無限の剣を持つゴブリン   作:超高校級の切望

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都での決戦

 勇者は聖剣を抜く。直ぐに聖なる光が勇者を包み込み、勇者が足に力を込めると同時にユダもまた無数の小さな腕がからみついたような装飾がなされた禍々しい剣を投影し、足に力を込める。

 飛び出したのは同時。間にいたゴブリンを通常種も田舎者(ホ  ブ)英雄(チャンピオン)(ロード)も関係なく肉片に変え、聖剣と魔剣がぶつかり合い聖なる輝きと禍々しい魔力が周囲に放たれゴブリン達がバラバラに砕けていく。

 

「邪魔をするな!」

「嫌だ!」

 

 ギリギリと鍔迫り合いながら叫ぶ。完全に誤算だ。勇者も居るなら、目覚めたと噂の導師も来ているのだろう。彼女には自分の死に様は見せたくなかった。というか、勇者や剣聖、賢者にだって死ぬ姿を見せたくなかった。

 本当に、何のつもりだあの女!

 苛立ちを目の前の勇者にぶつけたくなる。腹を蹴りつけ距離を開くと魔剣を投影し放つ。勇者は聖剣で弾き数百のゴブリンが消し飛んだ。

 単純な魔剣は無意味だ。広域攻撃、かつ動きを止める魔剣。

 投影したのは氷の魔剣。冬を継続させるほどの力を持った吸血鬼にその全ての魔力をつぎ込ませた魔剣を放つ。

 再び聖剣で弾こうとした勇者だが砕けた瞬間冷気を放ちながら氷が広がる。

 

「────ッ!!」

 

 動きが固まる。直ぐに聖剣のオーラを放ち氷を砕こうとするがその隙に門を破壊しようと魔剣を放つ。が───

 

「………何?」

 

 門の前に、無数の黒い帯が現れる。帯の壁は矢を飲み込むように開く。そこに広がるのは、果てのみえぬ闇。吸い込まれた魔剣は闇に飲まれて消えていく。

 

「あれは、まさか……虚数魔術!?───ッ!!」

 

 本来ならこの世界にあるはずがない力。何故!?と、考えるまでもなくあの神の仕業だろうと苦虫を噛み潰したような顔をするユダ。その足に、『影』が絡み付く。

 

「う──お、お──が!──ぐが!」

 

 そのまま振り回される。ゴブリン共を砕く鈍器になりながら地面を何度も跳ねるユダは、帯を切り捨てるが勢いは止まらずロードとロードの護衛をしていたチャンピオン二匹を挽き潰す。

 何時の間にか兜をつけていた。頭をぶつけて気絶しないためだろう。

 

「何者だ───!?」

 

 魔力の流れを読み、投影した魔剣を放つ。他の転生者か?このタイミングで?恐らく勇者達に協力しているのだろうが、自分の力に対してあの力とは──。いや、自分の固有結界に剣が登録されていなかったように、あくまで魔術回路や属性、起源や魔術だけを与えられているのなら「この世全ての悪」(ア ン リ マ ユ)とは接続してないはずだから、安全なのかもしれないが……。

 

「………私」

「………あ?」

 

 地面を影が動き、帯の束が浮き上がる。その帯から顔を出したのは見知った顔。この世界で自分ともっとも永い時を過ごした少女。

 

「久し振り、お兄ちゃん」

「………妹にその能力とか、奴め完全に遊んでやがる」

 

 チッ、と忌々しそうに舌打ちして魔剣を構える。片方には氷の魔剣。片方には神々──恐らくそういう役目を与えられただけの駒──を討ったという百手巨人(ヘカトンケイル)の力を内包した魔剣。

 

「───何しに来やがった恨み言でも言いにきたか?」

「私がお兄ちゃんに言いたいことは、一つだけだよ」

「……………」

「帰ろう。皆で──」

 

 ギチリ、とユダは歯軋りをする。眉間に皺を寄せ、不快気に2人を睨みつける。

 

「帰る、だと?何処に?人の世か?そこに俺の居場所があるとでも?」

「うん。私が………私()がそうだよ」

「……………」

 

 殺気を放ち言い放った言葉に、正面から返す導師。ユダは訝しむ。誰だ、こいつは?知らない。こんな導師は知らない。確かに本能に飲まれてもなお身を竦ませるほどの執着を感じたことはある。それのおかげで、あの時は戻れたのだからよく覚えている。

 だが、あの時とは違う。きちんと自分を見ている。だが───

 

「笑わせるな。帰る場所になるだと?俺の?俺は人間じゃない、ゴブリンだ……人間共となれあえるものかよ!」

 

 と、叫ぶユダ。勇者はもちろん、導師も怯まない。

 

「なれ合う必要なんて無い。そばに居てくれればいい……そのためなら、私達はお兄ちゃんを倒す」

「…………倒す?」

「手足を千切っても、内臓の一部を消し飛ばすことになっても、私達はお兄ちゃんを殺さない。殺さず、倒して言うことをきかせる」

「殺す気がねぇなら、ここから失せろ!」

「いやだ!」

 

 そう叫んだのは勇者だ。

 

「酷いこと、言わないでよ……ボクは、師匠が大好きなのに。ボクだけじゃない、剣聖も、賢者も、姉ちゃんも師匠が……兄ちゃんが大好きなんだ。だから、殺せなんて言わないでよ」

「─────っ」

 

 知っている。此奴等は自分を殺さない。殺せないから、殺したくないだろうから遠ざけたのだ。

 

「違うよ兄ちゃん……()()()()んじゃない、()()()()んだ。ボク達は、殺したくないって迷いながら来たんじゃない。殺さないって決めて来たんだ!」

「……………」

 

 遠くでゴブリンの群が吹っ飛んでいる。恐らく賢者と、護衛をしているであろう剣聖が彼処にいるのだろう。

 

「ボク等は兄ちゃんと一緒に生きたい!冒険して、色んなモノを見て、笑いあいたい!」

「それが私達が歩むと決めた道……」

「不可能だ!そんな子供の夢物語で、俺の役目を邪魔するな!」

「役目って何!?誰が決めたの?誰がやらなくちゃならないって、兄ちゃんが言ったの!?」

 

 ユダが切りかかり、勇者が防ぐ。力任せに押し切ろうとすれば導師が『影』の一部を延ばしてくる。

 

「俺は殺してきた!英雄に憧れ、まずはゴブリンだとやってきた子供を!攫われた恋人を取り戻そうとした男を!誰かの恋人を、子供を、家族を!いずれゴブリンを殺せるようになるまでって、言い訳をして!ここ一年、直接手を出さずとも俺が原因でもっと多くの人間を!理性を保ち続けるために、死んで良いとエゴを押しつけた者達を!殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して──!そんな俺に、帰ってこい?命をもって償うな?ふざけるな!」

「ふざけてなんか、無い!」

 

 今度は勇者が切りかかってくる。迎え撃とうとすれば腕に影が絡みついてくる。反対の手で聖剣を防ぐが聖なる光が溢れ出し吹き飛ばされる。

 

「ちぃ!」

 

 鎧の一部を消し去り透き間が空く。腕に直接絡み付く前に腕を引いて直ぐに再び投影する。

 

「お兄ちゃんは、死ぬつもりなんでしょう?そうやって、償う気なんでしょ?」

「だから、どうした──」

「どうした、って……何でそうやって、全部自分一人で背負い込もうとするの!」

「世界の命運を背負った勇者(お 前)に言われたくない!」

 

 聖剣と魔剣がぶつかり合う。影も襲ってくるが、複数同時に相手していると思えば捌けないこともない。

 

「違う!ボクは、背負ってるつもりなんか無い!ボクはボクがやりたいことをやってるだけ!」

 

 飛行剣を投影し、その上に乗り空に逃げるユダ。勇者は聖剣のオーラを背中に集め、翼を形作る。そこからオーラを放出し浮かび上がった。

 

「───な!?」

 

 驚愕し、動きが一瞬固まると剣に影が絡みつきバランスを崩し落ちる。

 

「はぁ!」

「ぐっ!」

 

 聖剣を振るってくる勇者に魔剣を振り下ろす。踏ん張る足場がなく、どちらも弾かれた。

 

「お兄ちゃんはどうなの?償って死ぬことが、お兄ちゃんのやりたいことなの?」

「教えてよ、兄ちゃん……」

 

 再び投影した飛行剣でバランスを取ったユダに導師と勇者が問いかける。ユダは、兜越しに頭を抑える。

 

「……うるさい…………うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!やりたいことなの?だと?やりたいことに決まっている!俺はな、本当はお前等と一緒にいても、嬉しくなかった!人間(お前)達が楽しそうに笑うことが、ゴブリン()には楽しいことだと思えなかった!それでも、楽しいと思いたかった。お前達の喜びを共有したくて、出来なくて、それが苦しくて………なのにそれでも、お前等はやっぱり楽しそうで………それが憎くて、ムカついて、腹立たしくて仕方ない……俺はそういう存在なんだよ……だから、俺を殺せ」

「………お兄ちゃんの協力者が言ってた……魂を移す方法があるって………お兄ちゃんが断った方法があるって」

「………彼奴…」

「無理矢理にでもやらせる」

「………」

 

 ギリギリと歯軋りするユダ。忌々しい。そんな甘言を吐く勇者達が。それに縋りたくなる自分が何よりも忌々しい。

 

「………もう、良い」

 

 ユダの身体から暴風のように魔力が吹き荒れる。

 

「お前達が俺を無理矢理にでも従わせるというなら、俺も力ずくでいかせてもらう。お前達をとっとと倒して、勇者を倒せる脅威として、勇者と戦って疲労してないと勝てない存在として、都を襲う」

「良いよ、勝つのは、言うことをきかせるのは──」

「──私達の方だから」

「これを見て、まだそういえるか?体は剣で出来ている───」

 

 空気が震える。勇者と導師………特に導師は同様の法則(ルール)が支配する世界に存在する力を持つ故に、勇者よりこれから起こることが危険だと判断する。

 

「血潮は鉄で、心は硝子」

 

 勇者も勘である程度の危険度を理解する。故に、邪魔しようと攻撃を仕掛ける。

 

「幾たびの戦場を越えて死を振りまく」

 

 氷の魔剣を投げつける。勇者が迎撃する前に爆発し冷気を全方位に放つ。

 

「ただの一度も理由はなく、ただの一度も求められない」

 

 本来の詠唱とは異なる彼の詠唱。それを知るものは居ないが……

 

「彼の者は常に独り 屍の山で殺戮に酔う」

 

「故に、生涯に意味はなく………その体は、きっと剣で出来ていた」

 

 

 

───『 無 限 の 剣 製 (アンリミテッドブレイドワークス)


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