森の中を駆ける。まずは洞窟が見えてくる。見張りは
シャーマン2匹が呪文を唱える前にナイフを投げ殺し、ホラ貝を吹こうとした
グチャリと脳が壁にへばりつく。
そのまま洞窟の壁を削りながら進み腕を引っこ抜く。足は止めない。
その音を聞きつけたのか出るわ出るわ小鬼共。丸々太った個体や顔を隠し杖を持った個体がわらわらと。
ああ、本当に………邪魔くさい。魔剣を投影し弓につがえる。
本来なら熱線を放つ魔剣は自身を熱線に変え行く先を阻む全ての者を消滅させながら進む。
文字通り骨すら残らない。曲がり角にでもぶつかったのか轟音が響き洞窟が揺れる。
しばらく進むと溶けて出来た新しい穴を無視して横穴に飛び込む。すぐに現れる小鬼の群。しかし所詮は小鬼の群。
「邪魔だ……」
数は先程に比べて少ない。だから、切り刻みながら突き進む。
しばらく進むと洞窟から遺跡に変わる。それにしても、候補に選んだ三つの内最後に当たる自分も分断直後攫われる彼奴も、つくづく出目が悪い。この状況で、どうせ頑張れ頑張れと応援しているだけの神の姿を想像して殺意を漲らせる。
小鬼の脳は、すぐに八つ当たり出来る存在にその怒りを押し付けた。
遺跡の中を突き進む。同胞の匂いが濃く残っている道が同胞が頻繁に扱う道なのだろう。
開けた場所に出た。ゴブリンの癖に、壁に松明を立てかけ火を焚いている。そして、前方から暴風の塊が、上方から二つの鉄の塊が振ってくる。
「────!!」
とっさに魔法を切り裂くが僅かに速度が落ちる。頭上から振ってきたのは
即座に身体強化、加えて鎧にも緑のラインが走る。振り下ろされた戦鎚に指の先端が尖った攻撃的な鎧がめり込む。腕を曲げ、足を曲げ、腰も曲げ勢いを殺したが地面が柔すぎる。膝近くまで足が沈む。が、手に力を込める。ピシリと亀裂が広がり戦鎚が砕けた。
「「───!?」」
驚いた顔の
「──GUGAGA!?」
振り解こうと首を振り、その勢いを利用して足を抜いて
取り敢えずそう言うのが無い個体に向かって魔法による毒が付与された魔剣を放つ。距離がある
「GOBUGOOR!!」
突っ込んできて棘の付いた鉄球を振り下ろしてくる。かわして地面に接触した鎖を剣で縫いつける。その鎖の上を駆けて首を切り落とす。シャーマンが魔法を放って来たので
動揺しているシャーマン達の下に跳ぶが
「GOOB!」
「GOROOROBO!!」
そのまま
だが、それでも数が多い。遺跡の通路から次々ゴブリン達がやってくる。何匹かは『肉の盾』や『肉の鎧』を用いて………。
ここ周辺で女が攫われたとは聞かない。あの鏡を使って離れた場所から攫って来たのだろう。
「GOBUROOO!!」
「GOOBGOOOB!!」
「─────■■■■■■■■■■■ッ!!」
ギャアギャア騒いでくるゴブリン共に喧しいと叫び声を上げる。人の言葉を使える程度には声帯も変化した。それでも、その喉から放たれる咆哮は獣性を宿し
「ほう、大したものだな……本当にゴブリンなのか?」
まずはシャーマンを殺す。次に鎖や投石機を持った奴等。と、遠距離攻撃の手段を持つ奴等から殺そうと算段をたてているとパチパチと拍手が聞こえ来る。聞こえた言葉は共通語。ギロリと兜に刻まれた一本線からそちらを睨みつける。
そこには妙な男がいた。
台座の隣に立つその男の額に一本角を生やした浅黒い肌に筋骨隆々の体。しかしオーガや
「何者だ?」
「ほう?人語を解するのか。成る程、ゴブリン程度でも稀にこうして話せる者が生まれるとは」
完全にこちらを見下した目。ゴブリンだから、と言うよりは自分が誰よりも優れていると思っている目。まあつまりゴブリン共と同じ目で良いだろう。
「我こそは冥府よりいでし十六将が一人。貴様のような雑兵では一生に一度目に出来るだけで幸福なことだ」
「冥府?」
「ああ。魔神将と言えば解るな?」
「知らん」
ゴブリンスレイヤーの言葉にピクリと眉根を下げる魔神将とやら。明らかにいらだっていて、しかし仕方ないという風に首を振る。
「多少知能があろうと所詮はゴブリンと言うことか。貴様等混沌の、無秩序の使徒達の支配者たる魔神王様に仕える十六将の一人だ」
「───────!」
ゴブリンスレイヤーの体が強ばるのを見て笑みを浮かべる魔神将。しかしゴブリンスレイヤーの視線が剥いたのは、そちらではない。
その隣に現れたゴブリンだ。枝で作られた王冠をかぶり、肉の盾を持ったゴブリン。
全身痣や擦り傷だらけ、股からは血が流れている。
《久し振りだなぁ、裏切り者───》
片腕しかないそのゴブリンはゲタゲタ笑う。ゴブリンスレイヤーを見て、馬鹿にしたように、嘲笑う。次の瞬間にはゴブリンスレイヤーは
「貴様!ゴブリン風情が、我を無視するか!」
ゴブリン如きに無視され、ゴブリン如きを優先された事に腹を立てた魔神将が至近距離で魔法を放つ。炎の風の猛威に吹き飛ばされ遺跡の壁に激突する。
瓦礫を蹴り飛ばし、
ふざけるな。ふざけるな!それは自分のものだ!嘗て家族を見殺しにした少女を育てることこそ、自分が人間だと言い張るための手段だったというのに、台無しだ!
「────ッ!」
そんな思考に吐き気がする。純粋に導師を心配してやれない自分を今すぐ殺したくなる。だが、まずは助けてからだ。そのためには魔神将が邪魔だ。幸い大したことはない。武器さえキチンとしていれば弟子でもどうとでもなる相手。魔剣を数本打ち込んでやればそれで決着が付く。付くのだが───
《動くな!》
「あ、う──っ!!」
その動きを察知したのかロードが導師の腕に杭を突き刺す。破傷風になること間違いなしの錆びた杭。先端が劣化で丸くなり、皮膚を貫くのではなく突き破り鈍い痛みを与える。目を覚まし呻く導師の声に動き止めたゴブリンスレイヤーに向かって『肉の鎧』を着た
「───!!」
とっさに強化を使い防御するが内臓が揺さぶられる。僅かにダメージを負ったのか、ゴボリと鎧の隙間から血を吐き出す。
「人間の女が人質になる、か。つくづくゴブリンらしくないな」
「………黙れ、俺は……人間だ」
立ち上がり魔神将を睨み付けるゴブリンスレイヤー。自らを人間だと名乗ったゴブリンスレイヤーに魔神将は鼻で笑う。ゴブリン風情が人間を名乗ることが可笑しくてたまらないのだろう。
《クカカカ。くだらんなぁ……人間?人間だと?莫迦な奴だ、人間は『肉の盾』を前に何も出来なくなるマヌケだというのに》
ゲタゲタ嘲笑うロード。ゴブリンスレイヤーが睨みつけるとヒッ!と慌てて肉の盾の裏に隠れ導師の肩に杭の先端を押し付ける。
《てめぇは絶対殺す。地の果てに逃げようと追い詰めて四肢をもぎ取ってケツの穴に熱した鉄棒を挿して獣に食わせてやる》
《────は、ハハハ!強がるな、人間ぶるお前に、人質を見捨てることなど出来るものか。なぶり殺しにしてくれる!》
ゴブリンスレイヤーの殺気に完全にビビっていたロードだったが
集まったゴブリン共もニタニタ笑い得物を構える。
突然攻め入り、多くの仲間を殺したこの悪人をいたぶれると思うと楽しくて仕方ないと顔が語る。
「まあ待て」
しかしそれに待ったがかかる。魔神将だ。ニヤニヤとゴブリンみたいな笑みを浮かべゴブリンスレイヤーを見下ろす。隣のロードは止められたのが不服そうだが逆らわないのは、暗にこの数のゴブリン達では太刀打ちできないという事を解らせる。
「貴様はゴブリンにしては随分やるようだ。我が配下に加わるが良い。そうすれば、この娘を返してやる。それとも、また新しく育てるか?好みのサイズになるまで」
「…………ッ!!」
どうやら魔神将はゴブリンが人を育てるのは、知恵を手にしようと結局はそう言うものだと言う認識らしい。好みの見た目が、好みの年齢に育つまで育てて、犯す。どうせお前はその程度しか考えていないんだろう?そう目が語る。腹立たしいと睨めば魔神将は小さな火を生み出し導師の左目を焼く。
「ああぁぁぁぁぁああっ!!」
「態度に気をつけろゴブリン。この女の顔を焼いて、抱けぬ見た目にしてやろうか?」
「………てめぇ………ゴブリン相手にそんな戦法とってよく将だ何だと名乗れるな」
「………貴様。つくづく道理を知らぬ……口の利き方をわきまえよ!」
無数の魔法が飛んでくる。ゴブリンスレイヤーは床を蹴り壁を走りかわす。その高速移動に狙いを定められない魔神将の愚鈍さを鼻で笑い、痺れを切らして範囲魔法を放ってきた瞬間飛び込む。
鎧に強化を施し皮膚に強化を施し肺に強化を施す。迫り来る炎の壁を抜け、目を見開く魔神将の顔面を殴りつける。
「ぶげぁ!?」
流石魔神将を名乗るだけあり硬い。が、鼻の骨が折れ吹き飛ばされる。そして、目を見開き慌てて肉の盾を構えようとするロードに向かって剣を振り上げる。
文字通り真っ二つになって左右に倒れるロード。ゴブリンスレイヤーはすぐさま導師を連れてこの場から撤退しようとして、雷に焼かれる。
「──────!」
「──さ、ま───貴様貴様貴様きさまきさまきさまキサマキサマキサマァァァッ!!」
慌てて導師から離れる。ゴブリンスレイヤーを追うように放たれる魔法の暴風雨。雷が、炎が、石礫が、氷が、風の刃が、水の槍が殺到し遺跡の壁を大きく抉る。
「ゆる、ざんぞ!ごの魔神将の言葉をむじし、あまづさえ殴りつけるなど!」
頬の骨が砕けたのだろう。歪な顔の形になった魔神将が憤怒の表情で魔法を放ち続ける。やがて使える回数の限界がきたのかポシュという音と共に掌から煙が出る。
「ゴブリンどもぉ!やづをごろぜぇぇ!」
魔神将の言葉に顔を見合わせるゴブリン達。ロードが死んだ。あの偉そうなのもなんか疲れてるみたいだ。
どうする?
どうしよう?
答えは直ぐ出る。なにせゴブリンなのだ。
「───ご──あ?」
ズブリと魔神将の胸を1匹の
「があああああ─────ッ!?」
本来なら並の剣で傷つけられるはずない魔神将は、ゴブリン達がどれだけ剣を振るおうが関係なかった。しかしその剣は彼がゴブリン達に与えたものではなく、片腕しかないため肉の盾を扱えば他に何も扱えないロードが一番隊隊長に渡した魔剣。都の有名な鍛冶師が鍛え、都一の魔法の使いである賢者と外なる知恵の神の恩恵を受けた導師が魔法を付与した魔剣。いかに魔神将でも耐えきれず、煙を吐き絶命した。
「GORARARAROOOOB!!」
「「「GROOOB!GOBROOOO!!」」」
新しく群の長になった
さてどれにするかと見回す。そして、まだ一度しか使われていない締まりが良いであろう女を見つける。手を伸ばし──
「───GA?」
伸ばした腕が切り落とされる。何時の間に現れたのか、黒い鎧の騎士が剣を振り抜いていた。
「GUGAAAA!?」
腕を押さえ叫ぶ
「────GU、GA───」
周りのゴブリン達が叫ぶ。ああ、五月蝿いな。
五月蝿いな、喧しいな、消してしまおう。
「GUGYAAOOOOAAAB!!!」
「────!?」
無数の剣が空中に生まれる。慌てて肉の盾や肉の鎧で防ごうとするゴブリン達は、しかしそれごと切り裂かれる。
1匹が何とか黒騎士がやけに執着していた肉の盾を掴む。構えて、安堵した瞬間鉄の杭に心臓を盾ごと貫かれた。
「GEGYAHAHAHAHAHA!!!」
無様だなぁ。無様だ──何だその様は?
うるせぇ、黙れ。仕方ねぇだろ、彼奴が人質にされてんだ。
だから?だからどうした。そんな事、気にするタマか。お前はあの女なんてどうでも良い。死ぬ?勝手に死ね。お前には何の関係もない。
────────ッ
言い返せないか?そうだろうよ、お前は今この瞬間も、彼奴の安否じゃなく、自分が人間じゃなくなるのを心配してるからなぁ。ゲゲゲゲゲ!
ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃうるせぇな!それが、何だってんだ!
お前が死にかけている理由だよ。くだらねぇ、人のフリをするからだ。どうでも良いくせに、守ろうとするからだ。
素直になれよ。縛り付けるのは止めろ。思うままに暴れろ。本能を、解き放て
「GIHI───」
砕けた兜の隙間から除いた金の瞳がギョロリと周囲を見回す。兜が邪魔なのか、手を当て力を込める。メキメキと音を立て砕けた兜の破片が地面に落ちる。
剥き出しになったゴブリンの顔。人の言葉を発するためにだいぶ人に近付いたとは言えそれでも醜い人外の顔。大きく裂けた口からベロリと長い舌を垂らす。
「GRBGOOOB!!」
「GOR!!」
「GYAOU!?」
「GUGYAA!!」
直ぐに己の得物を振り下ろす。しかし、当たらない。高速で動き回り切り刻んでいく。ゲタゲタと笑い声が響き渡る。その度に、ゴブリン達が死んでいく。
「GUGYA!!」
「GOBROO!!」
慌てて武器を捨て跪くゴブリン達。相手もゴブリンなのだ。跪き、命乞いをして下に付くと示せば見逃されるはず。此奴の部下になればきっと群も大きくなり良い思いも出来るはず。
その希望は隣で跪いたまま頭を踏みつぶされた仲間を見て潰える。
「───GO、GU」
「AHA──」
震えた
ああ、美味い。この味は、何だろう?アドレナリン?知らない、興味ない。ただ、美味いからもっと喰おう。
「GOGI!GUGYAA!!」
「GOB!GUROOB!!」
「GYHA──GYAHAHAHA!!GYAAHAHAHAHAHAHA!!!」
逃げ出そうとするゴブリン達だったが出入り口の上部に剣が突き刺さり出入り口を崩す。逃げ場が消える。
獲物は数百。狩人は1人。
狩りが始まる。
──────────────
「ゴブリンが陽動なんて───!」
「
「話は後!姉ちゃんと、師匠!」
遺跡に向かって駆ける2つの影。剣豪と少女剣士、少女剣士におぶさった賢者。村を襲う
それだけでも異常なのに導師のいる村に戻れば4人が分かれたタイミングでゴブリンの群に襲われたという。そして、導師が攫われた。偶然とは思えない。計画的な犯行としか思えない。ゴブリンが?
ね、師匠。ボクの村を襲ったゴブリン達の関係って?
俺が昔取り逃がしたゴブリンが『渡り』になって造った群の一部だ
「──────」
ふと、昨夜の会話が蘇る。嫌な予感がする。
洞窟が見えてきた。進んでいくと妙な破壊後があった。そこを無視して進むと遺跡──いや、神殿のようになっていく。
崩れた通路を蹴り飛ばす。途端、肺を重くするほどの血の匂いが流れてくる。中には夥しい数のゴブリンの死体が転がり床を赤く染める。
「これ、ゴブリンスレイヤーさんが?」
「姉ちゃんと師匠はどこに───」
顔をしかめながら中に踏み込む少女達。と、転がった死体の中に明らかに人の物もあるのを見つけた賢者がその場でうずくまり吐き出す。いや、人の一部がなかったとしても余りに凄惨な光景だ。
3人が顔をしかめているとグチャグチャと咀嚼音が聞こえてくる。
「───師匠?」
音の発生源を見れば、見えるのは黒い鎧。パキキとシャーマンと思われる掌を踏み、指の骨が折れる音が響く。
肩を揺らしていた黒い鎧は動きを止めゴブリンの腕を放り捨てると立ち上がり振り返る。その顔は、人の顔ではなかった。
「「「─────!?」」」
少女剣士と剣豪は剣を構え、賢者は杖を構える。
「あれは、ゴブリンか?」
「何でゴブリンスレイヤーさんの鎧を……」
「───2人とも、構えて」
困惑する剣豪と賢者とは反対に、冷や汗を流し警告する。
「GIHI──GYAAHHAHA!!」
「────ッ!!」
切りかかってきたゴブリンの一撃を剣で防ぐが、踏ん張りが利かず吹き飛ばされる。
「ッ!この!」
「GOGIHAHAHA!!」
剣豪が切りかかり、ゴブリンも同様に剣を振るう。剣同士がぶつかり合い火花が散る。その剣技に目を見開く剣豪。
本能のままに振り回しているようでその剣技には見覚えがある。当然だ、自分が使っているものなのだから。ゴブリンが、魔物が、無秩序の劣兵が?
「ふざ、けるな!」
全身全霊の力を込めて振り下ろす。が、ゴブリンはそれを受けず剣を斜めに構え受け流す先程とは異なる剣術。剣豪はしかし動揺こそすれ体幹をぶれさせることなく地を踏み込み肩をつきだしゴブリンに体当たりする。僅かにバランスを崩したゴブリンに追撃しようとするがゴブリンは体勢を崩したまま剣を振るう。
「──ッ!!」
身体を仰け反らせ回避する。胸当てをガリガリと剣先で削られ、体勢を立て直そうとする前に足をかけられる。そのまま腹に衝撃が走った。
「あ、が───!」
ミシミシと腹に膝が食い込む。バランスを崩した状態では踏ん張れるはずもなく吹き飛ばされゴブリンの死体の山に突っ込む。
追撃しようとしたゴブリンを炎が襲う。魔剣を何処からともなく取り出し旋風で払うが、燃えていく
「《フローズン・ケージ》!」
「───GI!」
直ぐにその場から飛び退くゴブリン。先程まで立っていた場所が一瞬で凍り付く。ゴブリンも片足が氷塊に捕らわれ空中に固定される。
「やった───ッ!!」
と、ゴブリンは弓を取り出す。矢につがえたのは矢ではなく剣。賢者も見たことがある。お湯を沸かせる程度の熱を発する魔剣だ。それが放たれる。
すんでのところで回避する。通り抜けた魔剣は壁に突き刺さると同時に爆発した。内包されていた魔力が暴発したのだ。
あの程度の魔剣で、あの威力。なら───
「GYAHA!」
魔法が封じられた魔剣がゴブリンの手に現れる。あれを何発も撃てるのか。なら、もしかしてもっと格が上の魔剣も?想像し顔を青くする賢者。と──
「てやぁぁ!」
「GUGI!?」
魔剣を放つ前に、少女剣士が切りかかる。師から貰った剣。しかしゴブリンはその剣を防ぐ。固定されている分ゴブリンの方が少女剣士より踏ん張れる。と、少女剣士はさらなる攻撃を放つ──
「もう、一発ぅ!」
「──────!!」
神々しい光を放つ剣。弓で受けようとしたゴブリンだったがぶつかった瞬間激しい光が周囲を多い、氷が砕け吹っ飛ばされる。
「GUGI!GYA───GUGYAN!!」
床を転がり柱に激突するゴブリン。瓦礫を吹っ飛ばし憎々しげに少女剣士を睨む。
「2人とも、無事か!?」
と、剣豪がやってきて剣を構える。動きがいつもよりぎこちない。やはり無視できるダメージではないのだろう。
「なあ……あのゴブリン、鎧だけでなくあの剣技───」
「それに、あの魔剣を作り出す能力──」
「───うん、師匠だね」
「「─────」」
少女剣士の言葉に2人は目を見開く。そして、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「どういう事ですか、何故あの人が……ゴブリン達が何かしたのですか」
「だとしたら、人に直す方法はある?一度、捕らえて……」
「違う。師匠は、最初っからゴブリンだよ。気付いたのは数ヶ月前だけど」
「最初から!?で、ですが……彼は!」
「うん。優しかった……ううん、優しいよ……でも、今は様子が可笑しい……取り敢えず止めるよ」
少女剣士の言葉に賢者と剣豪は得物を握った手に力を込める。
「止めるって……出来る?殺さずに倒そうとして」
「正直、私は噂に聞く魔神将とやらよりあの人の方がずっと恐ろしいのですが」
「殺す気で来られたら……どうかな………でも、剣豪を斬らずに殴ったり、魔剣は格が低いのを使ったり………ゴブリンが様子見なんてするとは思えないし」
「……まだ理性が残ってる可能性があるって事?」
「だと良いんですが」
「───GUGIGYAGYA!!」
床を踏み抜き迫るゴブリンスレイヤー。少女剣士は光り輝く魔剣で防ぐ。剣豪が切りかかり、距離を取ったゴブリンスレイヤーの足場が溶け沼のようになる。ゴブリンスレイヤーは魔剣を投影して弓につがえる。狙いは、賢者。
「させるかぁ!」
が、少女剣士がそれを弾く。
「───この剣凄い」
「それ、たぶんこの辺りの遺跡にあると言われてる聖剣」
「え、ボク選ばれた勇者なの?師匠との会話が現実になっちゃった…………うん。なった……だからさ、師匠。もう一つの約束も現実にしようよ」
剣をしまい、聖剣を両手で構える。
「行くよ師匠。今日こそ、勝ち越す!」
「GOROOOOB!!」
ゴブリンスレイヤーは使い慣れているであろう
「───ケホ」
「「─────」」
剣がぶつかり合うその瞬間、聞こえてきた小さな声。本当に小さなその声に、ゴブリンスレイヤーも少女剣士も動きを止め振り返る。
「──ん───に─ち………」
「この声……姉ちゃん、何処に!?」
「GU──」
辺り一面血だらけだ。肉片だらけ。何か探すには向かない状況だが、見つける。
「姉ちゃん!」
その肉片を蹴り飛ばし、下にいた導師を見つける。腹に穴があいているが、内臓はそこまで傷ついていない。《
ほっと息を付いて、ゴブリンスレイヤーを見る。剣士も賢者も様子を見る。止まったが、理性を取り戻したのだろうか?
「お──にい、ちゃん──」
「姉ちゃん!待って、喋っちゃ駄目だ!傷は治ったけど、血が──!」
「な、にを──してるの?」
ゴブリンスレイヤーの身体が震える。怯えるように、後ずさる。導師は血で汚れた顔を上げゴブリンスレイヤーを瞳孔が開いた瞳で見つめる。
「──GI───GU」
「何を、してるの?わた、しを──忘れようと………して、るの?そんな事……許、さない」
導師の言葉にゴブリンスレイヤーが明らかに震える。警戒するように唸るが導師に襲いかかることはしない。
「それが、責任……私の家族を、見捨てた……あな、たの……覚え、続けて……そ、したら……人間扱い、して……あげる、から」
「…………」
「GU、GIGI!!」
「───いい、の?あなたは、良いの?ゴブリンで───」
声が聞こえる。
この声は、誰だったか──。ずっとそばにいた気がする。言い訳がしたくて……言い訳?何の?
自分が何かだと、そう言いたかった筈だ。何か?自分は何だ?人間?ゴブリン?自分は何といいたくて、誰と居た?
「GU、GI───GUGAAAあああああああっ!!」
頭を押さえ叫ぶゴブリンスレイヤー。大きく仰け反り、地面を転がり壁に頭を叩きつける。
「あ、ぐ───はぁ───はぁぁ」
ゴブリンスレイヤーの瞳に理性の光が戻る。導師はただでさえ血を流しすぎていたのだ、再び意識を失う。
「ゴブリンスレイヤーさん、戻ったのですか?」
「色々聞きたいことはあるけど、取り敢えず良かった」
「流石姉ちゃんの声……すごい効き目」
賢者と剣豪はその場で膝を突き少女剣士もはぁ、と嘆息する。
「もう、迷惑かけたんだから師匠が皆を運んでよね」
「そうですね。それぐらいの我が儘は許されるでしょう」
「疲れた」
「……………」
「どうしたの師匠?ほら、帰ろうよ……」
少女剣士が首を傾げるが、ゴブリンスレイヤーは目を細めて首を振る。
「………いや、俺は帰れない」
「……え?」
「それは、私達に正体がバレたからですか?確かに驚きましたがあなたが多くの村を救ったのは解っています」
「他の人にバレたらどうなるか解らないけど、少なくとも私達は貴方のことを知ってる。さっきまでは怖かったけど、もう戻ったなら」
「戻れた、か……」と呟くゴブリンスレイヤー。
「むしろさっきまでが、本来あるべき形に戻ってたんだよ」
そう言って、新しい兜を投影する。
「で、でも、だって……皆で冒険しようって」
「ここに散らばってる死体、殺したのは俺だ。人間もゴブリンもな………そいつに傷つけたのも俺。そんな俺が、人として生きる?笑わせる──」
「ま、待って!」
慌てて追おうとする少女剣士の前に無数の大剣が壁のように現れる。剣豪や賢者の周りにも檻のように現れる。
「人間ごっこは終わりだ。本当に、くだらない時を過ごした」
「師匠!」
剣を砕いてゴブリンスレイヤーに駆け寄ろうとする少女剣士に無数の鎖が絡み付く。
「俺はゴブリン───そうだな……ユダ。
その名を残して、ユダは弟子達の前から姿を消した。