---遥side---
やると決まれば後は早かった。
陸の大人達も協力してくれて、作業は順調に進んでいっている。そろそろお船引き当日を迎える体制だ。
ただ、海側がどれだけ協力してくれるかは知らない。
それに、聞いたところ冬眠の日程とお船引きの日程が一緒のようだ。
最悪のケースになるが、もしそうなら光達はどうするのだろうか。
...いや、今は目の前にだけ集中しよう。
そんな中、ある雨降る日の話。
学校が、街が、お船引きムードに包まれている中、やたらとちさきと要の様子がおかしいのを感じた。その中で1番感じるのが、要から俺に注がれる視線だ。
何かを訴えているんだろうか?
今の俺はまだ、そうとしか考えてなかった。
放課後。
今日の作業は、雨でろくに外でできることがないため、学校内でおじょし様に添える小物を作る...というか仕上げをしていた。
そう、仕上げと言うだけあってほとんどやることがない。
それくらいに現在の進捗は良好であり、一日仕事が出来なくてもさほど支障がないくらいだ。
なら、自然とおしゃべりムードができるのは当然だろう。
そんなおしゃべりに湧く教室を遠目で見ていると、要が教室を出て手招きしてきた。
来いということだろうか。
まあ、考えても仕方の無いことなので、俺はそれについていった。
歩くこと数分、先程まで作業していた教室とはだいぶ離れた場所だ。
なるほど、こいつがここまで離したかったということは、知られたくない内面的な部分の話だろう。
と俺は覚悟を決めた。
「悪いね、こんなとこまで呼んじゃって。」
「気にすんな。それより、言いたいことあるんだろ?」
こう面と向かって話すことが少なく、距離感が掴めない。
せめて悪態はつかないようにと、抑えながら話す。
「...僕ね、ちさきのことが好きなんだ。それこそ、ずっと前からね。」
まあ、そうだろうな。
要の視線はみんなにあるようで、でも実はちさきをずっと追っていた。そこが見抜けない俺ではない。
「それで、この前、ちさきに告白した。まあ、返事は帰ってこなかったけどね。」
「へぇ。なるほど。」
途端、要の目から一瞬感情が消えうせ、気がついた時には怒りを移していた。
「なるほどって...遥、君は一体なんなのさ!?...僕は知ってるんだよ、君がちさきに好かれていることも、告白されてることも!!」
「...それは嫉妬か?」
思ったように言葉が出ない。何故だろう?
きっと、今の自分は自分を嫌いになるくらい、嫌味ったらしく、最低な人間だ。
要は先程のような勢いもなく力なく返す。
「ううん、嫉妬なんてやっても意味が無い。...確かに羨ましいよ。憎いくらいに。けど、分かってるんだ。届かないことぐらい。だからさ遥....お願いだから...せめてちさきに、答えくらいは返してあげてよ。」
気がつけば要は泣いていた。
ただ俺には、その涙に答えることが出来ないかもしれない。
何度も言うが、分からないのだ。
こうやって告白されてまた初めて気づいた。
今までとは違う感覚で同じ問いかけ。
好きになるってなんだ?
恋としての好き、大切な人としての好き、どちらも大切でどちらも美しい。そして、脆い。
そうやって今まで何度も失ってきた。
俺は迷っている。確実に迷っている。
進むべきか、やめるべきか。
力もついた。自立もしてる。
もし守ることが出来ないのなら、あとはどこが足りないのだろう?
...ないはずだ。
完璧とは言わない。けど俺には守るだけの力がある。
なら、1歩踏み出してもいいんじゃないか?
しかし、その相手が誰か、俺には全くわからない。
だから俺は、これから要の願いでさえ裏切るはずだ。
許して欲しいとは言わない。ただ今は、考えさせて欲しい。
現状、これがちさきへの答えだ。
「...ああ、じゃあこうしよう。お船引きを終わらせて、ちさきに答えを返そうと思う。...とりあえず今は、考える時間が欲しいんだ。好きになることについて...な。」
要は溜息をつき、何かを諦め、何かからふっ切れた声をして言う。
「...約束。守ってもらうよ。」
「ああ。ちゃんと答えは出す。」
それから先に要は教室へと帰った。
残されたのは俺一人。場は静寂で満たされ、ただ雨の音だけが耳に入ってくる。
...今日の雨は、いつもより何倍も強かった。
---千夏side---
放課後。
今日は雨が強く、作業なんてほとんど出来ない状況だ。
何人かは教室で小物の手入れをしてるが、ホント何人かだけ。
私は教室へは行かず、ぶらぶらと歩き回っていた。
と、屋上出口の手前の階段に、1人の人影を見つけた。
「あら?千夏ちゃん。」
「ちさきちゃん?なんでこんなとこに。」
「ほんとは外に出たかったけどね。」
私も階段を上がり、ちさきさんの隣に座った。
「それにしても、なんでこんな人のいなさそうなとこに?」
「うん...ちょっと1人になりたくてね。」
少し元気なくちさきさんは話す。
「...何か嫌なことでもあったの?」
「ううん?違う違う。...ちょっと悩んでるだけ。」
そのままちさきちゃんが続ける。
「私ね、この前告白したの。相手は...言わなくていっか。それで、答えをもらってない上で別の人に告白されたの。」
「なるほど...。それで迷っているって?」
「うん。私さ、恋するって分からないし、それに、告白した後で思ったの。変わってしまうのはやだなって。ずっとこの楽しい時間でいたいって。...だから、お船引きで冬眠を回避できるなら、私は信じたいなって。...そんな中で人を好きになっちゃっていいのかなって。」
そうだ。
冬眠が起これば、次会うことになるのがいつになるか分からない。
そして気づいた。多分ちさきちゃんが告白してるのは島波君だ。
私は聞こえないように溜息をつく。
私も...島波君が好き。
そして想いを伝えようとしてる。これは変わりのない私の気持ちだ。
でも私は、島波君に告白してもいいのだろうか?
そもそも、なんで気楽に告白なんてしようとしてるんだろう。
私には冬眠がなくて、島波君もしないって言ってる、その安心感から?
違う。絶対に違う。
そんな生半端な気持ちじゃない。
私が島波君を好きなのは、そんなに軽いものじゃない。
いなくならないなんて嘘だ。
島波君には純正のエナがある。限界だってあるんじゃないだろうか。
そんな中でまた会えるなんて言えない。
だから私は告白するんだ。大切を失いたくないから。
50話に合わせるように頑張り中
がんばろーる!
では次回。
また会おうね(定期)