無限の剣を持つゴブリン   作:超高校級の切望

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昇級と剣聖

 今日も今日とてゴブリン退治。

 何時ものように村人に感謝され、ギルドのある街に戻る。

 全身漆黒の鎧という目立つ装備に加えて常にゴブリンを殺しにいく彼は当初は金にものを言わせて装備を揃えたが冒険できない貴族、運良く何処かの遺跡から鎧を見つけることが出来た弱虫などと揶揄されていたが、この街最強の一角を完膚無きまでに圧倒してからは余計距離を取られている。侮辱していた自覚がある者達が、報復を恐れているのだ。

 勿論ゴブリンスレイヤーはそんなことしないが。だってどうでも良いし。

 とまれ、ゴブリンスレイヤーは街での評判はそんなに良くない。ただし街では、だ。先も述べたように近隣の村々では感謝されている。彼に憧れ弟子入りを志願した者は、残念ながら気配を感じ取るという試験を越えられず村に帰る。

 目隠しや音が聞こえない状態なら、まだ見込みがある奴はいるのだが気配を感知できたのは今のところ彼の一番弟子だけ。

 その彼女もメキメキ腕を上げ今や冒険者でも彼女を超える者は少ない。直ぐに抜かれるだろう。

 優秀な弟子を得たゴブリンスレイヤーも己の技術を見直し改良している。が、勝敗を文字通り時の運で左右されることが多い。殺し合いともなれば別だろうが、ルールありでは弟子が勝つ回数も増えてきた。

 年齢制限がもどかしい。とっととゴブリンの巣に突っ込んで殺しに行かせたい。まあ問題無いとは思うが最初は付き添うが。

 「早くゴブリン退治行けばいいのに」とはゴブリンスレイヤーのもう一人の保護対象、弟子からは姉ちゃんと呼ばれている司書からの言葉だ。

 

 

 

「し、昇、級……しん、さ?」

 

 何時ものようにゴブリン退治の報告をしたゴブリンスレイヤーは弟子に水没した箇所のある遺跡にゴブリンが住み着いた時に備えて鎧を着せたまま河に落とすか、などと次のことを考えていたら受付嬢からそんな話をされた。

 昇級。つまりはランクアップだ。

 

「興味、ない。い、ま……から弟子、河に落とす」

「いえ出来れば受けて欲しくて………え、今なんて?」

「修行、を……してくる。もう、良い?」

「いや、ですから修行内容を──!ではなく、昇級に──いや、でも結構聞き逃せない内容───ああ、もう!」

 

 ギルド職員としての仕事とまともな感性を持つ一般人としての行動の板挟みで混乱する受付嬢。彼が来てから頭を抱えることが多くなった気がする。

 

「その、実は都から《剣聖》様が来ていて、一目みたいと………時間を取らせないために昇級審査に混じる、と───」

「────けん、せい?」

「はい。あの《剣聖》様です」

「……………知らん」

 

 ゴブリンスレイヤーのあっけらかんとした言葉にパクパク口を開く受付嬢。と、ゴブリンスレイヤーの腕をクイクイ引く者がいた。司書だ。

 

「剣聖は、その代で最も剣を極めたとされる一代一人限りの称号だよ。今は王都に道場を作ってる」

「そうなのか………」

「うん。役に、たった?」

 

 「たった」、そういって頭を撫でてやると目を細める。次いで「これ、で彼奴に本格的……剣の修行をつけてやれる、かも」と言うと一瞬笑みが消えたが気付いた者は居なかった。

 

「めん、だん……するな、ら……一つ、叶えて欲しい願い、ある…と…伝えといてくれ」

「剣聖様にお願いするんですか」

 

 普通なら、一介の冒険者が一目会えるならどんな要求だって飲むような相手に逆に要求をするなんてやっぱりこの人普通じゃない、と呆れる受付嬢。

 というかそもそも身元不明の身で昇級できること自体、かなり幸運なことなのに理解しているのだろうか?してないだろうな。というか彼ならゴブリンの依頼を受けられるから一生白磁級で良いとか言い出しかねない。というか絶対思っている。

 

 

─────────────

 

 変な人だなぁ、とギルド職員であり至高神に仕える監督官は目の前の漆黒鎧を見つめる。

 装備は良いのに何時もゴブリン退治。それは周辺の村々としては助かっている。彼の妹のような存在である司書ちゃんも最近ではほぼ職員のようなもので資料の整理もしてくれるし──その中からゴブリンの可能性があるものを依頼が出る前にゴブリンスレイヤーに教えたりする──ギルドへの貢献率は高い。それでも身元不明だ。そういう場合、少しでも警戒を減らそうと出来る限り装いまじめに見せて来るものだが………しかも今回は彼の剣聖までいるのに。

 

「えっと──では今更ですが、貴方は過去犯罪行為を行ったことはありますか?」

 

 本当に、今更だ。とはいえ白磁等級には犯罪者や逃亡農奴だってなれる。簡単になれる。しかし階級があがればあがるほどその紹介するギルドの責任も強くなる。まあ多少犯罪行為に手を染めていても、ギルドに来てからの行動を見れば余程の犯罪歴でない限り大丈夫だろうが………。

 

「…………人、何人か殺した。住んでる場、踏み……込まれ、殺されそうになった。こっち、から、殺す……に行ったこと、ない」

「………………」

 

 嘘ではない。《看 破(センス・ライ)》……嘘を見抜く奇跡はそう判断を下した。

 

「では、次は私から………良いかな?」 

「構わない」

 

 ズッシリと存在感を感じさせる声が響く。剣聖が口を開いたのだ。

 今回は鎧を着ていないが引き締まった筋肉は手入れしてない剣なら弾きそうだな、という感想まで抱く。

 

「君の持つ真銀(ミスリル)の剣……それは私が嘗て弟子に渡した物だ。彼と君の関係は?」

「………師、の一人?戦い方、学ばせてもらった………剣、は……ゴブリンの巣の中……拾った」

「……………」

 

 チラリと此方を見てくる剣聖。真偽を問うて居るのだろう。監督官は頷く。嘘ではない。

 

「なる程……ゴブリンは新人をもっとも殺す怪物だから油断するなと伝えていたはずだが、それを実行できる弟子のなんと少ないことか。その剣は、君が貰ってくれて構わない。ゴブリンに上位種が存在しなくて助かった」

「か、感謝……する」

 

 あ、嘘だ。感謝してない。まあ、その点は別に良いか。長い間使っていればもう自分の物だと思っても誰も文句は言えまい。

 

「ちなみに、話を聞く限り君はとても只人(ヒューム)とは思えない身体能力をしているようだが」

 

 ゴブリンスレイヤーはチラリと監督官を見た、ような気がする。兜のせいで解らない。

 

「俺、は……俺は、只人(ヒューム)だ」

「…………?」

 

 何だろう、これは。嘘?本当?至高神も判断に迷っている?

 初めての感覚に首を傾げる監督官。とはいえ、嘘……ではない。本人はそれを嘘だと思っていない、とか?自分が違う種族であると知りながら育ててくれた両親が只人(ヒューム)とか?

 取り敢えず本当ではないが、嘘ではない。至高神様は彼を人間ではないと言い切れてない。そう判断するべきだろうか?と、迷っているとじゃあ只人(ヒューム)ってことで、と聞こえたような気がして、嘘ではないという反応になった。

 

「………えっと、只人(ヒューム)です」

「そうですか……まあ、闇人(ダークエルフ)みたいに混沌の勢力だったりする人も居ますし、たとえ只人(ヒューム)で無かったとしてもその事で責めることは無かったんですがね」

「そうなのか」

「はい。取り敢えず、黒曜等級への昇級は問題在りません」

「そう、か。では、本題……入ろう」

 

 と、大して喜ぶこともなく剣聖に視線を向けるゴブリンスレイヤー。そういえば面会する代わりに何か要求をするのだったか、何を要求するのだろうか?

 

「弟子に、剣術教えて……欲しい。俺、は、所詮猿真似」

「ほう、戦い方を学んだというのは見て学んだという事か?徒党(パーティー)を組んでいたか?」

「冒険者に、なる前の話、だ」

 

 嘘ではない。彼、冒険者になる前から戦闘経験があるのか。そりゃ白磁等級では考えられない強さを持つはずだ。

 

「弟子?貴方の弟子だろう?良いのか?」

「少しでも性能、上げておく。あれは、どのみち長く持つ……なら、仕事の速度を上げておきたい。俺が鍛える、などと……拘らない」

「………ふむ。素質は?」

「ある。志願してしてきた奴等、駄目だった。彼奴、全部こなした……」

「……………」

 

 剣聖は顎に手を当て考える。性能、仕事の速度……おそらく彼は弟子をゴブリン退治の専門家にしようとしているのだろう。己と同じように。そこに別に文句はない。自分の流派が雑魚狩りに使われる?その雑魚こそ村々にもっとも被害を与えていると言っても良いのだ。是非もない。

 彼自身も自分で鍛えるという拘りはないらしい。

 

「解った。預かればいいか?それとも、貴方も来るか?見て覚えたと言うが、貴方自身本格的に学ぶ気があるなら歓迎するが」

「………………」

 

 顎に手を当てる。思案しているのだろう。彼の剣聖の誘いだ、断る方がどうかしているが彼は剣聖について知らなかったらしいし、ゴブリン殺しが趣味だ。王都周辺にいないとは言わないが辺境に比べれば本当に稀だろう。

 

 

────────────────

 

 

 さて、そんなゴブリンスレイヤーとしての感想だが、迷っている理由は別だ。

 そもそも彼はその性質上人の命を省みない。自分が修行している間に村が滅びる。そんなこと()()()()()()。結果的に自分の技量と将来の道具の性能が上がればゴブリン共を殺し尽くせる可能性があがる。

 結果さえ伴えば過程など気にしない。本当に、全く、その間誰が不幸になろうと………と、そんな己の心境に首を振る。心の中で俺は人間だ、と呟く。

 

「………わか、った──俺も、弟子入り、する」

 

 人が多いところでは正体がバレる可能性も出る。が、王都……王都だ。こんな辺境で見れる剣よりずっと良質な剣が揃っていることだろう。ともすれば鉱人(ドワーフ)の鍛えた剣や、念願の魔剣の類が見れるかもしれない。それは剣術を鍛える以上に己を強化できる。

 

「王、都の……武器を、みたい──良いか?」

「ふむ。武器を替えるのか?」

「いや───興味が、在るだけ……だ」

「ほほう。そういうことなら、家に代々伝わる古い剣がある。私も、父も、祖父もその剣を使い冒険や戦争に出て、剣聖になった。見てみるかね?」

「是非……」

 

 

─────────────

 

 

「明日、昼から───王都へ向かう。途中、水の街よる───質問は?」

「えっと……取り敢えず何でボク河に落とされそうになってるの?」

 

 橋の側壁。ゴブリンスレイヤーは己の弟子を猫のように掴みぶら下げていた。その普通なら衛兵が駆けつける状況も町民は何だ、ゴブリンスレイヤーとその弟子かとスルーしていく。最近、自分が師匠のせいで非常識人扱いされている気がする。心外だ、師匠はともかく自分は違うのに。

 

「修行。説明し、たはず」

「あ、うん……まあ………」

 

 何でもゴブリン退治に遺跡に行ったら所々水没していたとか。水の中は進みづらく、鎧の重さで泳ぎにくい。かといってゴブリンの居る場所でいちいち脱ぐのは自殺行為。あと水の中での気配の感じ方も覚えてこいとのことだ。それと水の中で長く活動できるようにこれから毎朝桶に顔を突っ込むらしい。

 

「いやぁ、あのさ……これから剣の修行も控えてるんだから風邪引くようなことは控えて───」

 

 ポイ、と投げられた。襲いかかる浮遊感。腹の奥がひゅ、とした。

 

「絶対許さないからなぁ!覚えてろぉぉぉ!」

 

 と捨て台詞を残してドボンと水柱があがる。水を吸った布と鎧の重さであぷあぷ沈む。結局その日は飛び込んできたゴブリンスレイヤーに助けられた。何気に彼は全身鎧で泳げるらしい。彼は少なくとも自分に出来ないことはやらせないのだ………。

 つまり裏を返せば、自分も出来るようになると期待されているという事。弟子入りを志願した村の子達は皆帰ってしまったからなぁと弟妹弟子達の顔を思い出そうとして、やめた。覚えてない。

 まずは気配を感じるという初歩が出来ずに挫折した皆。まあ、憧れが本物なら別の形で冒険者を目指していることだろう。それにしても、冒険者になるって大変なんだなぁ……。

 

 

 

 

 

 水の街。

 大きな街だ。何せ数年前魔神王を倒した徒党(パーティー)の一人、剣の乙女が居る神殿まであるのだ。街並みも美しく、観光客も多い。

 ゴブリンスレイヤーはそんな感想など抱かず早速剣を見に行った。こういう時剣聖が便利だ。黒曜等級という駆け出しから漸く抜けたとも、抜けてないとも言い切れぬ等級では金がないと思われるし見下される。彼がいれば店の奥から良い武器も見繕われる。

 

「………どれか、買ってやろう、か?」

「え?」

「………ん?」

 

 鎧などは買ってやったが武器はまだ。弟子にプレゼントしてやろうと振り返ればそこには先程立ち寄った本屋で貰った本を抱える司書だけ。弟子の奔放さに頭を抱えるゴブリンスレイヤー。

 ゴブリンスレイヤーの弟子に近い年の娘が居るらしく、プレゼントとして剣を選んでいる剣聖に一声掛けて街を散策することにした。

 

「お兄ちゃん、手を繋いで良い?」

「ん?ああ……人、多い、しな……良いぞ」

 

 

────────────

 

 

 久方ぶりに二人きり。司書はこの時初めて彼の弟子に感謝した。

 とは言え、だ。彼の特別になるかもしれず、彼の中で自分を薄くするかもしれない、彼の中で自分の家族に対する負い目を消させるかもしれないあの女はやはり好きになれない。

 が、それでも彼にとっては有用な道具なのだと理解している。勝手にいなくなるなと思うし、死なれるようなことも困ると考えるようにはなった。

 要するにだ、彼の優先度を変えなくてはならない。人のふりをするために償いという形で世話をしている自分より同じく償いと、将来役立つから共にいる彼の弟子とではどちらが優先されるかなど分かり切った事。ならば彼の役に立てばいい。家族を見殺しにしてすまなかったと、言い続けてやるぐらいには彼の中で価値が無くてはいけない。

 そのためには知識だ。前にも受付嬢に言ったがゴブリンに勝てるようになるわけには行かないのだ。だから彼に役立ちかつ戦わない方向で己を磨かなくては。

 しかし彼奴何処行った?

 

 

────────────

 

 

 剣の乙女、そう呼ばれる世界有数の金等級冒険者は現在大司教(アークビショップ)

 女神のような美しさを持ち、目元を黒い眼帯で隠した美しい女性。何時ものように祈りを捧げる。この街をお守りくださいと、そして、()()()()からどうか自分をお守りくださいと。と、その時だった。

 

「こんにちはー!」

「………?」

 

 元気な声が響く。気配は、無かった。というかこの聖域に入ろうとする信徒などまず居ないし、そもそも立ち入り禁止だ。なのに聞こえた少女の声。振り返ると気配がゆっくりと現れる。

 

「こんにちはー!」

「えっと………こんにちは?貴方は?何処から来たのですか?」

「田舎の方から。師匠と一緒に来たんだけど、こんな大きい神殿見たこと無かったからさ。ちょっと覗こうかなって」

「そう。ですがここは立ち入り禁止です。見つかったら、怒られてしまいますよ?」

「え?そうなの?」

 

 と、首を傾げる少女。剣の乙女にはその姿は見えないが音で、気配でだいたい察する。それ故に、先程まで少女の存在を感じ取れなかったことに僅かな緊張を覚える。

 

「解っていたからこそ、気配を消していたのでは?」

「え?気配は消せないでしょ?」

「?消せない?」

「師匠が言ってたんだ。『小鬼は鼻が利く、夜目も利く、それらは騙せる。けど気配は消せない』って」

「───ッ」

 

 小鬼と聞き、自身の身体が強ばるのが解る。声こそかなり幼く、明るさを感じさせる少女だがここまで接近して自分に存在を気付かせない。いったい何者だろうかと警戒する。

 

「『だから溶け込ませろ。そこにその気配があって当たり前と思わせろ』ってね……」

「何故、それを行いながらここへ?」

「師匠ったら初めての都会なのに観光する気ないんだよ?ボクは観光したかったからね。気配を溶け込ませて、逃げて来ちゃった。ここが立ち入り禁止だとは知らなかったんだ。ごめんよ、すぐに出て行くよ」

 

 嘘は、ない。これでも至高神に仕える身。嘘を見抜く奇跡をこっそり発動する程度訳はない。

 

「では、帰りは私が送りましょう。かわいい未来の冒険者さん」

「あれ?ボク冒険者の弟子って言ったっけ?」

「ゴブリンを退治するのは何時だって冒険者ですから」

 

 何せ2、3回冒険者を送れば()()()()()()のがゴブリンだ。国はまず動かない。初耳なのかふーん、と返す少女。

 

「変なの。ゴブリンって、すっごく怖いのにね」

「どうして、そう思うの?」

「………ボクの村。ゴブリンに滅ぼされたから」

「…………ごめんなさい」

「んーん。気にしないでいいよ。師匠にも言ったけど、悪いのはゴブリン。あれはほっとくと村を滅ぼす。だから、師匠はゴブリン専門の冒険者なんだよね」

「ゴブリン、専門……?」

 

 「うん!」と誇らしげに返答する少女。ゴブリン専門などと、普通なら馬鹿にして見下しそうな物だが彼女にとってそれは誇るべき事らしい。

 

「本当はね。師匠や姉ちゃんと一緒に冒険したいんだぁ。遺跡を探索して、ドラゴンを倒して……でもそれをしてる間にゴブリンは村を襲う、女を攫う。だから師匠みたいにゴブリンを確実に殺せるベテランが必要なのは、ま、解るんだけどね………」

「………きっと、一緒に冒険できますよ?」

「そうかな?そうだと良いなぁ」

 

 そうこう話している間に神殿の出口。自分の姿を遠巻きに眺める視線を感じつつ、少女と共に外に出る。と、少女が「あ!」と声を上げる。知り合いを、姉か師匠、あるいは両方を見つけたのだろう。

 

「勝手に、動き、回る……な」

 

 何処かたどたどしい言葉遣い。目隠しをとり目を開く。輪郭しか見えない目だが、鎧姿らしいのは何となく解った。ぼやけた像が濃く映るのは黒かそれに近い色合いの鎧を着ているからだろう。

 

「師匠、姉ちゃん、ごめんなさい………あのおじさんは?」

「一、度……別れた。その、女は?」

 

 と、己の弟子の近くにいた自分に意識を向けてくる男。

 

「剣の乙女と呼ばれている者です」

「お前、が……そうか。迷惑を、かけた………すまん。俺、はゴブリンスレイヤー」

「ゴブリンスレイヤー……」

 

 名乗り終えると話は終わりだとばかりに少女に拳骨一つ落として歩き出す。

 残された剣の乙女は再び彼の名乗った名を呟く。

 小鬼(ゴブリン)殺害(スレイ)する者。自分からすれば、何とも素敵な相手の筈だ。しかし、しかしだ……自室に戻り、倒れるように膝を突き息を吐く。

 何故だろうか?彼が、とても恐ろしくてたまらない。叶うことならこの出会いが最初で最後の邂逅になるように心の底から願う。

 数年後どうしても彼を呼ぶべき事件が起き、しかし名乗りは同じ、だが彼とは別の人物が来た時彼女は安堵とも落胆とも付かぬ感情を覚えることになる。


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