---遥side---
「先生...。」
診察が終わり、結果を聞いたところで俺の気力は無くなっていた。
本当に心はからっぽで、何かを考える最後の力すら残っていなかった。
「さて、大変な状況になっちまったな、お前。」
「...そうですね。でも、俺もよくわからないんです。」
言われるところによると、俺の心はストレスで壊れ、それが直に身体に反映されているらしい。
そうして結果を聞いて、俺はまた今までの人生を思い出した。
もう何度も思い返して、
何度も何度も割り切って、
それでいいと思ってたのに...。
ズキッと頭が痛んだ。
「...!」
声にならない悲鳴と共に、一瞬下を向く。
「...痛むのか、頭が。」
「ええ、ちょっとですけどね。」
そういって黙り込む。
そうだ。なんで俺はこんなところにいるんだ。
そうだ、俺が今行かなきゃいけないのはここじゃない、
早く、どこかへ、ここじゃない、俺の居るべき場所は、やらなきゃいけないコトは、みんなは、俺は!!
「はぁっ、はぁっ、はぁ、...はぁ。」
止まらなくなった呼吸を無理やり押さえつける。
先程同様に頭が痛むがもう気にはしなかった。
そんな俺を気にかけてか先生が言う。
「...なあ、さっきも言ったけどよ、話をしねえか?最近は忙しくて満足に時間取れなかったろ。でも今は患者と医者の関係。時間ならいくらでもあるんだ。...それにお前に話したかったこと、いっぱいあるしよ。」
「そうですね。...それで、どこから話しますか?」
「そうだな...。......俺さ、こういう性格だから、人の気持ちを理解するのはあんまし得意じゃねえんだ。でもよ、お前の過去を聞いて、どんな道を生きてきたのかを聞いて、分かったんだ。...ずっと1人だったんだな、お前。あの日からずっと。」
「先生、いくら先生でもそんなこと言うのは少し許さないですよ。」
正直腹が立った。
俺には美海や千夏やみんながいるのに、
1人だったなんて...。
「そうか、癇に障ったなら悪い。けどな、お前がそう思ってなくても、もうお前の身体が勝手にそうしてるんだ。何かを背負っても、未来が暗かろうと、お前は1人でそれをやって、全部終わらせた。...結局それが、お前のストレスの全てだったんだよ。」
「でもそれって...結局俺の生きてきた道の否定じゃないですか...。」
自然と涙がこぼれる。
誰のせいでもなく、運命の2文字によって、俺の心は壊されたのだ。
悔しいとか悲しいとか。
そんな感情は湧くことはなく、
ただ何故、と繰り返すのみだった。
「...なあ、遥。少し休まねえか。お前は頑張り過ぎたんだ。少しくらい休んだって神様は怒ったりしねえよ。」
「...神様なんて、いるんですか?」
神様は、いる。
分かってていても俺はそんな判断が出来なかった。
「さあな、俺も知らねえ。けど、お前が休んでもいいってのは、俺が保証する。そんなら文句ねえだろ。」
「...そうですね。」
少しくらい、休んでも...いいか。
一旦やめてしまおう。
考えることも、誰かのためにがんばることも。
答えが見えない以上、俺はきっとそうするしかないんだから。
...そうだな。
頑張りすぎだったんだな。
たまには何も考えずにすごしても...。
その日から、俺は必要以上の事を考えずに生きることにした。
廃人、ほどではないけど、自分の周りの人のことはあくまで忘れない程度に思うだけの、そんな生活を送っていた。
あぁ、たしか何度か美海や千夏が会いに来てくれたっけ。
でも、それまで。
深く立ち入った話は、お互いしなかった。
向こうも遠慮したのだろう。変に俺に気を使わせないように。
...情けない話だよな、ほんと。
それでも今の俺はそうしてくれる方がありがたいくらい弱い人間になっていた。
...いや、違うか。
もともと俺は弱かったんだ。
それを無理に無理に強く生きようと、そうしてきたんだ。何度か弱いことに気がついた気でいて、本当は何も変わっていなかったんだ。
だから今こうやって、本当に弱さに直面してるんだ。
それでも答えが、まだ見つからない。
そうか、これが本当の弱さなんだな。
また日にちが過ぎてゆく。
1日。
また1日。
そうして1週間は過ぎ去った。
今の生活はなんの不自由もない。
けど、心がだんだんと空っぽになっていくようで。
先生もいるし会いに来る人もいる。けれど、やっぱり寂しい。
みんな今頃、何してるんだろうな...。
フッ。
ん、今窓の外になにかいたような...。
そう思って窓の方をむく。
「よお、元気やっとるかの、遥。」
窓の外に座っていたのはウロコ様だった。
「...はい?」
「なんじゃ、せっかくわしが重い腰を上げてお見舞いに来てやったと言うのに...。まあ、なんじゃ、少し場所を変えるとするかの。」
そういったきりウロコ様はどこかへ消えてった。
仕方ない。動こうか。
...
「それで、改めて聞くが...どうじゃ、調子は。」
いつになく優しくウロコ様が言う。
「身体の、って言うなら悪くは無いですよ。ただ...。」
「ああ、分かっておる。あの時おかしいと思ったが、ここまでやられてるとは正直思ってなかったぞ。...やっぱりしんどいか?」
「いや、こうして何も考えずに過ごしてればまだ楽です。...けど、ずっとこうしてれるほど、優しくはないですよね。現状は。」
考えないようにしていても、片隅には責任感が残っている。
それに、大学とかのことも考えるとそう長い時間ここにはいられない。
それに対するウロコ様の答えはこうだった。
「そうじゃの...。じゃが、今のお前はそうした方がいいかもしれんの。
...なあ遥、お主いっそ、海と縁を切らぬか?」
「...ついに追放ですか?」
「いや、これは提案のつもりなんじゃがの...。全ての因果が、お主の両親から始まってた。それが海から生まれたものなら、断ち切ればまだ楽になれるかもしれぬと思っての。...儂はな、遥。お主に幸せになって欲しいんじゃ。」
驚きだった。
この人は、誰かに肩入れするような人ではない、そう思っていた。
何せ神様だ。公平さは必要だろう。
それでも、俺に幸せになって欲しいと言ってくれた。
ただ、それは逆に、俺をまた困らせるだけのものだ。
「勘弁してくださいよ...。答えを得ていないのに、そんな事言われても、また苦しくなるだけじゃないですか。」
「...そうか。すまんかったの、忘れてくれ。...そうじゃ遥。今先島の息子らが率先してもう一度お船引をしようとしておるんじゃが、せめて見ていくか?」
「...いつ頃になりますか?」
「あと1週間とちょっとじゃの。」
「そうですか。分かりました。」
そうしてウロコ様はまたどこかへ消えていった。
残された俺は1人、佇んでいた。
それでも、少しだけ、心の底に火がついた気がした。
きっとそれが、答えを見つけるときの合図だ。
ついに100話です。
あと20話もないですね。
ここまで来たんだなってつくづく思います。
それでは。
また会おうね(定期)