凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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迷走加速。


第46話 それぞれの覚悟

---遥side---

 

「...今度はこっちから会いに来ましたよ、ウロコ様。」

俺は冗談半分にそう言う。

 

「さて、お前はなにか気づいたようじゃの。お船引きについて。この場所について。」

「そんなの全然ですよ。最低わかってるのは、まだ幼かったあの日、ここを1度閉じたのがあなたっていうことくらいじゃないんですかね。」

 

これは半分嘘で、半分本当だ。

 

本当のことを全て口にしてしまっては、下手をすればウロコ様自体に眠らされるかもしれない。悔しいが、この人は海神様の能力を1部ではあるが引き継いでいる。それくらいのことは容易いだろう。

 

だから俺は、少なくとも真意を悟られないように努力することにした。もっとも、そんなものでどうにかなるか分からないが。

 

「まあ、なんじゃ。わしはお主がどうしようが止めはせん。じゃがな、たぶん、お主がやろうとしている事は簡単ではないし、きっと失敗する可能性の方が高いじゃろうと思う。それでもお主は...行くんじゃの?」

 

ウロコ様がここまで親切に語ってくれるのは珍しいと思った。

それはそうか。汐鹿生の状況が危うくて、それをどうにかしようとしてるのは、ウロコ様も同じなのだから。

ただ、俺とは真反対に考えが違う。それだけのことだ。

 

「少なくとも、俺は俺の最善を尽くします。」

「そうか。...最後に遥。お主に言わにゃならんことがある。これから生きる上で、1番本質の部分になるものじゃ。」

「聞きます。」

 

「ちゃんと自分が何を背負っておるのか、誰に思われてるのか、決して忘れてはならんぞ。もうお前は、1人ではないのじゃからな。」

「...分かってます。」

 

俺はそう返事を返す。そこに覚悟を込めて。

 

今一度振り返る。俺が守りたいものは。俺が背負ってるものは。

光達がいて、紡がいて、途中から仲良くなった鷲大師の連中がいて、

あかりさんと至さんと...みをりさんとがいて、

保さんと夏帆さんとそして、美海が、水瀬がいる。

 

一方的に思ってるのではないだろう。きっと、お互いに背負い背負われる関係なはずだ。

 

だから俺は...

それでも俺は、お船引きを成功させたい。そして海と陸とで1つになって未来を生きたい。

やっと人を好きになることを分かってきたんだ。

もう、奪われたくない。

 

「...そうか。じゃあ、儂はこれで失礼させてもらうぞ。」

そう言ってウロコ様は引き返して行った。

 

...終わりかな。今のところは。

そう思って俺も兼ねてからの考え通り、陸へ帰ることにした。

 

 

 

---美海side---

 

夜、私は1人布団の中に篭もって考えていた。

 

遥が言った。

「海村は冬眠に入る。」って。

その上で言った。

「俺は陸に残る。」って。

そしてもう1つ、

「両方とも捨てたくない。」って。

 

遥は強い。誰もがそう思えるくらいに。

 

私は...そんな遥のために何が出来るのだろう。

年齢も違う。学校も違う。家事とかだって遥の方が断然上だ。

 

 

私は...遥のことが好きだ。

勿論、お兄さんとかじゃなく、1人の男として。

私が1人でパンクして周りにあたって海に落ちたあの日、遥は思いの丈を伝えてくれた。

その時に、遥が私と同じような悩みを抱えてるんだって、知った。

安心したんだ。

 

 

でも、私が気持ちを伝えたら、遥はどう思うだろう。

遥はどう返してくれるだろう。

分からない。分からないし...とても怖い。

 

好きだった人はいなくなってしまった。

遥を好きだって言ってしまうと、陸に残るって言ってるのに、それでも遥もどこか行っちゃいそうで。

 

 

だから今はせめて、遥の邪魔にだけはならないようにと...

私はそう決めた。

 

 

 

---千夏side---

 

今日、島波君は1度海に帰った。

島波君は、今日中に戻るとは言い残したけど、流石に何があるかなんて予想できない。

そんな訳で、私はまたいつもの場所───あの堤防に座って海を眺めていた。

 

島波君は、やっぱり強い。

人間は、自分を守ることで精一杯なのに、彼は全部を欲しがって、全部を守ろうとしている。

 

私は、そんな島波君が、好き。

苦しかったこれまでの人生を乗り越えてやっと、光が見えた。

彼に会ってそう思えた。

 

でも、この思いは届く?

 

偶然から始まったけど、一緒にいる時間も増えた。でも、向こうが何と思ってるかなんてわからない。

 

それに、島波君の過去を、私は知っている。

島波君は、私と同じように、形は違えど、辛い人生を送っていた。

その中でいつか、好きになるってことに対しての感覚が無くなっていったと言った。

 

そんな彼に、私はこの想いを伝えるべきなんだろうか。

それで傷つけることになっても、私は言うべきだろうか。

 

 

...私は。

私は...それでも伝えたい。

辛いことの先に光があるって、教えてくれたのは島波君だから。

だからいつか、この想いを伝えよう。

 

 

遠くでバシャッと海が音を立てる。

そこで出てきた、見覚えのある少年はこちらの方へ泳いできた。

私の足元で止まり、少年はそこから上を見上げる。

 

「よっ、ただいま。」

私は微笑んで、呟いた。

 

 

 

 

 

 

「おかえり、島波君。」




想いを知り、過去をあまり知らない美海と
過去を知り、想いをあまり知らない水瀬

さて、今日はここいらで。

また会おうね(定期)
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