---遥side---
答えを出したのか、俺はそう問われた。
それを聞く要の目はいつになく真剣だ。
当然だ。誰だって好きな子のことについては真剣になる。
きっと俺が要の立場でも、同じような態度をとるのではないだろうか?
さて、それはともかく、結論から言うと。
答えは出している。
お船引が終わってから答えを出す。そういう約束だったが、終わって直後にそんなことを言えるはずはなかった。
俺も心に傷を負っていたが、多分ちさきも俺と同じくらい、...いや、あいつの性格だからもっとか。傷を負ってただろう。
そんな中で、追い打ちをかけるように言えるはずはなく、ずっとタイミングを待っていた。
結局、伝えたのは高校入学の時くらいだった。
ちょうどこの頃から、ちさきの目が俺に向かなくなってきた。理由はおそらく紡だ。
俺はもともと水瀬家にいたが、ちさきはお船引の1件後、木原家に住まわしてもらっていた。
同じ家に男女二人、当然何も起きないはずはなく...、みたいなセリフがあるが、まさしくそれだ。
実際、心が不安定な時に支えてくれた人がいたら、そっちに傾くのは普通だろう。
そのタイミングで言ったのは、結果からいえば成功だった。
ちさきは1年の後、だいぶ吹っ切れていたのだろう。少し寂しげな表情はしたが、引きずることはなかった。
その後は特に関係に変化なく、同じ陸に残ったものとして、海村のものとして、これまで通りの関係を保った。
そして今日に至る訳だ。
という大まかな事を要に伝える。
「そう、それならいいんだ。」
少しの安堵と、喜び。感じたのはそれだった。
けれど...。
要が辛いのはきっとここからだろう。なにせ、ちさきの目が俺から紡に向いただけであって、要を取り巻く環境は、何一つ変わっていないのだから。
しかし、そんなことを言う勇気は俺にはなかった。
夕方頃。
要を連れて俺は漁協へ向かった。調査班の方が、何やら色々聞きたいことがあったらしい。
途中、ちさきと紡が同じタイミングで入った時、要が若干眉を動かしたが、気にしないほうが賢明だった。
「さて、確認だけど、要君は陸に上がってきた時の感じを覚えてる?」
「はい。そうですね...、気がつけば上がっていた、といえばそれまでなんですけど、何かこう...、特殊な流れみたいなものを感じました。多分、入るのにはヒントになるかと思うんですが...。」
そういうものの、どこか不機嫌そうな要。自分たちの住んでいた場所を荒らされるのが嫌なのだろうか?
まあ、愚痴は後で聞いてやるとして、とりあえず本題だ。まだ不可解な点はあるが、少しずつ糸口は見えてきてる。そのことはこの場にいた海村の人全員分かっていた。
特に光は、今か今かと待ち続けていた。
現状、海に残っているのはまなかだけだ。どうにかしたいのは分かってる。
とりあえず、もう数日調査して結果が出る、との事だったので、今はそれに従うことにした。
さあ帰ろう、としたかったところだが、要に呼び止められる。
仕方が無いので一緒に来ていた水瀬に先に帰っててもらうことにする。
「それで、どうして俺を呼び止めたんだ?」
「遥なら分かるよね。僕の思ってること。」
「さあな。完全にはわからん。」
なんて言ってるが、大体は把握済みだ。
実際、おおよそ2つの事だ。
ちさきと紡の距離。あんなもの見せられては気に食わないのは当然だろう。ましてや、要も木原家にお世話になるという事だから、これは結構重要な問題だろう。
もうひとつはさっきのこと。全く接点のない陸の人間に自分の街を踏み荒らされるのが気に食わないのだろう。
正解は、後者だった。
「あんなに堂々と汐鹿生を踏み荒らされるのは、さすがに頭にくるね。なんにも接点のない陸の人間が、僕達の言ってることまで道具にして調査をしてる。そうして汐鹿生に帰るのって、僕は嫌だな。」
「確かに、自分の家が知らない人に入られるのと近いな。...でも、こればかりはケースバイケースだ。俺達は汐鹿生に帰りたい。あの人たちは汐鹿生について知りたい。利害関係が一致してる以上、協力する以外はないんじゃないか?」
要はさらに不機嫌になる。
「へぇ?自分だけ陸に残って丸くなった?少なくとも、そんなあっさり人のことを信じて、意見に飲まれる、そんな人間じゃなかったよね?遥は。...少なくとも、僕はこんな結果、認めたくないね。」
ああ、そうか。
こいつはまだ、陸と海のつながりを、完全に肯定してないんだ。
5年前、ずっと見てきたのに気づかなかった。
あいつは、とりあえず遠くから見るだけで、このことについて自分の思いを口にしなかった。
周りが仲良くなったから自分も、みたいな流れだっただけで、完全にそれは自分の意思じゃない。
今、変わりつつある状況だからこそ、要もまた少し変わってるんだ。
「そうか?...ならしょうがないな。お前にどうしろなんて言わない。自分の好きなようにやったらいい。結果はあとからついてくるからな。もちろん、恋もな。」
最後の方が聞こえてないことを願つつ、俺はその場をお開きにした。
「...そんなの、無理だよ。」
要は誰にも聞こえないように弱音を吐いた。
夜前。
当たりはだいぶ暗く、もう街灯の近くでないと人が見えない。
そんな中、俺はと言うといつもの堤防で海を見ていた。
特に理由はない。ただぼんやりと、ほのかに揺れる凪いだ海を見続ける。
そのうち、トントンと背中を叩かれた。
「ん、誰だ?」
振り向く先には見慣れた顔。
「えっと、こんばんは?私なんですけど...。」
まーた進度遅いんとちゃうん?
流石に3日に一回はいきたい。
では。
また会おうね(定期)