---遥side---
帰ってからの光景には驚いた。
お船引の準備がだいぶ進んでいるのもそうだが、何より人間関係が大きく変わってるように見えた。
紡とちさきはギクシャクしながらも確かに友人の一線を超えており、かといって要はというとさゆと上手くやっているようで。
それぞれがそれぞれの、自分の好くべき相手をちゃんと見つけている、というような、そんな状態だった。
そんなお船引前日。
「よお、遥。元気になったか?」
俺がお船引の準備の様子を見ていると、ばったり光に出会った。
「ああ、お蔭さまでな。それで、早速だけどなにか手伝うことはあるか?」
「んー、それが結構順調でさ、もう俺たちがすることはないみたいなんだよ。とゆーわけで、来てもらって悪いけど今日やることはなさそうだ。...まあ、せめてお船引当日は船の上から見ててくれないか?」
「そうか。それはいいんだが...。」
やたらと、光の様子が変だ。
何かを抱えているのはわかる。けれど、それに苛立つことも無く。誰かにあたることなく。
自分一人でなにか大切なことを解決しようとしてるような、そんな感じだ。
(おおかた、お船引への不安、恋愛への不満かもしれないけど...)
「?どうしたんだよ?」
「なぁ、光、ちょっと場所変えようか。色々聞きたいことあるからな。」
「いいけどさ...。どしたんだ?お前。」
「ま、色々考えたんだよ。」
...
「んで、何の話だよ。」
場所を変えてすぐ、光がぶっきらぼうに答える。
「...まなかと、何かあったのか?」
「なっ!?......ああ、そうだよ。やっぱお前にはかなわねえわ。この際だから全部話してやるよ。」
「頼む。」
「俺がウロコ様に会った、ってのは知ってるよな?そして、その時にまなかが人を好きになる気持ちを失ったってのを聞いて、お船引をやろうって結論になったんだ。そこら辺は...」
「ああ、知ってる。それで?」
「...5年前さ、初めて俺らがこっちの中学校に来た日、まなかが紡のとこの船に引き上げられただろ?...多分、あの時からまなかは紡が運命の人だと思ってたはずなんだ。でも、紡はちさきが好きだと言って、見たろ?あの状況だ。...だから、よくわかんねーんだよ。まなかが誰が好きなのか、とかさ。」
なるほどな。
言いたいことはわかるんだ。
俺もまなかが誰が好きだったのかなんて本当に分からない。
感情を取り戻した時にもし本当に紡が好きだったりしたら、それはどうするんだろうとは思う。
けど、それはないんじゃないかな。
まなかのことを1番知ってて、1番思ってるのは光。お前なんだろ?
だったら、好きな相手のことくらい信じろよ。
「なあ、光。確認するぞ。お前はまなかの事が好きなんだな?」
「はぁ!?何言って...」
...焦らすな!逃げるな!本当の気持ちに向き合いたいなら...!
「誤魔化すな!!俺は好きかどうか聞いてるんだよ!」
「...ああ、もう!好きだよ!あいつの事は!他の誰よりも!」
光が叫ぶ。
周りには誰もいないのでそのまま続ける。
「そうだろ?...お前はさ、好きな人が別な人のことを思ってたら諦めるのか?自分の好きの気持ちを。そんなに軽い気持ちで好きなのか?」
「そんなの、違うに決まってんだろ...!」
「...そうだよな。だからさ、誰が何を思っていようと関係ないんだ。お前が好きだと思ったものを信じてみないか?俺もそうしたいからさ。」
そう。
人を好きになるなら、その人を信じることが一番大事だ。
俺も、そうしたいからさ。
「...なんか、気が楽になった気がする。ありがとな、話聞いてくれて。」
「おう。明日は頑張ろうな。」
...
光が帰ったあとも、俺はその場に残った。
明日、また海が動く。それは分かっている。
俺は海で泳ぐことが出来るか?今、この状態で。
ふとそう思い、俺は迷わず海に飛び込んだ。
相変わらず水温が冷たい。
それどころか、やっぱり身体はいつもより気だるさを覚えた。
やっぱり、身体は嘘をつかない。
俺のエナは自然と弱くなっているのがわかる。
それでも明日は何とかなるか...。
ん?
ふと、白い石を発見した。
んー、こんな石は普段から...。
...ウミウシ?
ウミウシに想いを伝えれば、吐き出す石の色によってそれが正しいかどうかを教えてくれる。
でも、最近いつウミウシに触れることが...?
...五年前のものかな?
(まあいいや、とりあえず回収を...。)
と、触れた時だった。
!?
想いが溢れる、と言った表現はよくあるが、今回はそれが具体的になったようなものだ。
そして、その白い石に詰まっていた想い。それは...
「ひーくんが好き」
と、シンプルで真っ直ぐな一言だった。
(何だよ。やっぱり相思相愛なんじゃねえか。)
そう思ってフッと笑う。
けれど、それは一瞬。気づかなきゃいけないのは本人だから。
さて、時間だな。そろそろ上がろうか。
俺はその石を拾い上げ、陸へ上がると真っ直ぐ家へと帰っていた。
もう何も振り向かない。真っ直ぐ進む。
どんな未来かは誰もまだ知らない。
けれど、明日は俺にとって幾年ぶりかのお祭りということになる。
ならば、楽しめるだけ楽しもうか。
さあ、明日はお船引だ。
あと少し。
頑張ろう。
また会おうね(定期)