凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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こういうのはかけるんだ(*^◯^*)


第77話 白い絶望

---遥side---

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

きっと連日の疲れだろう。聴き逃しだってあるかもしれない。

 

今言われたことは、現実なんかじゃない。

 

 

そう信じるしかなかった。

 

「ごめん、もう一度言ってくれるかな?」

「えっと...何度も言いますが、...すいません。誰ですか?」

 

パリン、と、自分の中の何科が音を立てて割れた。

気がした、なんてものじゃない。

 

この時、俺の大事なものが、確かに壊れた。

 

「はっ、はは...。そうかよ、これが結末かよ...。」

呆れて笑う。そこには感情なんてないまま。

 

「遥...。」

「ほっといてくれ...。俺は今、ここにいるべき人間じゃないんだ。」

 

そして俺はふらふらと歩き出す。

 

そうだ、俺はこんな所にいてはいけない。

もう、俺の居場所は...ここにはないんだ。

 

「遥!待って!」

少し離れたあたりで美海が追ってくる。

 

「こっち来るな!...今、水瀬のためにどうこうできるのは、お前しかいないんだよ...。」

「そんなこと...。」

「お世辞はやめてくれ...。今は優しい嘘なんていらない。結局、答えは変わらないんだから...。」

 

その場で固まった美海に目をくれることも無く、俺は再び歩き出した、遠く、遠く。誰の目にもうつらないように。

 

 

 

 

 

歩く。

 

 

歩いて...。

 

 

それでも、俺に行き着く場所なんてなかった。

 

強く雪が降り始める。

ぬくみ雪なんかよりも遥かに冷たい雪が。

 

そんな雪を頭に被りながら、俺は歩く。

 

さて。どこへ向かおうか。

乾いた、空の心でそんなことを考える。

無駄だって、分かっているのに。

 

水瀬の家には、きっと水瀬が帰る。元あるべき場所に帰る、当たり前のことだ。

忘れ去られてしまった俺なんて、水瀬からすれば異分子だ。それに、前のような接点ももうない。

 

もうあの場所は、俺の居場所じゃない。

 

至さんの家には、至さんの家族がちゃんとある。あかりさんの弟である光がいるのはまだしも、そこに俺がいていいのだろうか。

 

海にはもちろん帰れない。果てしなく凍りつき、汐鹿生も閉ざされてしまっている。

...その冷えた海は、今の自分みたいなもんだろうか。

 

じゃあ街の方へ帰るか?

生憎の大雪で、電車もどうやら止めてしまうらしい。かといって街の方へ歩いていこうものなら、途中で倒れるのが関の山だ。

 

...いや、いっそこのまま一人で死んだ方がいいのではないのだろうか?

 

そうしたらもう何も考えなくていい。楽になれる。

 

そうだな、俺はちょっと疲れすぎたのかもしれない。

 

 

 

もう考えるのは、やめだ。

感情なんて、無くなってしまえばいい。

 

 

そして俺は行き着いた先のベンチで深く、深く眠りについた。

何故だろうか、もう雪の冷たさも、何も感じなかった。

 

街ゆく人の声も。

起こそうと声をかける人の声も。

しんしんと降り積もる雪の音も。

 

もう、何も聞こえなかった。

 

 

 

 

 

俺は、ずっとここで一人、それが答えなんだ。

 

 

 

 

---美海side---

 

遠ざかっていく遥の背中を、私は追えなかった。

5年前のあの日遥かを止めたように諭すことは、今の私にはできなかった。

 

千夏ちゃんが帰ってきた。

意識もある。私のことも覚えていてくれた。

 

ほんとは嬉しいはずなのに...嬉しくなきゃいけないのに...。

 

 

【千夏ちゃんは、遥の事を全て忘れていた。】

 

この事実が、私の中で渦巻いていた。

 

「えーっと千夏ちゃん、とりあえず家、戻る?」

「えっ、あぁ、うん。...美海ちゃん、大きくなったね。」

 

私は言葉に詰まった。

こういう時、なんて返せばいいか分からなかった。

 

5年経ったから?違う。

何を覚えてる?違う。

 

「うん、色々あったの。」

結局、曖昧な答えしか私は返せなかった。

 

 

 

数分して、千夏ちゃんの家に着いた。

とりあえず私がインターホンを鳴らす。出てきたのはお母さんの方だった。

 

「あら?いらっしゃい美海ちゃん...。...!?」

千夏ちゃんのお母さんは後ろにいた千夏ちゃんに驚き、その場に座り込んだ。自然と頬を涙が伝っている。

 

「ただいま、お母さん。」

そう言って笑顔を見せたのは、5年前のような、いつもの千夏ちゃんだった。

 

「千夏...。」

奥からお父さんも出てくる。

まあ、こういうこともあって、私は中へと招き入れられた。

 

「ねぇ千夏ちゃん?どこまで覚えてる?」

「ん?昨日の...あ、違うか、5年前のこと?」

「うん。」

 

とりあえず最低の連絡が終わりひと段落ついたが、遥が忘れ去られたことは言えないでいた。それに、今どこにいるのかも気になる。

 

「うーん...お船引きはやったよね。確かその時に飛び込んで...うーん、ここまでかな?覚えてるのは。」

「じゃあ、大体は問題ないかな?」

 

嘘だ。問題しかない。

千夏ちゃんはお船引きに至るまで、何度も葛藤して、何度も辛い思いをしてる。

それなのに、こんな軽々しく片付けていいわけが無い。

 

それに...、千夏ちゃんは、遥が好きだったんだ。

でも、忘れ去ってしまった今、フェアに戦う、なんて出来ない。

 

もう、遥のこと、遥にまつわる全てのことを、千夏ちゃんは、忘れているんだ。

 

そんなの...悲しすぎる...。

 

「美海ちゃん?」

「ううん、何も無いよ。」

どうやら顔に出てしまっていたようだ。

 

とはいえ...このままだと、限界がある。

いつかは私も心のどこかが、決壊してしまうかもしれない。

 

今は...ここには入れない。

ただ、最後に伝えなきゃいけないことがある。

 

「千夏ちゃんのお父さん。」

「ん?なんだ?...っと、そういえば遥がいつ帰ってくるか聞いたか?」

 

なんで、このタイミングで...、そんな悲しいことを...。

自分が伝えるだけでよかったのに。

 

「...遥は、当分帰ってきません。それに...」

私は一瞬言葉に詰まり目じりを拭う。

 

だめだ。ここで泣いちゃいけない。

 

「千夏ちゃんは...遥のこと...忘れ去ってしまってるから...。」

「!?...そうか...。」

 

お互い、それ以上何も言わなかった。

 

私は家を出て、当てもなく走る。

流れてくる涙も、もう気にすらしなかった。

 

私を動かしていたのはひとつの気持ち。

遥に、今すぐ会いたい。

ただそれだけで、私の足は冷たさにも負けず動いていた。

 

気がつくと鷲大師から結構離れた場所にいた。

 

...ちょっと来すぎたかな。

 

私は戻ろうとする。

しかし、あるものが目に入り、私は声にならない悲鳴をあげた。

それは人だった。そこは間違いない。

けど、その身体には雪が積もり、唇には赤さはなく、寝てるはずだが息すらしてない。

 

強く吹雪く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは、死んだように眠っている遥だった。




うーん。
とりあえず明日から更新期間開きます。
ご了承ください。
では。

また会おうね(定期)
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