---美海side---
「遥!?大丈夫!?」
私は遥の近くへ駆け寄り、体を揺する。けど、遥かの目は開かない。
念の為遥のおでこを触ってみる。
...冷たい。
生きているのかどうか不安になるほど、遥の体は冷えていた。ここに来てから長いのか、手足も少し凍傷を起こしかけている。
なんでこんな日に限って...!
空が冷たいの...!
私達を嘲笑うかのごとく、雪はいっそう強さを増した。
遥の、呼吸による体の動きも、次第に弱くなってきている。
...どうしよう?
来た道を一応覚えてるからわかるけど、近くに電話なんてなかった。
だから誰かを呼ぶってことは出来ない。
かといって遥を家まで運ぶのも...おそらく無理だ。
距離も遠いし、体力にも無理がある。
そんな中、ふと、私の目にあるものが入った。
...なるほど。これなら。
それ以外の方法が無かった私は、遥を無理やり背負い、そこへ向かった。
「重っ...、運べるかな...?」
因みに後々考えたが、普通私が遥を持てるはずなんてなかった。
けど今は何故だろうか、なんとか持てる、そんな気がした。
見た目は真新しい、ひとつの廃倉庫。
中もそこそこ綺麗で、とりあえず待機するには十分。
しかし、廃倉庫とだけあって中身は殆ど空に近かった。
小さなガスコンロが1つ、まだ綺麗な毛布が1つ。
使えそうなものはこれだけだった。
「これって遭難、ってやつなのかな...。」
もう一度外に行って遠くを見てみる。汐鹿生とはもう3〜4kmほど離れていた。
私一人なら歩いて帰れない距離じゃない。けど今は...。
千夏ちゃんのそばにいれるのは私だけ、遥はそう言った。
でも今、遥のそばにいれるのは、私だけなんだ。
だから、5年前のあの日決めたこと。
遥を傍でずっと支える。それができるのは、今なんじゃないかって。
私の頭に引き返すなんて言葉はなかった。
それから時間が経った。
1時間。
2時間。
それでも遥の目は覚めない。
私も疲れからか次第にうとうとし始める。
あれ...、今、何時だっけ...。
まあいいや、少し、眠ろう...。
...
「う...ん...。」
また数時間後、目が覚める。
外の様子を見る。辺りはだいぶ暗くなっており、おそらく夜だというのは推測できる。
ここからまた、冷えてくるだろうな...。
それに、今日は家に帰れそうにない。
まあ、事情が事情って割り切ろうか。パパ、ごめんね?
「さてと...ここで心中、ってのも考えれるかも...。」
なんて冗談か本当かわからない独り言をつぶやく。でも、不思議と怖くはなかった。
「んん...。」
その時、ちょうど遥が目を覚ました。が、いい顔はしていない。
「遥...」
「あ?ああ、ああああ....。」
「!?どうしたの、遥!?」
すごく苦しそうな顔で、遥が呻き声をあげる。それは、何かに魘されるような感じで。
「もう、もうやめてくれ...。苦しい思いは、もう嫌だ...!」
遥は魘されながら、涙を流す。
ダメだ。今の遥は、正気を保っていない。
このままだと、精神まで壊れちゃう。
そんなこと、させたくない...!
だから。
「ごめんね、千夏ちゃん。」
私は、咄嗟に遥の唇に唇を重ねた。
この、私の最愛の人へのキスは、私にとって、遥にとってもきっとだろう、初めてのキスだった。
少しではなく、やや長い時間。
遥の息が落ち着くまでのその時間、私はずっと遥に深く、濃いキスをした。
ごめんね、千夏ちゃん。約束、守れなくて。
でも、今だけは、遥を楽にさせてあげて...。
「...美海は、そこにいてくれてるのか?」
正気に戻ったであろう遥は、目を閉じたままそう呟く。
「うん、ちゃんと、遥のそばにいるよ。」
私は小さな声で、でも力強く返す。
すると同時に、遥は私に抱きついてきた。
中途半端な体制だった私は、それに引っ張られるように倒れた。
「きゃっ!?...は、遥...?」
「お願いだから...どこへも行かないでくれ...。」
遥はまだ目をつぶったまま、私を抱きしめている腕を離さないでいた。けど私は、その腕からかいくぐることはしなかった。
少なくても今日だけは、その傍から離れないと決めたから。
例え遥が獣となって襲ってきても、私は受け入れる。
だって、私は遥が好きなんだから。
夜は冷えた。
外気が倉庫を構成している鉄をすり抜けて入ってくる。
だから体温が下がってしまわぬよう、私と遥は同じ毛布で一緒に寝ることにした。
言い方を変えれば温め合う、そういうことだろうか?
私と遥は、そんな毛布の中でお互い抱き合っていた。
今は邪魔するものは何も無い。お互いの心くらいだった。
「悪いな美海。こんなのに付き合わせちゃって。」
「ううん、いいの。...ただね、お願いがあるの。」
そう、約束を破ったからと言って、破ったままではいけない。だから...
「今日のことは、ずっと忘れて欲しいな。私のキスも、体温も全て。」
「...いいのか?それが美海の願いなら、俺はそうするけど...。」
「うん、いいの。だからね...せめて今日だけは。」
夢を見させて。
私は聞こえないように、そう呟いた。
うーん、描写もうちょい細かくした方がいいかな?
とはいえ、悪くない出来。
因みに書き溜めです。
また会おうね(定期)