純狐とヘカTのヒーローアカデミア   作:SKT YKR

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こんにちは。
URが思ったより伸びたので続いてしまいました。

※注意!
オ〇ガネタが入ってます。鉄オル好きな人すみません。言ってくれたらすぐ変えときます。

やばい、設定がばがばだから矛盾がががが…。
追記:少し文章直しました(2020,10,17)



実技試験

 事の始まりは中国で‘発光する赤子’が生まれたというニュースだった。その後、各地で超常が発見され、今では世界人口の約8割が何かしらの‘特異体質’である。

 混乱渦巻くこの世界で「ヒーロー」と呼ばれる職業が生まれ、脚光を浴びていた!

 

 

「はい、到着っと。おお、ここがあの雄英高校ね……。やっぱり大きいわ。」

 

 雄英高校の校舎を見上げながら一体何階建てなのだろうかと思う純狐。ここまで大きい建物を見るのは純狐も久しぶりだ。

 

 ヘカーティアに飛ばしてもらった先は、雄英高校の校門前である。校門に並んでいる柱のおかげで、出てくるところは誰にも見られていない。

 

 ちなみに筆記試験は受かったことになっており、入試に必要な書類などは出している、という事にしてもらっていた。名前は落月純狐で登録したようだ。

 

「いつまでもこの摩天楼を眺めているわけにもいかないわね。受験会場に行こうかしら。」

 

 そう言う純狐の前には、見たことのある地味な男子が何か物思いにふけるような顔をして立っていた。その男子は歩き出そうとした瞬間躓き、近くにいた女子に助けられている。

 

「おお、あれがこの世界の主人公の出久君ね。ヘカーティアに面白そうなことに首を突っ込んでいってと言われてるし、話しかけてみようかしら。」

 

 小声でそう呟きながら早歩きで近づいた純狐は、顔を紅く染めている出久に声をかける。人と話すのは久しぶりであるため少し緊張はしていたが、出久がそれ以上に緊張していたためそれも薄れていた。

 

「あなたが出久君?」

 

 突然後ろから声をかけられた出久は驚き、また倒れそうになる。が、ぎりぎりのところで踏みとどまって純狐の方に顔を向けた。

 

 その瞬間、出久の世界が固まった。

 

 美しい金色に輝く長い髪。真っ白の肌。整いすぎて人形のようにも見える顔。そして、何より、黒く濁りそこから滲み出てきたような淡い紅に光っているように見える目。

 

 出久の本能がその目を見てはいけないと警告を鳴らす。しかし、体がいう事を聞かない。

 

「おーい、大丈夫?急に固まっちゃってどうしたの?」

 

 明らかに異常な反応を見せている出久を見て、純狐は見た目が戻っているのではないかと心配し、一応鏡を見て確認する。だが、容姿は変わらず幼さを残した少女のものであり、特別変というわけではない。

 

 疑問を抱きながら純狐が鏡を仕舞ったタイミングで、やっと出久は意識がはっきりしてきたようだ。自分を不思議そうに見る純狐に気づき慌てて頭を下げている。

 

「すっすすすすすみません!!大丈夫です!心配かけてしまったようですみません!」

 

 言葉に詰まりながら謝罪をした出久は、ふとなんでこの人は自分の名前を知っているのだろうか、と疑問を覚える。一度見たら忘れられないような見た目をしているにもかかわらず、純狐のような人は出久の記憶に無い。

 

「あれ?どこかでお会いしたことありましたか?なんで僕のことを…?」

 

 不安そうな顔で尋ねてくる出久を見て、純狐は適当に理由をでっちあげる。

 

「あー、そうそう。ほら、ヘドロ事件ってあったでしょ?その時近くにいて、偶然見かけたのよ。それと、私は純狐っていうの。落月純狐。月を落とすと書いて落月。純粋な狐で、純狐ね。よろしく!受験頑張りましょう。」

 

 さすがに無理やり話題を逸らしすぎたと反省する純狐。しかし出久はそれで納得したようで、それ以上の追及は無かった。

 

「よろしく!落月さん。うん、受験頑張ろう!」

 

 出久はいつの間にか純狐のことを女子と意識してはいなかった。言葉も、仲のいい友達と話すようにすらすらと出てくる。

 

「じゃあ、受験会場に行きましょうか。」

 

 純狐は、出久が自分に対して打ち解けてくれたことに安堵しつつ、受験会場に向かおうとする。だが、そこで大事なことに気づいた。

 

(あれ?受験会場ってどこだ?)

 

 そう、純狐は受験会場の場所を知らなかったのだ。

 

「どうしたの?大丈夫?」

 

 出久の声を聞き流しながら、純狐は自分の準備不足を嘆く。急いで周囲の掲示物などを探したもののそれっぽいものは見つからず、結局出久を頼ることになった。

 

「……出久君、受験会場まで一緒に行きましょう。その途中でいろんな話を聞かせてよ。」

 

「うん?もちろんいいよ!じゃあ、まずは【牛乳を鼻から出す】っていう個性の山中っていうやつの話なんだけど…」

 

  ◇  ◇  ◇

 

「……クスクス、何それ面白いわね。今度、友達にも紹介しようかしら。あら、ここかしら。」

 

「ん?ああ、ここだよ。それにしても遠かったね。どれだけ大きいのか……。でも、そのおかげで話をすることができて楽しかったよ。」

 

 出久は笑顔で会場の扉を指さす。出久の話に思いのほか聞き入ってしまっていた純狐は、ここで会話が終わってしまう事を少し残念に思ったが、どうせ高校に入ればいくらでも話す時間はあることに気づき、これからのことに期待を強めた。

 

「じゃあね。面白い話聞かせてくれてありがとう。また、高校で会いましょう。」

 

 純狐の明るい声に対し出久は力なく笑う。何しろ、さっき個性を継がせてもらったばっかりだったので自信がないのだ。

 

「あはは……。まずは、受験頑張らなきゃね。」

 

 そんな出久の言葉を最後に二人は別れ、それぞれ受験番号の書かれた自分の席に着く。そして数分後、プレゼントマイクによる実技試験の説明が始まった。

 

「今日は俺のライブにようこそ――!!!エブリバディ SAY HEY !!」

 

 純狐は受験の説明を聞き流しながら試験をどうするか考え始める。

 

 何となく大きいのを倒すのは確定として総合ポイントはどのくらいがいいだろうか。一位である爆豪が80Pに届かない程度だったはずなので100Pを目標にするのがいいかもしれない。

 

 様々な事を考えていく内に、純狐は自分に欠けているものが段々と分かってきた。純狐はトップの生徒たちと比べると機動力が劣るのだ。

 

 体は普通の人より頑丈という感じだが、体力はかなりある。その為、長距離を走るなどのこと、機敏な動きを連続することなどは特に問題なく行えるのだが、いずれにせよ人並みのスピードしか出すことができない。

 

 足を強化するのも考えた。しかし、ジャンプのような一瞬力を加えるような動きであればいいのだが、強化した部分を使い続けるのはまだ難しく、下手をすれば骨が折れてしまう。

 

(まあ、機動力の高い奴はそれを生かすために真っ先に飛び出すはずだし、そいつらの行かなかった方に行けばいいだけなんだけどね)

 

 そんなことを考えているうちに、プレゼントマイクの説明が終わったようだ。受験生たちの移動の流れに乗り、自分の向かう会場を確認すると会場を後にする。

 

「とりあえず、作戦も決まったし行きましょうか。この世界に来て初めての戦闘、楽しまなきゃ損よね。」

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

「でかっ」

 

 会場についた純狐の第一声はそれだった。周囲の人たちもおそらく同じようなことを考えているのだろう。いたるところから感嘆の声が上がる。さすがにお金をかけすぎなのではないだろうか。

 

 ちなみにこの会場にいる漫画に出てきたキャラは、鉄哲、峰田だけのようだ。純狐が入ったことでポイントの振られ方が原作と変わり高校に入ってこられない可能性の高い二人である。まあ、鉄哲は心配だが、峰田はいなくなってもそんなに問題ではないだろう。

 

「はい、スタート。」

 

 13号の冷静な声が聞こえる。この会場の担当は13号だったようだ。そんなことを考えているうちに周りの受験生は飛び出して行ってしまい、原作知識という圧倒的なチートを持っていたはずの純狐は、完全に出遅れてしまった。

 

「元々速い人たちが行ってから行動するつもりだったからそこまで問題じゃないわね。速い人たちはまっすぐ行ったから……右から行きましょうか。」

 

「さあ、貴様の罪を数えろ。」

 

 右の通路に入った途端、どこかで聞いたことがあるような事を言いながら、腕に刀を持った機械が突進してくる。

 

 純狐はそれを余裕を持って避け、続けてもう一本の腕の先から飛んできたネットに大きめの弾幕を放って軌道を逸らす。ロボットはその弾幕を警戒し後ろに下がるが、純化の範囲内にいる限り、純狐の攻撃を逃れることはできない。中途半端に後退したロボットが純化の範囲外に出る前に、純狐はその体を鉄に純化し、活動を停止させる。

 

「よし。3ポイント撃破。それとあなた微妙にセリフ間違えてるわよ?」

 

 純狐はただの鉄の塊になったロボットを見下ろして純化の調子を確かめる。

 

「まあ、簡単に倒していけそうね。それに大きな音を立てたりすると、あっちから近付いてくれるから助かるわ。」

 

 純狐の周りには、既に先程の戦闘音を聞きつけた小型ロボットが数体集まっていた。中には小型でありながら高い戦闘力を持っていることが一目でわかるようなロボもいる。だが、いくら優秀な装備を付けていようと彼らが攻撃を当てることはできない。

 

「早く大きいの出てこないかなー。」

 

 自分を囲っているロボットなど眼中にないといったようなセリフを呟きながら、純狐は次々とポイントを荒稼ぎしていくのだった。

 

― ヘカーティアside ―

 

「あと6分47秒でーす。」

 

 そんな声がちゃぶ台の上に置いた小型テレビから聞こえてくる。純狐の所持ポイントは既に80を超えているようだ。これなら受験に落ちることは心配しなくともよいだろう。

 

「うん。やっぱり水晶玉なんかよりもこっちが見やすいわね。」

 

 ヘカーティアは満足そうに純狐の映ったテレビ画面を見る。

 

 最初は水晶玉で純狐の様子を見ていたが、球体だし画質は悪いしで見にくかったので外の世界から小型テレビを持ってきて魔法をかけて、水晶玉の代わりにしていた。

 

 その無駄に高画質な画面を眺めながら、ヘカーティアは純狐に聞こえないように言う。

 

「ねえ、純狐。あなたもう結構その世界を楽しんだわよね?私も見ていて楽しいわ。でもね、まだ足りないのよ。あなた、あの熊の置物が返ってきたとき、幻想郷に遊びに行ってて居なかったわよね?今からするのはあの大量の熊の置物の返品を受け取らなければいけなかったストレスの分よ。トラウマを掘り返すようで悪いけれど、まあいいわよね。」

 

 若干の怒りが見え隠れするのはおそらく気のせいではないだろう。その後も数回独り言のようにぶつぶつと話していたヘカーティアは、気持ちが落ち着くとどこかに電話をかけ始めた。

 

「あー。もしもし?じゃあ予定通りによろしくね。……大丈夫よ言い訳は用意してあるし。じゃあ行ってらっしゃい、『嫦娥』。」

 

―side out―

 

「なんか嫌な予感がするわ。」

 

 ここまで何の問題も無く試験を進めていた純狐に悪寒が走る。周囲を警戒するが、別段変わった様子も無い。それが逆に恐ろしくもあるが、ここで手を止めれば全力を尽くさなかったとして試験に悪影響が出かねない。

 

「あと、5分14秒でーす。」

 

 拡声器を通して13号の声が聞こえてくる。純狐はそろそろ大きいロボットが出てくるだろうと思い中央の道まで来ていた。右腕と両足を制御限界である30%程まで“力”に純化して何が来ても即座に対応できるよう備える。

 

「さあ、早く出てきなさい。吹っ飛ばしてあげるわ。」

 

 今まで作業のようにロボを倒していた純狐は、あまり楽しめていなかった。せっかくの初戦闘であるのにこれでは消化不良である。

 

 そう思いながら近づいてくる数体のロボットをあしらっていると、足元から地響きが聞こえだす。ついに巨大ロボットの登場だ。

 

「皆さーん。巨大ロボ入りまーす。気を付けてくださーい。」

 

 ついに来た、と純狐は強化した足でジャンプしロボットに近づく。

 

 そしてその時、視界の端に映る見覚えのある人物に気づいた。

 

 純狐は空中で姿勢を変え、無理やり体を止める。うまく着地することができず足を捻挫してしまったようだが、そんなこと今はどうでもいい。

 

「……嫦…娥………?」

 

 いや、違う。嫦娥はここにいるはずがない。雰囲気も全然違う。しかし、純狐は一度火のついた気持ちを抑えることができなかった。

 

「ヘカーティア!!」

 

「分かっているわ。ちょっと待ってね……」

 

 鍵穴に向かって叫んだ純狐の声にヘカーティアは即座に反応し、純狐の手の甲の上の空間から鍵を差し込んですぐに引き抜く。

 

「……はい、いいわよ。さすがに全て戻すことはできないけどいつもの10分の1くらいの力は使えるわ。」

 

 ヘカーティアは純狐に説明するが、それを聞き終わる前に純狐は全身を強化し、無言で偽嫦娥に殴りかかった。それに対し、偽嫦娥は特に表情も変えることなく、両腕を顔の前でクロスさせて、攻撃を防ぐ。

 

 閃光、そしてとてつもない衝撃波の後、その場は砕けたコンクリートと舞い上がった土煙に支配された。風圧を受けた巨大ロボは倒れ伏し、近くにいた受験生たちもまるで小石か何かのように吹き飛ばされていく。

 

「おお、すごいですね。」

 

 13号の場所からは暴風が巻き上げたほこりや瓦礫などに遮られ、ただ巨大ロボが倒されたようにしか見えなかったようだ。しかし、近くにいた受験生たちはひとたまりもない。運よく皆軽症で済んではいたが、一歩間違えればケガで試験をリタイアすることになってしまいかねない。

 

「おいおい!あいつら何やってんだよ!」「早く離れましょう!巻き込まれたらひとたまりもないわ。」「巨大ロボも今の余波だけで倒しやがったぞ。何てパワーしてんだよ!」「あいつオールマイトかよ!」

 

 逃げ惑う生徒たち。だが、今の純狐に周囲を気にしている余裕は無かった。今の一発を食らっても、目の前の敵が一切ダメージを負っていないのだ。明らかな異常事態である。

 

(あいつ、今のをまともに受けて、一歩も動いてないし、傷一つついてない……。どういうこと?こんなのこの世界にはいなかったはずだけど。向こうから動くこともないようだし、いったんヘカーティアに連絡を……)

 

 偽嫦娥から離れて鍵穴に話しかけようとする純狐。しかし、敵はそれを許すことはしなかった。鍵穴に話しかけようとした瞬間に一瞬で偽嫦娥は距離を詰め、先程の純狐をも上回るような威力の拳を放つ。

 

「っ速い!」

 

 純狐は体をひねるが完全には避けることができず右の脇腹に拳を受けてしまう。

 

「ぐぅっ。」

 

 内臓が破裂する感覚が純狐を襲う。咄嗟の防御が間に合っていなければ、今頃腹には大きな穴が開いていただろう。

 

 しかし、偽嫦娥はそんなことなど知ったことではないとばかりに、右足を軸にして左足で回し蹴りを顔に放ってくる。

 

 これは移動することでは避けられないと感じた純狐は急いでブリッジのような体制になり、何とかその足を避ける。顔狙いだった足は空を切ると思われたが、ピタリ、と純狐の顔の上で止まると、かかとお落としに切り替わった。

 

 背に腹は代えられないと、純狐はその場で爆発を起こして自身もダメージを負いながら離脱する。これでいったん距離を取ることはできたが、偽嫦娥の能力を見るにこの程度の距離はあってないようなものであり、決して安心はできない。

 

 一方、勢いを殺しきれなかった偽嫦娥の足はそのまま下のコンクリートにたたきつけられる。そこは小さな隕石が落ちたかのようにクレーターができていた。

 

 あれをまともに受けていたらと思うとヒヤッとするが、そうもしていられない。純狐は警戒しながら、再びヘカーティアに話しかける。

 

「ねえ、あれ何?めちゃくちゃ強いわよ。あなたが来ないってことはそこまで危険はないものだと思うのだけど。」

 

 純狐は体制を整えながら言う。自身の周囲を”硬”の壁で覆う事も考えたが、あの調子だと相手はその程度の壁は貫通して攻撃を通してくる可能性も捨てきれない。

 

(あいつが私の入ったことでこの世界に出てきたイレギュラーだとすれば不味いわね。少なくとも今の私では止められない。力を全て戻してもらったりして戦えば、同じ会場にいる受験生はただでは済まないだろうし、ほかの会場も被害を受ける。そうなれば、原作キャラに何かしら影響が出てイベントなどが起こらなくなってしまうかもしれない。それでは、この世界に来た意味がなくなってしまう)

 

「安心して、純狐。前を見てみなさい。」

 

 相手が仕掛ける様子を見せないうちに考察を進める純狐に、ヘカーティアは声をかける。何を言っているか分からない純狐だったが、言われた通り、偽嫦娥の様子を詳しく見ることにした。

 

「え?あなたは確か、地球のヘカーティアよね?」

 

 するとそこには、青い髪のヘカーティアがニコニコしながら手を振っている姿があった。地球のヘカーティアと呼ばれたそのヘカーティアは、混乱している純狐に元気に返事をする。

 

「は~い!そうですそうです。覚えててくれましたか?異界のヘカーティアからあなたが弱体化した後の戦闘能力や人間としての体の使い方がどれくらいできるかテストしてほしいって言われたので来ちゃいました!それと、地球のヘカーティアって長いから『チキューティア』とでも呼んでください。」

 

「そういうわけだったのよ。驚かせてごめんなさいね。でも今のを見る限り心配なさそうね。」

 

 ヘカーティアは、また鍵を差し込み純狐の体の弱体化を戻しながら言う。

 

「そういう事ならあらかじめ言っておいてよ…。」

 

 純狐はうなだれる。嫦娥のこととなると周りが見えなくなるのは、悪い癖だと思ってはいるのだが、なかなか直すことができない。昔も冷静になっていれば勝てたのに、考えず突っ込んでしまったために罠にはまったりして撃退されてしまうこともあった。

 

「じゃあそろそろ土埃が晴れそうなので帰りますね。お疲れさまでした~。」

 

 そう言って地球のヘカーティアは帰っていった。それとほぼ同時に土埃が晴れ、試験終了のアナウンスが流れる。

 

「終了でーす。ケガをした人はすぐに治療班が来るので安静にしといてください。」

 

「はぁ、必要以上に疲れたわ。」

 

 そう呟くと、純狐はヘカーティアが治してくれた脇腹をさすりながら、バスに乗るために入口へ歩いて行った。

 

 

― ヘカーティアside ―

 

「あっはっはっはっは。面白かったわ。特にこのかかと落としの時の顔よね。こんなに焦り散らした顔、なかなか見れないわよ。」

 

 ヘカーティアは取った動画を見ながら笑っていた。何を隠そう、ヘカーティアの目的はこれだったのだ。

 

 世間一般的にはこれをクズというのだろう。

 

「でも、顔がいいから焦った顔も絵になってしまっているわね。これを月と幻想郷に送って、帰ってきたときいじってやろうと思っていたのにこれじゃあ、少なくとも幻想郷では笑いにはならないじゃない。」

 

 動画を見返しながらヘカーティアは言う。まあいい、この後にも泊まるところがないと気づいた純狐の様子を撮るつもりだ。純狐が心細そうな顔をしてさまよう様子は月人には受けるだろう。

 

「まあいいわ。じゃあとりあえず月にだけでも送りましょうか。」

 

 早速、LI〇Eで依姫に送ろうとする。その時、部屋のドアが急に開いた。とっさにヘカーティアはスマホの画面を落とし、ドアの方を見る。そこには自分の部下であるクラウンピースがいた。

 

「あら、クラウンピースじゃない。お帰りなさい。どうしたの?」

 

 ヘカーティアは何事もなかったかのように言う。

 

「ただいま戻りました、ご主人様!それとお客さんが来ていますよ?ご主人様に用事があるようです。名前は…えーと、なんちゃら ヤマ の後に ナ が付く人でした!」

 

 クラウンピースはあくまで妖精なので頭は良くない。だから、覚えている部分だけを伝える。

 

「あら、鍵山雛さん?この仙界まで入ってこられるなんて彼女そんなに強くなったのかしら。まあいいわ、ここに来るなんてよっぽどのことがあったのでしょうね、出迎えましょう。」

 

 ヘカーティアは立ち上がり廊下に出る。クラウンピースもついて来るようだ。少し歩くと、突然、クラウンピースが話し出す。

 

「でも、なんか静かですよねー。友人様があっちに行かれて。」

 

 急にどうしたのだろうかと思いながらもヘカーティアは返事をする。

 

「ええ、そうね。特に最近は彼女のわがままや後始末に大忙しだったからね。」

 

 クラウンピースは話を続ける。

 

「まあ、そのたびに解決してきたのでもう関係ないですけどね!」

 

 ヘカーティアはこの流れをどこかで見た気がするが思い出せない。何か嫌な予感がする。しかし、口と足は止まらない。

 

「じょ、上機嫌ね、クラウンピース。」

 

「それはそうですよ。もう振り回されることもないし。あっちで友人様も頑張ってるし!私も地獄での仕事を頑張らないと!」

 

 ヘカーティアは悪寒が止まらない。冷汗がどんどん出てくる。立ち止まろうとするが何か大きな力に支配されてるかのように進むことしかできない。

 

 ん?止まることができない?

 

「あっ。」

 

 ヘカーティアは察してしまった。

 

 そして玄関のドアが開かれる。そこにいたのは……。

 

「こんにちは。ヘカーティア・ラピスラズリさん。あなたの行動はよく見てましたよ。最初は今までのことを考えて許していましたが、友人の嫌がると分かっていることを面白半分でする非人道的な行いはさすがに見逃せませんでした。そこに正座しなさい!」

 

「はぁーい。こんにちは、異界の。」

 

「はい…、四季映姫『ヤ』『マ』ザ『ナ』ドゥさん。あと、月の私は何でいるの?」

 

 金髪のヘカーティアは笑顔で答える。

 

「あなた、映姫だけだったら逃げるでしょ。」

 

 ヘカーティアは諦めて正座した。

 

~12時間後~

 

「…がダメなんですよ。とりあえず今日はここで終わりです。もうしないようにしてください。」

 

 四季映姫は満足した顔で去っていく。

 

 それと同時に倒れこんだヘカーティアに今までの様子を見ていたクラウンピースは駆け寄った。

 

「ご主人、しっかりしてくださいご主人様ぁ。」

 

 クラウンピースの心配する声が聞こえてくる。ヘカーティアは絞り出すような声で答えた。

 

「なんて声出してるの…クラウンピース。」

 

 クラウンピースはその力のない声を聞き泣きそうになる。

 

「だって、だってぇ。」

 

 ヘカーティアは立ち上がりながら言う。

 

「私は三界の女神、ヘカーティア・ラピスラズリよ…。このくらいなんてことないわ。」

 

「でもぉ!」

 

「いいから部屋に戻るわよ!純狐が…待ってるかもしれないわ…。」

 

 ヘカーティアの脳裏にこれまでの楽しかった思い出が流れていく。

 

(ねえ、純狐。私やっとわかったの。友人の大切さが…。)

 

「私は友達でいることをやめないから!あなたが友達として扱ってくれる限り私たちは友達よ!!だからね……純狐……。止まるんじゃねえぞ……。」

 

 ちなみに、この様子を撮影していた月のヘカーティアが月人たちにこの動画を送り、「止まらないヘカーティア」の動画が月ではやったのはまた別の話…。

 




お読みくださりありがとうございます!

いや、ホントにすみません。やってみたかったんです。

次は文字数が減るかも。

《人物紹介》
 純狐
  いろいろあって、嫦娥という奴を恨んでいる。月にいる嫦娥を殺すために、月によく攻めに行っている。

 ヘカーティア・ラピスラズリ
  異界・月・地球それぞれの地獄の女神。異界・月・地球それぞれの体を持っている。

 クラウンピース
  ヘカーティアの部下。地獄の妖精。純狐のことを友人様と呼ぶ。

 四季映姫・ヤマザナドゥ
  閻魔様。立場はヘカーティアより下らしい。

 鍵山雛
  厄神。厄をため込む。
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