---千夏side---
私は病院にいた。
...いや、言い方が悪かったかな。
放心状態の私の心が帰ってきたのは、ちょうど病院だった。
外は昨日からの雨が降り続いている。昨日よりも強くなってるだろうか。
私が今病院にいるのは、私自身のことじゃない。
目の前で眠っている、一人の男性のことだ。
その男性...島波遥君はピクリとも動かないまま、そこに眠っていた。
心肺停止。
医者の方々の尽力により、なんとか暫定的に死亡とまではいかなかった。
しかし、心臓も肺も止まっており、容態がどちらに転ぶかは分からないようだ。
もっとも、起きてしまっても当分苦しい思いをするだろう、先生は仰ったが。
私はそんな島波君の姿を見て、声もなく泣き崩れた。それこそ、立ち上がることさえできないくらいに。
私の周りには汐鹿生の生徒達もいる。私自身泣き崩れ、下を見ていてその様子は伺えないが、少しすすり泣く声と、歯ぎしりの音が聞こえる。
私を心配してかちさきちゃんが背中をさすってくれる。
そんな中で私はしゃくりあげながら一つ一つ言葉を紡ぐ。
「私の...せいだ...!」
言葉にしてまた辛くなる。苦しくなる。
今回のことの原因は全て私だ。誰に責められても仕方ないだろう。
「おい水瀬。」
ふいに、先島君に名前を呼ばれる。
その言葉には明らかな怒気が含まれている。殴られでもするんだろうか。
「遥のやつは命張ってまでお前を助けたんだ。...そのお前が塞ぎ込んでどうするんだよ。」
どこか悔しそうに吐き捨てる先島君。
でも、言われてることはそうかもしれない。
私はあの時突き飛ばされ、助けられた。でも私は助けられた意味と、何をやるべきかなんて考えず、ただ泣いていただけだった。
...そうだ。
ここで足を引っ張っちゃったら、みんなに迷惑をかけるし、何より私を助けてくれた島波君に合わせる顔がない。
泣いてばかりじゃ、いられないんだ。
そう言って私は立ち上がり、涙を拭く。
この事を忘れてはいけない。ずっと罪を、罪悪感を背負って生きていかなきゃいけない。
けど今は、今だけは。
島波君が成し遂げたくて、成し遂げられなくなったお船引きを私がやり遂げなきゃいけない。
そのためには前を向かなきゃいけないんだ。
「みんな...ごめん。私...やるよ。島波君の分まで。恨むなら、そのあといくら恨んでもらってもいいから。せめて今だけは、みんなで成し遂げさせてほしい。」
それを聞いた先島君はさっきまでとは打って変わって少し笑顔を作った。
「そうだな。ダウンしちまってる遥の分まで、俺達がやり遂げなきゃいけねえんだ。だったらくよくよなんてしてらんねえ。おら、まなかもいつまでも泣いてんじゃねえよ。」
「う、うん...。」
そうして部屋の空気が少しずつ明るくなる。気がつけば雨も少しずつ止み始め、雲の間には少しずつ光が見えてきていた。
そしてその後は1人ずつで部屋に残り、返事の帰ってくるはずのない島波君にメッセージを囁いた。
私の番。
今、部屋には私と寝たきりの島波君の二人きりだ。
つまり、言いたいことはいくらでも言えるシチュエーション。
言いたいことは、山ほどある。
文句、思いの丈、そして、懺悔。
でも、考えてみると意外と一言でまとまるものだ。
だから私は、簡潔に一言で済ますことにした。
「島波君、私のせいで、本当にごめんなさい。...この言葉が届くかも分からないし、許して貰えるとも分からない。だから今は、これからの行動で、せめてあなたへの罪滅ぼしをさせてください。...お船引き、絶対に成功させます。私も、みんなでいたいから。」
ではこれで、と付け加え、私は部屋から出る。
お船引きまであと5日とない。
私のやるべき事はひとつ。お船引きの成功だ。
「おっ、来たか。」
部屋から出てきた私に気づき先島君が声をかける。
その他みんな、どこか吹っ切れた顔をしている。
そう、今はここにいるみんなと、進むだけだ。
---美海side---
遥はまだ、目を覚まさない。
お船引きまであと三日。私は千夏ちゃんと話せずにいた。
最初、遥が心肺停止になったことを聞いた時は、1人部屋にこもり泣き続けた。
そして次に、そういうことに陥った原因、千夏ちゃんを恨んだ。
でも結局私が恨んだのは、気持ちから逃げ続けて遥のそばにいなかった私自身だった。
あれから私は迷っている。悩んでいる。考えている。
私は...失ったんだろうか?また、大切なもの、好きだったものを。
それともまだ諦めてはいけないんだろうか。
そんな中で、私は千夏ちゃんと二人きりになった。
勿論、空気は気まずい。
でも、今は話さなくちゃいけない。こんな気持ちでお船引きなんて出来るわけないから。
それに、お船引きの生贄はあかちゃんがやると言っていた(あくまでお船引きと結婚式を同時にやるという事だけど)。だから、こころのモヤは今最大限に達している。
だから最低、気持ちの整理くらいつけとかなきゃ。
「美海ちゃん、私の事恨んでるよね。」
千夏ちゃんは唐突にそう言う。
確かに恨んでないと言ったら嘘だ。どうして遥をって思っている。
けど、今すべきはそういう話じゃない。
「恨んでない...って言ったら嘘だと思う。でも今日は、そういう話をしに来たわけじゃ、ないんだよね。だからこれ以上恨みっこは無しにしようよ。少なくとも、今は。」
「そう、だね。うん。そうしてくれるとありがたいな。...お船引き、絶対に成功させなきゃいけないね。」
分かっているんだろう。わかっているんだろうけど、そう言った千夏ちゃんはどこか寂しそうだった。
そういうの、やめてほしい。
そんな反骨心のおかげか、私の決心は少しずつ強まる。
「当たり前でしょ。遥の事もそう、あかちゃんのこともそう。まだ何も始まってないし、終わってもない。あかちゃん、生贄になるって言ってたけど私、やっぱり不安。だからその不安が消えるくらい、私もがんばる。...遥の事も、諦めないから。」
そうして私達はお互いの気持ちをぶつけあった。
今はこれでいいんだ。気持ちを前に進めるなら、全力でぶつかっていくのが1番。
それで今は分かり合えなくても、いつかはきっと分かり合えるから。
みんないなくならない。いなくさせない。
私も頑張るんだ。
そして両手で頬を叩く。
もうすぐ、お船引きだ。
というか展開読まれてる...?
ベタなら...ごめんよ。
今回も駄文。次回も多分...。
がんばろーる。
また会おうね(定期)