凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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空いた


第83話 オワリハジマリ

---遥side---

 

翌日、俺は改めて水瀬家へと戻った。

ただし、立ち振る舞いは少し変わった。

 

俺はあくまで遠い親戚だと、水瀬とは少しあっただけと。

そうしてくれた方がメンタル的には有難かった。

 

かつて水瀬千夏という人間が告白した島波遥という人間は、ここにはいない。

そう割り切ってしまう方が、淡い期待をするより心が楽だった。

 

 

「ということで、今日からうちでお世話になる島波遥君だ。」

 

あえて保さんは俺の紹介をする。ただ、あれから5年間、息子のようにお世話になったわけだ。保さんの心境も楽なものでは無いだろう。

 

「はじめまして...、かな?一回だけあった事があると思うけど。」

「ああ、なんかどこかで...、えっと、よろしくお願いします。」

 

やはり水瀬は他人行儀だった。

まあ、無理もない。実際今の水瀬にとって俺は他人だ。

 

それに...、もう同級生ではない。

俺の方はすっかり大きくなり、変わってしまった。

 

そういえば水瀬の病気のことが少し気がかりだけど...、まあ、それは追追考えていこう。

都合よくなくなる、なんてことがあってくれたらいいのだが。

 

いや、やめよう。

 

それより、1つ気になったことがある。

 

歳が離れてしまった、という事は、気軽に呼びにくくなるだろう。

だから俺は、出来れば水瀬には遠慮しがちに話して欲しくない。

 

あの日、堤防で話した時の事の逆。俺の望みはそれだった。

 

「えと、せっかくだし、敬語なんてなくていいよ。だからその...、千夏って、呼んでいいか?」

「うーん、いいです...いいよ?」

 

なんだろう?と千夏は首を振るが、とりあえずは了承してくれた。少し変な視線を後ろから感じるが、気にしなかった。というか気にしたら負けだ。

 

だっておそらく、夏帆さんがすごいにやにやしてるんだから...。

 

 

 

 

 

 

かくして、1度リセットされた俺と千夏の関係がリスタートした。

 

 

 

そして、その日の夜。

仕事から帰ってきた保さんに、俺は呼び出された。

いつもの場所、こういう時はだいたい大切な話だ。

 

 

ふと、空を見上げた。

街は変わってしまったが、見上げた夜空は変わらない。

 

そうか...、もう5年経ったんだな。

初めてこうやって保さんと話した時からも、千夏に出会ったことからも、もう5年。

 

たった...?

 

違うだろ。

 

 

 

長すぎるだろ...。

 

 

 

 

 

気がつけば俺はツーっと涙を流していた。ずっと考えないようにしてきたのに、思い出すだけ辛いからって封じ込めていたのに。千夏が戻ってきて思い出してしまう。5年前の日々。

 

まだみんな、帰ってきてないんだ。

それに、もう返らないものもある。

 

前を向くと決めても、辛いものは辛いままだった。

けど、進むしかないのはわかってる。

 

俺は、すぐに拭きあげ、上げた顔を下ろした。

 

「...大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。それで、今日は何の話をしましょうか?」

 

「ああ、そのな...。お前、本当に大丈夫か?帰ってきてくれたのはありがたいが、その、お前に無理があるのは一番ダメだ。」

 

「大丈夫ですよ。本当に。辛くないって言ったらそれは嘘になりますが、俺、分かったんです。記憶が無くなってしまっても、また思い出を作れるのなら、それもいいんじゃないかって。過去だけ振り返っても、戻るものはないんですよ。」

「それが、お前が潮留家でお世話になってる間に分かったことか?」

 

「そうですね。...最初は、忘れられてしまった自分なんてもう必要が無い、そう思って距離を取ってました。本当に不甲斐ない話ですけどね。でも、向こうで美海と距離が詰まって、思い出になるような事もいくつかあって、それで、分かったんです。過去は戻せない。未来は書き足せる、って。」

 

「そうか。...お前は、千夏は今のままでいいと思うか?」

「ええ。千夏が幸せと思えてるなら、今が一番いいです。俺としては。」

 

言ったことは嘘ではない。

俺は自分の幸せの価値観を他人に押し付けるような人間にはなりたくない。幸せかどうかの判断は結局個人に委ねられるのだから。

 

本音を言えば、記憶を取り戻せるようならそうあってほしい。

けど、やっぱり決めるのは千夏だから。

 

 

...美海がどう思うかは、わからないけど...。

 

 

保さんは特にリアクションをすることも無くただ頷いた。

自分の意見は見せないまま、相手の言うことを受け入れる。

ちゃんとした大人が、こういうことを容易くできるようになるというのなら、俺はきっと、まだまだ甘いな。

 

数秒の後、保さんが立ち上がる。

「そうか...。さて、こんなもんかな。そろそろ入るか。確か今日の晩は千夏だったな?」

「ええ、なかなか張り切ってましたよ?」

 

なんか俺がきたからという分が影響したらしいが...、まあ、最初もこんなもんだったし、慣れてるったらそうか。

 

俺は帰ろうとしたが、立ち止まった。

また、少しおかしな風を感じたからだ。

 

「保さん。先行っててください。もうちょっと夜風に当たってくので。」

「ああ。5分くらいで戻れよ?」

 

そう言い残して先に保さんは中へ入っていく。

 

 

 

俺が感じた風は、冷たさの中に、少し強く潮の香りを含んでいた。

汐鹿生に何かあったのだろうか?誰か打ち上げられたのだろうか?

 

ここからだと海はよく見えないが、どこかそんな気配を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、事態は動いていく。そんな予感に俺は支配されていった。

 

 




忙しい!(苦痛)
ネタも厳しくなってきたけど踏ん張る。
今までそうやってきたし。

また会おうね(定期)
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