---遥side---
それから4日は早かった。
大悟先生は手術の成功のためにあれやこれやで大忙し、真冬さんはこの間ずっと陽香の傍に寄り添い、鈴夏さんは仕事の合間にこっちの仕事を手伝い、俺はと言うと、止める方法を必死に探し続けていた。
前日。
一通の電話がかかってくる。もう見慣れた番号だ。
「もしもし、先生。」
「おう、悪いな。明日だってのに。」
「それは言わない約束ですよ。誰だって緊張している状態なのは違いありませんから。...仕事が残ってるのは俺と先生だけです。明日は頑張らないと。」
真冬さんは現在進行形でやるべき事をなし、鈴夏さんにはもうやってもらった。残る当日班に全てかかっているのだ。
先生が手術を成功させ、俺が男を止める。
言ってみれば簡潔だが、内情はすごく複雑だ。
ふと思う。いつから俺は日常がズレていたんだろうと。
が、そんな雑念は、振り払おう。
「...そういえばよ、俺は今回の件で、色々と自分を見つめ直すことができたと思うんだ。」
「え、ええ...。どうしたんですか?急に。らしくないですよ。」
俺は茶化してみるが、先生の意思は固かった。
「だからよ、ちょっと今回の件が終わったら、もう一度あいつと向き合ってみようと思うんだ。一人で生きていくのも悪くない。けど、もっと違う生き方が俺にもできるんじゃないかって思うんだ。」
先生は、変わろうとしていた。
変わる、ということに俺は少し敏感になってしまう。
5年前のあの日から、俺は無作為に変わってしまった。
もう、あいつらと同じ場所にはいない。
だから、変わるという言葉は、少し苦手だった。
けれど、先生は自ら変えようとしている。
なら俺が言えることは何もない。せめて、それを応援するくらいしかないだろう。だから...
「...いいと思いますよ。だからそうするために、明日は頑張りましょう。」
これが死亡フラグというやつだと脳内で考えたが口に出してはいけないと思い、口を閉じた。
「じゃあな、明日はしくじるなよ!」
「あ、失礼しま」
俺が最後まで言い切る前に先生は電話を切ってしまった。
...1番緊張してても、無理はないよな。
ただ、俺は先生を信じることをやめなかった。
そして、当日。
最初の方は、かなり疑われていたが今ではすんなり通るようになった男の手により、俺は中の奥の方へと誘導された。
いくつものモニターがある場所だ。
映し出されているのは...病院だろうか?
映像をよく確認したが、どうやらそのようだ。
「すごいな、これ。いつの間にここまでしたんだ?」
「まあ、そこは色々な。執念に勝るものは無い。」
俺はいくつものモニターの中のひとつに目を向けた。
手術室だろうか?それと思われる道具がいくつも置いてあった。
「あと30分か...。ちょっと席を外す。ここで様子を見ておいてくれ。」
そう言って男はどこかへ離れていった。
その間に俺は...
...
「どうだ?始まったか?」
男が戻ってくる頃には手術室は人で埋め尽くされていた。
男はニヤニヤしながらただモニターを眺める。
あぁ...実に不快だ。
こんなやつのために、多くの人が影で危険にさらされてるのか。
早く...。
早く終わらせたい...!
俺は男とは違う思想で、早く早くと願っていた。
それから2時間後。
手術は終了した。
結果だけ言うと、手術は上手くいった。
外で待っていた真冬さんが泣きながら頭を下げていたのを見る限り、成功と見て間違いなさそうだ。
「...ふん。いいのかよ。病院が吹っ飛んじまっても。」
男は少し不快そうに、【手元にあるスイッチ】を手に取った。
「じゃあな、無能な医者共。ざまあみろ、日野の御大将!」
男は勢いよくそれを押す。
しかし、カチッと言う音がなるだけで何も起こっていない。
「あ?なんだこれ...どうなってやがる...!」
男は焦りだして何度も何度も押す。しかし結果は変わらない。
それもそのはずだ。
【そのスイッチ】は、俺が先程工作していたのである。
〜過去〜
「正気かい?あんた。」
「これが最善手なんです。」
鈴夏さんは作戦を伝えた俺に開口一番呆れていた。それもそのはずだ。俺がやろうとしていることは、あまりにも無謀で、俺個人が危険にさらされることだ。
「でもあんた、もし先に工作がバレたら...。」
「本物を押されて終わりですね、病院も俺も。でも、可能性があるのがこれしかないんです。」
「...ほんとにいいんだな?」
そうして俺は無理を押し通し、鈴夏さんに偽のスイッチを作ってもらっていた。
〜現在〜
「ちくしょう...まさか...!」
男が振り返ろうとした瞬間。俺が先に後ろから男の腕を締め付けた。
「野郎っ...!やっぱりてめえか!!」
「動くな!もっと痛い目見たくないならな!」
俺は必死に男の腕を抑え続ける。が、男の方の抵抗もなかなかで、挙句の果てに抜け出されてしまった。
「てめえよくも!!」
男はなりふり構わずナイフを取り出し突っ込んでくる。
...流石に空手でも対刃物なんてやったことないよな。
なんて一瞬考えれるほど、俺は落ち着いていた。
殺気の籠ったナイフ...刺されればまず死ぬだろう。
...生身なら。
俺は、男が突き出したナイフを持っている方の腕を、軽く下に払った。
そのままナイフは俺のズボンを切り裂く。
「なっ...お前...!」
「まさか足が義足だなんて知らなかった、なんていっても、ここから先は正当防衛だからな。」
軽くステップを踏む。足に問題は無い。
俺は全てを込めた一撃を、男の腹にぶち込んだ。
「ガハッ...」
男は殴られた腹を抱えながら倒れる。しかしまだ意識はあるようだった。
このまま怒りに任せて気絶するまで殴ってもよかったが、そんなこと意味がないと分かっていた俺は殴ることはしなかった。
俺は男の前にしゃがみこむ。
「すまんな。人を騙すのは好きじゃないが、今回ばかりはスッキリした。罪悪感だってないな。」
「なんで邪魔をしやがるんだ...!ほっとけばいいじゃねかよ...!」
「ほっとく、か。無理だな。今回危険にさらされた人の中に俺の大切な人だっているんだ。...それにお前、邪魔と言ったな。ああ、俺からすればお前が邪魔だ。俺の大切な人達は今、変わろうとしているんだ。それを邪魔されてなんて、たまるかよ。」
俺は少し願望を込めつつ男に語った。
男の言いたいこともわかる。自分の人生を狂わせた男に復讐したい。その気持ちを持つことは確かにあるだろう。けれど、だからと言って関係ない人間は巻き込んでいいはずがない。
きっと無関係でも、俺は知れば止めていたんじゃないかな。
そうしているうちに外からサイレンの音がした。
あらかじめ、警察に匂わせる事を仄めかしていたからね。
男は音が聞こえるとがっくし項垂れて、そのまま入ってきた警察に連れられて行った。
まあ、一方の俺も一応パトカーに乗せられてどこか連れていかれてしまったが。
明日から帰省っす。
ひぇー書く暇ねぇ...。
がんばろーる!
また会おうね(定期)