とはいえ、そんなに長くはない。
第53話 残酷な真実
---遥side---
暗く寂しい世界の中。
誰かが俺の名を何度も呼んだ気がした。
そっちに向かって歩こうとするが、力が入らない。
もどかしくて手を伸ばしてみたが、全く届かない。
それでも、と、諦めようとしなかった俺は
今、目を覚ました。
「おっ、目を覚ましたか。...どうだ、身体に何か問題がないか?」
そこには一人の白衣の男性がいた。
...まあ、俺の担当医だけど。
「おはようございます...?先生。臓器系、とかですか?は特に苦しくはないです。けど...。」
俺は、自分の体にあるものが無いと感じていた。そこは今隠れていて見えないが。
「ああ、君の言いたいことは分かってる。やけに身体が軽いと感じてるだろ?その...残念なことだが...。」
先生は少し悔しそうに俯き、結論を述べる。
「君の左足、膝から下は切断せざるを得なかった。」
聞いた俺は、驚きも、泣きも、悲しみもせずただ考えてた。
なるほど、やっぱりそうか。
その後も先生は続ける。
曰く、あの日の土砂により左足が大きな岩石に押しつぶされ、回復不可能なレベルに潰れていたらしい。
俺も感覚がなくなったことまでは感じていたが、結局こうなった。
しかし今は、それすらそんなに興味がなかった。
俺は意識を失い、眠っていた。
眠るといえども家のような睡眠とは違う。
あの日から、何日たった?
「ところで先生、今日は何日ですか?俺が搬送されて、どれくらい経ちました?」
すると先生はさっきより気まずい顔をしていた。
まさか...。
「5日だ。君が眠っていた時間は。」
不安が募る。
当たり前だ。もうとっくにお船引きは終わってしまっている。
その結果が分からない限りは、不安しかない。
この目で、確かめないと。
そして俺はベッドの柵に力を入れて上半身を起こす。布団が動き、改めて左足がないのを確認した。
「おいおい、まだ起き上がれるような身体じゃ...」
「先生、杖、貸して貰えますか?」
もう意思が曲がるはずもなかった。本来ならリハビリなどをしなければ立てる、歩けるはずもないのだが、今の俺はその意思だけで動ける気がしてた。
「...お船引きについてだな?」
「はい。」
そう聞くと先生はこめかみに手を当て数十秒考えた。
そして閃いたのか再び話しかける。
「バカヤロー、片足欠損してるやつに杖貸して、のこのこ歩かせる馬鹿な医者がいるかよ。...そいつに乗りな。連れてってやるよ。自分の目で確かめたいんだろ。お船引きがどうなったか。」
そう言って先生は俺のベッドの隣の車椅子を指し示す。
俺は言われるがままにそれに座った。
「ちょっと待ってろ、話つけてくるから。」
そう言うと先生は一旦病室の外に出る。
数分後戻ってくると、グッドマークを指で作った。
「許可がでた。じゃ、行くぞ。」
先生は俺の乗った車椅子を押しながら、駐車場へと向かう。
その後、そのまま俺は車椅子ごと車に乗せられた。
車内。
まだ海は見えないが、どこか冷たい風を感じる。
まだ夏だというのに、温かさの微塵も感じないのは何故だろうか。
そう思うとまた不安になるので、今は考えないことにした。
「ところで先生、よく許可が降りましたね。」
「ん、ああ。うちの病院そういう所にはキツくないんだ。そうだな...例えば、もう長く続かない命と分かってる、ずっと入院してる人に、最後に家に戻って貰えるようにー、なんて事もやってるな。今回もそんなもんだろ。」
先生は少し窓の外を眺めながら言う。
「それはそうと、お前足どうするんだ?そのままってのもありゃ、義足にするのもある。...まあ、エナに対応する義足ってのは、ちと厳しいかもしれんが...っと、そろそろだな。」
トンネルを抜ければ見慣れた街、鷲大師だ。
俺は覚悟を決めてトンネルに入る。
数十秒後。
トンネルの外に見えた景色は。
「なんだよ...これ...。」
俺はさすがに何も言えなかった。
連なった鳥居は倒れ
海上にはいくらかの残骸が浮かび
どこか海は、何も近づけさせない様子をしていた。
成功、なんて言えるはずはない。
何があったかは予想できない。でも一つだけ言えること。
お船引きは、確実に失敗した。
「...そうか、そうきたか。」
だめだ。おかしくなってしまいそうだ。
感情の整理が出来てない俺は不気味な笑みを浮かべる。が、本当は笑える要素なんてどこにもない。
「おい、大丈夫か?気をしっかりもてよ。」
先生はその異変に素早く気づき声をかける。俺は我に返り、とりあえずの冷静さを取り戻した。
「...どうなったか、知らないと。知る人に、聞かないと。」
お船引きが失敗なのは分かってる。あとは、冬眠の方だ。
誰もいなくなってるのは...流石にゴメンだ。
「先生、とりあえず車を進めてもらっていいですか?」
一旦止まっていた車を進めてもらう。とりあえず今は、早く誰かに会いたい。
会って不安を無くさなければ。
数分後、海沿いのバス停から、遠く海を見つめている人を見つけた。
長めの髪に、波中の制服。
間違いない、ちさきだ。
「先生、止めてください。」
「ん?ああ。分かった。」
車が止まる。
話に行きたいのだが、聞かれた状態で話したくはなかった。
「先生、この車椅子、自分で押せますか?」
「なんで...ああ、そういうことか。できるぞ。」
先生はその一言で察したのか、了承してくれた。
とりあえず下ろしてもらうだけ下ろしてもらい、俺はちさきのいる方へ向かった。
「ちさき!!」
俺は声を上げる。
こちらに気づいて振り返るちさき。その瞳は潤んでおり、目は真っ赤に腫れていた。
「遥...起きたの...?」
ちさきはそう言ってへたっと力なく座り込む。
「なあちさき、あれからどうなった?お船引きで、何があったんだ?」
するとちさきは涙を流しながら、残酷な真実を告げた。
「ごめん...ごめん...!みんな、いなくなっちゃった...!私だけ残っちゃったの...!」
先生の詳細乗せときますね。
【藤枝大悟】
・30歳 独身
今後も出ます。
では、今日はここらで。
また会おうね(定期)