凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

54 / 112
あと数話かな?


第54話 波打つ果てに

---遥side---

 

これが、真実。

これが、現実。

俺は唇をかみ締めた。

何も出来ないまま、ただ見てることすら出来ないまま全て終わってしまった。

 

目の前でちさきが泣いている。

けど俺はそれを、責める気はしなかった。

「...そうか。」

 

ちさきは目元を拭って無理に立とうとする。

「ごめん...1番辛いのは遥って分かってるのに...泣くの...やめないと...。」

「いや、いいんだ。堪えて欲しくない。今は泣きたいだけ泣けよ。」

 

それを聞いて安心したのか、ちさきはさらに声を上げて泣いた。

 

俺は...どうしてるのだろう。

少なくとも、涙は流れていなかった。

 

 

数分後。

両者ともに落ち着いた状態になったので、改めて話を聞く。

とはいえ、聞けば聞くほど苦しくなるだけなので、本当は聞きたくはないが。

 

「...えっと。どこから話そうか...。」

落ち着いたとは言えども、元気の無いちさき。

聞いてるだけでこっちも辛い。

多分、想定できる最悪のケースだろう。

 

「俺が代わりに話そうか?」

突然、ちさきの後ろから声がした。

「紡か。」

 

「ああ、久しぶり...だな、遥。」

ちさきの後ろには、手に缶コーヒーを持っている紡がいた。

 

「紡君、なんでここに...。」

「おじいちゃんに、探してこいって言われたんだよ。それに、ちさきにとって、今が1番辛いだろ。自分だけ残ったことを悔やみながら話すって、俺でもしんどい。」

「そう...、じゃあ、代わって貰えるかな...。」

「分かった。」

 

そう言って紡が前に出てくる。

「遥、今からあの日何が起こったか伝える。...救いのない話だが、大丈夫か?」

「ああ、覚悟はしてる...。」

 

それから告げられる真実。

 

海上に無数の竜巻が発生し、海を囲んだこと。

最悪なことにその竜巻があかりさんの乗ってる船にあたり、あかりさんは海に放り出されたこと。

そして、あかりさんが救出されたかわりに、光、まなかが海に飲み込まれたこと。

紡自身も海に転落し、その時ちさきと要に救出されたが、落ちてきた柱を交わすため船を急旋回した際、要が振り落とされたこと。

 

そして一番は。

 

 

水瀬が行方不明になってるということだった。

 

 

「...そっか。流石にここまでとはな...。」

俺は頭に手を当て首を垂らす。

「...大丈夫か?」

「分からねえ...。とりあえず、今日のところはこれで失礼させてもらっていいか。...情報、ありがとな。」

 

紡は何かを察し、それ以上無駄な言葉を発さなかった。

「ああ、無理はするなよ。」

「分かってるよ...じゃあな。」

 

そう言って俺は車へ戻る。

後ろにいた紡とちさきの様子は、それ以降は知らない。

 

「いいのか?」

車で待機していた先生が心配する。

けど、いまはこれでいい。これがいい。

「いいんです。それより、あと1箇所だけ、よって欲しいところがあるんです。」

「...分かった。」

 

再び車は走る。

あたりは暗くなりだし、あと1時間もすれば夜になる。

そんな中で、俺が指し示した場所は。

 

「こんな所になんのようなんだ。」

場所に着いた先生はため息をつく。けど、ここは俺にとって重要で、かけがえのない場所だ。

 

 

海の見える堤防。あの日水瀬に会って、全てが始まった場所。

 

 

それ以上に大切な場所は、数が知れてる。

「ここでいいんです。...あと...1人にしてください。」

俺は車から出ると、海のすぐ側まで近づいた。

 

「...クソっ。」

涙がこぼれる。とてもとても大粒の。

 

そして、俺の中の何かがこと切れた。

「畜生...何でだよ...!何で俺はまた...!!」

 

好きになったから、無くした。

あのころと同じだ。また、無くした。守れなかった。

あの日から5年経って忘れかけていた痛み。

今の俺には、それだけで十分だった。

 

海を眺める。

穏やかだ。ああ、気持ち悪いくらい穏やかだ。

 

でも、分かってる。

もう、帰れない。

水瀬もきっとこの海の中に居るのに。

帰ってこないんだ。

 

そこから先は覚えてない。

 

泣いた。ただひたすらに泣いた。何が悲しくて、何に対して泣いたかもう分からない。

寧ろ自己満足かもしれない。

しかし今の俺には。それ以外頭になかった。

 

 

 

数十分たった。

遠くから近づいてくる足音が聞こえる。

1度車の方を振り返ったが先生は動いていない。

別の方向を振り向く。

 

そこには水色のパーカーが良く似合う少女がいた。

 

「久しぶり...遥。」

 

その少女、美海は、俺の近くまで寄ってきた。

しかし、今の俺には明るく振る舞えるほどの元気はなかった。

空虚。もはや何も無く、ただそこにいるだけのようなものかもしれない。

「...珍しいな、こんなとこまで来るなんて...。」

「何となくね、誰かがいる気がしたから。」

 

美海は少し悲しそうな目をする。

それを見るだけで、自分が失ったものがまたこみ上げてきた。

「なぁ美海...、結局、好きになるってなんだろうな...。また大切な人が遠ざかって...やってきたこと全部無駄になって...。...もういっそ、一人で生きたほうが「それはだめ!!」」

 

気がつけば、美海が叫んでいた。

「そんなこと、絶対にしちゃいけない!させない!失ったって無駄になんてならない!残るものだってある!!それに...。」

 

1粒の涙が美海の頬を伝う。

 

「大切なもの全て失ったって...ここに残ってる私は大切なんかじゃなかったってこと...?みんなが自分を犠牲にしてまで助けたあかちゃんも、大切なんかじゃないって言いたいの...?」

 

はっとした。

確かにその通りだった。いつの間にか俺は、全部を失った気になって、残ってる大切なもの、人がいることから目をそらそうとしてた。

ここにいる美海だけじゃない。あかりさんもいるし、至さん、水瀬の両親もいる。他にも大切な人が...いる。

 

「...ごめん、美海。俺は...残ってる大切な人さえ忘れそうに...。」

 

「うん。分かってる。辛かったんだよね。遥は優しいから。でも、忘れないで欲しいな。例えどんな結末になろうと、遥が大切に思ってる人はみんな、遥の事大切に思ってるから。」

 

美海は車椅子の後ろに回って俺の頭に手を置く。

優しさに包まれて俺は、いつの間にか涙が止まっていた。

 

「...参ったな。俺もまだまだ子供なんだな。...って、まるでお姉ちゃんみたいだな、美海。」

 

ポンポンと頭を叩かれていることについて言及する。

「だって、お姉ちゃんだもん。」

「ん、どういう事だ?」

 

「あかちゃんにね、子供が出来たの。だからお姉ちゃんになるの。」

 

至さんが...至ってた...?

「なるほどな。...でも、あかりさん大丈夫なのか?」

 

あかりさんは、俺よりも精神的にもやられててもおかしくない場所にいた。光も...海にいる訳だし、自分の故郷もあの状態だ。

 

「うん。最初はちょっと...。でも、今は大丈夫そう。...ね、遥。こうやってまた新しい大切が産まれるの。大切なものは、無駄になんてならないよ。」

 

「ああ、そうかもな。」

確証はできない。完全に割りきれたかといえば微妙だ。

でも、俺は美海のおかげで、少しは前を向けそうだ。

 

「...そう、みんな終わったわけじゃない。冬眠してたっていつかは会える。だから今はここで待とう。」

「そうだな。...終わったわけじゃ、ないんだ。」

 

力強く答える。

 

そんな中で、ようやくもうひとつの話題の方へ振られた。

「それより遥、その...足...。」

「ああ、運が悪くてな。...ごめんな?」

 

そう、俺には左足がない。さっきのちさきらはそこまで言わなかったが、まあ気になるのはしょうがないだろう。

「...大丈夫?」

「どうにかするよ。...心配すんなって。大丈夫だ。」

 

 

会話のさなか、車の方から手招きが見えた。

そろそろ時間か...。

 

「悪い、美海。そろそろ時間だから一旦帰るな。」

「あ、うん。頑張ってね。」

 

そして俺は再三車に乗る。

もう向かう場所はないとの事で、大人しく病院へ戻ることにした。

 

「お前...あんだけイチャコラしやがって...羨ましいぞコノヤロウ。」

運転席の方から何やら愚痴が聞こえるが気にしない気にしない。

 

そういえば先生は独身だったっけな...。

 

なんてことを思いながら窓の外を見る。

 

変わってしまった海。

凪いでしまった海。

 

少し打ち寄せている波を移した目は揺れている。

けれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の心は、もう揺れてなどいなかった。

 

 

 

 




3000over珍しいな。
さて、どこまで行けるか。
ここからが勝負。

また会おうね(定期)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。