---遥side---
あれから数日間、俺はずっと潮留家でお世話になっていた。
分かってる、ちゃんと前を向かなきゃいけないことくらい。
少なからず、夏帆さんと保さんは、俺の帰りを待ってくれているはずだ。
そういう人のことを、俺は考えてなかったのかもな。
しかし結局、どこまで行っても1人にはなれなかった。
ただ、それが100悪いかと言われたら、違う。
多分俺は、自分の気づかないうちに美海への好意を膨らませていた。
あの日水瀬に好きだと伝えようとした人間が、だ。
この感情はなんだろうか。
昔は、得体の知れなかった好きという感情。
今となっては近くにありすぎてよく分からない。
少しずつ、美海との距離が近くなっていった。
そして、少しずつ輪郭が見えてくる、今後のあるべき自分。
あぁ、きっと、今の俺は間違いだ。
ただ単に自分の心の中にあった欲、意志を全てぶつけようとしていたんだ。俺は。
これ以上こんなままで生きるわけにはいかない。もう、大切なものは傷つけたくないから。
だから俺は、今日、答えを出す。
夜。
まだ、寝静まるくらいの時間ではないが、外はもうもう随分と暗くなっていた。
一応客間は貸してもらってるが、それももう終わりを迎えなきゃいけない。
大丈夫、決心はしている。これからどうしたいかも、決まった。
だから俺が最後にしなきゃいけないのは、それを伝えることだ。
それが誰かって?そんなもの決まっている。
ずっと寄り添って、励まして、歩幅を合わせて、立ち直らせてくれた人。
俺の、大切な、大切な人。
俺はその人の部屋をノックする。
ドアは直ぐにガチャと空いた。
「何?どうしたの遥。」
「あー、ちょっと外出てくれるか?庭のとこ。」
「なんで...?まあ、いいけど。ちょっと待ってて。」
美海は特に気にする様子もなく、上着を羽織った。
「それじゃ、行こっか。」
美海はドアを出て、俺の横を通り過ぎる。
先程使用したのかシャンプーの匂いが、俺の鼻腔をついた。
変な言い方になるけど、いい匂いだった。
ただ、それ以上に思えたのは、美海が...
「?どうしたの?」
いや、何でもない。
「...ああ、行こうか。」
「それで、何で急に?」
縁側に座って話を始める。大事なことを話したい時、こうしたほうがいいと教えてくれたのは保さんだった。
「ちょっと、話をね。」
「ふーん...。いいよ、どんな話?」
ああ、もう単刀直入に言ってしまおうか。
どうせ隠しても何も残らない。むしろ失ってしまうこともある。
大事なことは真っ直ぐに全部伝える。
「俺さ...、明日から水瀬家に戻るよ。」
美海は一瞬驚いた顔をして、それは直ぐに慈しむ顔へと変わった。
「...そう。」
その一言だけだった。
悲しかったのだろうか、嬉しかったのだろうか。表情から、声質からそれは読み切れなかった。
ただ、伝えたいことはこれだけじゃない。
言ったはずだ。「全部」だって。
「あの日から数日間、ずっとこの家にお世話になってて分かった。俺はきっと、欲をただぶつけていただけだった。なんかこう、自分が自分じゃないような、ずっとそんな生活だった。けど、美海とだんだん近づいて、やっと分かった。...俺は、もう一歩を何度でも踏み出さなきゃいけないんだって。だから、選んだ。もう一度、水瀬と向き合うって。」
ただ、自分が自分じゃないような生活の中で、確かな自分の感情もあった。
「美海の事が好き」
そう芽生えた思いは、決して嘘偽りじゃない。
でも、欲をぶつけないというのなら、今はまだ、その答えを出せない。
ちゃんと、もう一度あの日の水瀬の気持ちに向き合って、美海の気持ちに向き合って、それで答えを出そう。
だから今は、最後のお願いを。
「だからさ、美海。今は最後のお願い、聞いてくれるか。」
「...いいよ。そうやって、何度も振り回されたしね。」
クスッと笑って美海はOKをだす。俺はそんな美海の手を握った。強く、強く、決して離れることのないように。
「それがお願いでいいの?」
「ああ。これで、これがいいんだ。せめて今だけは、こうやって二人でいさせてくれ。」
「うん。」
それから会話はなかった。
ただ、2つの手が強く繋がれたまま時間が過ぎていく。
これでいい。このままでいい。
繋がれた手は、覚悟だ。
もう、大切なものを失わないために、俺は大切なものの温もりを自分に刻みつける。
最後に俺はどことなく呟いた。
「ありがとう。美海。」
更新あいてしまいすいません!
今後も空きます!
がんばろーる!
また会おうね(定期)