凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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うーん


第70話 太陽と陽の香り

---陽香side---

 

私の命って何だろう?

私が生まれつき身体が弱いことを聞いたのは四歳のときだった。

お母さんはそれを言った後私を抱いてごめんねって謝った。

 

...私は、泣かなかった。

 

それから空元気を続けて過ごす毎日。お母さんを悲しませたくは無かったから。

 

どこからか聞こえる。

「あの子の性格は真冬さんの姉さんにそっくりだな。」

 

聞いたところ、よくやんちゃをやって、元気いっぱいの幼少期を送ってたみたい。

私は...そんなのじゃない。

 

無理にでも元気に過ごさなきゃ、いつか私の心は壊れる。

小さな私でも、それはもう分かっていた。

 

だからいつからか、私は泣くことを忘れ、上っ面の元気を貼り付けて生きていた。

 

 

 

身体が弱いまま、入院して、色々と治療して、そんなある日。

偶然、私は聞いてしまった。

 

私の命に、この病院の全ての人の命が懸かってるということ。

 

 

それを聞いた私は...笑った。

 

なぜだろう?自分でも分からない感情だった。

悲しい?嬉しい?それとも別の何か?

理解できない。

行き着いた答えはもっと別のものだった。

 

あぁそうか、私、壊れちゃったんだ。もう、とっくの昔に。

 

いつの間にか、自分のことさえ、分からなくなっちゃったんだ。

 

 

━━━━━心はもう、死んじゃってるんだ。

 

 

そんなある日、私は先生に診察室へ呼ばれた。

特に検査の予定とか聞かされて無かったけど、なんだろう?

 

「陽香ちゃん、今からきつい事聞くかもしれないけど、いいかな?」

 

私は、直ぐに何を言っているのか分かった。

今回の事件の事だ。きっとそう。

 

私は、そうわかると同時に言葉を紡いだ。

 

 

「いいよ、殺して。」

 

「...何?」

 

先生は固まっていた。そんな中私は続ける。

 

「私知ってるよ、私の命に、この病院のみんなの命がかかってること。病院は、多くの人の命を助ける場所だよね?こんな心の死んだ一人の人間なんてほっといてさ、もっと多くの人を助けて。」

 

「...。」

先生は沈黙したまま数秒間動かなかったが、やがて右手を握りしめながら呟く。

 

「....言いたいのは、それだけか?」

「?」

私が首をかしげた瞬間、先生はガンッ!!とデスクを力いっぱい殴りつけた。

 

「舐めてんじゃねえぞクソガキ!!自分は犠牲になってもいいだぁ?ふざけたこと抜かすんじゃねえ!心が死んでる?心臓動いてるうちは人間生きてんだよ!それを助けるのが医者の役目だろうが!!」

 

急な大声で私は身体が固まった。そしてそのまま何も言い返せない。

先生は少し口調を落として続ける。

 

「...自分を犠牲にして他人を助けようとするバカはよく見てきたけどよ、それに命を捨てるってのも違うだろ。それにそんな事したって、全て上手くいくわけじゃないの、分かるだろ...。お前が死ぬだけじゃない、俺達が人殺しになるんだ。それで全ての人間が、幸せですって言えるか?違うだろ?」

 

「でもっ...私が死ななきゃ、この病院は...。」

私の思考はぐちゃぐちゃになっていた。今、こうやって考え直すと、死ぬという2文字が怖くなってくる。

 

そんな言葉の止まり止まりな私を見て、先生はふーっと息をつき。私の頭をぽんと叩いた。

 

「死ぬって、怖いだろ?」

「うん...。」

「死にたくなんて、ないだろ?」

「...うん。」

 

「そんなお前を、病院をどうにかしようとしている馬鹿がいるんだよ。そいつは筋金入りの馬鹿でな、他人を助けることに夢中になりすぎて、1番根本的なことを見落とす。けど、今回は命だけは手放さない、そう約束したんだ。みんなが助かる、そういう傲慢な約束を。」

 

「遥お兄ちゃん...?」

「そ、遥お兄ちゃん。」

 

私にとってあの人は、太陽みたいなものだった。

あの人がいたから、私は楽しいと思えた。

元気に過ごせた。

 

太陽がいなければ、陽の香りはしない。

あの人は陽の当たる場所を作ってくれようとしているのに、私はそれに気づかないままだったんだ。

 

ふと、簡単で単純な4文字が私の脳裏をよぎる。

 

 

...生きたい。

 

もっと生きたい。世界を見たい。

許されるのなら、私は生きたい...!

 

 

気づけば、涙の雨が頬を叩いていた。

 

先生は私に向き直って言う。

「人間誰だって、生きたいって気持ちが心の奥底にある。大丈夫だ、お前の心はまだ死んじゃいないよ。生きたいと心から願うこと、それはきっと、美しい花みたいなもんだな。」

 

言葉はいらなかった。

私はただ泣き続けた。いつからか忘れていた涙が心の奥底から溢れてくる。ただ今は、止めるつもりなんてなかった。

 

 

 

 

やがて泣き止んだ私は、改めて先生にお願いをした。

「先生、手術を、成功させてください。」

 

「おう、まかせとけ。」

その言葉は今まで聞いた言葉で1番力強かった。

 

 

私のお母さんのお姉さんとは違う。

でもいつか、同じ元気を持って、同じ土俵に立ちたい。

忘れてしまった感情を、失ってしまった心を取り返すまでどれだけ時間がかかるかはわからない。

 

 

 

 

 

だから今は、精一杯生きたいって願うんだ。

 




むーん
むーーん
むーーーん
(荒井三兄弟)

はい、という訳で区切りの70(?)
がんばろーる

また会おうね(定期)
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