凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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30分遅れた


第90話 呼び名

---遥side---

 

陸へ上がる。

他のみなはまなかの方へ付き添って行ったが、俺は現在千夏を背負っているので、流石にそちらの方を優先することにした。

 

 

「それで、この状態は?」

「ああ、これまでの病気とは違うだろう。ただ、発熱もないようだから、すごく危機な状況...、でもないだろう。こっちは寝かせておけば問題ない。...遥の方は、大丈夫か?」

「ええ、ちょっとだけ身体が冷えましたけど、大事に至ることは無いです。身体もあったまってますし。けど今日は、ゆっくり休んでおきます。」

「ああ、そうしたほうがいいかもな。」

 

病気の事を知ってるであろう保さんから言質を取れたので、俺は自室で少し眠ることにした。

ああは言ったが、流石に身体にも割と負担がかかっているのは間違いない。

 

床に転がり、天井を見上げる。

手で空間を裂き、その感触を確かめる。

 

 

...そういえば、海の中で呼吸したのって、結構久しぶりだったな。

陸で長いこと過ごしてたから若干感覚が薄れていたとは思う。

 

 

なるほど、俺はだいぶ陸の人になったってことか。

それこそ、5年前の光が見たらなんと言われるんだろうかなんて思う。

 

ふぅ...。

 

 

今でも海は好きだ。

それは間違いない。何せ生まれ、育った街を好きにならないわけはない。

 

けれど、今思うのはそれ以上に陸が好きだという事。

もう長いこと陸で過ごしてきた。となれば、愛着も湧く。

それに出会いもあった。沢山の思い出も作った。

きっと、時間よりも濃いものを、陸で得ている。

 

 

 

俺もそろそろ先の未来を選ばなければならない。

大学生活も長いわけじゃない。いずれ、何か仕事につくことになるのは当たり前のことだ。

 

...。

もし、汐鹿生が元に戻っても、そこに俺の居場所はあるんだろうか?

【嫌われ者の烙印】だけではない。

数年前から、仕事を求めて海から出ていく人が増えている。俺の両親も実際そうだった。

 

おかしな話だ。

人には出ていって欲しくないくせに。出ていった人が戻る場所はない。

 

あの場所に、俺の求める仕事がなければ、俺は陸に残るだろう。

5年前にも同じようなことを考えたが、今はあんなに浅はかではない。

大事な人がいるし、大好きな人がいる。

それはいつだって変わらない。が、大好きの定義は変わった。

 

そろそろ、そっちの気持ちにも向き合う時が来たな...。

 

さて、眠くなったしそろそろ...。

 

 

...。

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。

ちょうど夜時、晩御飯までもう少しくらいなところだろう。

身体には寝起きの倦怠感が残っているが、まあ、これくらいはと起き上がる。

 

さて...、色々気になることがあるが。

まずは千夏の様子を見に行こうか。

 

 

コンコン、とノックを2回。

「入るぞー。」

「...。」

 

返事はないが、否定はされてないとの事で、俺は中へと入る。

 

千夏は起きていた。

ベットの上で、上半身を起こして窓から外を見ている。

 

「どうしたんだ、千夏。起きてるなら...。」

「話があるの【島波君】。」

 

えっ...?

 

耳を疑った。

でも、現実だ。確かに今千夏は、島波君と呼んだ。

それは5年前のいつものように。

俺は名前を呼ばれた。

 

 

「千夏...、お前...、記憶が?」

「...うん、全部思い出したわけじゃないと思う。多分、10%にも満たない。でも、私があなたの事を島波君と、そう呼んでいたことは思い出した。...なんでだろう、汐鹿生に行ったからかな?」

 

 

俺は胸がおかしくなりそうだった。

 

正直、もう記憶が戻らなくても、と割り切っていた部分もある。

けれど、目の前の千夏は記憶を取り戻しつつある。

どこまで戻るのかは知らない。多分、このまま1部だけってのもあるかもしれない。

もしそうだとすると、千夏は苦しむかもしれない。

 

どうすればいいんだ...?

 

「...その話、詳しく。」

「うん、そのために呼び止めたんだから。...確かね、何度か音が聞こえたの。そして、出る間際に頭痛がきた。最初は冷えすぎかなって思ったんだけど、どうやら違うみたい。何かこう...揺れるような感じっていうか。」

「なるほど...。」

 

仮説を立ててみる。

千夏が昔持っていた病気、その片鱗はなくなった。しかし、それと同時に、俺に関する記憶も欠落している。

この現象が、海で繋がってるのか...?

 

...もし、このふたつが海で繋がってるのなら。

海が元通りになると、全て元通りになるのだろうか。

でも、病気が戻ってくるのなら、マイナスだ。

 

もし、このまま海が戻らないのなら。

最悪記憶治療に頼る...、ってのもありになるのだろうか。

 

 

でも、それは千夏が決めることだ。

俺はただ見守り続けよう。

 

ただ、これだけははっきりさせたい。

 

「なあ、千夏。」

「なに?」

「お前は、記憶を取り戻したいか?」

 

「...うん、分からないけど、私は多分、真実を知りたい。もし、記憶の中に、私の生きた証があるのなら、知っておきたいから。」

「そうか。」

 

それ以上は会話はなかった。

 

今度大悟先生に連絡してみるか...、なんて思いながら食卓へ向かう。

 

これだけは言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今確かに、世界の歯車は動き始めた。

 

 




こっから期末試験。
がんばろーる。

また会おうね(定期)
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