ソニックより速い。
---遥side---
始発電車に揺られ、俺は街へと一旦戻った。
陽香のことについて動くには、申し訳ないがこっちの方がやりやすいわけで、一旦帰らさせて貰った。
一応、俺の部屋について紹介しておく。
部屋の大きさは至さんの昔のアパートの3分の1くらい。
1人で暮らすには十分なサイズだが...。
まあ、俺は結構うろちょろしてしまう人間で、そこまで家にいないというのが現状だ。
今回も、荷物だけまとめておくと、直ぐに外に出た。
そういえば俺のエナは、性質上少し特殊だということが、いつしかの検査でわかった。
曰く、乾くペースが人より遅いそうだ。
それこそ、幼少期から陸に行くことが多かった分、自然とそうなったのだろう。
これが今の性格を作ったなんて自覚まである。
さて、そんな話は置いといて、本題に戻ろう。
俺が最初に向かったのは、俺の義足を作ってくれた技師、日野鈴夏さんの元だった。
先生が言うに、陽香は、鈴夏さんの妹さんの娘と聞いていたが、俺は詳しい話を知らない。
というわけで、今回の事件のこと、鈴夏さんと妹さんの関係を知るために、話をしに来たわけだ。
「すいませーん!」
「あいよー...ってなんだこの前のガキじゃねえか。なんだやらかしたのか?」
奥の方から白いタオルを頭に巻き、レンチを片手に女の人が出てくる。この圧倒的技師っぽいスタイルなのが、日野鈴夏さんだ。
「いや、足の方はおかげさまで。...それより、もっと別な、大切な話があって来ました。」
「お、おう...。まあ、なんだ。ちょっと待ってろ。」
鈴夏さんはそう言うと一旦店の外へ出て、すぐに入ってきた。
「何してきたんですか?」
「閉めた。どうせ今日は気乗りしてなかったし。さ、話聞こうじゃない?」
「出鱈目だこの人...。」
「いいのいいの、自営業なんだし。」
まあ、本人が言ってるので大丈夫なんだろう。
というか、むしろこっちの方がやりやすかったので正直助かる。
とりあえず場を持ち直し、俺と鈴夏さんはパイプ椅子に座った。
「んで、話って何よ?」
鈴夏さんは近くのテーブルに肘をつき、頬を当てる。
「単刀直入に伺います。あなたは、妹のことをどう思ってますか?」
鈴夏さんは「はぁ?」と言わんばかりに口を開けていた。まあ、無理もないか。
「どうって...、まあ、気にかけてはいるわ。真冬のことは。それこそ、連絡なんて容易く出来ないから私の一方的な心配だけどね?」
少し気恥しそうに髪をいじりながら鈴夏さんが言う。この様子だと、建前ということはなさそうだ。
「ちょっと今から失礼なことを聞きますが、鈴夏さんと妹さんの関係について、教えて貰えませんか?」
「なんでそんなこと...、分かったわよ。言わなきゃいけない流れのようだし。」
最初は拒もうとしていた鈴夏さんだったが、俺の視線で折れてくれた。
「まず私が妹と疎遠になってる事、からね?」
「そうですね。」
「そうね...。私ってほら、こういう性格じゃん?こう...やんちゃって言うかオラオラっていうか。でも、真冬は違った。ううん、違ったってもんじゃない。私とほとんど真反対の性格。それで、私は日野家の本家のほうにいたんだけど、こんな性格だからよく悪さして、挙句の果てに鷲大師の親戚の家に預けられたって感じ。あぁ、あいつに出会ったのもこの頃ね。んで、今までずっと疎遠になってるってこと。まあ、あんな姉の姿見て、いいようには思ってなかったでしょうけどね。...はい、お話終わり!」
「そういう事だったんですね。」
俺は話を聞いて何を感じただろうか。
悲しい話ではなかった。もちろん、喜ばしい事でもない。
ただ知りたいなと思ったことはある。
それは妹の目から、姉はどう映っていたかということ。
もっとも、そんな悠長な話をしにここに来た訳では無いので、本題に戻る。
「では、本題に入ります。いいですか?」
「覚悟がいるもんなのかい?...まあ、出来てるけどよ。」
本人ができているということなので、俺は間髪入れずに話した。
「真冬さんの娘、陽香ちゃんが命の危機に瀕しています。きっと、真冬さんのほうも良くない状況だと思われます。」
「...どういうことだ?続きを話してくれ。」
少し笑っていた顔に、もう笑みはなかった。
ただひたすら瞳の奥が燃えているのだけは確認できる。
「まず1つ、陽香は命に関わる病気にかかっていて、手術をせざるを得ない状況です。」
「まず1つ、ということは、もう1つあるんだな?」
「ええ。実は、病院に爆破予告の電話が入っており、その代価が陽香の手術の失敗って事なんです。」
「...はぁ?なんだそりゃ。そんな理不尽が、あっていいはずねえだろ!」
鈴夏さんは怒っていた。
本来、この件は他言すべきものでは無いのだが、俺は鈴夏さんを信じて、このことを伝えた。
そして、それはやってよかったと気づいた。鈴夏さんは確かに、妹思いのいい人だ。今ならそうわかる。
「ついでに言うと警察はダメです。爆破予告の対象になってるので。」
「じゃあ、解決したいなら自分たちでどうにかするしかねえってことか。...私も協力する。手伝えることあればなんでも言ってくれ。」
「そうですね。そうさせてもらいます。」
こうしてまたひとつ、状況が動く。
また少し、時間が動く。
そんな自分たちの瞳には、なにかが燃えているのが分かった。.
日野鈴夏さんの口調はfgoのモードレッドに近い。
以上雑談。
では次回。
また会おうね(定期)