---遥side---
お船引当日は晴れていた。
なんの曇りもなく、逆に不安になるくらいの快晴だ。
朝から昼まで街はお祭りモード。
そこら辺の祭りとはやはり少し違うものだが、やはり鷲大師にとってお船引とはかなり価値の高いものなのだろう。
そして、俺を始めエナを持つ子供、それに関わる人らは伝統の衣装に着替えさせてもらっていた。
俺自身、この服を着たことがなかったので正直ワクワクしてるところはある。
まあ、なんだかんだ言って俺はやっぱり海が好きなんだな...、と心からそう思う。
でも、それと将来どうなるかは、やはり今は考えられそうになかった。
...
さて、夜になるまでは早かった。
周りの賑わいが冷めない中、1台の車が止まり、中からウロコ様が出てくる。
なにやら文句を言ってるようだが、そんなもの知ったことではない。
とりあえず、色々準備を行ってるので、まもなく始まるだろう。
...いよいよか。
5年前の真実、これからの答え。
今日で全てわかる。それに...
俺はちゃんと、ここにいるから。
準備が整い、船の行先に青い火が灯り、船が動き出す。
さあ、いよいよだな。
...
歌とともに、船はゆっくりと進んでいく。
青い火に導かれ進んでいく船上、同じ船にいる光にしろ、まなかにしろ、その臨場感故に軽口を聞けるものは誰一人としていない。
それぞれが松明を持ち、ただおじょし様を投下するポイントまで向かう。
揺れる水面から、少しだけ汐鹿生が見える。
5年前から、みんなここで眠ってた。
そして5年後、こうして揃って海の上にいる。
未来がどうなるかは分からない、けれど、祈ることは出来るから...。
俺は、海に沈んでゆくおじょし様にこれからの未来を願った。
...その時だった。
ドォン!
大きく船が揺れたかと思うと、海上のあちこちで竜巻が発生した。
それは想像を絶する荒れ具合で、到底冷静を保っていれるような状態ではなかった。
おいおい、5年前もこんなのが起こってたって言うのかよ...!
それじゃ飲まれるのも無理はないじゃないか!
「おい光!5年前もこんなのが起きてたって言うのかよ!!?」
「いや、今回の方がでかい!5年前はまだ部分的で...おい、来るぞ!上!」
光に急かされて上を見上げる。
それは、自分たちのいる船を覆うくらいの高波だった。
まずい、これは避けきれっ...!
ザバァ!
...
.....、っと。
一瞬の衝撃で目をつぶり、開いた時には海の中だった。
他の人は...、どうやら危ない位置にはいなさそうだな。
俺は落ちてるであろう人の確認をしないと...!?
そう思って周りを確認していると、1人の沈んでいく人の姿が見えた。
あれは...まなかか!?
エナを失ってるまなかは、水中で息が出来ない、もはやカナヅチ状態だった。
だから、誰かが助けなければこのまま沈んでいくかもしれない。いや、おそらくそうなる。
とりあえず、行けるのは俺か...!?
全速力で足を動かし、まなかに追いつこうとする。
しかし、まなかに先に追いついたのは、美海だった。
「まなか!!」
「向井戸!!」
後から光と紡が追いつく。しかし、やはり俺と同じラインで動くのを止めた。
その光景に皆止まらざるを得なかった。
まなかを抱いている美海、その周りを暖かい色の光が包み込んでいた。
---美海side---
まなかさんに追いついたのは私が1番早かった。
特に距離が近かった訳でもない。けれどなぜか、誰よりも早く私の体は動いた。
「まなかさん!」
沈みかけているまなかさんの手を取り、体を支える。
その時、いつか聞いたピキキと言った音がいっそう強く鳴り出した。
「これって、確かまなかさんの...」
そう、まなかさんのエナだ。
なんで、まなかさんのエナが...?
思い出す。
思い出してたどり着いたのは初めて汐鹿生に行ったあの日のことだった。
音に導かれるように進んでいくと、そこに汐鹿生があった。
でも、その音の招待はまなかさんのエナで、私がそのエナを受け継いだ、ってことなのかな...?
分からない。けど、いいんだ。
今はまなかさんの気持ちが流れてくる。
「ひーくんが好き、ひーくんが好き」って、ずっと流れてくる。
うん、分かるよ。
誰かに隙を伝えるのってやっぱり恥ずかしくて、緊張して、伝えられなくて、それでも、伝えたくて。
「私も、好きな人がいるんです。今はまだ、ちゃんと思いは届いてないけど。」
誰に向かって言ったんだろうか、でも確かに誰かに向けて言った言葉。
「それでもいつか、思いを届けたいなぁって。」
答えは帰ってきた。
「私も分かるよ、美海ちゃんの気持ち。...あぁ、好きの気持ちって、暖かいなぁ...。」
辺りを包む光がだんだんとまなかさんへ吸い込まれていき、みるみるうちにエナが輝き出した。
...うん、これで元通り。
元通り、だから。
「まなか!」
遠くからちさきさんと遅れて千夏ちゃんがやってくる。
あとは2人に任せ...
...!!?
危ない!!
その時、私とまなかさんの近くに1つの大きな竜巻がやってきた。
このままでがは間違いなく2人とも飲まれる。
...でも、助けることだって、できる!
私は全力でまなかさんを遠くへと突き出す。
「キャアアアアアアアア!」
それからほんの数秒で、私の体は竜巻の中へと飲まれていった。
...沈んでいく。
足掻いても、力が入らない。
...まあいいや、頑張ったし少しくらい休んでも。
そう思って私は瞼を閉じる。
「...うな、美海、美海!!」
沈む間際、最後に聞こえた声はやはり彼の声だった。
うん、微妙。
何も言えねえ。
以上!!
完走までもう少し!
また会おうね(定期)