---遥side---
それから数日間、陽香の容態が急変しないことを願いつつ犯人を追い、やっとの思いで足元を掴んだ頃、登録していない番号から電話がかかってきた。
「ちょっと来てくれるかな?」
この一言に導かれて俺が向かったのは、鈴夏さんの作業場だった。
「悪いね、こんな中で呼んじゃって。...いや、こんな状況だから、呼んだんだっけ。」
「どうしたんですか?」
いつもの鈴夏さんほどトゲトゲしてなく、元気の無い態度に俺は違和感を感じた。
「ほら、私ってさ、ずっと馬鹿一辺倒でさ、こういう事しか脳のない人間じゃない?...それでさ、思うのよ。今になって、自分がどれほど無力かって。あの子のこと、助けてあげたいのに、私に何が出来るのか、...分かんないんだよ。」
それは明らかな焦りだった。
自分に出来ることはないか、焦って探して探して、そして自分の欠点にぶつかったりしたのだろう。
「無力だなんて...」
「お世辞はいいから。」
鈴夏さんは俺を鋭く睨みつける。その鋭さから本気で思い悩んでいるというのが分かる。
でも...。
「お世辞なんかじゃないです。」
だからこそ、俺は曲がる訳には行かない。
お世辞を言った覚えなんてない。鈴夏さんに出来ることは確かにある。それは変わりない。
「じゃあ、私に何が出来るって?私に学なんて無いよ?」
「まず、何で学にこだわってるんですか?」
「それは...何でだろ?」
鈴夏さんはうーんと悩む。
自分の見解を述べると、鈴夏さんが学を引き合いに出すのは、きっと自分に無いものだから、と羨んでいるからだろうと思う。
自分にはこれが無いから無力だ、そういう考え方なんだ。
でも、そうじゃない。
人間を決めるのは学があるか無いかじゃない。そこで人間を判断されては、世界は回ってない。
つまるところ、他人より優れ、役に立つ部分があるかどうか、そういう事だと思う。
そういう点に関していえば、鈴夏さんは手先が器用な事をさせれば超一流だ。少なくとも身近でこれに及ぶ人はそう居ないだろう。
〜過去〜
5年前、おじょしさまを完成させた頃の話だ。
完成したおじょしさまを眺めて、大人達が口を揃えて言った。
「いやー、今年のやつはなかなかすごいんじゃあねえのか?」
「ああ、今までのを見てもレベルってのがちげえな!あぁ、でも...。」
「うん、あれだな...。」
「「10数年前のあれにはさすがに叶わねえなぁ。」」
〜現在〜
俺達が作りあげたおじょしさまは確かにいい出来だった。
しかし、これはあくまでみんなで作り上げたもの。
その10数年前のおじょしさまを作り上げたのは、当時の鈴夏さん一人だったらしい。
作った本人ならわかる。本気で作ろうと思えば思うほど上手くいかないし、どこか壁に当たる。
それを軽くやってのける鈴夏さんはそれほどまでに、すごい力を持っている。
それなのに、鈴夏さんはきっと、自分しか持っていない能力に自信を持てていないんだ。
俺は、それに気づいて欲しい。
「人間の無力さを決めるのは学があるか無いかじゃないんですよ。学があっても使えない人間は使えない。力っていうのは、他人より優れてる部分があるかないか、そういうことじゃないんですか?そういうことだったらほら、鈴夏さんはとっくにもう得てるじゃないですか。」
「あたしの...手?」
「そう、あなたの手です。」
鈴夏さんはそう言われて、少し嬉しげに微笑んだ。
「...そうだよな、私にはこの手があるんだ。請け負った作業は100%でこなす、それが私ってもんだ。今はまだできることが無くても、いつかきっと...!」
「そうですね。これから状況次第でバンバン頼らせて貰います。」
鈴夏さんは、だんだん自信を取り戻してきたのか、少しずつ元気そうに動き始める。
やれやれ、この人も結構単純だなぁ...。
そんなことを思ってみる。
しかし、鈴夏さんは手先とは裏腹に、内面が不器用だ。
こうやって、伝えないと分からない。不器用とはそういうものだ。
だからもうひとつ。
妹から預かったメッセージも、言わなきゃ届かない。
「そういえばですね。」
「なんだよ?」
「妹さんから伝言を預かってるんですが。」
「お前っ...!...たぁ〜、仕事早いな〜。...んで、真冬は私の事、なんて言ってたよ?」
何を思ってるのかは知らないが、鈴夏さんはとっくに頬を赤らめていた。
実際、告げたらもっと赤面したが。
「...参ったねぇ。こんな姉貴、いつでも捨てちまっていいのにさ。ずっと追いかけ続けて....、でも、ちょっと嬉しいかな。私の背中にちょこちょことついてきたあの頃と同じように、私を見ててくれたなら、ね。」
「1度、会ったらどうですか?」
「今更かい?...まあ、向こうが嫌じゃないって言うならそうしたいけどさ...。まっ、今は今。あの子が今、1番向き合ってあげなきゃいけない相手は私じゃない。また今度、全て片付いたら、あの子に会ってみようと思う。」
なんて話していて、俺は考えていた。
鈴夏さんにはこれがある。誰にも負けない鈴夏さんだけの武器が。
じゃあ、俺はどうだ?
ちょっと優れた学を持っているだけで、誰かの役に立てているだろうか?
自分で見た自分ほど、小さいものはないと、今ならわかる。
俺の取り柄ってなんだ?
結局、俺が言い聞かせたのは、俺自身だったのかもしれないな。
Don't measure
測るなという意味ですね。
...分かるか。
また会おうね(定期)