凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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ちょい短め。


第55話 人の温もり

---遥side---

 

それから、もう一つだけ。

俺の今後はまだ決まってなかった。

脳に以上はなし、記憶も普通通り。

授業を受けるには十分な状態である。

問題は、やはり失った足。

それに、住処の問題だ。

 

水瀬がいなくなって、保さん、夏帆さんとまだ会ってない。

正直、すごく心配だ。

自分の娘の消息が分かってないのだ。平常心でいられる気がしない。

 

 

そして、仮退院の日。

杖をつきながら玄関を出ると、見慣れた1台の車が止まっていた。

 

「久しぶりだな、遥君。」

「ええ、久しぶりですね。保さん。」

その表情は伺えない。でも、声でわかる。

 

寂しい。

 

なにか抜けている声だ。その声のトーンは変わらないのに、そこに重さがない。

 

「とりあえず、一旦、うちに帰らないか?」

「...そうですね、行きましょう。」

 

ではまた、と見送りに来た先生に会釈をし、車に乗り込む。

車内での会話は一切なく、すぐに水瀬宅へと着いた。

 

「...ここも随分と久しぶりだ。」

「結構空いたからな...。とりあえず、おかえり、だな。」

「はい、ただいまです。」

 

そう言うが、相変わらず元気がない。

そう考えるとまたひしひしと責任感が湧いてくる。

 

俺のせいだ。

俺が生んだ、痛みだ。

 

くそっ...。

 

唇を噛み締める。

そんな俺の顔は保さんにどう映っていただろうか。

せめて、無様な顔はしていなきゃいいが。

 

 

家に入ると、改めてリビングに通された。

その机には夏帆さんが先に座っており、何やら話がある雰囲気だ。

 

「あー、そこに座ってくれるか?」

指し示された席は2人の向かい側だった。

特に何も言うことなく俺は席に着く。

 

「...。」

 

一瞬の沈黙。

切り裂いたのは保さんの言葉だった。

 

「島波遥君、改めてお願いがある。」

「はい。」

その言葉には、重さがあった。

俺は覚悟を決める。

 

「これからもうちに住み続けてくれないか?」

 

「...その前に、色々と言わせてください。」

 

俺は直ぐに答えを出さなかった。

確認したいのだ。俺はここにいていい存在かどうかを。

 

「まず、先日のお船引きは、本当にすいませんでした。千夏ちゃんを無理な企画に巻き込んだ挙句、このような事態になったのは俺にも責任があります。」

 

「そこは誰のせい、とかないんじゃないかな?」

優しく慈しむ声。夏帆さんだ。

 

「ありがとうございます。...それで一つ、非常に失礼な事を言わせてください。俺は、...千夏ちゃんの代わりにはなれません。姿を重ねられているのなら、俺は多分、ここに住む価値はないと思います。」

 

全く、最低な話だ。

でも、俺は水瀬の代わりにはなれない。

淡い幻影を重ねられて育てられるなら、その愛は受け取れない。

 

「...確かに、姿は重ねているかもしれん。」

「ちょっと、あなた!」

 

「でも、君が怪我してここに住み始めてからの日々は本当に楽しかった。私はもう、君のことを家族のように思ってる。できればこれからも、家族であって欲しいんだ。...いけないだろうか?」

 

 

ああ...。この人は、やっぱり素敵な人だ。

自分の心に真っ直ぐで、曲がったことは言わず、誰よりも優しい。

俺も、水瀬のこういう所が好きなんだろうか。

 

ここまで言われて今更NOの答えなんていらなかった。

 

「...これからも、ここに住まさせて頂いてもいいでしょうか?」

言い終わる頃に涙が頬を伝う。

 

あれから涙脆くなったんだろうか。

でも今は、これでいいと思う。

涙さえ失ってしまったらもう、俺は人間じゃなくなるかもしれない。

 

 

「ああ。これからもよろしく頼む。」

「また美味しいもの食べさせてあげるんだからね。」

二人とも、笑顔で迎えてくれる。

 

俺の居場所は、ここにあった。

 

 

 

 

 

それからまた、人生は右往左往したが

 

俺は真っ直ぐ歩いていった。

 

失った先に

 

本当の大切に気づいた。

 

自分は1人だと思い込んでも

 

結局近くに誰かがいて

 

そうやってまた、1歩進む。

 

1年

 

2年

 

3年

 

ひとつずつ年が過ぎていく。

 

温かさに包まれて俺は育って行った。

 

それでも。

 

それは海を除いての話。

 

海には眠っている。大切な人が。俺の大事な何かが。

 

心の底から冷えてくるような気候とともに

 

 

 

 

 

海は少しずつ、世界を嘲笑うかのように冷たく、冷たくなっていったのだった。

 

 




これまでは、少しずつ成長する話。
これからは、少し成長した遥が解決に導いたりなどのケースも考えてます。
では、次回より第2部

また会おうね(定期)
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