---遥side---
光が帰ってきて1日が過ぎた。
あの後は言ったように潮留家に泊まることなく水瀬家へと戻った。
とりあえず、今日も伺うと言葉を残して帰ったので、俺は朝食を取った後に真っ直ぐ潮留家に向かった。
「あら、おはよう遥君。」
家に着いたら、庭で洗濯物を干してるあかりさんがいた。
この様子を見る限り多少は落ち着いたんだろうと思う。
「おはようございますあかりさん。それで、光の方は目覚めたんですか?」
「ああ、うん。普段朝起きるように、あっさりと起きたよ。...流石に色々変わりすぎてるから、混乱してるとは思うけど。」
俺が懸念していること。
光の記憶が、どこで止まってるか、という事だ。
ましてや、それを知らない人が光を引っ張りだこにしてしまったら。
嫌な予感がする。
が、そんな予感ほど当たりやすいのを俺は知っていた。
玄関の前に1台の車が止まる。
「おはようございますあかりさん。って遥もいたのか。」
「ああ。ところで何の用だよ狭山。」
「光が目覚めたんだろ?んで会いに来たわけよ。まあ、漁協の大人連中も光に会いたがってるから、ちょっとお話がてらドライブに行こうって話。」
「大丈夫なのか?それって。」
その答えが帰る前にドアが開く。
「なんだよお前ら、朝から騒がしいな。」
いつもの朝と何の代わりもないように、光が出てくる。
「おぉ!光!元気になったか!」
狭山が好かさず抱きつきに行き...かわされて顔から突っ込む。
「何だ狭山かよ...。なんだこんな朝っぱらから?」
「ああ、漁協のおっさんらが光に会いたがってたから、ちょいとひとっ走りして来たんだが、ついてきてくれるか?」
「...?ああ、分かった。」
光は納得したのかしてないような表情をしながら車に乗り込む。
因みに、この間、俺と光は目が合ってない。
そんな中で美海も登場し、いよいよ光と一体一で話せる状況じゃなくなってしまった。
しょうがない、今は諦めるか。
俺はとりあえず現状打破を諦め、車に乗り込んだ光と、ついでに乗った美海を俺は見送るのだった。
「さてと、色々と最悪なことになりそうですね....。」
俺はここから考えれる未来を予想し、苦い顔で呟く。
「どういうこと?最悪なことって。」
そんな俺に洗濯片手にあかりさんが反応する。
「そうですね...。今、光が漁協に行ったとしましょう。そうしたら漁協の人達は間違いなくこう言うでしょう。「久しぶり」と。でももし、光の中の時間は止まったままで、お船引きが最後の記憶で、5年経ったと感じてなければ...。光はただでさえ落ち着きのない精神の持ち主です。こんな混乱、耐えれると思えますか?」
「...確かに、そうかも。」
あかりさんは手を止め、思い詰めたような顔をする。
とはいえ、ここからでは漁協まで距離があるし、話途中の漁協の中で、無理にその輪の中には入れない。
1番まずいのは現状動けないこと、だった。
「まあ、何とかします。どうせまだ鷲大師にいる時間は長いので。」
「...ごめん、頼めるかな?」
「任せといてください。」
そして俺は光と、光と話すタイミングを探しに出かけた。
1時間。
2時間。
刻一刻と時間は過ぎて行くが、光とは出会えない。
こう...目撃証言とかはあるのだが、どれも少し前だったりして当てにならない。
やっとの思いで見つけた場所は、丁度紡の船の船上だった。
なにか叫び声が聞こえる。
一言一言ははっきり聞こえてないが声でわかる。
これは光の声だ。
そんな様子を静観していると、光が船から走って遠ざかって行った。
今しかない。
俺は少し軋む足を全力で走らせ、光に追いつく。
「光!!」
俺よりざっと数十メートル先の光を呼び止める。
振り返った光は涙目だった。
「なんだよ...。」
「ちょっと話、しないか?」
場所をうつし、俺達は海沿いのベンチに座った。
「...なんだよ話って。」
「色々聞きたくってな。まず、お前、5年経ったって感覚はあるのか?」
「...ない。俺にとっちゃ、お船引きは昨日のことなんだよ。それなのに、それなのに周りの連中は久しぶり、とか変わんねえな、とか...。そんなの、変わるわけねえだろ...!」
光は瞳をうるわせ怒りを静かにぶつける。
やっぱり、俺の思ってたとおりだった。
俺が大切なものを失ったお船引きは5年前。
けど、光にとってまなかを失ったお船引きはつい昨日なのだ。
後悔の念が、無いはずがない。
そんな中、光は続ける。
「変わるとか変わらねえとか、分かんねえよ...!一体俺は、どうしりゃいいって言うんだ...!」
俺は、ずっと変わってない気でいた。
けれど、今光にあって、大きくなってしまったことを改めて感じさせられる。
光から見れば俺は変わってしまったのだろうか?
「...そうだな。俺もお前を見て思ったよ。変わる、変わらないって、ほんとわかんねえな。俺からすれば変わってないつもりでいたけど、お前とあって、改めて時間が流れたのを自覚させられたと思う。...なあ、光。こんなことを聞くのもなんだけど、お前から5年経った俺はどう見える?」
「どうって...そうだな...。背丈は変わった。足も変わった。けど...、なんだろう、やっぱ分かんねえよ。...ちょっと1人にしてくれ。」
そう言って光は立ち上がり、ふらっとまた離れていく。
俺は追わなかった。
やりたいことはやった。出来るだけやった。
最後の光の目には何が写ってたかは知らないが、最初より輝きがあったような気もしないような...。自信はない。
もうすぐ、5時か...。
あの日から5時になるとお船引きの歌が流れる。
曰く、帰る時迷わないようにらしい。
俺は...ちょっと苦手だ。この歌は。
思い出は苦く、いつまでも消化されない。
消えてしまってもいけないのかもしれないが。
と、5時の音が鳴り、また数分が経つ。
「ぅぉぉぉぉおおおおお!!!」
遠くから元気いっぱいの叫び声が聞こえる。
このやんちゃでわんぱくな叫び声は、俺の知るところ一人しかいない。
光は全力でこっちに向かって走ってくる。その姿は先程までの弱気な光ではなく、5年前に見たいつもの光だった。
その後ろからはちさきが追ってきている。さっき会ったんだろうか。
二人とも、見覚えのある顔だ。それぞれの、5年前のような。
そして光は俺の前で立ち止まると元気よく言った。
「お前、やっぱり全然変わってねえや!!」
リアルとこっちの両立...ふぇぇ。
がんばろーる!
では、次回。
また会おうね(定期)