凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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はい、最終話です。


第110話β 二人歩く道の果て

---遥side---

 

白い天井にリノリウムの冷たい床。

辺りを見渡しても特に面白みの一つもない建物。

 

...そう、ここは病院だ。

 

しかしまあ、俺がいるのは診察室だが。

 

というのも...。

 

 

 

〜過去〜

 

就職場所には悩んだ。なんせ学びたいことは決まってたのに、それと仕事をどうやって結びつけるかなんてものは考えてなかった。

そして今考えても特にやりたいと思ったことがなかった。

 

それに、海か陸かというのもある。

 

兎に角、多くの要因が重なってしまった結果、俺は進路に悩んでいたのだった。

 

そんなある日、お世話になった方に言われた一言が就職場所を決める一手となった。

 

「お前、せっかく心理学学んだんなら、うちのカウンセラーやらないか?ちょうど人員もいないんだよ。」

大悟先生からの、ありがたい言葉だった。

 

実際、俺の人生もたくさんの人に支えられてここまできたのだから、今思えばそれに対する恩返しをこういう形で返すというのは間違いではないと思ってる。

 

 

 

〜現在〜

 

そんなわけで、俺は某病院のカウンセラーとなった。

これが結構自分と同じような悩みを抱えた人がいるもんだと感心させられる。

それは歩いてきた道で起こった苦悩が間違いじゃないと言われてるようで、俺としても嬉しかった。

 

そんな仕事も初めてもう6〜7年経つ。流石に慣れに慣れてしまった。

 

 

かと言って、仕事の手を抜くなんてことはしないけど...。

 

 

時計を見やる。時刻は12:00。午前はこれ以上診察が入っていないので休憩の時間だ。

 

というわけで俺は自分の持ち場を離れて棟内を歩く。

 

 

俺は数分歩いて大悟先生のいる場所へと向かう。

そう、俺は大体お昼はこの人と食べているのだ。

 

だから向かう。

そして道中...。

 

 

 

「あれ、お疲れ様です島波先生。もう診察は入ってないんですか?」

ナースの服がよく似合う、美しい大人の看護師とすれ違う。

 

けどそれは俺の知る人で、しかも既婚者だ。

 

「...あのさ、ふざけてんの?ちさき。別に職場だからってやんなくていいって言ったじゃん?そういうの。」

「ふふっ、遥は絶対こういうの嫌がると思ってたからね。やってて楽しいんだよ?毎日。それで、今日の弁当はどっち?」

「ああ、今日のは...」

 

そう言いかけたところでちさきの後ろに人影が見える。

その人はまだ看護師としても駆け出しみたいな感じで、少し背も小さくて、...そして俺の嫁だ。

 

「おまたせしましたちさきさん...って遥もいたんだ。昼今からでしょ?食べ終わったら感想教えてね?」

「はいよ。今日のは何点くらいかな?」

「ふふん、結構自信あるよ。覚悟しといてね。」

「りょーかい。ってなわけで今日のは美海のだ、ちさき。」

「なるほど。...じゃ、行こっか美海ちゃん。」

 

そして看護師組は去っていき、俺はまた当初の目的に戻る。

 

 

 

 

そういえば美海のあれからのお話。

俺たちは晴れてカップルになった。そして二人で過ごした期間がもうかれこれ10年くらいか。

 

結婚自体は美海が学生としての本業を終わらせたときに行った。

急いで籍を入れる必要もなかったが、やはり新婚の気分は早くに味わいたかったし、恋人か妻かってところで自分の考えようも違う。

 

守ろうとする気持ちは決して変わらないけど。

 

 

そして、美海が看護師をやってる理由は至って簡単。

自意識過剰ではないが、俺の後追いだ。

 

本人曰く、俺と同じ職場にいたかった、そうだ。

もちろん、俺自身そのこと自体が嫌なわけじゃない。

 

寧ろ嬉しいくらいだ。

夫婦揃って同じ道を歩んでる、そう考えると二人の絆が固くなっていくことを感じるからな。

 

 

それともう一つ。

子供が欲しいかと聞いたら、すぐにすぐには欲しくないかな、と帰ってきた。

せっかく看護師としての仕事も慣れてきたのに、すぐにすぐに職場を離れちゃうのは何か勿体ないかなって美海は言っている。

 

とはいえ、夫婦の営みをしてくれないわけではないので、不満なんかも毛頭ない。

 

 

そんなわけで1日1日が過ぎていく。

正直、幸せ以外の何でもない。

こうやって大好きな人と共に道を歩いていける、それこそが幸せと知ったから。

 

 

 

...

 

 

 

お昼の時間はお互い男子会と女子会だ。

 

俺がよく昼を一緒する大悟先生ももうとっくに既婚で子持ちだし、美海の先輩でもあるちさきも既婚である。

 

紡との年齢差はないので俺たちより籍を入れるのは全然早かったが、どうやらまだ子供を作るつもりはないらしい。

 

ちさきとその話はよくするが、今絶賛漁協に人気の漁師、木原紡さんに今度詳しく話を聞きたいものだ。

ちさきも不満はないのかなってつくづく思うけど、ここまで続いてるのならまあ、安心はできる。

 

 

「それであいつが可愛くてよ〜。...あ、でももう少しすれば小学校に入ることになるのか。大丈夫かな?」

「まあ、先生の息子なら苦労はしないんじゃないですか?...あー、でも母親が鈴夏さんなら...子供もやんちゃになるかもしれないっすね。そしたら...。」

「先に先生に謝るしかないかぁ...。まあ、せめて親バカと言われないくらいには頑張るさ。」

「もうとっくになってますけどね...。」

 

「ところで、お前のとこはどうよ?最近なんか進展はある?」

進展、とは夫婦間のことだろうか。

順風満帆だとは思う。仲が悪くなることは決してないし。

 

ただ、最近思うこととしては...。

 

「進展はないっすよ。別にそれが悪いってことじゃないんですけど。...ただ、欲を言わせてもらえるならば、俺は子供が欲しいと思ってますね。」

 

ここ最近よく聞かされる先生の話を聞いてると、子供のいる未来を先先想像してしまう。もちろん、美海の意思を尊重するつもりだから、向こうが嫌といえば折れるつもりだけど。

 

「だろ?誰だってあるんだよ、そういう些細だけど大きな願いが。今度ダメ元で言ってみろよ?」

「少し怖いですけど...まあ、やってみますよ。じゃあ、俺は午後一の診察がすぐなんで戻りますね。」

「おう、頑張れよ。」

 

そうして俺は診察室へ戻り、淡々と午後の業務を終わらせる。

ただ、さっきの話で思ってしまったことがどうも頭の中に残ってずっとグルグルしていた。

 

 

...やっぱ言ってみるか。

 

 

そうしてお互い家に帰った後で、俺はもうダイレクトに打ち明けることにした。

 

「...なあ美海。もし今ここで俺が、子供が欲しい、って言ったら怒るか?」

夕飯の準備の途中、俺は手を止めて話を切り出した。

 

美海は一瞬、「えっ?」と驚いた顔をし、すぐにいつもの様子に戻った。

柔らかな微笑みを浮かべながら。

 

「...いいよ。私もね、最近どうしようかってずっと思ってた。けど今日ちさきさんと話して決心がついたの。自分の心に嘘ついて過ごしちゃダメって言われたからね。あっ、もちろん仕事が嫌になったわけじゃないよ?」

「分かってる。けど、本当にいいのか?結構気にしてただろ?」

「うん、不安はあるよ?けど、遥が一緒なら平気。どこまでだっていけるし、どこまでも頑張れる。...だから、責任取ってよ?」

 

「ああ、分かってる。」

 

 

...

 

 

その晩はまたずいぶんと熱い夜になった。

幸い、明日は両方休みなので時間はたっぷりあったわけだ。

 

そして、お互い力尽きてベットに手をつなぎながら寝転ぶ。

 

「...好きだよ、美海。ずっとずっとこれからも。」

「はいはい、分かってるから。...私だって好きだよ?」

 

そうして互いに体を内側に向けて再び抱き合う。体力がもうないのでこれ以上はできないが、温度を確かめ合うことくらいは容易に出来る。

 

「...これからも、二人で進んでいこう?」

「ああ。...子供ができたら、三人になるな。」

「ちょっと、夢見すぎだよ?そんなすぐにできるかどうかなんて。」

「分かってる分かってる。それでも、ゆっくり進んでいこう。」

「...うん。」

ちょっと恥ずかしがって俯く美海の頭にそっと手を回す。そうして頭をポンと一回叩いて、また抱き合う。

 

 

 

 

ここに、確かな愛はある。

お互いに傷ついて、迷って、見つけた確かな答えだ。

それは決して簡単には揺るがない。固く結ばれた俺と美海の愛だ。

 

きっと二人ならどこまでも行ける。

ただ隣にいてくれさえすれば、それは何にも変わることのできない力になる。

だからこれからも幸せを掴み続けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ行こうか。きっと二人で歩く人生。その景色は綺麗なはずだ。

 

 

 

 

 




全話終了しました。
言葉がありません。ホントに長かったです。(泣)
特に、2部以降は完全にオリジナルだったのでつまりつまりで進んでいました。
それでも、最後まで案が浮かんだことは評価したいです。
次回は何を書きましょうかね。ロスが大きいので少し休憩するかもしれませんが。

では、ハーメルンのどこかでまた会いましょう。

また会おうね(定期)
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