---遥side---
千夏は続ける。
「私ね、ずっと後悔してるの。五年前のあの日のこと。忘れてなんて言って、一番忘れれるわけないのがあたしなんだけどね。...けどね、今私が知りたいのはあの日のことじゃない。今を生きる遥くんの目に映る私を知りたいの。...もう逃げたくない、逃げないって決めたの。...だから、ちゃんと答えがほしい。」
どこまでも素直でストレートな好きの言葉。
5年前も受け取ったような気がしたけど、あの日の言葉なんかよりずっと重たくて、価値のある言葉だ。
「ああ...。」
そうは言っても考える時間は欲しいし、何より、千夏自身がまだ何か言いたげな顔をしていた。
「...あのね、出来れば答えは、今じゃない時間で欲しい。それに、遥くんのことを好きなのは、あたしだけじゃないから。...だからね、もし、私の告白にokを出してくれるなら、今日の夕方6時、いつもの堤防に来て欲しい。それじゃだめかな?」
「...いや、助かる。」
「ありがと、それじゃあ学校行ってくるね!」
そうして元気よく千夏は遠くへとかけていく。学校開始まではまだ当分時間があるはずなのに、その足は早かった。
とはいえ、俺はもう逃げないと決めている。
ただ。
もし、美海に俺が好きという気持ちがあるなら、ちゃんと本人の口から聞きたい。
傲慢な願いだが、許してくれるだろうか。
...まあいいか。とりあえずもうちょっと回っていこう。何せもう向こうへ帰るまで時間がない。こんなゆっくりできるのは今日くらいかもしれないしな。
...
「あれ、遥。どうしたのこんな朝早くから。」
学校付近をうろついていると運良く美海に出会った。
...いや、半ば会いに来たようなものだけど。
「ん、向こうに帰る前に散歩と思ってな。...そいや光は向こうの家に帰ったんだっけか。」
「そう。やっぱり分かってたけど静かなもんだから少し寂しさはあるかな。...ところで遥。私ね、ここにくれば遥に会えると思ってたの。」
「お、おう。」
「...ずっと我慢してた。好きで好きで堪らなかったけど何も言えなかった。...千夏ちゃんと約束してたの。フェアに戦おうって。...そして、今になってやっと言えるの。」
俺は何も言わない。思いを打ち明けようとしてる人の邪魔だけはしないと決めているから。
そして美海はこれまでの人生で溜め込んだ自分の感情を一言に込めて放った。
「私は、やっぱり遥が大好き。初めて会った時から、海で抱いてもらったあの日のことも、二人で一夜過ごした...初めてのキスの日のことも、全部含めて全部好き。一生、隣にいたいと思ってるよ。...この気持ちに、私は答えを出して欲しいの。...お願い。」
それは美海のすべて。その中には俺の知らない本心も混じってるだろう。
「あっ!」
しかしそんな中で美海は何かを思い出したように声を挙げた。
「...そう、肝心な事を言い忘れちゃってた。...答えは今じゃなくていいから。...私を選んでくれるなら、今日の夕方6時、あの日の倉庫に来て欲しいな。」
その時間は確か、千夏との約束も入ってるはずだ。
...なるほど。
「...つまり、その時間にどっちに行くかで決めてほしいってことか?」
「えへへ、そういうこと。じゃ、学校行ってくるね。」
そう言って笑みを浮かべ振り返り、美海も去っていく。走ってこそないが歩幅は大きく、顔も前をむいていた。
残された俺は一人、どうするか考えていた。
何度も言ってるが、両方好きだ。両方選べるならそうしたい。
けど、今は決断の時だ。
それは分かってる。でもここに来て誰か1人を選ぶ勇気がここ来て足りない。
将来を考えるなら、それはもう俺だけの問題じゃないなからな。
保さんや、夏帆さんの期待。
あかりさんや、至さんの期待。
自分の選択次第で、人間関係も大きく変わるだろう。
でも、自分の未来は結局自分のものだから。
自分の生きたいように生きればいい、そう教えてくれたのは、最初にいなくなった父さん、母さんだったのかな。
なるほど。2人が残したかったのは...。
いなくなって随分経って気付かされた。本当は一緒にいて欲しかったが今はこんな結末もありかなと思ってしまう。
そうだ。始まりの場所へ行くか。
俺は論文に手をつけることそっちのけで海へと飛び込んだ。
...
いつもの汐鹿生だ。
人も海も暖かく、それでもって青が綺麗な。
「ん、おお?あんたぁ確か島波さんとこの...。いやぁ、あん時はすまんかったな!」
「はぁ、どうも...。」
正直覚えてない人だがあの場にいたのだろう謝罪はあった。
別に謝罪はいらない。けれど、聞きたいことはあった。
「そういえばおやっさん、俺ん家ってちゃんと残ってる?」
「ああ?あの外れにあるやつかい?そらもちろんちゃんと残ってるて。」
「ありがとうございます。それじゃ。」
そうして早足でかけていく。始まりの場所、懐かしの家へ。
...
「えっ?」
入った瞬間目を疑った。しかし目の前の光景は事実だ。
これまで積まれていたぬくみ雪はなく、部屋一室一室がとてもきれいになっていた。
「これ、誰がやったんだ...?」
そう思ってあたりをぐるぐると回る。すると色褪せていたはずの家族写真とともに、一通の手紙が置いてあった。
「これはほんの例じゃ。そんなことは気にせずにお前はさっさとお前の道を生きるがよい。」
と書いてあった。
これは...ウロコ様だな。
ったく、あの人も素直じゃねえなぁ。
けど、これで決心がついた。
さあ、夕方になる前には上がっておこう。
一歩歩き出す勇気はたくさんの人にもらった。
そうだ。この海は初めから心を映した鏡だった。
だから俺の心も海のように凪では荒れての繰り返しで。
だからこの海は、この世界は素晴らしい。
それがわかったんだ。歩いていこう。答えを出そう。
午後5時半。夕焼けに彩られた街を背に俺は歩き出した。
海のような心と共に。
メインストーリー...~完~
長かったですね本当に。思えば初めはGW。
5ヶ月以上かけて書き上げた、個人的には超大作です。
飽きずに最後まで読んでくれた人、本当にありがとうございました。
もう少しだけ話が続くので(恋の行方とかね)、最後までお願いします。
それでは。
また会おうね(定期)