凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

82 / 112
特になしです。


第82話 繋いだ手の向こう

---遥side---

 

あれから数日間、俺はずっと潮留家でお世話になっていた。

分かってる、ちゃんと前を向かなきゃいけないことくらい。

少なからず、夏帆さんと保さんは、俺の帰りを待ってくれているはずだ。

そういう人のことを、俺は考えてなかったのかもな。

 

 

しかし結局、どこまで行っても1人にはなれなかった。

 

 

ただ、それが100悪いかと言われたら、違う。

多分俺は、自分の気づかないうちに美海への好意を膨らませていた。

 

あの日水瀬に好きだと伝えようとした人間が、だ。

 

この感情はなんだろうか。

昔は、得体の知れなかった好きという感情。

今となっては近くにありすぎてよく分からない。

 

 

少しずつ、美海との距離が近くなっていった。

そして、少しずつ輪郭が見えてくる、今後のあるべき自分。

 

あぁ、きっと、今の俺は間違いだ。

 

 

ただ単に自分の心の中にあった欲、意志を全てぶつけようとしていたんだ。俺は。

これ以上こんなままで生きるわけにはいかない。もう、大切なものは傷つけたくないから。

 

 

だから俺は、今日、答えを出す。

 

 

 

 

 

 

夜。

 

まだ、寝静まるくらいの時間ではないが、外はもうもう随分と暗くなっていた。

一応客間は貸してもらってるが、それももう終わりを迎えなきゃいけない。

大丈夫、決心はしている。これからどうしたいかも、決まった。

 

だから俺が最後にしなきゃいけないのは、それを伝えることだ。

 

それが誰かって?そんなもの決まっている。

ずっと寄り添って、励まして、歩幅を合わせて、立ち直らせてくれた人。

俺の、大切な、大切な人。

 

 

俺はその人の部屋をノックする。

ドアは直ぐにガチャと空いた。

 

「何?どうしたの遥。」

「あー、ちょっと外出てくれるか?庭のとこ。」

「なんで...?まあ、いいけど。ちょっと待ってて。」

 

美海は特に気にする様子もなく、上着を羽織った。

 

「それじゃ、行こっか。」

美海はドアを出て、俺の横を通り過ぎる。

先程使用したのかシャンプーの匂いが、俺の鼻腔をついた。

 

変な言い方になるけど、いい匂いだった。

 

ただ、それ以上に思えたのは、美海が...

 

「?どうしたの?」

 

いや、何でもない。

 

「...ああ、行こうか。」

 

 

 

 

 

「それで、何で急に?」

縁側に座って話を始める。大事なことを話したい時、こうしたほうがいいと教えてくれたのは保さんだった。

 

「ちょっと、話をね。」

「ふーん...。いいよ、どんな話?」

 

ああ、もう単刀直入に言ってしまおうか。

どうせ隠しても何も残らない。むしろ失ってしまうこともある。

大事なことは真っ直ぐに全部伝える。

 

 

「俺さ...、明日から水瀬家に戻るよ。」

 

 

美海は一瞬驚いた顔をして、それは直ぐに慈しむ顔へと変わった。

 

「...そう。」

その一言だけだった。

 

悲しかったのだろうか、嬉しかったのだろうか。表情から、声質からそれは読み切れなかった。

 

ただ、伝えたいことはこれだけじゃない。

言ったはずだ。「全部」だって。

 

「あの日から数日間、ずっとこの家にお世話になってて分かった。俺はきっと、欲をただぶつけていただけだった。なんかこう、自分が自分じゃないような、ずっとそんな生活だった。けど、美海とだんだん近づいて、やっと分かった。...俺は、もう一歩を何度でも踏み出さなきゃいけないんだって。だから、選んだ。もう一度、水瀬と向き合うって。」

 

 

ただ、自分が自分じゃないような生活の中で、確かな自分の感情もあった。

 

「美海の事が好き」

 

そう芽生えた思いは、決して嘘偽りじゃない。

でも、欲をぶつけないというのなら、今はまだ、その答えを出せない。

 

ちゃんと、もう一度あの日の水瀬の気持ちに向き合って、美海の気持ちに向き合って、それで答えを出そう。

 

だから今は、最後のお願いを。

 

「だからさ、美海。今は最後のお願い、聞いてくれるか。」

「...いいよ。そうやって、何度も振り回されたしね。」

 

クスッと笑って美海はOKをだす。俺はそんな美海の手を握った。強く、強く、決して離れることのないように。

 

「それがお願いでいいの?」

「ああ。これで、これがいいんだ。せめて今だけは、こうやって二人でいさせてくれ。」

「うん。」

 

それから会話はなかった。

 

ただ、2つの手が強く繋がれたまま時間が過ぎていく。

これでいい。このままでいい。

 

繋がれた手は、覚悟だ。

もう、大切なものを失わないために、俺は大切なものの温もりを自分に刻みつける。

 

 

 

最後に俺はどことなく呟いた。

 

 

 

 

 

「ありがとう。美海。」




更新あいてしまいすいません!
今後も空きます!
がんばろーる!

また会おうね(定期)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。