---美海side---
手を繋ぐ。
それはとても簡単で、とても難しい行動。
ましてや好きな人の手なんて、簡単には握れない。
けど今はこうして、大好きな人の隣で、手を繋いで歩いている。
すごくすごく冷たい手だけど、確かに好きな人の手の温もり。
理由がねじ曲がっていたとしても、私はその結果だけでよかった。
私達は家に着いた。私としては千夏ちゃんの家を出たあと一瞬だけ戻ったので、一日ぶりになる。
「ただいま。」
「美海!どこ行ってたの!...って。」
出迎えたあかちゃんは私を怒るのを途中でやめ、隣の遥を見る。遥はどこかもどかしそうな顔をしていた。
「どうも...。」
遥はそういった後、咄嗟に調子のおかしい手を後ろに隠そうとした。しかし、動いたのは手だけじゃなく、身体全体だった。
「あれ...?ちょっと足に力入んないや...。」
「!?美海、遥君に肩貸して、そのまま中へ入れてくれる!?」
その様子を見たあかちゃんは必死な表情だった。
余程危ない状態なのだろう。場に緊張が走る。
「行くよ、遥。...よいしょっと。」
重たい。
昨日無理やり背負った時には感じなかったのに、何故か肩を貸すだけですごく重みを感じた。
昨日がおかしいのか今日がおかしいのか。それを知る由もなかったが、今は考えないでおいた。
...
数分後。
場も落ち着き、遥の状態もひとまず落ち着いたので、空いてる部屋に寝かせた後、私はあかちゃんに呼ばれた。
まあ、間違いなく昨日のことなんだけど。
「それで、千夏ちゃんに忘れ去られたショックで失踪していた遥君の元に、一日中居たってこと?」
「うん。...昨日はそれしか判断できなかった。」
私が迷いなく否定すると、あかちゃんは怖い表情をやめた。
「...そうしてもらえる遥君は、きっと幸せ者だね。」
「どういう事?」
するとあかちゃんはすこし目を伏せた。
「私もね、分かるの。美海がやったことの大切さ。1番苦しい時に、好きな人に寄り添って欲しいのは、きっと誰だって一緒だから。私も、至さんにそうしてもらったようにね。」
「でも、遥が本当に好きな人は...。」
そう、きっと遥は千夏ちゃんのことが好きなんだ。
あの日の告白の返事を、私はまだ知らない。
けれど、遥の目は、ちゃんと私に向いていてくれているんだろうか?
「美海。諦めちゃだめ。たとえ実らなくてもね、好きの気持ちは間違いなんかじゃない。それに、チャンスはあるでしょ?」
「...いいのかな、こんな形でチャンスなんて言って。」
約束のこと。
確かに、遥との距離がまた一気に近づいたのは嬉しかった。
けど、ずっと心にこのままでいいのか、なんて気持ちが残っていた。
私は...どうすればいいんだろう?
「ねぇ、美海。話は変わるんだけどさ、遥君の症状、あれお風呂入れば治るやつなんだけど...」
あかちゃんはあくどい表情を浮かべる。
まさか...
---遥side---
急に身体が固まったのは驚いた。
理由はわかっている。身体の冷えすぎだ。
からっからに晴れている場合だとエナが乾いて動けなくなるが、周りが冷えている状態でどんどん体温を下げていくのもまずいみたいだ。
美海と温めあったといえど、さすがに限度もある。自業自得だが、なるべくしてなったものだろう。
さて、これからどうしようかな...。
一瞬だけそんなことを思い浮かび、直ぐにやめた。
思い出すのは痛い記憶。
それに今は、美海がいる。
それだけで十分だろ。
そんな俺は、天井を仰ぎながら、ふと寝かされる前、あかりさんに言われたことを思い出した。
「ずっと寝ててもいいけど、体がある程度動かせるようになったら、風呂でしっかりと身体を温めて。そうしたら、そこから30分くらいで治るから。」
おそらく、この症状についてはあかりさんしか知らないだろう。
海では、こんなに冷えることはまずない。
陸へ上がって5年、ずっと住んでいるあかりさんだからこそ分かるものだ。
「さてと...そろそろ動けるかな?」
よっと声を上げ、立ち上がる。立ちくらみのような感じが一瞬したが、立てないことは無い。
「すいません、風呂借ります。」
聞こえたかどうかは知らないが、俺はそう言って風呂へと向かう。
しっかしさすがに新築なだけあって、風呂場も綺麗なんだよな...。
風呂場には塩が置いてあった。なるほど、入る毎に入れろってことか。
陸でそれなりの時間を過ごした分、ここら辺の分量はわかってる。
とりあえずそれだけの分量を入れ、俺は風呂に入った。
...
これからのことを考えるのはやめた。
踏み出す足元は見えず、1歩踏み出した先が奈落の先である、今ならそんな気だってする。
ならば、と、ふと過去のことを考えた。
それこそ、夢で見せられたようなこと。
人を好きになる気持ちを、考えようとしなかったあの頃。
人を好きになる気持ちに向き合おうとして、ずっと苦しんでいる今。
分かってる。
後者が正しいってことは分かってるのに。
後一歩はきっとまだ...。
ガラッ!
瞬間、何が起こったのかわからなかった。
聞こえたのは扉の開く音。そこにいたのは...。
「ちょ、美海!!?」
特にないよ。
夏休みももう終わり。
夜奏花でも聞いて寝ますか。
また会おうね(定期)