---遥side---
翌日、俺は1つのアドレスに電話をかけた。
どうしても知りたいことがあったからである。
prrrr...
「おう、なんだ?久しぶりだな。」
「お久しぶりです、大悟先生。」
大悟先生に電話をかけた理由は1つ。
記憶治療についてだ。
数年前からその手の話題はちらほら聞いていたが、実際に行われているかは分からない。
せめて医者の口から、ちゃんとした情報を聞いておきたかったのだ。
「どうよ?あれから元気やってるか?」
「いくらか問題がありますが、まあ、ぼちぼちです。そういえば、あれから陽香は?」
「ああ、もうすっかり良くなって当分前に退院してるぞ。なんだ?連絡いかなかったのか?まあ、忙しいってんなら無理もないけどな。」
「忙しかったんですよそれが...。それに、新しい件についてはまだ解決してないですし。」
「ふーん?また俺、何か厄介事に絡まれそうな雰囲気がするんだが、まあいい。聞いてやるよ。んで、医者の側面から出来ることがあれば手伝ってやるよ。」
正直ありがたかった。
こればかりは精神論ではなく、物理的な話だ。
医者から見て可能かどうか、というのは、今回重要な基盤になる。
「先生、記憶治療って、知ってますか?」
「ああ。さすがに俺も医者だからな。...なるほど、分かった。電話越しは面倒だから後で病院来てくれ。」
「そうですね、立ち話の方が楽ですし。」
「じゃあ一旦切るぞ。」
俺は一旦電話を終え、数分の後に病院へ向かった。
...
道中。
たまたまこの日は早めのバスに乗っていたが、同タイミングでちさきが乗り合わせていた。
実は、ココ最近ちさきとの会話はほとんどなかった。
別に関係がギクシャクしてるとかそういうのではない。ただ単に、お互いのことで忙しかったり、などが重なっていたのである。
「よう、ちさき。」
「遥...。」
ちさきは少しこちらに驚き、またいつもの調子に戻った。
「遥がこの時間でバスに乗ってるのって、少し意外。病院にでも用があるの?」
「まあな。今日も学校か?」
「ううん、今日は休み。ただ、ちょっと...。」
そう言ってちさきは言葉を濁す。
「...まなかのことか?」
「うん。」
聞くところによると、今朝になってもまなかが起きる様子は無かったようだ。どうやら光の時のようにすんなりとはいってないらしい。
...当然か。
誰にも口外はしていないが、俺なりに推論は立っている。
まなかがおじょしさまになったというのはまあ間違いないことだ。
そして生贄として、海にずっと眠らされ続け...。
...。
...待てよ?
そもそもなんで、昔のお船引は生贄を必要としたんだ?
陸の人が海神様に何かを求めたというのは考えれる。
けれど、海神様は、何を思っていたんだ?
ウロコ様なら...知ってるのか?
くそっ、ダメだ。
今はここが限界だろう。これ以上は見通しが立たない。
まなかの目覚めを待つこと、これが、現状できることだ。
「今日、先生に詳しい検査をお願いしてみようと思うの。おそらく、あの様子じゃまなか、まだ起きなさそうだから...。」
「そうだな。それが一番だと思う。...なあちさき、もしまなかが目覚めて、何も異常がなかったとしたら、そこから先はどうするんだ?」
「その話は、ちょっとしたくないかな...。」
トーンは暗かった。
どうやら触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。
ただ、ちさきも俺と同じ状況だ。
皆より先に、人生を進んでいる。ちさきはおそらくそのことを一生気にするだろう。
あの日、病院で死んだように眠っていた俺とは違い、ちさきは、皆が海へ引っ張られていくのをただ1人見ていたのだ。
そして、ちさきは人一倍責任感が強い。
自分だけ陸に残ってしまって、おめおめと未来を掴んでいいのか悩んでいる。
俺みたいに、元から陸に残ると決めてたわけじゃないからな...。
確かに簡単に聞いていいような質問でもないな。
そこを反省し、話題を変えようとする。
が、ちょうど病院へついたみたいだ。
「じゃあな。」
「うん、またね。」
俺はバスから降りると、以降後ろを振り向かなかった。
...
「で、話の続きだな。」
「ええ。」
俺は、病院へ入ると顔パスで先生の診察室に案内された。そして今に至る。
「記憶治療、確かにうちの病院でもできないことは無いが、ちゃんと症状の確認、一定期間の入院、高難易度の手術...。まあ、少なくとも簡単な話じゃない。まずは、どういう状況か聞こうか。」
「えっとですね...」
それから俺は千夏の事について、洗いざらい話した。
もうこの際、この人に隠すことなんて何も無い。
ただ、海と関係がある以上、手術で治るのかどうかは謎だが...。
「なるほどな。その場合なら、多分手術で治せないこともない。強力な外部ロックのようなものがかかってるのなら別だが、お前単体のことくらいなら、恐らくそれもかかってないだろう。...ただ、さっきも言った通り、この手術は結構危険だ。もう一度本人の口からどうしたいか聞いてから来るんだな。」
「先生...。」
「なんだ?」
「最近彼女でもできました?」
「な!?...はぁ!?」
大悟先生は赤面して一気に熱くなる。
ああ、やっぱこの人ウブだなぁ。
「...あれから上手くいってます?」
「ああ、おかげさまでな、ちくしょう...。」
どうやら、あれから鈴夏さんと上手くいってるらしい。
当然な話だと思うけどなぁ...。
結局2人とも両思いで、ずっとそれこじらせてたんだから。
...。
俺もこう、いつか素直に人を愛せるんだろうか?
その答えは、これから見つけなきゃだな。
恋愛と、幸せと、海と...。
なるほど、少しずつ見えてきた。
いつか書いてこいと言われた論文、その内容が浮かんでくる。
簡単な話だ。俺の人生はこんなに色濃い。
なら、俺が生きてきた証を、目一杯記そう。
あっ、ほんま...(絶句)
期末試験も順調、この様子なら行けそう。
では、がんばろーる。
また会おうね(定期)