---遥side---
空気がより一層冷たくなる。気づけばもう夜だ。
今日一日歩き回り、色々と情報を得たが、確信に至るには全然先の話だ。
これから何をすべきか、という道筋自体は立っている。しかし今は、分かったことを先生に伝えとくべきと感じ、電話を手にした。
今回は長引くことも無く、コールが直ぐに繋がる。
「もしもし、なんか用か?」
いつも無愛想な返事だが、特に機嫌が悪い様子でもなさそうだ。
「とりあえず今日の報告を、とだけ。」
「そうか、よろしく頼む。」
そして俺は今日わかったことを話した。鈴夏さんの真の過去、当事者の状況、雰囲気。今のところこれだけだが、真冬さんと接触できたのは大きいと思っている。
「なるほど。あいつから過去の話をすることは無かったけど、そういう事だったんだな。まぁ確かに、あの性格なら跡取りとしては不安だろうけどな。」
聴き終わった先生は少し笑いながら鈴夏さんとの過去を語る。
「あいつの言った通り、俺とあいつがあったのは小学校すぐだ。家の近くでやんちゃしてるあいつと会って、いつしか一緒にやんちゃしてたってのが俺達だからな。あぁ、俺はあいつほどやばい事やってねえよ?」
「分かってますよ。先生ここぞって時にチキンですからね。」
「あ?」
「なんでもないっす。」
そんな中、先程一瞬だけ威圧的な態度をとった先生だったが、口調穏やかに語りだした。
「...いいんだよ。人はここぞって時に臆病で。臆病だからこそ周りがよく見えるし、本当に立ち止まらなきゃ行けない場面で立ち止まれる。臆病なのとビビって逃げるのは、また違うだろ?」
俺は一応専攻してるのが心理学なので、言ってることが分からんでもない。
臆病ってのは立ち止まるけど、前に進む意思はある。ただ踏み出せていないだけという状態だろう。でも、ビビって逃げてしまうというのはそれすらも諦めてる。
闇雲に突っ込んで失敗するよりは確かに、臆病であるほうがいいとは思う。ただ...
チキンって、どっちなんだろうな?
「そうですね。...これくらいですかね、じゃあ、今日はこの辺で。」
そう言って電話を切ろうとした瞬間、先生に呼び止められた。
「ああ、いや、待て。ちょっと聞いて欲しいことがある。」
慌てて切ろうとした手を止め、俺は聞き返す。
「いいですけど...なんですか?」
それは、先生の過去の話だった。
---大悟side---
それは遠い昔の話。
それは、俺が中学生になる前頃の話だ。
俺の母親は生まれつき体が弱かったそうだが、俺を産んでからは何事もないように過ごしていた。
だから当時の俺は、何も考えないままであいつと、すーちゃんと一緒にやんちゃして、バカして、そんな楽しい日々を送っていた。
けど。
そんなのは全部表面上の世界だった。
ある日突然俺の母親が倒れたと、学校で俺は聞いた。
どうもステージが進んでいたようで、手術をしなければいけない状況だと、聞かされた。
ショックだった。あれだけ元気そうだった母がって。
そう、俺は母親が無理して生きてるのを全く知らずに、呑気に過ごしていた。
その時、いつの間にか俺は泣いていた。
理由は、体を覆う罪悪感ただ一つだった。
俺は自分の母親が苦しんでる中で、1人だけ自由に生きていたんだって、迷惑かけていたんだって。
それが悔しかった。情けなかった。
ただ、そんな俺は前を向こうとはしなかった。
向き合えばそこには、ただずっと苦しんでいる母がいたからだ。
それを見るのが辛くて俺は、ずっと逃げていた。
そんなある日、数日後に母が手術を受けるという中で、俺は父に呼び出され、思い切り一発殴り飛ばされた。
これまでもやんちゃして叱られた時に叩かれたことはあったが、今回のはそのどれよりも重たく、熱い一撃だった。
頬を抑える俺に、父は言った。
「逃げ出すんじゃねえ!前を向け!本当に苦しい人間がわかるなら、自分の保身に走るな!」と。
俺はすぐに悟った。母の事だと。
そう言われて俺はハッとした。
俺はいつの間にか、苦しんでいる母親を見ている自分が一番苦しいと思い込んでいたのだ。
だから、本当に苦しんでいる母のことを思えていなかったと。
臆病というのは、そこでようやく理解した。
その日から、俺はずっと考え続けた。
母に何が出来るか。もし退院したら何をしてあげれるか。
しかし、母親は帰ってくることは無かった。
【手術失敗】
この4文字だけで、俺の母の死は片付けられたのだ。
俺は数日間閉じこもった。そこでひたすら泣き、手術を失敗した医師を、病院という機関を憎んだ。
でも、やがて思い出したのは父の言葉だった。
また俺は逃げようとしていた。今度は自分でそれに気づいた。
今辛いのは、悲しいのは父と、俺だ。
でも、逃げてただ失敗を恨む人間には、もうなりたくない。
だから俺は道を選んだ。
医師になる。せめて俺の知り得る範囲では、俺と同じように悲しい思いをして欲しくないからと。
そうして出来上がったのが、今の俺だ。
そして今、目の前で苦しんでいる、手術を待ってる人がいる。
それを助けるという想いは、何があっても変わらないつもりだ。
とりあえず70まででオリ展開終わらせたいんだけどな...。
というかそろそろ新しい作品も考えるか!
では、次回。
また会おうね(定期)