凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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ずっと考えていたシーンです


第50話 希望と絶望

---千夏side---

 

ついに言ってしまった。

でも、意外と後悔はないし、何より胸のつっかえがひとつ外れた気がした。

 

でも結局、これはただの自己満足だ。

私は好きと言うだけ言って、その先の答えを怖がってるんだ。

 

それに、【自己満足】と言うだけあって、島波君のことを何1つ考慮してない気がする。

であれば、島波君がどう思ってるのか、もちろん知る由もない。

 

私は自分の気持ちを押し付けて且つその答えを貰おうとしなかった。

つまりそういう事だ。

 

 

 

島波君は頭を掻きながら、どこか残念そうに話し出した。

 

「えっと...俺はなんて言えばいいんだ?答えを返すべきなのか?今思ってることを言えばいいのか?...水瀬はどうしてほしいんだ?」

 

幸い、直ぐに答えは返って来なかった。

...でも、本当に幸いなんだろうか。

ただ、そんなこと私が考えれるはずもなく、その返答しか頭になかった。

 

「...何も、言わなくていいよ。」

私は小声でぼそっと呟く。

 

「何?」

小声だったぶん声が届いてるはずもなく、聞き直されてしまう。だから私は一切の雑念を払い捨てて言い直す。

 

「いいよ、何も言わなくて。単にこれは私の自己満足。気持ちを伝えたかっただけだから。」

そう言って私は笑う。

 

「じゃあ、帰ろっか。みんな待ってるし。」

そう言って私は教室を早足ででて、玄関を通り抜け、外へと駆け出す。その際後ろは振り向かなかった。

 

ああ、結局逃げてしまった。

怖くても受け入れなきゃいけないのに。

 

 

そんなことを思いながら1人、左にある小さな山に沿っている帰り道を歩く。

相変わらず雨は強く、雨粒は木々の葉をひたすら鳴らし続けていた。

 

はぁ...何してるんだろ私。

これでよかったのかな。こんなのでよかったのかな。

私以外にも島波君の事が好きな人もいる。

そんな中で正直、ずっと島波君の1番でありたいとも思っている。

 

これが、唯一のチャンスだったのかもしれない。

なのに、こんな棒に振るような自己満足でよかったんだろうか。

 

私は下を向きながら考える。

 

その時、左の山肌から、ガラガラッ、と音が聞こえたかと思えば、ドーッと何かが流れてくる音も聞こえた。嫌な予感が瞬間脳裏をよぎる。

 

「えっ...?」

私の思考回路はショートした。

その時分かっていたことといえば、左から土砂だの岩石だのが流れてきてる事だった。

 

私は咄嗟に目をつぶる。

そして最後に、後ろから「ドンッ」という音が聞こえてきた。

 

 

 

 

---遥side---

 

帰り際、俺は水瀬に呼ばれて少しだけ学校に残った。

そしてついていった部屋の中で水瀬に唐突に告げられた。

 

「島波遥君、私はあなたのことが好きです。」

 

 

告白だった。

ただひとつ感じたのはちさきの時とどこか、心情的な点で何か微妙な違いを感じていた。

 

正直、予感してなかったといえば嘘だ。

水瀬と過ごした時間は短いものの濃く、その中で好意も動いていたはずだろう。

俺も少しは好意を寄せていたはずだ。

 

でも。

まだ俺は好きになることを怖がっているようだ。

 

そしてそれは相手に対して、水瀬に対してとても失礼なことだ。

この前のちさきの時にしてもそう。

 

勇気を振り絞って想いを伝えた相手に、なんて返せばいいのか分からない。相手の心を踏みにじっているようなものだ。失礼で当然だろう。

 

 

とても臆病な俺の心はいつの間にか口に出ていた。

 

 

「えっと...俺はなんて言えばいいんだ?答えを返すべきなのか?今思ってることを言えばいいのか?...水瀬はどうしてほしいんだ?」

 

最悪の返答だ。

答えを出せない上で且つ相手にどうして欲しいか聞くなんて、流石に最低この上ないだろう。

 

 

「...何も、言わなくていいよ。」

「何?」

小さく呟かれたその声は俺の耳にちゃんと入ってこなかった。

 

「いいよ、何も言わなくて。単にこれは私の自己満足。気持ちを伝えたかっただけだから。」

 

そう言って水瀬は笑う。

そしてそのまま水瀬は踵を返し、足早にその場から去っていった。

 

 

あぁくそ。

なんて最低なんだ俺は。

全てが終わったあとでもう一度考える。

 

ちさき言われた時はここまで深くに刺さる何かを感じなかった。

予想していたからだろうか。

 

そこの理由は正直どうでもいい。

それより、今は今の話だ。

 

俺は間違いなく、好きというものに向き合うことから逃げている。

前に進む、そう誓ったはずなのに。

こんなのでいいのだろうか。

 

いいはずがない。

 

それに、さっきから感じている胸の苦しみ。

これは、水瀬が好きということだろうか。

 

...もし、それがあってるなら、逃げたくないと思ってるなら。

俺はこの気持ちを今すぐ、水瀬に伝えなくてはいけない。

 

 

 

気がつけば走っていた。

水瀬が出ていって2〜3分、俺はようやく足をその場から動かしていた。

後はもう、何も考えなかった。

 

走る。走る。走る。

かなりの雨の中、傘を差すことすら忘れて、水瀬の元へ走る。

 

 

遠くに人影を見た。水瀬だ。

 

...見つけた!

 

しかし。

瞬間、俺は音を聞いた。この強い雨によって山肌が崩れ、土砂だの岩石だのが流れてきてる音を。

瞬間、俺は目撃した。それが、ちょうど水瀬が歩いている場所の近くだということを。

 

そして何より、それに対しての水瀬の反応が遅く、もう逃げれないかもしれないタイミングだということを。

 

 

まずいどうにかしなければもう失いたくない目の前で失いたくない助けないとこのままでは死んでしまう早くしないと動かないと急がないと取り返しのつかないことになる。

 

俺は走った。その場に荷物を、全てを置き去りにして。

 

そして俺は声もなく、その場で塞ぎ込んでいた水瀬を突き飛ばした。

 

俺はそのまま土砂に飲まれ、岩石に身体を砕かれる。

当たったのは足だろうか。膝から下に完全に力が入らないのを感じた。

 

だが、今の俺にはもう、そんなことはどうでもよかった。

最後に大切なものを守り切った。それだけで俺は報われた気がした。

 

ああ....間に合ったか...よかった...。

 

遠くから聞こえてくる絶叫も、もう耳に痛くなかった。

次第に薄れていく意識。俺は最後に掠れた声で心から呟いた。

 

 

「ごめん...水瀬。俺は...お前の事がす...き...」

 

 

 

 

 

 

 

無情にも、俺の意識はそこで途絶えた。




前半終了まであと数話。
一直線にがんばろーる!
では、次回。

また会おうね(定期)
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