---千夏side---
私がたどり着いたのは、いつもの堤防だった。
まだ外は明るいままだが、私の、先の視界は既に黒く染まり、もう希望を見出す余裕もなかった。
「そっか。全部、ここから始まったんだよね。」
そう、あの日、この場所で島波君と出会ったことで、「私」の物語が始まった。
けれど。
私はもう、この物語に終止符を打つ時が来たんだ。
全てと別れて1人、惨めに消えよう。
...辛い?
そんなもの...、考えたくもない...!
私は躊躇わず海へと飛び込んだ。きっと、時間が全てを解決してくれるだろうと信じて。
---遥side---
「どこだ!千夏!」
大声で街中で叫び回るが返事は帰ってこない。
ここまで来るともうあての無い捜査は無駄になる。
手がかり...か。
少々焦りすぎて急いでいた脳を落ち着かせて考える。
もし、俺が千夏の境遇だとしたら、どうするか。
思い出のある場所、そこには絶対寄るな。
離別、決別を決めるにはその時間がたしかに重要だ。
そして、どこへと向かうか...。
...
なるほど。
答えはひとつしかないな。
そういえばいつか美海とこんなことが...、ってそれはどうでもいい!
急ぐぞ!!
「さて、一応...!?」
いつもの堤防付近。俺は立ち止まろうとしたが、ちょうど身を投げ出すように海へ飛び込んだ千夏が目に入り、止まることは出来なかった。
でも、見つけるべきものは見つけた。
俺は何も考えることなく、ただ千夏を追い海へと飛び込んだ。
---千夏side---
泳ぐ。
ただ当てもなく泳ぐ。
先日感じた違和感なんて感じないほど、今の私に感覚はなく、無心の果てに着いたのは汐鹿生だった。
この前はコンパスに頼らないと行けないほどだったのに...なんで?
ピキキ...
音が聞こえる。そういえば、いつかもこんなことがあった...。
なるほど...、私はここに導かれたってことなのかな?
そんな事すらもう、どうでもいい些事なことのように思える。
1人になるのに場所を選ぶ必要なんてない。
結局、誰かが迎えに来るはずなんてないのだから...。
ないはず...なのに...。
「なんで...?」
私の目の前には島波君が立っていた。
---遥side---
飛び込んだが、海は広い。
俺はいつの間にか千夏を見失っていた。
「くそっ、埒があかねえっての...!」
思わず苛立ち任せに弱音を吐く。けど、このままではいけない。
ピキキ...
???
音が聞こえる。
左耳の方が強い...、そっちに呼ばれているのか?
俺はとりあえず音の鳴るほうへただ泳いでいく。
次第に周りの流れが強くなるが、俺が泳いでいるまっすぐだけ本当に何も無く。
導かれてるのか...?しかもここって...。
そう、俺はいつの間にか再び汐鹿生へと帰っていた。
...こんなこともあるのか。
ただ、導かれたのは俺だけではなかった。
驚いているのはその本人だ。
「なんで...?」
「なんで、って言われてもなぁ...、千夏を追ってたら先に着いちまったみたいだな。」
「そういうことじゃない!なんで私のこと気にするの!私はあなたの...あなたの人生をめちゃくちゃにして...、もっと憎んでよ!恨んでよ!!もう今の私は...気にされるだけ辛いんだよ...。」
千夏は泣き叫ぶ。
記憶を取り戻した時になだれ込んだ感情が消化しきれてないのだろうか、今の言葉はそれを全て吐き出したような感じだ。
いや、違うか。
こんなもんじゃないか。千夏の抱えてた思いは。
「もう...私に居場所なんてないんだよ。だからせめて、最後くらい1人にさせてよ...。」
やれやれ。
俺は前にもこんな光景を見たな。
...いや、あの時は俺自身がそうだったんだな。
自分の居場所なんて無いと、1人死のうとした事がある。
けど、美海が気づかせてくれたホントの気持ち。
それがあるから、今俺はここに立ってる。
「だからさ、千夏。」
ツカツカ、と俺はまっすぐ千夏に向かって歩き出す。
もう、ここから先は言葉はいらない。それよりもっと効果的なものがある。
本人の中に、好きという気持ちが残ってるなら...
刹那、俺は千夏の唇を奪った。
---千夏side---
「ん!?...ん」
一瞬、何が起こったか分からなかった。
ただ唇から伝わる暖かい感触。
そうか、これは...キスだ。
ほのかに海を感じる、いや、このしょっぱさは涙?
分からない。けど、確かにキスだ。
ようやく私の脳の理解が追いついた時には、私はもう動けなかった。
ただ、唇から伝わる感触に全てを任せ、何も考えずに...。
分かってるよ...。
自分の気持ちに嘘ついてもダメなんだって。
...私は今だって、島波君のことが好きなんだって...。
でも、伝えれない。
もう、その言葉を口にする資格は私には...。
〜いいんだよ。〜
声がした。誰も口を開いてないのに、声がした。
この声はきっと...。
そして、キスが終わる。
お互いの顔に羞恥は無かった。
「あのな、千夏。お前がどれだけ苦しいものを背負ってるのかは、俺は正直分からない。軽々しく他人が口にしていいものでもない、そう思ってる。...けど、けどさ。それでも俺は千夏を恨むことも、憎むこともできないよ。」
「なんで...なんでそんな...。」
私は何も言い返せない。言う言葉なんてまとまってもいないからである。
「...あの日、俺が渡したネックレスのこと、覚えてるか?」
「...うん。」
ギクシャクした関係をつなぎとめたひとつのネックレス。
うん、ちゃんと思い出せる。...けど?
「あのネックレスに託した思い、自分を大切にするって。そう言ったのは俺なんだよ。...それなのに結局お前のことしか考えずに、俺は自分を壊してしまった。それが今こうやって千夏を傷つけてる。...だから悪いのは俺だし、お前は何も気にすることはねえんだ。」
「でも、そんな事...!」
「はぁ...。いい加減気づけよ。自分の気持ち。それにな、お前の帰りを待ってるのは俺だけじゃねえんだ。保さんも夏帆さんも、美海もみんな、お前を待ってる。帰る場所はちゃんとあるじゃねえか。」
1人じゃ...ない。
けど、本当に...本当にこれでいいのかな。
いや、もう答えなんて得ている。
「...過去は戻らない。私も罪を背負ったまま。...それでも、私は前へ進めるかな?」
島波君はふっと笑った。まるで、何か待ちわびていたかのように。
「ああ、もちろん。大丈夫に決まってる。なんたって、みんないるからな。」
そっか。そうだよね。
私の罪は消えないだろう。ずっと引きずったまま生きてくんだ。
それでも許されるのなら、前を向いて生きよう。
そしてもう一度、ちゃんと好きという言葉を伝えよう。
今度は逃げないように。ちゃんと受け止めれるように。
だから今は言っておかなければいかないことがある。
「ねえ、島波君...いや、遥君。」
「おう...?なんだ?」
「あの日の告白、忘れてくれないかな?私は、ちゃんともう一度自分の気持ちに向き合って、そしていつか、答えが出た時、それを伝えたいの。」
「そうか。いいよ、俺もちゃんと向き合う時が来たみたいだからな。」
向き合う時...?
そっか、美海ちゃんも、少しずつ動いてたんだね。
今は私と同級生。いよいよフェアと言える環境になってしまった。
もちろん、負けない。
だって私は誰よりも遥君が好きだから。
「...じゃあ、そろそろ戻るか。先生達言いくるめないとまずそうだな...。」
「あの、遥君。」
「ん?今度はなんだ?」
「...ただいま。」
私がそういうと遥君は満面の笑顔で答えた。
「ああ、おかえり。千夏。」
明日から修学旅行。
というわけで空くよん。
把握お願い致します。
また会おうね(定期)