凪のあすから 〜心は海のように〜   作:白羽凪

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あかん迷走中


第98話 心

---遥side---

 

「...驚いた。ウロコ様もそんな質問するんですね。」

「わしとて、1度は誰かを愛したことのある記憶を持ってるものじゃ。他人の恋愛事情に興味が無い訳では無いぞ。...もっとも、お前のようなタイプは尚更じゃな。」

 

やれやれ、やっかいなところに目をつけられたな。

とはいえ、実際俺自身これは向き合わなければいけないものだ。

 

けれど。

 

一概に今答えは出ない。

 

「そうですか...。まあ、聞いても無駄でしょう。俺自身が一番分かってないんですから。」

「ほう?」

「ああ、分からないって言っても、どっちが好きなのか、ってことですよ。好きになることについて、ってのは自分でちゃんと答えを見つけたので。」

「お主も女好きよな。」

「あんたに言われたくはないんですがね...。」

 

なんて苦笑いをうかべるが、心から笑えなかった。

 

 

本当に、俺は美海と千夏、どちらを選ぶべきなんだ?

 

 

 

「じゃあ、俺はこれで。光達には俺がよくここに来ること、内緒にしといてくださいね。どうせ、あいつはあんたに真実を聞きたがるだろうから。」

 

「ほう、そんなことも分かるのか?」

「いやあんた、さっき紡に呪いかけたじゃないすか。だとするとあいつ、今から急いであかりさん家にでも行くんじゃないですかね。そうしたら光らは全力で探し始めるでしょう。」

 

「ふーん?まあ、そうかもしれんの。...ところで、少し気が変わった。もう少し話をしていかんか?」

 

ウロコ様は珍しく俺を呼び止めた。

どうやら俺にしておきたい大事な話がある様子だ。

 

しかし、その目はいつになく冷たかった。

今までのことを含め、俺を諌めようとしてるのだろうか。

 

「いいですけど...なんのことですか?」

 

 

「そうさな...、単刀直入に言うがお主、海と距離を置いておらぬか?」

 

 

 

「距離、ですか?」

「そうじゃ。...こういうのもなんじゃがの、正確には、先島の小僧らと距離を置いていないか、ということじゃ。」

 

光らとの距離、か。

 

確かに言われてみればそんな気がする。

もちろん、それは故意ではないのだが。

 

「あやつは海じゃ。紛れもなく。透き通った目をし、一つ一つの出来事に、なにかの感情が揺れる、その姿は正しく元あった海のようなものじゃ。一方でお主は、今の海のようじゃな。何かに動じることなく、ただ穏やかなまま生きる。凪いでおるな、心が。」

「はぁ、そうですか...。」

 

自分のことは自分が一番分からない。

ただ、それは誰かからの視点で見たものが正しいのだろうか。

 

ウロコ様はそんな俺に近づき、顔を凝視した後、何かに確信を持って言った。

 

「...濁っておるな。瞳が。さてはお主...。」

「なんですか、今日はやけにグイグイと。俺なら大丈夫ですよ。それにあいつらが嫌いなんてわけないじゃないですか。...いくら時間が経っても、年の差に壁ができようと、俺たちは親友です。そこだけは変わりません。」

 

確かな決意を持って俺はそう言った。

ウロコ様は頭をかいて、これ以上は何も言うまいと言わんばかりに消えていった。

 

 

 

 

...

 

 

 

帰り道。

重苦しい会話のせいで一歩一歩踏み出す足が重たい。

さっき言われたひとつの言葉が、俺の頭にずっと残っていた。

 

『濁っておるな。瞳が。さてはお主...』

 

 

まさかああ言われるとは思ってもいなかった。

が、実際俺も得体の知れない違和感は感じていた。

 

もちろん、瞳が濁っているのかどうかは知らない。

けれど、一概に違いますと否定できなかったのはおそらく...。

 

 

 

いや、考えるのはよそうか。

 

 

悪いことを考えたらその未来しか見えなくなってきそうだ。

 

 

それよりもさっきの事だ。

 

俺は足を止める。

その場から海を見ながらぼんやり考える。

 

俺はどちらを選ぶべきなのか。

 

 

俺は、言うまでもなく2人とも好きだ。

 

ずっとまっすぐに生き、俺の進むべき道を確信させてくれた千夏。

 

1度関係が終わってしまったあの日から時間が経って、それでも俺の傍にいつもいてくれ、俺を立ち直らせてくれた美海。

 

こんな回りくどく内面だけ言ってもキリがない。

2人とも素直で、可愛い。

 

 

両方好きでいたい。けれど、1人に決めなければいけない。

ならば俺は...。

 

 

 

そこから先の言葉はなかった。

と言うよりかは、考えることをやめた。

 

理由は至って簡単。

 

俺の目の前に、息を切らした美海が現れたからだ。

 

 

「どうしたんだ、美海。息なんか切らして。」

「は、遥を探してたに決まってるじゃん...。ってそれより!話さなきゃいけないことがあるの!」

 

美海は疲れの中に喜びを見せ、続ける。

 

「いるかもしれないの!ウロコ様が!というか、絶対にいる!」

 

「...だろうな。あの人がおめおめと海で待ってるわけないしな。」

俺は悟られないように嘘をつく。

 

ただ、それと同時に美海はリアクションをやめて、ただ俺の顔を驚いた顔で眺めていた。

 

「どしたんだ、なんかついてるか?」

 

俺の声で美海はハッっとなって、それでもってワナワナしながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「遥...その...目が...。」

瞬間、俺の瞳から光が消えているのを、俺ははっきり理解した。

 

 




ぷええ...。
もう言うことがない。
目指せ100話。

また会おうね(定期)
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