---遥side---
「くそっ、どこ行った!」
俺は軋む足など等に忘れ、ひたすら走り回り、美海を探していた。
数分前。
あの時見たのは無造作に脱ぎ捨てられていた美海の水色のパーカー。
少なくとも美海は、特別な事情でもない限りこんなことはしない。
まさか人が少ないと言う時に予感していたものが、こうも当たるとは...。
くそっ、マジで見つからねえ。
絶対にまずい状況になってるんだ、そうに違いない。
...なら。
もし、本当にまずい状況の時に、人は無意識で動くなら。
美海はどこへ向かう?
考えろ...場所、時間、状況。
そして、美海に思い入れがある場所、無意識に足がむく場所。
ずっと見てきたんだ。分からなくてどうする...!
考える。考えつめて...
...分かった!
と思ったのと同時に俺は再び走り出した。
今度は当てのないものではなく、ちゃんとした目標がある場所へ。
漁港跡。
雪がつもり、もう昔の面影は見えないこの場所は、俺と、美海にとって重要な場所なはずだ。
そう、あの日、美海と一緒に海に飛び込んだ場所だ。
もし、あの日のことが俺の自惚れじゃなければ、美海の思い入れのある場所というのは間違いない。あれだけのことがあったのだから。
なんて、何があったかなんて振り返る必要は無い。
俺は一旦荒れた息を戻し、落ち着いて美海を探す...
はずだった。
探し始めて1分足らずのうちに美海を見つけた。
しかしそこには危なげな男も見えた。誘拐でもしそうな、危なげな男が。
...どうにかして止めに行くか。
そう思った矢先のことだった。
ギィッ....ドオオオオオオンン!!
!?
俺は即座に音の鳴るほうへ振り向く。どうやら使い古され、錆び付いていたクレーンが落ちたようだ。
...いや、何が落ちたかはまだいいとしよう。
問題は、そこにさっきまで美海がいた事だった。
みっ...
「美海ぁ!!!」
---美海side---
逃げる。ただ逃げる。
最初は開いていた差も、少しずつ迫ってきている。気を抜いたら...と思うと苦しいけど走り続ける。
そうしていつの間にか、私は漁港跡へと追い詰められていた。
距離を詰められ、ギリギリまで下がる。一二歩後ろはもう海だった。
「さっきはよくもしでかしてくれたなぁ?嬢ちゃんよぉ?」
噛み付かれた腕を赤くしながら一人の男が迫ってくる。その表情は怒りではなく、さっきと同じような表情だった。
「...一体、何のつもりなんですか。あなた達は。」
私は恐怖で少し震える声で尋ねる。もっとも、まともな返答なんて帰ったこないが。
「特に何もねえよ?ただ遊ぼうってだけの話でよぉ。」
この遊ぶという言葉が、私は1番怖かった。
ろくな事にはならない、それだけは分かっていたから。
助けが...ほしい。
私は自分の非力さを恨む。こんな時、誰かに頼るしかできない。
でも。
分かってる。私がいつも頼るのは、頼ってしまうのは...。
とても不器用で、優しい。私の好きな人。私のヒーローみたいな人。
その人は、私の視界の端にいた。見えた。
「はるk」
その名を呼ぼうとした時、私の頭上を影がおおった。
えっ
ギィ...と音を立て、少しずつその影は大きくなる。
私は頭上を見上げる。
そして、1歩、足を後ろに引く。
ただし。
そこには足場などなかった。
「あっ...」
小さな言葉を残して、私は深い海へと沈んでいく。
轟音は、遠くからすこしきこえてくるだけだった。
沈む。
深く深く、沈んでいく。
苦しい。痛い。
どうにかできないかと足掻いて、無力さを知ってやがて諦める。
あぁ...冷たいなぁ...。
私は一人、目をつぶった。5年前助けてくれた遥は、すぐ近くにはいない。ヒーローなんて、そうそう来るわけないと諦めていた。
あぁ、でも...。
好きって言った方が、よかったのかなぁ...。
私はいつの間にか、生きることすら諦めようとし、思考を放棄した。
目を閉じる。
...ピキピキ。
静かな海の中、耳を済ますと何処からか音が聞こえた。
(...なんの音だろう?)
目を開ける。次の瞬間、あるはずのないことが、私に起こった。
(...息が、できる...。)
理由なんてどうでもよく、私はすいすいと海の中を泳いだ。
こうやって見る海は初めてで、...怖すぎるほどに、綺麗だった。
「美海!!」
遠くから叫び声が聞こえる。いつかのヒーローは、遅れてやってきた。
「美海!...ってお前、泳げるのか...?」
近くによった遥が、改めて確認する。そのあと、私の肌から見慣れた光を見て、1人で納得していた。
「うん...。理由はわからないけど、全然苦しくないし、陸と同じように動ける。ねぇ遥、これってやっぱり...。」
「ああ。エナ...だろうな。間違いなく。」
私はそれを聞くと安心した。...これでやっと、同じ土俵に立てた気がしたからだろうか。
「んまあ、とりあえず上がって話をするか。あれらも片付けた事だし。」
あれ....?
大事なこと...忘れてた?
---遥side---
ありえなく、ありえる話。
海に沈んだ美海は、いつしかエナを持っていた。
しかしまあとりあえずだな。
...陸のごたつきをとりあえず終わらせるか。
俺は美海の手を引いて陸へと上がる。
陸ではチンピラ3人が未だに伸びていた。
〜過去〜
「ああん?なんだぁてめえは?」
美海が海に落ちたというのを確認した後、俺は飛び込もうとしたが、その前に手前3人のチンピラをどうにかしなければいけないと気づいた。
「そんなんどうでもいいだろ。...それよりてめえら、美海に手ぇ出したってことは、死ぬ覚悟あるってことだよなぁ?」
俺は精一杯拳を握る。ギリギリと音を立てる拳には多分、いつもの3倍は力が入っていたと思う。
「んだぁ?ガキがしゃしゃってんじゃねえぞ!!」
1人が殴りかかってくる。
俺はすかさず手でそれを受け止める。
「おっと。手を出したな、反撃させてもらうぞ。」
俺は空いてる手で精一杯のパンチを腹へ叩き込む。その男はそのまま倒れ込んだ。
実は誰にも言ってないけど...空手を習ってたから、これくらいなら倒せる。本当は振るうべきじゃないけど。
「この野郎!!」
残り2人も、似たようなもんだ。なにか武術ができるわけでもなさそうだったので、同じように片付ける。
所要時間は3分程度。
無駄足を踏んだ俺はすぐさま海へと飛び込んだ。
〜現在〜
「...生きてる?」
美海が倒れてる連中を見て心配そうに尋ねる。
「流石に人を殺す勇気はねえよ...。まあ、警察は呼んだから、数分で来ると思うぞ。...やれやれ、せっかくの休日だってのに、こんなことになるなんてな。」
「...ごめん。」
「美海は悪かないよ...。っと、一人起きた見たいだな、お話でもしてくるか。」
チンピラの1人が起きたのでとりあえず動機やらなんやらを確認する。
「おい、お前。首謀者が誰かとか言っといた方が、楽になるぞ。」
俺はしゃがみこんで威圧的に言う。
「うっ...。確か、上背のない、中学生のガキだった気がする...です。」
「...中学生か。よし、分かった。寝てていいぞ。迎え呼んでおいたから。」
その数分後、サイレンとともにパトカーがやってき、瞬く間に3人は連行されてった。さて、とりあえず一件落着かな。
美海の方歩こうとする。
しかし、その1歩はしっかりと踏み出せなかった。
...あれ?
ぐにゃっとするような感覚。俺はその場に倒れ込んだ。突発的な胸の痛みに苦しむ。
「遥!?」
倒れた音を聞いてか美海が駆けつけてくる。
「あー...ごめん、救急車...よろしく。」
そうとだけ言い残して目を伏せる。
俺は、海に飛び込んでは行けないことをすっかり忘れていたのだった。
その後、搬送された先で大悟先生に激怒されたのは言うまでもない。
ここはまだ考えてたので...。
しかしまあ、きつい。
ここからオリ展開なんてねぇ!!
では次回。
また会おうね(定期)