無限の剣を持つゴブリン   作:超高校級の切望

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いよいよ登場原作主人公


ゴブリンスレイヤー

 魔神王が倒される。それは秩序の民にとって文字通りお祭り騒ぎの出来事だ。

 魔神王を倒したのは伝説の聖剣を持った少女に、その少女と同門の剣士にして剣聖、そして賢者。

 しかもどの娘も頭に美を付けるような少女達だ。彫刻家と画家は彼女たちの姿を残そうとし、詩人や楽士は容姿と功績を讃える歌を作ろうとした。

 しかし彼女達は王への挨拶と白金等級の昇級が終わると、とっとと旅立った。残党を処理して欲しかった王達に「悪魔共を放置して、辺境に何をしに向かうのか」と尋ねられ「ゴブリン……」と口揃えて答えたそうだ。

 まあそれでも、通り抜け様に片手間で潜んでいる邪教だの残党だのを潰してくれていたが。

 見返りを求めぬ理想の英雄として民からの人気がますます上がった。

 

 

 

 

 都ほどではないが祭りも近付いてきた今日この頃、辺境とは言え冒険者ギルドも存在する街はやはり活気づいていた。

 そんな中ギルドの受付嬢に祭りを共に回らないかと誘われたゴブリンスレイヤーと呼ばれる銀等級冒険者。日頃世話になっているからと応えた。午後からだ。ちなみにその後居候先の牛飼娘に午前中回ろうと誘われている。

 とはいえ祭りまでまだ時間がある。故にギルドへやってきてゴブリン退治を手伝ってもらったメンツに酒をおごるゴブリンスレイヤー。と、その時──

 

「たっのもー!」

 

 バァン!と扉が勢い良く開く。何事かとそちらを見やれば3人の少女達。

 中々整った装備をしているが若い。貴族などの子女で、装備を調えて冒険者登録にきたか?と誰もがそう考え、黒髪の少女が首からかけた白金の認識票を見て目を見開く。中には飲んでいた酒を噴き出す者も居た。

 冒険者の頂点。そして黒髪で、駆け出し程度の年齢。腰に差すのは重厚な剣と真銀(ミスリル)製の剣。

 知っている。詩人達が歌う歌と同じ容姿、しかし何故()()がこんな所に!?

 

「わ、わ!見てくださいゴブリンスレイヤーさん!勇者様ですよ!」

「賢者様まで───!」

 

 最近ゴブリンスレイヤーとよく組む女神官が興奮する。そう、彼女は魔神王を打ち倒した、あの勇者だ。

 そんな将来語られるであろう今を生きる伝説に興奮している女神官の友人で、丁度良い依頼が無くてギルドで代筆屋や代読屋をしていたら気づけばギルド職員によりあの手この手で抜け出せなくされた女魔術師も自分と殆ど同期でありながらあっと言う間に飛び級した賢者を見て興奮しているようだ。

 が、不意に顔を青くしてキョロキョロ周囲を見回す。

 

「ど、どうしたんですか?」

「い、いえ──賢者様と仲の良い彼奴も来てるんじゃと思って」

「彼奴?」

「五月蝿いとか言って人に向かって爆弾投げてくるような奴よ。確か、導師とか呼ばれてたかしら」

「導師様ですか?」

 

 と、彼女達が会話している間に勇者達は受付の下まで移動する。

 

「ね、ね、この辺りにゴブリンスレイヤーって名乗ってる人が居るって聞いたんだけど、どんな人?」

「へ?ゴ、ゴブリンスレイヤーさん……ですか?」

 

 受付嬢は同僚のお気に入りの冒険者の呼び名が出て困惑する。いや、注目していた冒険者達も、か。何故最高峰の冒険者が雑魚狩りの冒険者を……。

 と、そんな空気を無視してゴブリンスレイヤーが彼女達に近付いていく。

 

「俺だ」

「へ?」

「ゴブリンか?」

「えっと……君は?」

 

 突然やってきたゴブリンスレイヤーに首を傾げる勇者達。

 

「ゴブリンではないのか?」

「ええっと……貴方がゴブリンスレイヤーですか?」

「ああ……」

 

 と、勇者の連れ──恐らく剣聖と思われる少女が尋ねてくる。ゴブリンスレイヤーが肯定すると3人の少女は顔を見合わせる。

 

「ごめん、人違いだった」

「人違い?」

「ん。考えてみれば、逃走中のあの人がわざわざ解りやすい名を名乗る筈ない」

「まあ、あえて名乗っている可能性も否定できませんでしたが」

「……?よく解らんが、ゴブリンではないのか?」

「うん」

「はい」

「ん」

「そうか……」

 

 自分に用事と言うことはゴブリンかと思ったがそうではないらしい。では用はないと席に戻るゴブリンスレイヤー。いやいや、と妖精弓手が呆れる。

 

「もっと聞くことあるでしょう。何でゴブリンスレイヤー探してるか、とか」

「確かにのう。おぅい、娘っ子ら、少し良いか?」

「ん?ボクたち?」

 

 鉱人道士が呼ぶとあっさりやってくる勇者達。その足取りに警戒はない。というか、警戒する必要がないのだろう。

 席に着いた勇者達に一品奢るから話を聞かせてくれと頼むと皆思い思いに注文する。剣聖だけは気を使ったのか安いのを頼んだが。

 

「お前さん等かみきり丸探しとったんだろ?まあこっちのかみきり丸とは別のようだが、何故だ?お前さん等は白金等級に金等級、小鬼なんぞ簡単に殺せるだろう?」

「カミキリムシ?」

「かみきり丸、だ。他にもオルクボルグ……まあ小鬼殺し殿の字名だな」

 

 と、蜥蜴僧侶が答えるとああ、と納得する勇者。注文した揚げ物の詰め合わせが届きまずは唐揚げを口に含む。

 

「別にゴブリン退治のスペシャリストを探してたわけじゃないよ?いや、名前とか変えてる可能性もあるし、探しているとは言えるのかな。ボクたちが探してる人が昔、ゴブリンスレイヤーって名乗ってたんだよね」

「その名の通り主にゴブリンを狩ってましたね。お金が必要な期間では銀等級に相応しい依頼をこなしてましたが、急遽集める必要がなくなればまたゴブリン狩りに」

「はあ?オルクボルグ以外にそんな変な奴が居るの?」

 

 妖精弓手が信じられないと眉根を寄せるとゴブリンスレイヤーはそう言えば、と思い出す。

 

「以前水の街で彼奴も俺を見て訝しんでいたな」

「ああ、剣の乙女さん?確かにあの人も師匠と一度会ってたっけ」

「師匠?勇者様達の?えっと……そのゴブリンスレイヤーさんが?」

 

 と、女神官が首を傾げる。言いよどんでいるのは何も同名の知り合いが居ると言うだけではあるまい。そんな女神官の様子を見て勇者はケラケラ笑う。

 

「アハハ。まあ、確かに……魔神王倒したボクの師匠がゴブリン専門なんて妙な話だよね」

「い、いえ……そんなつもりじゃ」

「良いって良いって。言葉にすると自分でも変な感じだからね………でもね、師匠は強いよ。ワイバーンもトロルもオーガも師匠の前じゃ雑魚だったもん」

「それなのに、ゴブリン狩りを?」

 

 女魔術師は不思議そうに言う。彼女にとって冒険者とは怪物を退治し、人々を救う者達であると同時に常に上を目指すべき存在だ。ゆえにゴブリンスレイヤーの事を当初は嫌っていた。同時期に冒険者になった後何となく話す機会が増え子犬みたいだなぁ、と思う内に仲良くなった女神官が居なければ今でも嫌い、とはいかなくても苦手ぐらいにはなっていたろう。

 今ではゴブリンスレイヤーは自分に出来る範囲で人を救っているのだと思えるがオーガだのワイバーンだの倒せるのならもっと人のためになる仕事を………。と、考えていると勇者が心を読んだかのように呟く

 

「ゴブリンは村を滅ぼすよ」

「へ?」

「ボクは……ボク達は、冒険者になる前、師匠の仕事に初めてついていった時、その光景を見た」

「建物は壊されて、家畜は食べられて、畑は焼かれて、女の人は犯されて男の人は食べられた」

「ですが実際に襲われた事のない者達は口々に言うでしょう。運がなかった、と……」

 

 ゴブリンは弱い。村の力自慢なら追い払えるのが当たり前。全員、そんな風に考える。簡単に倒せて、国を動かす必要なんてないから、放置されることが多く、稀に村を襲えるほどの規模になる。その稀な被害にあった者を、かわいそうで済ませる。災害のようなものだと、何年も経つのだからもう気にするなと窘める。

 

「災害なんかじゃないよ。だって彼奴等、楽しそうだった。獣のように暴れるトロルや、魔神王の為に、って意志のあるオーガとかとは全然違う。ある程度の知能を持って、それが楽しいことだと理解して、やるんだ」

「まあ獣の中には得物で遊ぶのも確かにいますが、ゴブリンのそれは方向が違う」

 

 思い出したのか、ブルリと震える剣聖。彼の剣聖が、ゴブリンに怯えている。

 

「ゴブリンは確かに弱い。駆け出しでも、簡単に倒せる。でもそれは戦いやすい場で、数が少なかったら………洞窟の闇の中、剣が振るいにくくて、数が多くて、毒を使う……たいていの駆け出しは殺されて、後に送られた駆け出しが疲れたゴブリン達を倒して簡単だったという」

 

 賢者が果汁水をクピクピ飲みながら呟く。ゴブリンスレイヤーがその言葉に頷いていた。女神官も初めての冒険者としての仕事を思い出したのか俯いていた。

 

「そもそも国はもう少しゴブリン退治に報奨金を出すべきだと思うんだよ。基本的に人が少なく攫いやすい辺境が襲われるから、お金が用意できない。お金がないから、白磁等級しか雇えない、白磁等級しか雇えず、白磁等級でも数を送れば最終的には倒せるから、誰も危険だと思わない……」

 

 サクサクとポテトフライを食べながらボヤく勇者。実際金にならないからとギルドに勧められても依頼を突っぱねる冒険者からすれば耳の痛い話だ。

 

「厄介なのは倒しきれないこと。生き残ったゴブリンは成長する……『渡り』になって田舎者(ホ  ブ)やシャーマン、まれに英雄(チャンピオン)(ロード)になる……英雄(チャンピオン)までなら銀等級でも何とか勝てると思うよ。1対1ならね」

「ゴブリン共が群れぬなどありえない」

「そうだよね。だから銀等級のチームが必要………(ロード)に至っては数チームは必要だよ。最低でも80、もっと大きいとボク等なんて700近くで上位種だらけの群にあったし……まあそれは殆ど師匠が殺し尽くしたんだけど」

「優秀だな」

「優秀だよ!」

 

 えっへん、と誇らしげに胸を張る勇者。しかし直ぐに落ち込む。

 

「でもその日以来どっか行っちゃったんだよね……」

「それって……」

「ううん。死んでないよ……全部殺した後、ボク達の前でどっか行っちゃった。一年ほど前にね……だから探してるんだよね。師匠が居れば、きっと寝たきりになっちゃった姉ちゃんも起きるだろうし」

「成る程。それで小鬼殺し殿の噂を聞いてここに……」

「それもあるけど基本的には辺境でゴブリン退治にね……ゴブリンあるところに師匠ありだからね」

 

 ゴブリンあるところに師匠、って……なんかゴブリンスレイヤーみたいだとゴブリンスレイヤーの知り合い達がゴブリンスレイヤーを見る。いや、彼女達の師匠もゴブリンスレイヤー……何かややこしくなってきた。

 

「ところでゴブリンスレイヤーさん、ゴブリンを追ってて変な事無かった?」

「変なこと?」

「既に群が滅ぼされてたとか、黒い鎧を着たゴブリン見かけたりとか」

「……いや、何故だ?」

「んーと………師匠が───賢者、説明お願い!」

 

 と、説明を賢者に任せる勇者。賢者ははぁ、とため息を吐く。

 

「ゴブリン・ユダって名乗る、共通語を解するゴブリンが居る。その目撃証言があれば師匠は間違いなくそこにいる」

「追っているのか?」

「そんな所」

「共通語を話すゴブリン?そんなの居るわけないでしょ……」

「………いえ、確かこの前のロードも少しだけ人の言葉を話してました。変異していけば、何時かは……」

「普通に話せるようになるよ」

「そうか、やっかいだな。人の世に紛れるかもしれん」

 

 

 

 

 ギルド職員、その中には多大な逆恨みを持たれる者がいる。

 昇級審査の監督官だ。嘘を見抜く奇跡を至高神より授かった彼女或いは彼等は昇級審査で冒険者達の嘘を見抜く係。

 そもそも既にバレている上での尋問が多く、原因だって金をネコババしようとした冒険者が悪いのだがそのせいで降格された者達は彼女に恨みを持つ。主に先行し宝箱などを空ける斥候などにその手合いが多く、故に気配を消す。少なくとも戦闘職ではないギルド職員に気配を感じるなど不可能だ。祭りの準備の賑わいを利用して、裏路地に連れて行かれた。

 自分達が行った悪事を正当化するために俺と同じ事をしている奴はこんなに居ると見せつけるように群れ、痛めつける前にその身体を楽しもうといやらしい笑みを浮かべる。

 毅然な態度で彼等の虚言を指摘した彼女の怯える様を見てさらにニタニタと笑う。まるで───

 

「───ゴブリンだな」

 

 ギルドでよく聞く言葉。同僚のお気に入りの口癖。それが聞こえた瞬間、男達が倒れる。

 

「いって──何、があああ!?」

 

 自分達は倒れたのに己の足の裏はまだ地面についているのを見て目を見開き叫ぶ男達。監督官が顔を上げると、そこには全身鎧(フルプレート)の人物が立っていた。

 

「て、てめぇ!こんな事して、ただで済むと──!」

 

 ゴキリと首の骨が折られる。ヒッ、と男たちが黙り込む。

 ここは路地裏、建物の影、とても薄暗い。しかしその影すら飲み込む闇を体現したかのような漆黒の鎧を纏った──先ほどの声からして──男は倒れた男達を見回す。下腿を半ばほどから失った彼等が今後冒険者として活動するのは不可能だろう。いや、ギルド職員を襲った時点で不可能か。切り口は綺麗だし、今すぐ神殿に行って金を積めば治せるかもしれないが誰が神殿に連れていくというのか。

 

「立てるか?」

「───え」

 

 男達の足からドクドクと流れる血が広がり服が汚れても呆然としていた監督官に鎧の男は話しかけてくる。

 

「立てるなら早く行くといい。俺は此奴等に尋ねたいことがある。立てないなら運んでやる」

「あ、えっと──あ、あれ………」

 

 立ち上がろうとしたが上手く力が入らない。腰が抜けてしまったようだ。

 

「──チッ」

(舌打ちされた──)

 

 と、男が手を叩くと少女が現れた。襤褸布を纏った、痣だらけの獣人の少女だ。

 

「連れて行ってやれ」

「はい」

「それと、ギルド職員だ。冒険者登録してこい」

「はい」

「俺とお前もここまでだ。後は好きにやれ」

「はい」

 

 義務的に返す少女。獣人らしく身体能力に優れているのか、監督官をヒョイと持ち上げる。そのまま歩き出した。

 

「あ、あの──ありがとう」

「いえ、師匠の命令なので」

「師匠って、あの人?」

「はい。私に小鬼の殺し方を教えてくれました」

「………その、あの人の名前って?」

「師匠です。他の呼び方は知りません」

「そ、そっか……」

 

 

───────────────────

 

 

「さて、彼奴等が来てるし、出来るならさっさと失せたいんだ。誰に騒ぎを起こすように言われた?」

 

 《小癒(ヒール)》の巻物(スクロール)を使い男達の血を止め尋ねる鎧の男。男達が憎々しげに睨むとベキリと一人の男の掌の骨を踏み砕く。

 

「質問に答えろ。俺は気が長い方とはいえない──単刀直入に聞くが闇人(ダークエルフ)は何処だ?」

「な、何の話だよ!俺は何も──」

 

 ゴキリ、また一人の首の骨がへし折れた。

 

「ま、待ってくれ!本当に知らないんだ!ただ、武器と金をやるから暴れろってフード被った奴に」

「何だ、使えない───ん?」

 

 と、足音が聞こえてくる。恐らく衛兵だろう。このままでは捕まる男達だがむしろその足音は救いの足音に聞こえた。鎧の男は舌打ちすると適当に2人を担ぎ上げる。

 男達が悲鳴を上げる前に、壁を駆け上がり屋根の上を跳び街の外まで移動する。

 

「お、俺達をどうする気だ!」

「か、勘弁してくれ!白磁に落とされて、ちょっと俺達の苦労を解らせてやろうと──!」

「───腹減った」

 

 人を殺そうとしておいて、自分が殺されるかもしれない状況になったとたん命乞いを始める男達に、鎧の男はポツリと呟く。日常的な会話のように、しかし話の文脈を無視して。

 

「こんな身体だからな、時折発散させなきゃならん。苦しめて、いたぶって、泣きわめく様を楽しまなきゃならん………じゃねぇとまた、暴れる。その点お前等みたいのは大歓迎だ。特にアドレナリン、それが入ってる脳を食えば数日は持つ……」

「は、は?何を言ってやがる……」

「タイミングが良かった。彼奴とも別れたり、食事で衝動を抑えるしかなかった。ゴブリンより人間の方が長く持つ……山賊捜す手間が省けた、感謝してやる」

 

 嫌な予感がする。脳を食うとか、食事とか……嫌な予感がするが、心の何処かでまさかと首を振る。人間が、秩序の民がそんなまさかと──しかし、兜が消え絶望に顔が歪む。

 

「ああ、良いなその顔……それだけでも2日は持ちそうだ。まあ、それじゃ足りないからなぁ──いただきます」




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