すまぬ。
---遥side---
「私ね...遥のことが、ずっと大好きなの。」
それは告白だった。
回り道も、遠い言い回しもなく、ただただストレートな。
その一言には、ちさきの全てがこもっていた。
「...。」
俺は何も言うことが出来ず、少し下を向いた。
どうやって断ろうか、どうやって受けようか。
そんなことを考えていた訳では無いが。
「遥?」
ずっと黙ったままの俺を心配したのかちさきが様子を伺う。
なんとかそれに応えるようにと俺は声を出した。
「なあ、ちさき。...1つ謝ってもいいか?...受ける、振る以前の事で。」
「う、うん。」
「俺はさ...好きになるって、分からないんだ。光のように、素直になれずな分からない、とかじゃなく、もっと別なことなんだろうけど。
...分からない、ではなく、怖い、のかもしれないな。ああ、きっとそうだ。」
何を言ってるのだろうか?
ごちゃ混ぜになった感情の、伝えたい部分だけを言葉にするが、まるで文になってなかった。
「それで...、ごめん。今の俺には、ちさきの告白に答えることができない。だから...考えさせて欲しい。好きになることについて、もっと悩んで、分かりたい。」
それを聞いてちさきは小さく微笑んで呟いた。
「やっぱり遥は優しいんだね。」
その一言の意味は考えなかった。
何故ならその声は美しく、悲しいものだったから。
「お、ここに居たのか。」
ちょうどタイミングがいいのか悪いのか、用事抜けしていた紡が戻ってきた。
「ああ、ちょうど次のエレベーター待ってたところだ。っと、そろそろ着くな。」
さっきまでの話を紛れさすために俺はあえて口数多く喋った。
そしてこの時、紡が気にしてくれなかったのは助かった。
そしてエレベーターが着く。
上へと上がっていくエレベーターの中では、それ以降会話が生まれることは無かった。
きっとそれぞれが、何かを思っていたのだろう。
その後は、町中のいたる店をしらみ潰しに探し回った。
ついでに、【ある用】が俺にもあったのだが、一旦手分けして探すことになった際、しれっと抜け出して行った。
ほんの一瞬だけだったので怪しまれることも無く、そっちの方は達成した。
そう、そっちの方【は】。つまり...
結局、夕方になるまで町中回ってみたが、結局美海がこれと言って、かつ値段の合うものは見つからなかった。
〜帰りの電車〜
席の配置は行きと変わらずのまま俺達は電車に乗った。
が、雰囲気は色々とあって暗い。単に疲れでうとうとしてたり、何かを思い詰めたような顔で窓の外に顔を向けたり、...泣きそうなくらいおちこんでいたり。
「結局、見つからなかった...。」
美海は今にも泣きそうに下を向いていた。
こういう時は、ただ単に慰めの言葉をぶつけるのは間違いだ。
そんな価値の無い慰めは、きっとただの同情なのだから。
解決策、答え、導いてくれる何かが無ければ...。
そんな中、ふと窓の外に顔を向けていた紡が口を開いた。
「なあ、お金で買うもの、じゃ無ければダメなのか?」
「どういうこと...?」
「俺が小さい時、じいちゃんに綺麗な貝殻を集めたものを送ったことがあった。じいちゃん、その時の貝殻、今でも大切に持っててくれてるよ。」
なるほど、そういう事か。
贈り物に金銭の価値の有無はあまり関係ない。
気持ちを込めるのに金が絶対に必要か?恐らくNoだ。
なら、作ってみるのはどうだろうか?
手作りだからいい、商品だから悪い。そんなものは関係なく、ようは美海の気持ちが伝わればそれでいいのだ。
「なら美海、これから作りに行こうか?」
そして俺達は鷲大師駅で電車を降りるなり、すぐに海岸へと向かった。もう夕暮れ、そんなにしないうちに夜になってしまうだろう。
入る人は海に足を入れてまで探した。俺は海に入れない状態なのでできる範囲ででしかできなかったが。
そうして出来上がった1つのネックレスは、夜空の下であかりさんに手渡された。手渡されたあかりさんの表情には涙がある。きっと、想いは伝わった。そう考えて間違いはなさそうだ。
つられて美海も少し泣き笑い、その様子を見届けた俺と光の顔には達成感の篭もった笑顔があった。
ああ、暖かいな。
想えばこの時、久しぶりに好きになることのよさを思い出した気がした。そしてこの時だけ、今まで感じていた好意への恐怖を、忘れていた気がした。
そうだ、もうひとつ、やっておきたかった事があった。
そうして俺は居候中の水瀬宅へと踵を返した。
時刻は9時前。特に門限とかは決められてなかったが、流石に遅くなりすぎた気がする。
ふぅ...、よし。
特に意味は無いがひとつ深呼吸をおき玄関のドアを開けた。
玄関には特に誰もいなく、いつものようにリビングに保さん夫婦がいた。
...やはり水瀬はいなかったが。
昨日の1件で水瀬との間に溝ができてしまった。
そんな中、俺はただ何をいえばいいかわからず、気づけばここまで来ていた。
だから昨日、美海と話して決めた。
俺も水瀬に贈り物をする。想いを伝えるために。
俺は保さんらとの会話を簡潔に済まし、水瀬の部屋へ向かった。
電気はついている。流石にまだ起きてるみたいだ。
俺は覚悟を決めて、その扉に向かってノックを3回した。
「...なあ水瀬、ちょっと外、出てもらえるか?」
「......いいよ。」
その顔色は伺えなかったが、小さく返事が帰ってきた。
そしてそのドアが開く。水瀬の顔は、部屋着のパーカーのフードで少し隠れ、良く見えなかった。
「「...。」」
両者とも言葉に詰まり沈黙を作る。
そんな中、口を開いたのは水瀬のほうだった。
「...ごめん。あの時何も言えなくて、何も出来なくて。結局私は自分に何かを求められるのを待ってただけだったんだ。そっちの方が辛いと思うのに、自分の意見だけおしつけて...。」
その口からは後悔の念が溢れていた。
ただ、これだけは言える。
今回、水瀬に悪いところなんてない。
結局自分で馬鹿やって自分で傷ついただけなのだから。
ただ確かに、自分を大切にする、ということについては、どこか欠けていたかもしれない。
自意識過剰な話かもしれないが、自分が傷ついてそのせいで周りも傷つくのなら本末転倒、何も意味が無い。
そう、どれだけ目を逸らしても自分を好きでいてくれる人間はいる。
ちさきに告白されたこともその1つだろう。
だから誓う。
誰かのために自分を大切にすると。
「いや、あそこで言われたことはごもっともだ。だから水瀬、ひとつだけ約束させてくれ。...これと一緒に。」
そうして俺は袋から箱を取り出し、水瀬に手渡した。
「これって?」
「ああ。約束の形。これを渡した以上、俺は自分も大切にすることを誓う。何も失いたくないからな。」
「...開けてもいい?」
「どうぞ。」
そう言って水瀬は箱を開く。その中に入っていたのはネックレスだった。
「...いいの?」
「ああ、お前が持っててくれ。」
「ごめんね、ありがとう。」
さっきまで曇っていた表情はもう随分と晴れ、昨日覆いかぶさった雨雲は、綺麗に吹き飛んだ。
2人の溝も埋まり、きっとこれまでどおりの生活に戻るだろう。
そう。この日たしかに俺は、1歩前へ進んだ。
最近発送が追いつかない...。.
そろそろ別作も書くかも?
では、次回。
また会おうね(定期)