---遥side---
朝が始まる。
俺は仕事があるので早めのうちから起き、千夏の朝ご飯も作って置き、先にいただく。
そう、もうあれから10年が経った。
当然のことながら俺達は結婚し、今結婚してからは2年目だ。
とはいえ、俺は30前後の働き盛りないい大人。千夏はというと...。
「んー...おはよ...。」
大きく膨らんだお腹。もう7ヶ月くらいだろうか。
今まさに一児の母となろうとしていた。
そんな感じの千夏が目を覚ます。
「おはよ。...体調は?」
俺は食べ終わった食器片手に聞いてみる。
「んー?いいよいいよ、いつも通り。だからまあ、日中の家事くらいは出来るかなぁ...?」
「無理のない程度に頼むよ。もう一人だけの体じゃないからな。」
「はいはい分かってる分かってる。もう毎日聞いてるよ?」
とはいえ、自分が父親になることを考えると繊細になるものだ。
母親にも子供にも元気であってほしい、それが今の俺の願いなんだから。
「まあ、今日もよろしくな。あと、朝食 作って置いてあるから。」
「はいはい、いつもありがとね。」
朝早く起きるのは普通は苦でしかないことだけど、好きな人のためなら頑張れる、そういうものだ。だから今の俺のこのスタイルのついて俺は全く後悔なんてしてない。
「じゃあ、そろそろ行ってくるよ。」
「はーい、いってらっしゃい。」
朝食をさっさと済ませた後、俺は少し浮き足で職場へと向かった。
...
さて、あれから時が経って俺がなんの仕事をしているか、ということころで。
結果から言うと、俺は進んだ学部とはほとんど関係ない仕事に就いた。
というのも、俺が今住んでいる場所もとい俺の働いてる場所、それは...
━━━━━━━━━━━━━━汐鹿生だ。
まず、なんでこうなったかの経緯を振り返ろうか。
10年前に海の調子が元通りになって以降、陸で働いていたエナを持つ大人の子供が海に帰れる状態となり、それなら海で授業を受けたい、学校に行きたいという声が増えた。
ということで波中もそうだし、小学校も復活した。
またそれだけでなく、陸と海のつながりが深くなったことで、汐鹿生と直接無縁な、エナを持つ人も汐鹿生に来てもいい状態となった。
海が嫌いで出たわけではないので当然人も帰ってくる。
そんな感じだったので、俺は教師になることを選んだ。
親からの自立、というのを考えても、せっかく海に自分の家が残ってるんだからということでこちらに住むことにした。
一回、千夏の高校卒業のタイミングでどうしようか悩んだが、千夏が即答でこちらに住みたいというもんだから事なきを得た。
それからは一緒に働き、一緒に過ごしている。
流石に二人ともそろって家を出た後の保さんらはやはり寂しそうだった。
でも、俺達は何度もあちらの家にも返っている。
本当の親になった以上、もう何も遠慮することすらなくなった訳だし。
ざっくりとした説明は以上だ。
というわけで。
「おいお前ら、席付けよ。授業始めるぞ。」
「「「はーい」」」
今日も今日とて教師の生活が始まる。
初めはこの仕事にも戸惑ったもんだったけどな。
何せずっと同じことを言うわけだから退屈で仕方がない。
おまけに中学生は思春期真っ盛りだから扱いが大変だ。
俺自身がそうだったからよく分かる。
特にそんな中でも...
「へっへー!俺の勝ちぃ!」
やたらの元気のいい声が聞こえてくる。ったく、授業中だってのに。
「おい潮留、今授業中だってことわかってんのか?」
潮留晃...、美海の弟にして光の甥だ。
「はいはいすいませーん。」
親は両方しっかり者だってのに、光の影響を一番受けてしまった奴だ。
その姿はほんっっっとうに光そっくりだ。
...さぞ先生も光の相手大変だったんだろうな。
でも、最近様子がおかしいところがある。時々ある女子生徒をちらっと見てはすぐに俯き...の繰り返し。
心理学を専攻していたので分かるが、恐らく恋煩いだろう。
全く、そうやってウブなところも光そっくりだな。
まあ、相談に来たら乗ってやるくらいのことはするか。
光や美海やあかりさんらによろしく言われてるしな。
そうして俺の1日はすぎて行く。
先生としての仕事がストレスじゃないかと言われれば頭を悩ませるが、それでもだれかの力にはなりたいと思ってたし、俺みたいに何か悩むことがある人も多いかもしれない。
それを助けれることを思うと、この仕事で良かったと思っている。
...
午後5時。
「じゃあ、おつかれさまでした。」
「あれ、遥。今日は早いんだね。用事?」
俺より数年ののち入ってきた同期であり後輩の要...もとい伊佐木先生がデスクワーク片手に俺の足を止める。
「まあな。嫁さんのことを考えてもそうだし、今日は普通に用事。そんじゃ失礼します。」
「はい、おつかれさまでした。」
そうして俺はまた浮足で家へと戻る。
そう、今日は大事な日だ。
ガチャ。
「ただいま〜。」
「おかえり、今日は早かったね。」
リビングでゆっくりしてる千夏が目に入ってくる。穏やかそうだがどこか苦しそうなところが伺える。
もうそろそろなんだなと実感させられるほかない。
「そりゃ今日は結婚記念日だからな。」
千夏はあくどく笑みを浮かべる。
「あれ、朝何も言わなかったけど覚えてたんだ。」
「当たり前だろ...。ほら、行くんだろ?あっち。暗くならないうちに早く行くよ。」
「泊まり?」
「かもな。」
明日は休日だし別に仕事に支障はない。
「よし、それじゃ行こっか。」
「ああ。二人とも待ってるだろうしな。」
そうして俺は千夏の手を取り海を上がっていった。
...
この陸から見える海の景色も変わってないものだ。
まあ、変わってしまうよりかはこのままであって欲しいと思うが。
「ふう、ついたよ。」
「そうだな。じゃあさっさと中に入ってしまおうか。」
そして俺は実家の方の玄関のドアを開ける。俺達が来るための用意だろう、鍵はかかってなかった。
「おかえり二人とも。ま、さっさと上っちゃって。」
出迎えてくれたのは夏帆さんだった。
そして奥には新聞を無口で読んでいる保さんがいる。
ああ、ほんっと何も変わらない。
「お久しぶりですお義父さん。」
「おお、来たか。...じゃあ冷めないうちにいただこうかな。」
どうやら夏帆さんお手製の料理がちゃんと準備されているようだ。
こんなふうにうちの結婚記念日は行われる。
どこか高い店に行くわけでもない。
けど、目に見える金が全てじゃない。
俺にとっては今こうしている時間が一番価値があるものだと思う。
だから俺は、この幸せを守り続けるために生きる。
「それじゃあ改めて。」
「...うん。」
俺は家族に、好きな人に見守られながら好きな人に想いを伝える。
「これまでありがとう千夏。そしてこれからもずっとよろしく。」
誰がなんと言おうと、これが、俺の幸せの答えだ。
千夏√完。
残すは美海√だけですね。
頑張りましょう。
また会おうね(定期)