと戦っていたようなので気絶させる程度に吹っ飛ばした。

 

「………どうしてここが解った」

たまたま(クリティカル)だよ」

 

 得意げな勇者に黙り込む黒鎧。恐らく兜の下では苦虫を噛み潰したような顔をしているのだろう。顔を見たのは一回こっきりだが。

 

「久し振り、師匠……ユダって呼んだ方がいいかな?」

「師匠、ね……二度とそう呼ぶな」

 

 嘗て小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)と名乗り、今は異端の小鬼(ゴブリン・ユダ)を名乗る彼は弟子と妹弟子、妹の友人と普通なら再会を喜ぶべき相手を見て忌々しそうに呻く。

 何せ彼は混沌の劣兵であるゴブリンで、彼女達は秩序の民の最高戦力である勇者と、その徒党(パーティー)である剣聖と賢者。並の混沌の民なら尻尾を巻いて逃げ出し、魔神王に仕えていた者なら挑み殺される、そういう存在なのだから。

 

「姉ちゃんさ……あの日から、目を覚まさないんだ」

「そうか」

「……師匠が居れば、目を覚ますと思う」

「師匠と呼ぶな」

「………戻ってくる気は、ないの?」

「ない」

「───そっか」

 

 仕方ないというように肩を竦め首を振る勇者。彼女とて、言葉一つで戻ってきてくれるとは思っていない。それでも、導師の話をすれば少しくらいは迷ってくれると思っていた。断られたんなら仕方がない。

 剣を抜く。剣聖も同様に剣を抜き、賢者も杖を構える。

 

「だったら力ずくで、連れて帰る!手足の一本、覚悟してもらうよ!」

「─────!!」

 

 地を蹴り、切りかかってくる。舌打ちして剣を弾く。神々しい光に包まれた剣は勇者に加護を与え体格で上回る異端の小鬼を吹っ飛ばす。地面を削りながら勢いを殺した異端の小鬼はその場に伏せる。頭上を剣聖の剣が通過する。

 勇者の強みの一つである異常なまでの空間把握能力は彼が彼女を鍛えて植え付けた技能だ。そして、彼は自分に出来ないことを他人にやらせようとしない。彼に不意打ちを食らわせるなど不可能だ。

 立ち上がりながら肘を放つ異端の小鬼。剣を引き戻す時間はない。片手をはなし防御するがミシミシと骨に力が加わり足が浮く。

 異端の小鬼は回転しながら蹴りを放ち横腹を蹴りつけた。足が浮いた剣聖は踏ん張れずに吹き飛ばされる。

 

「──しぃ!」

サジタ()ケルタ(必 中)ラディウス(射   出)

「──ッ!!」

 

 しかし相手は一人ではない。勇者が再び切りかかり、賢者が力矢(マジックミサイル)を放ってくる。舌打ちしながらかわすが力矢が兜の留め具をかすり破壊する。兜が地面に落ちて光の粒子になって消え、人語を介し続ける為に一年前よりほんの少し人に近付いた顔が曝される。

 人に近付いた。しかし人にはなれない。時が経つに連れ小鬼の本能は強くなる。顔の変異も半年前に打ち止めになった。

 

「──連れて、帰るねぇ……アホらしい。俺はゴブリン、混沌の勢力だ。秩序の民の住処に、俺の居場所何かあるわけねぇだろ」

「欲しいから、彼処にいたんじゃないの」

「否定はしねぇよ。けど、今更だ……忘れたか?俺は本能に呑まれ人を殺した。この一年だって、本能に呑まれないために弟子にした奴等を殴って犯して、発散した。今更人の世に戻れ?出来るか、そんなこと」

 

 一年前の出来事を思い出したのか、黙り込む三人。彼女達だって忘れていないし、解っている。ゴブリン達とは何度も戦った。力こそ別格でも、あの時の彼は他の小鬼達と同じ、殺しを、蹂躙を楽しんでいた。

 正直に言ってしまえば、怖かった。再会した時、あの時のようになってるんじゃないかって……でも──

 

「でも、混沌側になりたくないんでしょ?」

「……………」

「だから、その弟子達を使って発散して……理性を保ち続けてるんでしょ?ゴブリンだって狩ってるし、そういう人達も鍛えた。人間でいたいんでしょ?人間だよ、師匠は……誰がなんと言おうと、ボクは……ボク達は師匠が人間だって言い続ける」

「「……………」」

 

 他の2人も同じ意見だというように、異端の小鬼を見つめる。

 ああ、本当にやめて欲しい。浅ましい小鬼の本能が、こう言ってるぞ?とケラケラ笑う。縋ればいいと唆す。縋ってどうなる?どうせ発散しなければまた暴走するのは目に見えている。

 小鬼共をなぶり、殺し、食って発散するか?それで暫くは持つだろう。だけど、この方法が果たして何時まで保つのか解らない。ある日途端に、何の効果もなくなるかもしれない。

 

「俺はお前等が大好きだぜ。だから、近付くな」

「傷つけるのが怖いから?」

「ああ……」

「姉ちゃんを、傷つけちゃったから?」

「ああ」

「ボク達を、傷つけようとしたから?」

「ああ」

「────っ!舐めるな!」

「───!?」

 

 ガァン!と金属音が響き渡る。異端の小鬼の身体が吹き飛ばされる。ある意味好都合だ。転移の鏡を投影しようとして、接近する剣聖に気づき剣を払う。

 人外の膂力と天性の才能を合わせた剣技。それを受けるのはあの日、無力感をこれでもかと味わい魔神王の勢力相手に己を鍛え続けた剣聖と讃えられし少女の剣技。

 

「ちぃ!」

 

 そこに勇者も加われば、例え魔神将と言えど切り刻まれるだろう。ゴブリン・ユダは即座に剣を投影する。近接戦が得意な2人に近接戦で挑むほど間抜けではない。

 

「───!!」

 

 浮遊(フライ)の魔法が込められた思い通りに浮くだけの魔剣。材質はアダマンタイト。おまけに魔術の強化。如何に聖剣とはいえ一撃で砕けるものではない。2人はすぐさま距離をとり

 

「───壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

「「──────!!」」

 

 爆音が響きわたった。

 

 

 

 

「─────!!」

 

 剣が硬くとも込められた魔法(幻想)自体は低位の物。爆発の威力は大したこと無くとも至近距離で予期せぬ爆音。聴覚が一時的に消える。三半規管にも影響が出たのかふらつく2人。距離を取っていた賢者が魔法を放とうとするが飛んできた短剣が杖を砕く。

 

「サジ───」

「知ってる」

 

 杖を失いながらも単文詠唱で放てる魔法を放とうとして、腕を掴まれる。万力のような力に握られ詠唱が止まり、平衡感覚を失いながらも突っ込んできた勇者に向かって投げられる。

 

「触媒を常に複数持ち歩くように言ったのは俺だぞ?」

 

 さらに言えば、落としにくい指輪型のにしろとも教わった。賢者は己の指にはまった触媒を撫でる。砕かれていない。まだ魔法を使える。

 だが、ゴブリン・ユダは戦う気はない。森の中に向かって駆けだしていた。魔法は、間に合わない。

 

「この、とまれぇ!」

「────!?」

 

 が、勇者がぶん投げた聖剣は届いた。由緒正しい聖剣が飛んでくるのは流石のゴブリン・ユダも夢にも思わず目を見開き慌てて振り返り弾く。

 動きが一瞬止まる。その一瞬で接近する勇者。平衡感覚に狂いが生じてよくここまで動けるものだと感心しつつも呆れる。聖剣もなく、どうするというのか。

 

「来い──!」

「なっ!?」

 

 再び驚愕に目を見開かされる。あえて遠くに弾いたはずの聖剣が意志を持ったかのように飛んできて、勇者の手に収まる。飛んできて勢いを利用して回転し、足を狙って切りつける。

 此奴、マジで捕らえるために足一本切り落とす気か!と毒づきアダマンタイト製の飛行剣を数本投影し足を守らせる。

 

「お前の情報は集めてたつもりだが、それは知らねえな」

「今やったら出来た」

「──本当、強くなったな。お前に至っては今もなお強くなってるか」

「そうだよ。強くなった……まだまだ強くなる。師匠が暴れても、止められるぐらい」

「…………」

「同じく」

「ええ、貴方を抑えられるぐらい、強くなってみせます」

「だから、帰ってきてよ………今度こそ、皆で冒険しようよ」

「止める、ね………次暴れた時、息の根を止めてくれんなら帰ってやるよ」

 

 その言葉に、三人は黙り込む。

 殺した方が、世界のためになるのだろう。本当は自分達を傷つけたくない彼の為にもなるはずだ。でも、彼と過ごした時間を覚えている。故に、応えを返せない。ゴブリン・ユダは舌打ちする。

 

 迷っているくせに、逃げようとすれば向かってくるな。さて、どうするか……

 

「───!?」

 

 不意にゴブリン・ユダがその上体を逸らす。頭のあった位置を芽の鏃の矢が通過する。同時に、足下が泥沼になり上から不可視の壁が押さえつけてくる。

 

「何だ、こりゃ──!?」

「なる程。本当に言葉を発するのか───だが、結局はゴブリンだ」

 

 足音もなく駆けてくる気配。ある程度近付くと立ち止まり、何かを投げてくる。

 

「ゴブリンは死ね」

「─────!」

 

 次の瞬間、森の中に二度目の爆音が響き渡った。

 

 

 

 爆音が聞こえた後、ゴブリンスレイヤーはゴブリンかもしれないと爆発音のした森に向かった。道中ゴブリンの死体を見つけやはりか、と生き残りを捜していると妖精弓手が見つけたと報告。ゴブリンらしい存在が勇者達と互角以上に戦っている。何の冗談だと普通の冒険者は思うがゴブリンスレイヤーはそうかと呟き距離を取った。

 勇者達の実力は知らないが仮にも白金等級に金等級。彼が知る白兵戦を得意とする重戦士や槍使いより上。ならば不用意に近付けば足手纏い。故に、好機を待った。

 待ったかいがあった。勇者達と何らかの会話をして、動きを止めた瞬間手出しできない間に立てていた作戦を実行。

 矢で意識を向けさせ足下を崩し聖壁(プロテクション)で押さえ付けダイナマイトで爆破。妖精弓手は矢の一発で十分だと言っていたが備えるに越したことはないと却下し作戦に移った。

 

「やったか?」

 

 ダイナマイトはゴブリンスレイヤーが好んで使う道具だ。巻物(スクロール)同様一度しか使用できないので利用できたとしても一度だけ。威力は直撃すれば英雄(チャンピオン)すら葬れる。とはいえやたら硬そうな鎧を纏っていた。警戒するに越したことはない。と、煙が晴れる。先程まで持っていなかった剣を持ち氷のドームに包まれたゴブリンが居た。何時の間にか兜まで被っている。

 

「師しょ───」

「チッ!」

 

 ゴブリンは勇者達に向かって浮遊する剣を放つ。突然虚空から現れた。見たことない特殊な力を持った個体のようだ。勇者と互角に戦うほどの力も持っている。必ず殺そう。

 ゴブリンは沼を凍らせ足を引き抜く。と、蜥蜴僧侶が竜 牙 兵(ドラゴントゥースウォリアー)とともに切りかかる。

 

「冒険者か──」

 

 後ろに飛びかわし、背後の木を駆け上る。そのまま今度は弓を取り出し三本の剣を矢代わりにつがえる。剣の形が僅かに細く、それこそ矢のように変わると放たれる。

 

「嘘!?」

 

 三本の矢は弧を描きながら同時に妖精弓手に迫る。見られたと感じてから一瞬の間もない。その上で木々をかわすように弧を描かせて放った!?

 妖精弓手にも出来ないことはない。ないが、もう少し狙いを定める時間を要するし三本同時など不可能だ。弓の腕でゴブリンに先を行かれたという屈辱より先にまずは回避。

 あのままでは三本同時に貫かれていたことだろう。

 

「何者だ?」

 

 ゴブリンは幽鬼のような、見窄らしい格好をした冒険者に問いかける。彼がこの徒党のリーダーだと直感的に思ったからだ。

 それに対し、彼は何でもないかのように答える。

 

小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)




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