---千夏side---
手術の日を迎えた。
不思議と恐怖は湧かない。驚くほど心は穏やかだった。
今日で全てが決まるって言うのに、まるで事の重大さが分かってないというか...。
いや、分かってる。
分かった上でこんなに落ち着いているんだ。
「じゃあ手術に向かいますよ。」
何人かの先生が私の元へ来る。いよいよだ。
覚悟は出来ている。
これからどっちの未来に転ぶかは分からない。
全て失うか、全て取り戻すか。
一度近くにおいてあったネックレスを握る。
何故だろうか、誰も触れていないのに、心の底から温まる何かがあった。
私はその温もりが消えないうちに、手術室へ向かった。
そして手術が始まった。
麻酔をかけられ、意識が次第に遠のく。
体は重く、瞼は次第に落ちていく。
私はそれに逆らうことなく、瞼を閉じた。
...
......
気がつけば私は宙を浮いていた。
宙を浮いていた、ということもあって、これが夢だと自覚していた。
私は、白い天井の建物の中にいた。
窓際のベッドには、1人の少女がいた。
ただ遠く見える海を、ずっと見渡している。
その瞳には憧れの眼差しが。
そうか、ここは病院なんだ。
私も確か、小さい時同じように海を見た記憶がある。
その時は、なんで入院したんだっけ...?
...
答えは出てこなかった。
そして、少しの後に私の司会がぐにゃりと歪み、私は思わず目を閉じた。
そして、再び目を開けた時、場面はまた別なものだった。
ただ変わらない点もある。映し出されているのは先程の少女。
ただ、少しばかり背丈も伸びている。
なるほど。
この時、私はその少女の過程の夢を見てるんだとはっきり分かった。
そこからの少女。
壁ができていた友人関係を破ろうと色々回って。
海の中で運命の出会いをして。
病気と戦いながら、次第に周りとの中も深まって。
運命の出会いをした男の子と同じ家に住むことになって。
喧嘩して、仲直りして、ネックレスを預かって。
(...ネックレス?)
それから、告白して...
...答えは...出ずに......
男の子は...
少女を庇って事故にあって...
意識は.....ないまま...答えは得れずに....
少女は海に飲まれた......。
........。
この少女が、起きたとき、何を思うんだろう?
男の子...【島波君】への後悔しかないのかな?
...あれ?
私は、今、この男の子の事を、島波君って...。
じゃあ、この少女は...
そうだ。きっとこの少女は....!
その時私の意識は光を通り越し、私の中の、全てがこと切れた。
---遥side---
赤い看板、手術中のランプがついている。
俺は病院内の椅子に座っていた。そして、ドア1枚の向こうに千夏がいる。
あの中で千夏は今、自分自身と戦っているんだ。
〜過去〜
実際に手術が行われる前日、俺は大悟先生に詳しい話を聞きにいった。具体的にどうするのか、だとかは俺は知らなかったからな。
「記憶治療ははっきりいって、医者がそんなに手を加えることはないんだ。まず、全身に麻酔をかける。これは基本だな。今後の作業には痛みが伴うからな。...んで、ちゃんとかかったとわかった状態で脳の記憶を操作させる部分に強い刺激を与える。医者の仕事はここで終了だ。あとは、本人が夢を見る。その夢が夢のままであれば、記憶は二度と帰ってこない。逆に言うと...」
「そこでその夢が自分だと気づけば、記憶を取り戻す。と。」
「そうだ。100%成功と言えないのはその記憶の内容の濃さに個人差があるからだな。今回の患者がどんな人生を送ってきたかは知らねえけど、お前と関わってるなら色濃いんじゃねえのか?」
「俺をなんだと思ってるんですか...。」
なんて言ってみたが実際はどうなんだろうな?
告白されたし...、とか思うと色濃さは十分だと思う。
〜現在〜
手術室のランプが消えた。
医者達がぞろぞろと出た後に、ベッドで眠っている千夏が運ばれている。
あとは起きるのを待つだけ...、か。
その時、俺は背後から近づくような恐怖に支配された。
もし起きて、自分の名前すら忘れたら?
悲しむのが俺だけじゃすまなくなるのはごめんなんだよ...!
千夏は病室へと戻っている途中くらいだろうか。
俺もそろそろ帰ら...
「きゃああああああああああああ!!!!!!」
!?
俺の耳に、聞き覚えのある声の悲鳴が入った。
---千夏side---
全部、全部思い出した。
私の名前は水瀬千夏、そして私の隣にいてくれたのは島波遥。
私は彼のことが好きだった。
好きだったのに、私の手で何度も彼を傷つけた。
私のせいで片足を失い
私のせいで5年の時を寂しく過ごし
そうだ。島波君の人生に、私なんかがいちゃいけなかったんだ。
島波君の隣に私がいたら、島波君はきっと、取り返しがつかないほどに傷ついてしまう。
...ああ、そうなんだ。
私はもう、居場所なんてなかったんだ。
だから、こんなとこにいては行けない。
みんな。今までごめんなさい。
じゃあね。
一瞬戻った意識は、身体を動かしながら消えていった。
---遥side---
「先生!!」
「おう、なんだ!今忙しいから後に...」
「千夏、何があったんですか?...どこ行ったか分かりますか!!!?」
ベッドに千夏がいないことを確認し、先生に状況説明を求める。
「あ、ああ。意識を取り戻したと同時に、起き上がって絶叫しながら走って逃げていってしまった。どこに向かうかは俺も知らないが...。」
「分かりました!!ありがとうございます!」
俺はそれを聞くと全力で千夏を探しに行く。
俺は走る。
当てもなく、ただ無我夢中で千夏を探すために走る。
走る、走る。
だんだんと息が上がり、体力が衰えているのがしみじみと伝わる。
それでも、信念だけは変わらない。
失えないものを失うのは、もうやめだって決めたんだよ...!!
もうちょいで終わるかも?
まあ、まだ続くよ。
また会おうね(定期)