---遥side---
「...驚いた。ウロコ様もそんな質問するんですね。」
「わしとて、1度は誰かを愛したことのある記憶を持ってるものじゃ。他人の恋愛事情に興味が無い訳では無いぞ。...もっとも、お前のようなタイプは尚更じゃな。」
やれやれ、やっかいなところに目をつけられたな。
とはいえ、実際俺自身これは向き合わなければいけないものだ。
けれど。
一概に今答えは出ない。
「そうですか...。まあ、聞いても無駄でしょう。俺自身が一番分かってないんですから。」
「ほう?」
「ああ、分からないって言っても、どっちが好きなのか、ってことですよ。好きになることについて、ってのは自分でちゃんと答えを見つけたので。」
「お主も女好きよな。」
「あんたに言われたくはないんですがね...。」
なんて苦笑いをうかべるが、心から笑えなかった。
本当に、俺は美海と千夏、どちらを選ぶべきなんだ?
「じゃあ、俺はこれで。光達には俺がよくここに来ること、内緒にしといてくださいね。どうせ、あいつはあんたに真実を聞きたがるだろうから。」
「ほう、そんなことも分かるのか?」
「いやあんた、さっき紡に呪いかけたじゃないすか。だとするとあいつ、今から急いであかりさん家にでも行くんじゃないですかね。そうしたら光らは全力で探し始めるでしょう。」
「ふーん?まあ、そうかもしれんの。...ところで、少し気が変わった。もう少し話をしていかんか?」
ウロコ様は珍しく俺を呼び止めた。
どうやら俺にしておきたい大事な話がある様子だ。
しかし、その目はいつになく冷たかった。
今までのことを含め、俺を諌めようとしてるのだろうか。
「いいですけど...なんのことですか?」
「そうさな...、単刀直入に言うがお主、海と距離を置いておらぬか?」
「距離、ですか?」
「そうじゃ。...こういうのもなんじゃがの、正確には、先島の小僧らと距離を置いていないか、ということじゃ。」
光らとの距離、か。
確かに言われてみればそんな気がする。
もちろん、それは故意ではないのだが。
「あやつは海じゃ。紛れもなく。透き通った目をし、一つ一つの出来事に、なにかの感情が揺れる、その姿は正しく元あった海のようなものじゃ。一方でお主は、今の海のようじゃな。何かに動じることなく、ただ穏やかなまま生きる。凪いでおるな、心が。」
「はぁ、そうですか...。」
自分のことは自分が一番分からない。
ただ、それは誰かからの視点で見たものが正しいのだろうか。
ウロコ様はそんな俺に近づき、顔を凝視した後、何かに確信を持って言った。
「...濁っておるな。瞳が。さてはお主...。」
「なんですか、今日はやけにグイグイと。俺なら大丈夫ですよ。それにあいつらが嫌いなんてわけないじゃないですか。...いくら時間が経っても、年の差に壁ができようと、俺たちは親友です。そこだけは変わりません。」
確かな決意を持って俺はそう言った。
ウロコ様は頭をかいて、これ以上は何も言うまいと言わんばかりに消えていった。
...
帰り道。
重苦しい会話のせいで一歩一歩踏み出す足が重たい。
さっき言われたひとつの言葉が、俺の頭にずっと残っていた。
『濁っておるな。瞳が。さてはお主...』
まさかああ言われるとは思ってもいなかった。
が、実際俺も得体の知れない違和感は感じていた。
もちろん、瞳が濁っているのかどうかは知らない。
けれど、一概に違いますと否定できなかったのはおそらく...。
いや、考えるのはよそうか。
悪いことを考えたらその未来しか見えなくなってきそうだ。
それよりもさっきの事だ。
俺は足を止める。
その場から海を見ながらぼんやり考える。
俺はどちらを選ぶべきなのか。
俺は、言うまでもなく2人とも好きだ。
ずっとまっすぐに生き、俺の進むべき道を確信させてくれた千夏。
1度関係が終わってしまったあの日から時間が経って、それでも俺の傍にいつもいてくれ、俺を立ち直らせてくれた美海。
こんな回りくどく内面だけ言ってもキリがない。
2人とも素直で、可愛い。
両方好きでいたい。けれど、1人に決めなければいけない。
ならば俺は...。
そこから先の言葉はなかった。
と言うよりかは、考えることをやめた。
理由は至って簡単。
俺の目の前に、息を切らした美海が現れたからだ。
「どうしたんだ、美海。息なんか切らして。」
「は、遥を探してたに決まってるじゃん...。ってそれより!話さなきゃいけないことがあるの!」
美海は疲れの中に喜びを見せ、続ける。
「いるかもしれないの!ウロコ様が!というか、絶対にいる!」
「...だろうな。あの人がおめおめと海で待ってるわけないしな。」
俺は悟られないように嘘をつく。
ただ、それと同時に美海はリアクションをやめて、ただ俺の顔を驚いた顔で眺めていた。
「どしたんだ、なんかついてるか?」
俺の声で美海はハッっとなって、それでもってワナワナしながら答えた。
「遥...その...目が...。」
瞬間、俺の瞳から光が消えているのを、俺ははっきり理解した。
ぷええ...。
もう言うことがない。
目指せ100話。
また会おうね(定期)