第109話β 共に進み出す一歩
---美海side---
誰かを好きになってしまったから、その人はいなくなってしまった。
ただひたすらそれの繰り返しの人生。いつからか私は人を好きになることをやめた。
当然、そうしたくはなかった。人生の中でいくつも好きな人ができるはずだ。でも、好きになってしまえばまたいなくなりそうで、...裏切られそうで。
でも、結局私はそんな強さなんか持ち合わせていなかった。
だからしまいには深く悩んで、自暴自棄になって、身を投げ出そうとして...。
でも、それは、遥に出会ったことで終わった。
目をそらすことをやめて、好きでいることが正しいって自分に言い聞かせて、そうやってすごしていた小学生の頃。
次第に、その気持ちが本物になっていくのを自分の中で感じた。
簡単に言うと、私は遥のことがこの世界で一番好きだってこと。
だから、いまこうして一人で待ってるんだ。
時刻まであと5分、まだ人の気配はない。
...来なかったらどうしよう?
私は自分に大きな自信があるわけじゃない。一緒にいた時間だって、千夏ちゃんには敵わないかもしれない。
でも、諦めたくない。
これまで、すごい道の人生を歩いてきたんだ。その前を歩いていた遥の背中はもうすぐそこに見えている。
あとちょっとで届くんだ。それでもって届いたら...
私は、遥の隣で一緒に歩けるのかな。
そんな気持ちが私を支配する。
残りは3分。不安は募る。
けれど、最後の最後まで諦めるつもりのない私には、時間なんてどうでもよかった。
2分。
1分。
物語はいつも不条理な展開を迎え、時には重苦しい展開になる。
けれど、信じて待っていれば、必ず答えは出る。
私も信じる、遥が来る未来を。
...ハッピーエンドってものを、信じてる。
だってほら、目の前に駆け寄る見慣れた人の姿が見えるから。
遥は、私を選んでくれたから。
これ以上の喜びは、今の私にはなかった。
---遥side---
「はぁ...、悪い、待たせたか?」
時刻はとうに過ぎている。間違いなく遅刻だ。
「遅い。いつまで待たせてるのほんと。」
美海は本当に怒ってるのか曖昧な表情で呟く。
そのあとで俯き、「ずっと待たせられたらどうしようかと思った...」と聞こえたが、気にしてはいけない気がしたので触れないでおいた。
「...道の途中で、荷物に困っていたお婆さんを助けてた、って言ったら怒る?」
「ほんとは怒りたいところなんだけどね...。けど、もう慣れちゃったからいいや。周りを放っておけないのが遥なんだから。」
「ははっ、悪いな、ほんと...。」
そう言って笑う。
笑って、涙をこぼす。
「あれ、なんでだ...?こんなつもり、ないのにな...?」
何度も何度も拭うが涙が止まらない。
朝、美海に告白してもらった分の涙だろうか?
それともこれまでの辛かった人生に報われた喜びの涙?
いずれにせよ、理由なんてどうでも良かった。
俺の体を理由もなく回っていた美海が好きだと言う気持ち、その理由は...。
「...もう、泣かないでよ。私だって、どうなっても泣かないって...決めて...たのに...」
つられたのか、溜め込んだものを全て吐き出したのか、美海も涙を流し始める。
あぁ、そうか...。
俺が美海を好きな理由、それこそがこの涙の理由だ。
俺が何度も折れて、倒れてしまっても、美海が隣にいてくれた。そうして、ここまで歩いてこれた。
美海がいなければ、俺の心なんて壊れたままだっただろう。
全て全て、大事なことを思い出させてくれたのは美海だった。
だから、好きなんだ。好きになって当然なんだ。
...一度は答えを出そうとした恋。けれど、今日この日まで答えが出なくてよかったと思う。
今こうして、一番大好きな美海に好きを伝えれるのだから。
「...ごめん、取り乱した。」
「ううん、それは私の方も一緒だから。...でも、ほんとに私で良かったの?千夏ちゃんみたいに料理もうまくなければ面倒見も...。」
少し弱気になる美海。でもそれはただの杞憂だ。
好きになった相手はどの部分も好きになれる、今の俺ならきっとそうだ。
...どんな道を進むことになろうと、隣に美海がいる。それだけで俺は生きていける。
だから...
「今更そんな事気にするわけないだろ。俺は美海を選んだんだ。そこにそんな理由はない。ただ、世界で一番大好きだって気持ちだけだ。...それだけじゃだめなのか?」
「ううん、それが聞けて良かった。」
美海は胸に手を当て目を閉じる。
きっと心の整理とかそういうのだろう。
「...私ね、ずっと遥のそばにいたいと思ってた。支えたかった。隣を歩きたかった。...私と同じで、人を好きになろうとする心を一度は諦めようとした遥だったからだよ?...そして、これからは胸を張って隣を歩ける。それだけで、うれしいんだよ。」
「そうだな。何たって、似たもの同士だからな。」
俺もここまで歩いてきた道で多くのものを失った。
愛することからも逃げようとした。けど、捕まえてくれたのは同じ痛みを持つ美海だった。
...だから好きになれた。愛することを諦めなかったから。
いつかの約束を思い出す。
生前最後にお願いされたみをりさんの言葉。
ええ、約束を叶えますよ、みをりさん。
あなたが教えてくれた優しさ、それはいまも二人の中に生き続けてるはずです。
だからどうか、最後まで行く末を見守ってください。
...
「遥?」
「ん、ああ。何だ?」
「...何考えたの?」
美海がジト目でこちらを見ている。何やらあらぬ疑いをかけられてる気がするけど...。
「みをりさんのことだよ。」
「ママのこと?」
「ああ。...あの人がいなければこうしていま好きになってることはなかったんだ。...だから、ありがとうって。」
「そうだね。」
俺も美海もそっと微笑む。あの人も笑顔でいてくれてるだろう。
...そうだ、やっぱり伝えなきゃだめだよな。
「なあ美海?」
「何?」
だから伝えよう。これまでの人生で一番素晴らしい愛の告白を。
「俺は美海が好きだ。大好きだ。だから...これからも、隣を歩いて欲しい。」
「うん、絶対離れないよ。私は遥の隣を歩く。遥と歩く。...そうやって一歩ずつ、幸せを掴んでいこう。約束だよ?」
「ああ。約束だ。」
そう言って軽く唇と唇を重ね、互いの感触、生きてる温度を感じる。
今度は俺の意思で、初めて美海に行うキスだ。
恥ずかしさはなかった。もうそんな関係じゃない。
そうして俺と美海は手を繋ぎ、遠くに光る海を眺める。
凪いだ心の先に映ったのは青く輝く美しい海。
歩いていく術を知った二人なら、きっとどんなことがあっても大丈夫だ。
さあ、行こうか。
二人でこの美しい人生を、美しい世界を歩いて行こう。
あと1話になっちゃいました。
長かったですね、泣きそうです。
もう頑張るしかない。
また会おうね(定期)