凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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特になし


第97話 光無き瞳

---遥side---

 

翌朝。

まだ肌寒い中、俺は少し早めに服に袖を通し、外へ出た。

今日は休日。家にいる人の行動パターンは大体バラバラなので、おそらく文句は言われないだろう。

 

 

さて、こうして外に出た理由だが、至って簡単なことだ。

 

昨日、推論を大まかに立ててみた。

それがあってるかどうかなんて判断は、誰にもできない。

 

 

本来なら。

 

 

 

もし、その推論がごく1部のものにしかわからないもので、その人が全ての心理を知る神様なら、答えを知っているはずだ。

 

そう、ウロコ様だ。

 

まなかの様子がおかしいのを感じたのは、俺と光が最初だった。

 

正確には光が気づいていたかどうかは分からないが、あの後家の外から覗いた光とまなかの様子はどうもおかしかった。

光の顔が何か言いたげだったのが1番の証拠だ。

 

おそらく、光はウロコ様を探すだろう。多分、光だけでなく他のみんなも。

 

だから、俺がやるべきことはちゃんと真実を知ることだ。

今まで兄貴分だのリーダーだの言われてきて、あいつらを引っ張ってきたんだ。今回も、俺が前に出なきゃいけない。きっとそうだ。

 

それに、ウロコ様が何処にいるか、それは俺だけが知っている。

だから誰にも知られないよう、この時間に出たわけだ。

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

浜辺の近くの林の中、ひとつの小さな祠がある。

影から海を見守る、と言わんばかりの位置にあるこの祠が、ウロコ様のもうひとつの居場所だ。

 

5年前から、俺だけが知っている。

 

そして、俺はぶっきらぼうに呼びかけた。

 

「おいウロコ様、いるならちょっと出てきてくれ。」

こんなもの出るのかと思われるが、ここで出るのがウロコ様だ。

 

「なんじゃ、こんな朝早くから。これから漁師のとこの坊主に呪いでもかけようかと思っておったんじゃがの。」

 

漁師のとこの坊主...ってことは紡かな?

 

 

...いいんじゃねえの?あいつ海好きだし。

 

「あ、それはどうぞお好きに....、ってそうじゃないそうじゃない。あんたに話があるんだ。」

「ふん、そんなの見れば分かるわ。...少し待っておれ。」

 

屋根の上に座っているウロコ様は何やら呪いを使ったような仕草を見せ、こちらを向き直した。

 

「で、話はなんじゃ?もうお前は大丈夫かと思っておったんじゃがの。」

「そう思われてんならありがたいけど今回ばかりは少し訳が違う。俺自身の事じゃなく、まなかの事だからな。」

 

「ほう、向井戸のとこのな。あれがどうしたんじゃ?」

「そんな態度しなくてもわかってることくらい知ってますよ...。」

 

「まあ、さすがにバレるじゃろうな。...で、向井戸の娘について、何を聞きたいんじゃ?...いや、聞き方を変えるかの。遥、お主今どこまで知ってるんじゃ?」

 

「推論ですが深くまで。とりあえず聞いて貰えますか?」

「言うてみろ。」

 

「まなかはお船引の時、名目上生贄だったあかりさんを庇い海へと引っ張られた。そして発見した時の場所、あそこは、おじょし様の墓場、と言ったようなところだった。つまり、まなかはおじょし様になった。」

 

ウロコ様はまだ顔色ひとつ変えない。

「ほう、それで?」

 

「そして、帰ってきたまなか、少し様子がおかしいのは知ってますね?

千夏も俺に対する記憶を失っていたがまなかはそれとは違う。失ってるものは記憶じゃなく、もっと感情的な側面のものでは?」

 

ピクリとウロコ様の眉が動いた。

「...なぜ、感情的なものと考えたんじゃ?」

 

「昨日ですね、あかりさん家行ったんですよ。そこでカニ鍋をこぼして火傷した晃の手当をしていたあかりさんを、見ていたまなかの目には、光がなかった。それはまるで、何をしているんだろう、と言わんばかりの目で。」

 

ウロコ様ははぁと溜息を1度ついた。

「お主みたいな切れ者、海村において置くのももったいない気がしてきたの。...そうさな、お主の言ったことは概ねその通りじゃ。じゃが、まなかがなんの感情を失ったか、というのは推測がついておるのか?」

 

「...考えさせてくださいね。」

そう言って俺は黙り込む。

 

練る。何が抜けてるのか。

...違うな。

あの瞳はなんでああしてるのかわからないという目だ。

では、あの行動にはなんの感情が働いていたのか。

 

親子...。

 

なるほど、そういうことか。

 

 

 

 

「おそらく、愛情、ですか?」

 

ウロコ様はおぉと感嘆の声を上げる。

「そこまで分かるのかお主は。...詳しく言うと、人を好きになる気持ち、これがまなかの失ったものじゃ。」

 

「人を、好きなる気持ち...。」

 

俺は絶句した。

 

仕方の無い。人を好きになること、それは言わば人生の生きがいの1つだ。人を好きになるために生き、そのために死ぬ。

その気持ちを失ったってことは...

 

 

人間として、半ば死んでるようなものじゃないか。

 

 

「まず、おじょし様の話じゃな。...おじょし様は、海から陸へ戻る時に、海神様によって人を好きになる気持ちを奪われたのじゃ。陸の想い人への想いを経つために。」

「そしてそれが、新しくおじょし様になったまなかに継がれた...。」

「そういうことじゃ。」

 

 

...まいったなこりゃ。

 

はっきり言って俺に実害はない。

けれど、まなかを好きな人間がいるんだ。

もし、その思いが届かないって言うならそれは...。

 

くそっ、どうにかするしかないか。

 

 

「それで、質問は以上かの?」

「以上ですね。とりあえず、知りたいことは知れたんで、時間の許す限り今はそれを。」

「そうか...。そうじゃ、わしからもお主に聞きたいことがあるんじゃが。」

「はぁ、いいですけど。」

 

しかし、ここでyesを言ったのは間違いだった。

理由は簡単、答えれるはずがないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お主は、2人のうちの、どっちを選ぶんじゃ?」

 




これは丁度光らがウロコ様に合う数日前の朝の話ですね。
ところで更新だいぶ開きました。
また開きます。


また会おうね(定期)
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