---遥side---
このままだと、死ぬ。
それはあまりに簡単で、残酷な答えだった。
先生は続ける。
「まあ、前々からやばいと思ってたんだが、向こうの親御さんが手術させるかって所で渋ってな...、とりあえず手は尽くしてたんだが、流石にそれも限界らしい。これからの延命には手術は必須だ。」
「なんで...親が娘の命を助けるのに手術を渋るんですか。」
親と、小さい子の命の話。
俺は幼き日の自分に陽香を照らし合わせた。
もし、親からの愛情が陽香に届いてないとすれば...、きっと俺は、今すぐにその親を殴り倒しに行くかもしれない。
...ああいう終わりを迎えたけど、俺の親も、俺への愛があったのかもしれないのだから。
そんな表情の俺から何かを汲み取ったのか、先生はそれは違うと否定した。
「ああ、お前が考えてる理由とはちげえよ。もっと根本的な話。手術の難易度が高く、失敗する可能性も十分あるという事だ。まだどう転ぶかわからない状態で、リスクの大きい手術をさせるかって話だ。それに...。」
そう言いかけて先生は俯く。
「それに、どうしたんですか?」
「...いや、なんでもねえよ。とにかくだ。とりあえずここからは医者と患者との話だ。お前がどうこうできる話じゃない。...話はこれだけだ。」
最後の方は早口に、先生は言い残して直ぐに仕事の方へと戻って行こうとする。その白衣背中は、あまり関わるなと言うような忠告をしてるような、そんな気がしていた。
俺に出来ることは...ないのか?
悔しさから歯ぎしりをする。
あれから、少し大人になっただけで、何も変わってない。
無力のままだ。
結局俺は...。
それでも。
俺は拳を握る。強く。さらに強く。
それでも、そこから足掻いてきたのが、島波遥だろ...!
「先生!」
俺は叫ぶ。大声で叫んでも、ここなら迷惑になることも無いだろう。
「...なんだ?これ以上話すことは無いぞ?」
「あの、電話番号だけ、貰っていいですか?」
俺に出来ることが今はなくても、信じることは出来る。
噂なんか当てにならない。信用のあるものは当事者の言葉だ。
ならこれが、俺の精一杯の足掻きだ。
「...しゃーねえ。ほらよ。」
先生はしゃしゃっと番号をメモし、俺に手渡し、そのまま中へ入っていった。
今はここまで。後は...信じよう。
俺はまだ見ぬ希望に全てを賭け、ただ願い続けることにした。
もっとも。
そんな淡い希望は、数日後、一通の電話で打ち消されたが。
〜数日後〜
あれからずっと、陽香の身を案じていた気がする。
少しの間しか一緒にいなかったのに、何故こんなに気になるんだろうか?何故こんなに心配してるのだろうか。
ここまでの数日間、先生に電話をかけようとしたが、信じると言った自分に反するんじゃないか、とずっと手を止めていた。
あれから3日、いや、4日過ぎた。
流石に結果くらいは、聞いてもいいんじゃないだろうか。
そう思って俺は電話を手にする。
二三回コールの後、先生に繋がった。
「...もしもし。」
その第一声は、どこか暗い。
少し嫌な予感がするが、あえて気にしないと決めて続ける。
「もしもし、先生。俺です。」
「知ってるよ。...んで、何の用だ。」
話がないなら切れと言わんばかりの語気。いつもよりどこか刺々しく、余裕が無い。
「結果、教えてくれませんか?」
あえて深い言い方はしなかった。自分の気まで重たくなるのはごめんだ。
「......。」
電話の向こうからの返事はない。
「先生?」
「...チッ、今から病院、来れるか?」
先生は軽い舌打ちと共に、言葉を吐き捨てる。
時刻は4時。この時間なら迷惑になることは無いだろう。
夏帆さんも保さんも今日は仕事なので、書き置きだけしておけば問題は無いはずだ。
「行けます。じゃあ、切ります。」
「...ああ。」
そして電話が切れると共に俺は4日ぶりの病院へと足早に向かった。
病院へ着くと、受付の方に先生に呼ばれてる場所を伝えてもらった。
どうやら、また屋上のようだ。
俺はそれを聞きとどけると、迷わずエレベーターに飛び乗った。
「...来たか。」
屋上。一人の男性と、風で揺れる白衣が目に入る。
「...単刀直入に教えてください。どうなったのか。」
俺は会話の流れをぶった斬ってでも結果を聞く。
先生は苛立ちをどこかに吐き出そうとして、出来ていなかった。
やがて、何かを決心したか前を向き直した。
「お前、ここまで来たらもう引き返せねえぞ。」
「引き返すつもりなんて、ハナからないです。」
「そうかよ...。...お前だけは、巻き込みたくなかったんだがな。」
先生はもたれかかってる姿勢を少し変え、本題を始める。
「手術は失敗でも、成功でもない。そもそも始まってすらねえんだ。」
???
どういうことだ?
...いや、少し違うな。
何故だ?
「そんな、手術がまだ始まってないって...、一体どこがストップをかけてるんですか?」
「そこだよ。そこが一番の問題。」
先生はガンッと手すりを叩きつけ、持っていたケータイを投げてきた。
「っとと。」
慌てて取ったが間に合った。
先生はそれを指さしながら言う。
「聞いてみろよ。それ。それが、今回の原因だ。」
うーん、この...。
何かが足りねえ。
頑張るしか...。
では次回。
また会おうね(定期)