---美海side---
まるでそれは嵐のようだった。
大学に出て数ヶ月、久しぶりに帰ってきた遥は、また何かあったのか街へと引き返して行った。
とはいえ、大体の荷物は置いて行ってる、と千夏ちゃんの両親が言ってたそうだから、またすぐ帰ってくるとは思うけど...。
何だろうか、このもやもやした気持ちは。
あれから5年経って、遥は背も高くなって、よりかっこよくなった。
私も、自分では自覚はないけどよく美しくなったなんて言われるようになった。
狭山さんが言うのは信じないけど。
中学生にもなると考えることも変わる。
遥が好きだということは変わらないが、そう思い続けて生きてきた結果、もう千夏ちゃんと同い年になってしまった。
...千夏ちゃんがそのままだという確証はないけど、光が変わってなかったから、多分そういうことだと思う。
でも私はまだ、そんな思いを秘めたまま、過ごしている。
あの日の約束が裏切れないまま、私はどんどん遥を好きになっていた。
...好きの気持ちを我慢することは、いつまで経っても慣れないままだ。
午後4時頃だろうか、私はちょっと散歩を、と思って玄関で靴を履いていた。
光がちょうど晃と遊んでくれているので、ちょうどいいだろうと思う。
「美海ー、どこ行くのー?」
「散歩、5時くらいには戻るから。」
遠くから聞こえるあかちゃんの声に淡白に答え、私は外へと出た。
私は特に何もすることもなく黙々と海を目指して歩いていた。
なぜだか今日は、1人になりたかった。
なんでだろう?詳しい理由までは分からないけど。
あかちゃんとパパが結婚するまで、パパがいない時は私はずっと1人きりだった。
さゆも居てくれたけど...それでも、多すぎる空白は埋めれなかった。
私はそれが寂しかった。1人は嫌だって、心の底で思ってた。
でも何故だろう、今は、その1人の時間が...少し愛おしかった。
私の周りにはあかちゃんがいて、パパがいて、晃も遥も光もいて、もう決して1人じゃないってことは分かってる。
その事実があるというだけで、もう幸せなんだと思う。
でも、中学生になって、色々考えることが増えた。
誰にも打ち明けられないような悩みだっていくつかある。
だから今こうして散歩してるのはきっと、1人で考える時間が欲しかったんだ。
私は、埠頭付近に着くと、その場に座り込んで、氷の浮かぶ海をただぼんやりと眺めていた。
あの日から変わってしまった海。
最後に見た美しい海は、もう戻らないのだろうか?
...。
「おい。」
突然、後ろから男の声がした。少し大人びた、でも、確かに遥じゃない声。
振り向いた先にいたのは紡さんだった。
「あ、紡さん。」
「どうしたんだ?こんな所で。」
「...色々考え事、ですね。」
もっとも、もう一人の時間も終わってしまったが。
「奇遇だな。俺も、そのつもりでここに来た。」
「紡さんもですか?」
「...ここに来ると、心が落ち着くんだよ。だから、昔からこうやってずっと、海を見てきた。」
それは、ずっと海と一緒に生きてきた人の言葉だった。
遥や光らとは違う、海との距離で過ごしてきた人の言葉。
私なんかより、ずっと海を見てきたんだ、紡さんは。
「...なあ、ちょっと相談したいことがあるんだが、いいか?」
「?いいですけど...。」
紡さんが相談...?珍しいな。
しかし特に断る理由もなく、私は話を聞くことにした。
「美海は、好きになる...って、どういうことか分かるか?」
「それは...。」
私は言葉に詰まる。
私は、人を好きになったことがあるし、その気持ちは今も変わってない。だから、好きの気持ちがどんなものなのか、私は知っている。
でも、私が人にとやかく言っていいのだろうか?
5年前。私は、遥を、好きでありながら、その気持ちから逃げてしまっていた。今も、その後悔に縛られている。
約束なんて破ってしまえ、なんて考えたことがないなんて言わない。
けど、それを破ったらもっと逃げてるような、そんな気もしていた。
だから、私が人に言えるとしたら、逃げないという事だけだ。
自分の失敗は、せめて誰かに続けて欲しくないから。
「好きの気持ちは、最初はよくわからないんです。その人のことを思うと胸がチクッとして、気になって、それが好きになるって、ことなんじゃないですか?」
「...なるほど。」
「きっと、そう聞くって事は、心当たりがあるってことですよ。だったらせめて、その気持ちからは逃げないことです。...好きなら好きって、いつかちゃんと伝えないと...。」
そう言うが、自分で言ってて辛くなるのがわかった。
後悔を割り切れるほど、私はまだ強くないんだ。
「...遥か?」
「言わないでください...。」
「そっか。悪い。」
それ以上会話はなかった。
特に聞かれることもないし言うことも無い。
「お前のおかげで、少し気持ちの整理が着いた。ありがとう。」
そう言って紡さんは家へ戻っていった。
再び1人になった私はまたぼんやりと海を眺めていた。
自分と向き合うというのは、怖く、辛いものだ。
ましてやそれを誰かに伝えるなんて、恥ずかしかったりするものだ。
ただ、少し気分が楽になったのは、きっと勘違いだろう。
忙しいっす。
やばいっす。
投稿3日に1回とかですかね。
また会おうね(定期)