---遥side---
これが、真実。
これが、現実。
俺は唇をかみ締めた。
何も出来ないまま、ただ見てることすら出来ないまま全て終わってしまった。
目の前でちさきが泣いている。
けど俺はそれを、責める気はしなかった。
「...そうか。」
ちさきは目元を拭って無理に立とうとする。
「ごめん...1番辛いのは遥って分かってるのに...泣くの...やめないと...。」
「いや、いいんだ。堪えて欲しくない。今は泣きたいだけ泣けよ。」
それを聞いて安心したのか、ちさきはさらに声を上げて泣いた。
俺は...どうしてるのだろう。
少なくとも、涙は流れていなかった。
数分後。
両者ともに落ち着いた状態になったので、改めて話を聞く。
とはいえ、聞けば聞くほど苦しくなるだけなので、本当は聞きたくはないが。
「...えっと。どこから話そうか...。」
落ち着いたとは言えども、元気の無いちさき。
聞いてるだけでこっちも辛い。
多分、想定できる最悪のケースだろう。
「俺が代わりに話そうか?」
突然、ちさきの後ろから声がした。
「紡か。」
「ああ、久しぶり...だな、遥。」
ちさきの後ろには、手に缶コーヒーを持っている紡がいた。
「紡君、なんでここに...。」
「おじいちゃんに、探してこいって言われたんだよ。それに、ちさきにとって、今が1番辛いだろ。自分だけ残ったことを悔やみながら話すって、俺でもしんどい。」
「そう...、じゃあ、代わって貰えるかな...。」
「分かった。」
そう言って紡が前に出てくる。
「遥、今からあの日何が起こったか伝える。...救いのない話だが、大丈夫か?」
「ああ、覚悟はしてる...。」
それから告げられる真実。
海上に無数の竜巻が発生し、海を囲んだこと。
最悪なことにその竜巻があかりさんの乗ってる船にあたり、あかりさんは海に放り出されたこと。
そして、あかりさんが救出されたかわりに、光、まなかが海に飲み込まれたこと。
紡自身も海に転落し、その時ちさきと要に救出されたが、落ちてきた柱を交わすため船を急旋回した際、要が振り落とされたこと。
そして一番は。
水瀬が行方不明になってるということだった。
「...そっか。流石にここまでとはな...。」
俺は頭に手を当て首を垂らす。
「...大丈夫か?」
「分からねえ...。とりあえず、今日のところはこれで失礼させてもらっていいか。...情報、ありがとな。」
紡は何かを察し、それ以上無駄な言葉を発さなかった。
「ああ、無理はするなよ。」
「分かってるよ...じゃあな。」
そう言って俺は車へ戻る。
後ろにいた紡とちさきの様子は、それ以降は知らない。
「いいのか?」
車で待機していた先生が心配する。
けど、いまはこれでいい。これがいい。
「いいんです。それより、あと1箇所だけ、よって欲しいところがあるんです。」
「...分かった。」
再び車は走る。
あたりは暗くなりだし、あと1時間もすれば夜になる。
そんな中で、俺が指し示した場所は。
「こんな所になんのようなんだ。」
場所に着いた先生はため息をつく。けど、ここは俺にとって重要で、かけがえのない場所だ。
海の見える堤防。あの日水瀬に会って、全てが始まった場所。
それ以上に大切な場所は、数が知れてる。
「ここでいいんです。...あと...1人にしてください。」
俺は車から出ると、海のすぐ側まで近づいた。
「...クソっ。」
涙がこぼれる。とてもとても大粒の。
そして、俺の中の何かがこと切れた。
「畜生...何でだよ...!何で俺はまた...!!」
好きになったから、無くした。
あのころと同じだ。また、無くした。守れなかった。
あの日から5年経って忘れかけていた痛み。
今の俺には、それだけで十分だった。
海を眺める。
穏やかだ。ああ、気持ち悪いくらい穏やかだ。
でも、分かってる。
もう、帰れない。
水瀬もきっとこの海の中に居るのに。
帰ってこないんだ。
そこから先は覚えてない。
泣いた。ただひたすらに泣いた。何が悲しくて、何に対して泣いたかもう分からない。
寧ろ自己満足かもしれない。
しかし今の俺には。それ以外頭になかった。
数十分たった。
遠くから近づいてくる足音が聞こえる。
1度車の方を振り返ったが先生は動いていない。
別の方向を振り向く。
そこには水色のパーカーが良く似合う少女がいた。
「久しぶり...遥。」
その少女、美海は、俺の近くまで寄ってきた。
しかし、今の俺には明るく振る舞えるほどの元気はなかった。
空虚。もはや何も無く、ただそこにいるだけのようなものかもしれない。
「...珍しいな、こんなとこまで来るなんて...。」
「何となくね、誰かがいる気がしたから。」
美海は少し悲しそうな目をする。
それを見るだけで、自分が失ったものがまたこみ上げてきた。
「なぁ美海...、結局、好きになるってなんだろうな...。また大切な人が遠ざかって...やってきたこと全部無駄になって...。...もういっそ、一人で生きたほうが「それはだめ!!」」
気がつけば、美海が叫んでいた。
「そんなこと、絶対にしちゃいけない!させない!失ったって無駄になんてならない!残るものだってある!!それに...。」
1粒の涙が美海の頬を伝う。
「大切なもの全て失ったって...ここに残ってる私は大切なんかじゃなかったってこと...?みんなが自分を犠牲にしてまで助けたあかちゃんも、大切なんかじゃないって言いたいの...?」
はっとした。
確かにその通りだった。いつの間にか俺は、全部を失った気になって、残ってる大切なもの、人がいることから目をそらそうとしてた。
ここにいる美海だけじゃない。あかりさんもいるし、至さん、水瀬の両親もいる。他にも大切な人が...いる。
「...ごめん、美海。俺は...残ってる大切な人さえ忘れそうに...。」
「うん。分かってる。辛かったんだよね。遥は優しいから。でも、忘れないで欲しいな。例えどんな結末になろうと、遥が大切に思ってる人はみんな、遥の事大切に思ってるから。」
美海は車椅子の後ろに回って俺の頭に手を置く。
優しさに包まれて俺は、いつの間にか涙が止まっていた。
「...参ったな。俺もまだまだ子供なんだな。...って、まるでお姉ちゃんみたいだな、美海。」
ポンポンと頭を叩かれていることについて言及する。
「だって、お姉ちゃんだもん。」
「ん、どういう事だ?」
「あかちゃんにね、子供が出来たの。だからお姉ちゃんになるの。」
至さんが...至ってた...?
「なるほどな。...でも、あかりさん大丈夫なのか?」
あかりさんは、俺よりも精神的にもやられててもおかしくない場所にいた。光も...海にいる訳だし、自分の故郷もあの状態だ。
「うん。最初はちょっと...。でも、今は大丈夫そう。...ね、遥。こうやってまた新しい大切が産まれるの。大切なものは、無駄になんてならないよ。」
「ああ、そうかもな。」
確証はできない。完全に割りきれたかといえば微妙だ。
でも、俺は美海のおかげで、少しは前を向けそうだ。
「...そう、みんな終わったわけじゃない。冬眠してたっていつかは会える。だから今はここで待とう。」
「そうだな。...終わったわけじゃ、ないんだ。」
力強く答える。
そんな中で、ようやくもうひとつの話題の方へ振られた。
「それより遥、その...足...。」
「ああ、運が悪くてな。...ごめんな?」
そう、俺には左足がない。さっきのちさきらはそこまで言わなかったが、まあ気になるのはしょうがないだろう。
「...大丈夫?」
「どうにかするよ。...心配すんなって。大丈夫だ。」
会話のさなか、車の方から手招きが見えた。
そろそろ時間か...。
「悪い、美海。そろそろ時間だから一旦帰るな。」
「あ、うん。頑張ってね。」
そして俺は再三車に乗る。
もう向かう場所はないとの事で、大人しく病院へ戻ることにした。
「お前...あんだけイチャコラしやがって...羨ましいぞコノヤロウ。」
運転席の方から何やら愚痴が聞こえるが気にしない気にしない。
そういえば先生は独身だったっけな...。
なんてことを思いながら窓の外を見る。
変わってしまった海。
凪いでしまった海。
少し打ち寄せている波を移した目は揺れている。
けれど。
俺の心は、もう揺れてなどいなかった。
3000over珍しいな。
さて、どこまで行けるか。
ここからが勝負。
また会おうね(定期)