純狐さんをもうちょっと会話させたかったんですけど…。
クラスメイトと話すスキルの無い主にはこの程度しかできませんでした。
許してください、何でも島風。
夏休みって何だっけ。
翌日。臨時休校明けの教室はHR前までざわざわとしていた。
そんな教室に純狐が入ってくる。
教師たちによって、純狐が倒した2体の脳無のことは混乱を避けるために伏せられていた。なので、そのことを知っている生徒は、爆豪と、純狐の戦いを遠くでちらっと見た轟だけだ。
しかし、最後のオールマイトが倒し損ねた脳無にとどめを刺したところはほとんどの生徒が見ていたので、そこはごまかしようが無かった。
そして、そのことについて尋ねようと純狐が教室に入ってきたと同時に生徒が集まってくる。
「落月!ケガは大丈夫だったのか?」「凄かったね!こう、バーンって!オールマイトみたいだったよ!」
みんなが純狐のところに集まって話していると飯田が前に立ち、座るように言ってくる。みんなが席に座ったところで包帯でぐるぐる巻きになった相澤が入ってきた。
「おはよう。」
「「「相澤先生復帰早えええ!」」」
予想外の相澤の登場に生徒は叫ぶ。相澤はやる気のなさそうな口調はいつも通りだが、注意しないとまっすぐ歩くことができないほど足元がおぼつかなくなっていた。
(うわぁ、痛そう)
そんな相澤を見て少しかわいそうだと思った純狐は、ばれない程度に、霊力を流し込みケガを回復させる。
相澤は体が少し軽くなったことに驚き一瞬立ち止まるが、今はそんなことを考えている体力も無いので教壇に立ち、すぐに話を始めた。
「俺のことはどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ。」
「戦い?」「まさか…」「まだ、ヴィランが…!」
数人の生徒が相澤の言葉を聞き、身を震わせる。まあ、あんなことがあった直後なのでそうなってしまうのも仕方ないことだろう。
(こういったことにも、早く慣れておかなきゃいけないんだがな…)
相澤はそんな生徒たちを見て軽くため息をつくが、ここでは言うのは心が傷ついている生徒に対して酷だろうという事で、言葉にはしない。
そして、少し頭を下げた相澤は、包帯の間からいつもと変わらぬ鋭い目で生徒体の方を見ると一言発した。
「雄英体育祭が迫っている。」
「「「クソ学校っぽいの来たあああ!」」」
生徒たちはほっとするのと同時に、手を突き上げて喜ぶ。しかし、数人の生徒はやはり心配なようだ。
「ちょっと待って!ヴィランに潜入されたばっかりなのに大丈夫なんですか?」
その質問を予想していた相澤は、ついさっき開かれた会議で校長から話されたことを伝える。
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石ってことを示すらしい。警備は例年の5倍にするそうだ。」
(ホントにその資金はどこから出るのかしら)
純狐は原作でここを読んだ時からこのことを考えていたが、いまだに確かな答えは出ない。今のところ一番可能性が高いのは、OBからの寄付、という線だ。にしても大盤振る舞いすぎるが。
純狐がそんなことを考えている間も、相澤の話は進んでいく。
「何より、うちの体育祭は最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃねぇ。今やオリンピックに代わる日本のスポーツの祭典になっている!」
「いやそこは、中止しよ?」
「全国のプロも観ますのよ。スカウト目的でね!」
小声で反対する峰田に後ろの席の八百万が話しかける。
「年に1回、計3回のチャンス。ヒーローを志すものなら絶対に外せない行事だ。」
相澤はそう言うと、教室に入ってきた時よりはしっかりした足どりで教室を出て行った。
少年、少女、授業中…
「あんなことはあったけど、テンション上がるなオイ!」「活躍できりゃ、プロへのどでかい一歩を踏み出せる!」
昼休みになっても朝の興奮が収まらない生徒たちは、教室の様々なところで体育祭の話をしていた。
そんな中、意を決したような顔をした純狐は、生徒が集まっている方に歩いていき、そこにいた生徒に話しかける。
「ねえ、みんな。ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど、いいかしら。」
「おう!?どうした落月、珍しいな。」
純狐の近くにいた切島は話をやめ、純狐の方に向き直った。周りの生徒も、普段ほとんど話すことのない純狐が話しかけてきたことに驚き、純狐の言葉を待つ。
純狐は注目されることには慣れているので、過度に緊張することは無いが、こんなシチュエーションの時、いつもは高圧的な態度をとっているため、そうならないように気を付けながら話し始めた。
「朝、先生が話していたように、体育祭近いじゃない?だから、放課後とかにクラスの集まることができる人で集まって、ちょっとした訓練をしたいのだけど、どうかしら。先生から校内の一角を使う許可はもらってるし。」
純狐は教室の後ろの方に掲示してあるプリントを指さす。雄英の体育祭の前は、普通科、ヒーロー科に雄英のグラウンドや体育館の一部を使って訓練をする許可が与えられていた。
「いいなそれ!俺、戦闘のやり方とか聞きてぇし!瀬呂もいいだろ?」
「おう!俺もいいぜ。」
切島と瀬呂はさらにテンションを上げて言う。しかし、佐藤は少し悩んでいるようだ。そんな佐藤の様子を見た瀬呂が佐藤に話しかける。
「佐藤、お前はどうするよ。」
佐藤は、ちらっと純狐を見てから話し始める。
「俺は…今回は遠慮しとくぜ。手の内を見せたくねえからな。誘ってもらったのに悪いな。」
純狐は、それはそうよね、と言いながら、近くで純狐の話を聞いていた女子の方を向く。
「女子のみんなもどうかしら。今、佐藤君が言ったようなマイナスのこともあるけれど、それ以外マイナスは無いと思うわ。男子の中に私一人だけってのも寂しいし。」
「私は参加する!蛙吹ちゃんはどう?」
「そうね…私も参加しようかしら。地上での戦闘も慣れておきたいのよね。」
芦戸たちは純狐の方を向く。切島たちも、参加者が多ければ多いほど様々な戦闘訓練ができると、拳を突き上げて喜んでいた。
そんな感じで盛り上がっていると、出久たちの3人組が近づいてくる。
「落月さんたち何話してるの?」
「あら、出久君。あなたたちも参加するかしら。」
純狐は盛り上がっている生徒たちが出久たちに見えるよう、少し横にずれる。三人はそこで話していることを聞くと相談を始めた。
「どうする、出久君。俺は参加したいと思っているんだが…。」
どうやら飯田は参加するようだ。しかし、出久はまだ個性の調整ができず、個性を使った訓練などはできないので決断できないでいた。
「うーん、どうしよう。僕は個性がまだうまく使えないし…」
「おお、緑谷少年と落月少女が、いた!」
と、ここで教室の扉が開く。そこにいたのは、弁当を持ったおオールマイトだった。
周りの生徒がどうしたのだろうと思っていると、体を少し扉に隠したオールマイトは、弁当を胸のあたりの持っていき、乙女のようなポーズになる。
「ごはん…一緒に食べよ?」
純狐は露骨に気持ち悪いものを見た、というような顔をし、出久は何事だろうと真面目な顔をして、鼻歌交じりで歩き出したオールマイトについて行った。
◇ ◇ ◇
「1時間前後…!?」
仮眠室に出久の声が響く。
(やっぱ、少し変わってるか…)
純狐は原作では50分前後だったことを思い出しながら、渋い顔をした。
オールマイトは、二人にお茶を用意しながら話を続ける。
「ああ、私の活動限界時間だ。無茶が続いてね。マッスルフォームはなんとか二時間弱維持できるって感じ。」
出久は隣にいる純狐を見る。少し間が空き、驚いた表情で純狐を二度見した。
「ん?あれ、オールマイト?落月さんがいるのに話しちゃっていいんですか!?」
出久は首を高速で動かし、オールマイトと純狐を交互に見ながら叫ぶ。
「ああ、彼女には昨日説明しちゃったからな…。」
「え、言っちゃったんですか。まあ、オールマイトが判断したなら何も言えないですけど…」
「いや、判断したっていうかなんて言うか…。まあ、問題ないよ。」
出久は驚いた顔のまま、オールマイトは何か諦めたような顔で、お茶を飲んでいる純狐を見る。その視線に気づいた純狐は、お茶を机に置いてオールマイトの方を向いた。
「私のことはいいとして、オールマイト。今日呼んだのはそれだけじゃないですよね。」
「HAHAHA!君はほんとに察しがいいな!そう、今回呼んだのは、出久君の体育祭のことについてだ。君まだワンフォーオールの調整できないだろ。どうしよっか。」
(あっ、しまった)
純狐はここでミスをしていたことに気づく。そう、原作では出久はUSJで脳無を殴った時に、初めて個性を調整することができたのだ。
(結局、体育祭中に個性の調整が必須だったわけではないから、今すぐに何かしなければいけないというわけでもないけど…。まあ、放課後の訓練に参加してもらいましょうか)
そんなことを考えている純狐に、出久から答えが出ないことを確認したオールマイトが話しかける。
「落月少女、君はどんなふうに個性を制御しているのかい?出久君の参考になりそうなことがあればいいのだが…。」
そう尋ねるオールマイトの顔は真剣だ。ワンフォーオールの後継者としての出久を何とかして育て上げねば、という思いが強いのだろう。
(個性を制御する感覚を一度でも体験してもらえれば、原作通り、体育祭が終わった後にオールマイトのアドバイスで出来るようになるわよね。そうでなかったら自分が教えればいいか)
「私は…感覚ですかね。今できるのはこれくらいかな、って感じで。」
オールマイトはその感覚がなんとなく分かるのか、軽く頷き出久の方を見る。しかし、出久は浮かない顔のままだ。
「ねえ、出久君。やっぱりさっき言ってた訓練に参加しない?それに、生命力なんかに純化すれば、多少のケガは治してあげられるわよ。」
純狐はそんな出久の顔を見て訓練に出久を誘う。正直、これに参加してもらい、出久に個性を制御する感覚を掴んでおいてもらわないと、体育祭までに出久にその感覚を知ってもらう機会が無いので困るのだ。
「Oh!それいいね!出久君参加しなよ。私もリカバリーガールに相談してみるからさ。」
純狐の提案を聞くと、オールマイトは両手で純狐を指さす。オールマイトと純狐の言葉を聞いた出久は、迷いが晴れたような顔で頷いた。
そんな出久の顔を見て軽く笑ったオールマイトは出久に話しかける。
「ぶっちゃけ私が平和の象徴として立ってることができる時間ってそんなに長くない。」
「そんな…」
出久は突然のオールマイトのカミングアウトに戸惑いを隠せない。今まで、憧れてきた存在が自分の目の前で衰えていく姿を見るのは相当辛いのだろう。
(どうなるのかしらね…。これからの展開がますます楽しみだわ)
純狐はお茶を口に含みながら、原作のことを思い出す。そんな純狐を気にすることなく、オールマイトは話を続けた。
「君に力を授けたのは、私を継いでほしいからだ!今こうして話していることは他でもない!次世代のオールマイト、象徴の卵…」
出久はオールマイトの言葉に反応し、顔を上げる。
(私、空気ね)
そんな緊迫した空気の中、全く気にされることのない純狐は、穏やかに時の過ぎる窓の外を眺めていた。
「君が来た!ってことを世の中に知らしめてほしい!」
純狐がスズメが虫を取り合っているのを見ていると、オールマイトのひときわ大きな声が聞こえてくる。そろそろ終わるかな?と思い純狐はオールマイトと出久の方を見た。
「この先、私に何かありますか?」
オールマイトは、あ、忘れてた、みたいな反応をすると、純狐の方を向く。
「ああ、落月少女。そうだね、今日呼んだのは活動時間の減少を伝えるのが目的だったしもう何もないかな。」
そのオールマイトの話を聞くと、純狐はお茶のお礼を言いながら立ち上がる。そして、仮眠室から出ようとしたときにオールマイトから声がかかった。
「…落月少女。無理はしないようにしてくれよ。君は私と違って先が長いのだから。」
どうやら純化の制限時間については秘密にしてくれているらしい。出久は突然純狐のことを心配しだしたオールマイトに少し戸惑うが、別段変なことを言っているわけでもないので、それ以上の反応をすることは無かった。
「心配していただいてありがとうございます。まあ、お互いに頑張りましょう。」
純狐は立ち止まり、後ろを振り返らずに答えた後、仮眠室を出て行った。
放課後、日直だった純狐は、少し遅れて1-Aの皆が集まっているグラウンドに行く。
「おお、落月さん!」
スクワットをすごいスピードでしていた飯田から声がかかる。その声で純狐に気づいた切島が純狐に近づいてきた。
「なあ、落月。模擬戦してみないか?もちろんお互いケガさせない程度にだぜ!」
「あら、早速ね。いいわよ。ちょっと待ってね…」
純狐は、切島の誘いを笑顔で承諾し、近くに落ちていた棒で半径10メートルほどの円を描く。
「この円から出たら負けってことでいいかしら?これならケガもしにくいわよね。」
「いいぜ!燃えてきたぁ!」
切島はガッツポーズを作り、一人で盛り上がる。そんな切島を見て、数人の生徒が近づいて来た。
「おっ、切島。お前チャレンジャーだな!」「落月さん頑張れ~!」「ケロケロ、面白そうね。二人のが終わったら私もやってみようかしら。」
純狐と切島はそんな声援を受けながら円の中に入り軽くストレッチを始める。
「落月さんの速攻を切島君がうまくさばくことができれば…いや、落月さんのことだ、そんなことは分かっているはず…。それに、落月さんには地面を柔らかくして相手のバランスを失わせ踏ん張りを効かせなくすることも可能か…。なら、切島君が速攻を仕掛けるしか…」
いつの間にか来ていた出久は平常運転のようだ。純狐がそんな出久を苦笑いしながら見ていると、ストレッチを終えた切島から声がかかる。
「おっし、いいぜ落月。始めようか!」
「じゃあ、誰か合図してくれるかしら。」
「はいはいは~い!私したい!」
純狐が近くの生徒に呼びかけると、芦戸が円のそばに寄って来る。そして、手を上にあげた。
「それではっ!いざ陣所に~」
純狐と切島は互いに前傾姿勢になり開始の合図を待つ。
「勝負っ!」
芦戸の手が振り下ろされるのと同時に、切島は純狐に向かってジャンプする。
「おお!速攻か!」
周りの生徒は、予想していたよりもずっと速い切島の速攻に驚きの声を上げた。
対する純狐は、切島の拳が届くか届かないかのところで跳び上がり、切島の速攻を避ける。
「速いわね、切島君。」
「お褒めにあずかり光栄だっ!」
切島は、10メートル程上にいる純狐を見てそう叫ぶと、純狐が腕を振りかぶるのを見て、純狐から15メートル程離れ、純化による行動制限などに注意しつつ、攻撃を避ける準備をする。
(へぇ、【硬化】っていう個性だから攻撃を受け止めるように動くかと思ったんだけど…いいわね)
単純に殴って押し出そうとしていたのを考え直した純狐は、パンチの軌道上に水の球体を作り出し、それを“寒”に純化する。そして、氷の塊となったそれをそのまま殴ると、様々な大きさの氷の散弾となって降り注いだ。
「マジかあいつ…。」「ケロ…。私、あれされたらどうしよう。」
周りの生徒の中には、この戦いを糧にしようと考えている生徒も多いようだ。
「はっ、この程度!」
切島は気合を入れ、氷をものともせずに純狐の行動に注意する。氷の散弾が終わるのとほぼ同時に純狐は着地した。
「さすがにこの程度じゃダメみたいね。」
「これで終わりか?」
「そんなわけないじゃない。」
短い会話を終えると、純狐は軽く強化した足で切島に近づく。最近は、うるさいし、熱いし、眩しいので、よほどのことが無い限り、30パーセント以上に純化しないようにしていた。
しかし、今の純狐の30パーセントは、どうしようもないほどのスピードではない。切島は純狐が少し前傾姿勢になると、横に跳ぼうと準備をする。
そして、純狐が飛び出すのと同時に切島は跳ぶ、しかし、
「うっ!?」
切島の跳んだ方にあった氷がはじける。純狐が氷の中の一部を熱に純化したのだ。それに驚いた切島は一瞬固まってしまった。
純狐はその隙に切島の懐に潜り込むと、切島の体が浮くように蹴り上げる。
地面に足がついていないので踏ん張ることも出来ない切島は、そのまま円の外に落ちた。
「勝負あり!」
それを確認した芦戸が手を振り上げると、周りから拍手が起こる。
「流石ね落月さん。」「切島もお疲れ様!氷の散弾を受け切ったところはかっこよかったよ!」
切島は笑いながら立ち上がると、女子に囲まれてあたふたしている純狐の方に行く。
「ありがとうな!俺もまだまだだぜ。」
そう言いながら、差し出された切島の手を握り、握手をした純狐は、手を離すと、切島にちょっとしたアドバイスをする。
「もうちょっと大胆に行動してもいいかもね。まあ、そのためにも硬化を鍛えていくのが最優先かしら。」
「そうだな…今度先生に相談してみるか。悪いな、アドバイスまでしてもらって。俺は攻撃を防ぐので精いっぱいでそこまで考えて無かったぜ…。」
その後、二人の戦いに触発された生徒たちはそれぞれペアを組んで、戦闘訓練をし始めた。
その騒ぎを聞き、駆け付けた先生たちに怒られたのは言うまでも無いだろう。
読んでいただいてありがとうございます!
戦闘シーンも大目に見て(懇願)
今更ですが、純化なのにパーセントとかで大丈夫かな?
次回!すぐに出します。