ゴブリンは居なくなった。そう、剣が教えてくれる。
奴が残した爪痕は、少なくともこの代の秩序も混沌も関係なくゴブリン共を嫌悪させた。姉は緑の月からやってくると言っていたが、その緑の月も今や白い。
彼は赤く染まったのはゴブリンの血。白く染まりだしたのはゴブリンの骨だと言った。仲間の一人は何をバカなこといってるのよ、と呆れ口にした彼も自分でも馬鹿らしいと思っていたが、そう感じた。
「どうしました?」
と、女神官が不意に顔をのぞき込んでくる。
「───いや、少しゴブリンの事を思い出しただけだ」
「もう、あの名前で呼ばれることもなくなったのに、変わりませんねあなたは」
「そうか?」
「そうですよ」
呆れたような女神官に彼はそうなのかと呟く。と──
「ちょっと二人とも、何してんのよ。早く行くわよ~」
「ほれ急がんと森を抜けるだけで日が暮れちまうぞ」
「昼頃に木の実を採るのに時間をかけすぎましたからな。いやしかしあれはチーズによく合う………やはりもう少し採っておけば」
前を歩く
少年には記憶がない。
一年前気付けば見目麗しい少女達に囲まれていた。うち二名は妹らしい。母親のようなものと言う金髪の女性が教えてくれた。
自分が何者かも解らぬまま、昔の自分として扱われるのは何となく妙な気分だったが、彼女達と共にいるのは悪くない。火の番をしながら赤と白の月を眺めて思う。
「んぅ……次は、北の大陸………」
むにゃむにゃと寝言を言うのは彼の右足を枕代わりにする下の妹。反対の足を枕にする上の妹は静かに寝るというのに、此方はよく寝言を言う。後寝ぼけて抱きついてきたりする。
「そろそろ代わるよ──と言いたいところだけど」
母親のようなものだと名乗る女性が寝袋から出ながら二人の妹をみてため息を吐く。
「すまないね、今度私から言っておこう」
「いいよ、別に」
そういって彼は二人の妹の頭を撫でる。それを女性は優しい瞳で見る。
「一つ聞きたい、君は今、幸せかい?」
「やぶからぼうになんだ?幸せだよ……記憶はないけど、覚えてるんだ。此奴等が俺にとって家族だってことも……そんな家族や仲間と一緒に、毎日新発見の冒険───後」
「──?」
言葉を区切る彼に女性は首を傾げる。
「そうやって、楽しさを分かち合える………何でかな、そんな当たり前のことが、一番幸せなんだ」
「………そうか」
本当に、幸せだ。誰かが楽しいと感じたことを楽しいと感じるのが、こんなにも幸せだ。
このまま朝まで続けると断り再び女性が寝息を立てたのを確認して火に枝を放り込む。パチパチと火の勢いが少し増す。
なんと無しに再び夜空を見上げた。月でも、星でもなくその間の闇をじっとみていると、何かと目があったような気がした。
「………べ」
それに向かって舌を突き出してやる。何かは楽しそうに笑った……そんな気がした。
これにて完結!ご愛読ありがとうございました!