凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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ここから佳境


第92話 親心

---遥side---

 

現在地、水瀬家。

夜7時の事である。

 

テーブルを囲んで4人、いつもの光景ではあるが笑顔はない。

長く続く沈黙。それぞれが、それぞれの複雑な心境を迎えている。

 

しかし、その原点は1つ。

千夏の記憶について、ただそれだけであった。

 

「確認するぞ、千夏。お前は、少しずつ記憶を取り戻してるんだな?」

長い沈黙の後、保さんが口を開いた。

 

「うん。ほんの一部だけど、島波君のことを思い出した。...けど、なんだろう、今はもうこれ以上は思い出せない気がする。その記憶治療?に頼れば思い出せないことはないらしいけど...。」

 

「一応、手術のことは詳しく聞いたんですけど、100%成功はないらしいです。それでも治る可能性の方が高い、とは言ってました。ただ、やっぱり危険なぶん、本人の意思を聞いてこいと言われて現在って感じですが...。あぁ、それと、もし手術を行う場合、費用は向こうが全額負担するらしいです。(これに至っては向こうの院長がそう言ったらしいから驚いた。)」

「なるほど...。結局、千夏がどうしたいかで全部決まるわけか。」

 

保さんはあくまで千夏の意見を優先するそうだ。夏帆さんに至っても同じ。

もう少し、親としてこうして欲しい、とか意見を言ってもいいとは思うんだけど...。

 

 

それこそ、実の娘の安全を優先するのであれば、受けさせるべきでは無いと思うだろう。

でも、こうして悩んでくれているということは、自意識過剰みたいなことを言うが、俺のことも気にかけてくれているのだろうか?

 

 

 

もしそうだとしたら、俺は一生、この2人の息子でいたい。

 

「ね、千夏はどうしたいの?こればかりは私たちが決めることじゃない。だからちゃんと、千夏の口からどうしたいか聞かせて?」

 

夏帆さんが優しく諭す。

やはり親心だろうか、その態度には不安が全面にでていた。

 

 

 

「分かってるよ、お母さん。...やっぱり私は、記憶を取り戻したい。この気持ちに間違いはないよ。確かに無くしちゃったらどうしよう、なんて思ってる。けど、それ以上に、私は大切な何かを失ってるの。

それが一生私の中に残るのは、嫌だから...。」

 

 

それは千夏の決心。

揺るぎない覚悟。

こうなれば誰も止めることは出来ない。

ただその結果を待つことが、俺たちにできることだ。

 

 

 

 

...

 

 

 

 

結局、千夏はもう翌日には入院を開始、すぐに手術を受ける日程になったようだ。

ということは、しばらくこの家ともお別れ。少し寂しいのだろう、先程から下を向いている。

 

だから俺に出来ることは。

 

「なあ千夏、散歩行かねえか?」

 

 

 

...

 

 

 

「なんで、急に?」

俺は千夏を連れていつもの堤防へ向かった。

俺と千夏は、ただ遠くを懐かしさの眼差しで見ている。

 

「ん?ああ、元気なさそうだったからな。ほっとけなかったんだよ。」

「そんなことないし...。」

 

なんて言ってるが、元気はない。

しかし、今話してる中でタメ口に戻ってるのも、少しは嬉しかったりする。

 

「やっぱり、後悔、してるのか?手術受ける選択をしたこと。」

 

「...ううん、それは絶対にない。私、知りたいからさ。何がここまで私を動かしてるのかなって。記憶をなくす前の私は、島波君に何を思ってたのかなって。だから、お父さんたちには悪いけど、後悔はしてないよ。」

 

そう言って千夏はもっと遠くを見る。こちらに目を合わせる様子はない。

 

「じゃあなんでお前は...。」

「...お父さんたち、ほんとに辛そうな目をしていたの。多分、私なんかよりずっと複雑な心境なんだと思う。...思えばずっとそうだったなぁ。私、小さい頃から心配させてばっかりで。...でも、なんで心配させてたのか、思い出せない。...だから、こんな複雑な心境を抱いてしまうなら、もう最後にしなきゃって。お父さんたち、もう心配させたくないの。」

 

「そうか。」

思えば俺もずっと心配させてきたな。

でも、何も言わず、あの人たちは受け入れてくれた。

メンタルももうかなりボロボロなのかもしれない。

それでも、信じてくれている。

 

 

なるほど...。

これが、【親】ってものなんだな。

 

それは芯から暖かく、

大きくなって初めてわかる。

 

 

そうだな、ならせめて俺も、あの人達に何か最大の孝行をしたい。

それはこれから考えていこう。

しっかり生きて、しっかり悩んで、一生のうちに答えを出そう。

 

とりあえず今は、千夏に付き添おう。

そうすることで、あの人達が安心するのなら。

 

 

「そういえば、お前に渡しておくものがあったな。」

「え、どしたの急に。」

 

俺はポケットから1つの小さな箱を出す。

それはいつかのネックレス。

 

受け取った千夏は首を傾げた。

 

「これは?」

「気にすんな、ただのプレゼントだ。」

 

理由は言わないでおこう。

ただ、これが思い出すきっかけになってくれるなら。

そんな淡い願いを埋め込んで俺はネックレスを手渡した。

 

 

 

さて。

この夜空が明るくなれば千夏は自分との戦いが始まる。

頭上の流れ星に俺は小さく願い事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せめてこの行く末がよくなりますように、と。

 




そういえば近々修学旅行なんすよねぇ...。
楽しんできます。
では。
がんばろーる。

また会おうね(定期)
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