---遥side---
「...今度はこっちから会いに来ましたよ、ウロコ様。」
俺は冗談半分にそう言う。
「さて、お前はなにか気づいたようじゃの。お船引きについて。この場所について。」
「そんなの全然ですよ。最低わかってるのは、まだ幼かったあの日、ここを1度閉じたのがあなたっていうことくらいじゃないんですかね。」
これは半分嘘で、半分本当だ。
本当のことを全て口にしてしまっては、下手をすればウロコ様自体に眠らされるかもしれない。悔しいが、この人は海神様の能力を1部ではあるが引き継いでいる。それくらいのことは容易いだろう。
だから俺は、少なくとも真意を悟られないように努力することにした。もっとも、そんなものでどうにかなるか分からないが。
「まあ、なんじゃ。わしはお主がどうしようが止めはせん。じゃがな、たぶん、お主がやろうとしている事は簡単ではないし、きっと失敗する可能性の方が高いじゃろうと思う。それでもお主は...行くんじゃの?」
ウロコ様がここまで親切に語ってくれるのは珍しいと思った。
それはそうか。汐鹿生の状況が危うくて、それをどうにかしようとしてるのは、ウロコ様も同じなのだから。
ただ、俺とは真反対に考えが違う。それだけのことだ。
「少なくとも、俺は俺の最善を尽くします。」
「そうか。...最後に遥。お主に言わにゃならんことがある。これから生きる上で、1番本質の部分になるものじゃ。」
「聞きます。」
「ちゃんと自分が何を背負っておるのか、誰に思われてるのか、決して忘れてはならんぞ。もうお前は、1人ではないのじゃからな。」
「...分かってます。」
俺はそう返事を返す。そこに覚悟を込めて。
今一度振り返る。俺が守りたいものは。俺が背負ってるものは。
光達がいて、紡がいて、途中から仲良くなった鷲大師の連中がいて、
あかりさんと至さんと...みをりさんとがいて、
保さんと夏帆さんとそして、美海が、水瀬がいる。
一方的に思ってるのではないだろう。きっと、お互いに背負い背負われる関係なはずだ。
だから俺は...
それでも俺は、お船引きを成功させたい。そして海と陸とで1つになって未来を生きたい。
やっと人を好きになることを分かってきたんだ。
もう、奪われたくない。
「...そうか。じゃあ、儂はこれで失礼させてもらうぞ。」
そう言ってウロコ様は引き返して行った。
...終わりかな。今のところは。
そう思って俺も兼ねてからの考え通り、陸へ帰ることにした。
---美海side---
夜、私は1人布団の中に篭もって考えていた。
遥が言った。
「海村は冬眠に入る。」って。
その上で言った。
「俺は陸に残る。」って。
そしてもう1つ、
「両方とも捨てたくない。」って。
遥は強い。誰もがそう思えるくらいに。
私は...そんな遥のために何が出来るのだろう。
年齢も違う。学校も違う。家事とかだって遥の方が断然上だ。
私は...遥のことが好きだ。
勿論、お兄さんとかじゃなく、1人の男として。
私が1人でパンクして周りにあたって海に落ちたあの日、遥は思いの丈を伝えてくれた。
その時に、遥が私と同じような悩みを抱えてるんだって、知った。
安心したんだ。
でも、私が気持ちを伝えたら、遥はどう思うだろう。
遥はどう返してくれるだろう。
分からない。分からないし...とても怖い。
好きだった人はいなくなってしまった。
遥を好きだって言ってしまうと、陸に残るって言ってるのに、それでも遥もどこか行っちゃいそうで。
だから今はせめて、遥の邪魔にだけはならないようにと...
私はそう決めた。
---千夏side---
今日、島波君は1度海に帰った。
島波君は、今日中に戻るとは言い残したけど、流石に何があるかなんて予想できない。
そんな訳で、私はまたいつもの場所───あの堤防に座って海を眺めていた。
島波君は、やっぱり強い。
人間は、自分を守ることで精一杯なのに、彼は全部を欲しがって、全部を守ろうとしている。
私は、そんな島波君が、好き。
苦しかったこれまでの人生を乗り越えてやっと、光が見えた。
彼に会ってそう思えた。
でも、この思いは届く?
偶然から始まったけど、一緒にいる時間も増えた。でも、向こうが何と思ってるかなんてわからない。
それに、島波君の過去を、私は知っている。
島波君は、私と同じように、形は違えど、辛い人生を送っていた。
その中でいつか、好きになるってことに対しての感覚が無くなっていったと言った。
そんな彼に、私はこの想いを伝えるべきなんだろうか。
それで傷つけることになっても、私は言うべきだろうか。
...私は。
私は...それでも伝えたい。
辛いことの先に光があるって、教えてくれたのは島波君だから。
だからいつか、この想いを伝えよう。
遠くでバシャッと海が音を立てる。
そこで出てきた、見覚えのある少年はこちらの方へ泳いできた。
私の足元で止まり、少年はそこから上を見上げる。
「よっ、ただいま。」
私は微笑んで、呟いた。
「おかえり、島波君。」
想いを知り、過去をあまり知らない美海と
過去を知り、想いをあまり知らない水瀬
さて、今日はここいらで。
また会おうね(定期)