---千夏side---
それは、5年前とおなじだった。
無数に上がる竜巻、荒れる海、揺れる船...。
いくつかの船は大波に飲まれてしまった。
...全く、同じだ。
私はいつかの記憶がフラッシュバックし、足を震わせていた。
これからどうなるんだろう。
また海に飲まれて、それから...。
...もし私が飛び込んでも、また謎の何かで体が動かなくなるかもしれない。
そうして、また海の底に沈んでいくの...?
...。
でも、だめだ。
逃げちゃダメだ、例え危なくても。
その時、遠くの方で美海ちゃんが海へと飛び込むのを見た。
...そう、ここで私が行かなかったら、きっと私は一生後悔する。
今、海の中に遥君はいるし、美海ちゃんもそれを追いかけてる。
ここで止まってるようで、好きだなんて言う資格なんてないから。
...だから、行くんだ...!
私は迷わず飛び込むと、急ぎ足で深く深くへと進んで行った。
「みんな!大丈...」
私は、目の前に写った光景に言葉をなくした。
一瞬暖かな光が目に入ったかと思えば、そこに1本の竜巻が直撃し、美海ちゃんが飲まれていった。
「美海!」
遥君が叫ぶ声が聞こえる。視界の中にはいないけど、きっと近くにいる。
とりあえず、後を追おう!!
私はそのまま遥君を追いかける。
何故かしら進む足は早く、早くに遥君へと追いついた。
「遥君!これって...」
「千夏か!?...とりあえず追いかけるぞ!」
こちらを見ずに言葉だけ帰ってくる。
私はそれがどこか悲しくて、どこか悔しかった。
私はちゃんと見てもらえてるの?
嫉妬でそんな感情が芽ばえる。
分かってるんだ。今はそんなことを言ってられる状況じゃない。
それでも、好きな相手に振り向いて欲しいのはいつだって変わらないんだよ。
...お願い、だから。
こっちを向いてよ。
「ねぇ、私はどうすればいい!?遥君のために、なにかしてあげられる事はある!?」
わざとらしく大きく叫ぶ。もっと小さくても聞こえる距離のはずなのに、感じる距離は少し遠い。
そんな私に、遥君は足を止め、振り向いて言った。
「何って...決まってんだろ。俺のそばにいてくれよ。」
「...え?」
今、何て...
「聞き直すなよほんと。こういうのって結構照れるんだよ。あれだよ、俺だって1人じゃ不安なんだよ、ここから先。美海を助けることでさえ一人で行くのが怖いくらいだ。だから、そばに居てくれよ。それだけで力になるからさ。」
ちょっと勘違いだった。
私を選んでくれたのかもしれない、そんな淡い期待は海に消える。
けれど、そばにいて欲しいと言ってくれるそれだけで私は力を得れる。
だから、私はどんな結末になっても、遥君の隣にいるんだ。
---遥side---
今までの俺ならなりふり構わず1人で突っ込んだかもしれない。
けれど、今は違う。
自分が誰かに頼らなければいけない弱い人間だと分かってるからこそ、千夏には隣にいてほしかった。
さて、美海の方だが、今の一悶着の間でだいぶ離れてしまった。
しかし、大方予想はついている。
ただ、もしまなかの時のような膜がすぐに展開されていたら、こいつは厄介なことになりそうな気もするが...。
いや、今は行くしかないな。
俺は躊躇うことをやめ、もう何度目かの空洞へ向かった。
...
結論から言おう。
美海はそこにいた。何も変わることなく。
ただ、薄い膜におおわれた状態で。
「そんな...これって...。」
隣で千夏が嘆く。が、俺は悲観はしていなかった。
今、ここには3人しかいないとどこかで思ってるのなら、それは間違いだ。
ここにはもう1人いる。
だから俺は誰もいない空間へ向かって語りだした。
「やっぱり、ここにいるんですね、海神様。」
「...」
もちろん、返事はかえってこない。それでも俺は続ける。
「今、あなたは美海を新しいおじょし様として迎えようとしてますね?...前から思ってたんです。何故、新しいおじょし様を毎年望んでいたのか。...それで分かったんですよ。」
これは今もどこかで聞いているであろうウロコ様も言ってた事だが...。
「あなたは、おじょし様が好きだったんですよ。それも今でも変わらず。あの日海から離れてしまったおじょし様を、その愛する気持ちを奪ったことを後悔してるんですよ。...でもですね、俺はこう思うんです。」
なあ、ウロコ様。聞いてるのなら考えてくれ。
きっとこれは正解のはずだ。
「おじょし様は、地上の想い人より、あなたを愛していたんですよ。もちろん、それに気づけなかったから、記憶を奪った...と。」
「...!」
ボッと青い炎が揺らぐ。そこから伝わってくる感情は後悔だ。
「...分かってます。こんな事言っても遅い、と。でも、愛は決して消えないんです。好きの気持ちは消えないんです。おじょし様の気持ちはエナとともに海に溶けて、あなたの気持ちは今も残り続けて...、だから、きっと結ばれる。その気持ちは...間違いなんかじゃない!」
バキンッ!
その音と同時に美海を囲っていた膜が破れた。
「千夏!美海を頼めるか?」
「うん。でも遥君は?」
「俺はもう少し、話したいことがあるから。」
「...分かった!」
そう言って千夏には先に離れてもらう。時期に美海も目を覚ますだろう。
俺はと言うと、この海神様の気持ちを最後まで見届けたかった。
「...聞こえてきますよね。耳をすませば、おじょし様の声が。これは、捨てても捨てきれなかったあなたへの好きの気持ちです。...海は次第に冷えてきた。じきに世界が終わるかもしれない。でも、そんなことはもうないはずです。何故なら...。」
さあ、海神様。帰りましょう。全ての始まりの海へ。
「この海は、好きという感情を凍結させてしまったあなた自身だったからです。」
そして、海が光り始め、青い炎は街へと向かっていった。
明日は模試...何してんだ俺。
とりあえずこんなスケジュールです。
走りきろうか。
また会おうね(定期)