純狐とヘカTのヒーローアカデミア   作:SKT YKR

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こんにちは!

今回は結構早く仕上がりました。
やっぱり戦闘シーンが入ると格段に難易度が上がりますね。
次回からはまた戦闘シーンか…。

アンケート協力ありがとうございます!


昼休み

 

「お疲れさん。災難だったわねぇ。」

 

 豊姫の嘲笑ともいえる笑顔が純狐を迎え入れる。

 

 純狐と豊姫、そして地球のヘカーティアの代わりに呼び出された月のヘカーティアはスタジアムの外の、ちょっとした木陰で待ち合わせをしていた。

 

 その場所の周りには、認識妨害の結界が張ってあり、純狐たちの会話は誰にも聞かれることは無く、純狐たちの姿もぼんやりとしか分からない。視線を向けられても、ただそこに人がいるな、という程度の認識になってしまうというものである。ちなみに科学の力であるらしい。化学ってすごい。

 

「お疲れ純狐。アイス食べる?」

 

「……そのアイス、メロン味に見せかけたわさびでしょ。」

 

「あら、何で分かったの?」

 

「鎌かけただけよ。っていうか、ホントにわさびだったの?」

 

 油断も隙もあったものではない、と思いながら、純狐はブーイングの聞こえる手の甲を押さえ、結んでいた髪を解く。解いた髪は結界の中を金色に染め上げるほどの輝きを放っていた。

 

「まあいいわ。ヘカーティア、例の物を。」

 

「はいはい。」

 

 純狐に何かを手渡したヘカーティア。純狐はそれを受け取ると、鼻と鼻が触れるようなところまで豊姫に近づき、見上げるような形で睨みつけた。

 

「ねぇ、豊姫。あなたは催眠とかって信じる?」

 

 豊姫は急な問いかけで顔に疑問符を浮かべるが、純狐に舐められないために文字通り目と鼻の先にいる純狐を馬鹿にしたように笑った

 

「そんなのあるわけないじゃない。私が催眠?かかるわけがない。私は時間が惜しいの。そんなのに付き合っていられないわ。」

 

 純狐はその返事を聞くと、くつくつと笑う。そして、そのまま豊姫から離れると、豊姫を勢いよく指さした。その瞬間、豊姫は全身から力が抜けたように倒れる。

 

「あ、あなた一体何を…。」

 

 豊姫は息を少し荒げながら純狐を見上げる。

 

「フッ、あなたは乗ってくれると信じていたわ。この世界においてフラグの力は絶対。そしてあなたはそれを立ててしまった!立てたフラグはどうするか、もう分かったわよね、豊姫。」

 

「ま、さか…!」

 

 豊姫は自分の腹のあたりに貼ってある変な模様の描かれたお札を見て顔色を変えた。彼女はそれが何なのか知っていたのだ。そしてその効果も。

 

「そう!それは巷で噂の“貼られた奴の力を無効化する”というもの!博霊の巫女が3万円で作ってくれたわ。」

 

 純狐はそう言うと、一般の女性以下の力しかない豊姫に近づく。豊姫は何度か能力を使おうとしていたようだが、それは無駄に終わった。

 

「じゃあ、月に帰ってもらうわ。依姫の使いが迎えに来るはずだからそれまで裏路地の壁にでも埋めておきましょうか。もちろん下半身と顔は出しておいてあげるわ。」

 

 純狐はそう言うと、必死に抵抗をしてくる豊姫を抱えて、結界の外に出ようと立ち上がる。だが、純狐はその時、急に力が抜けて豊姫を落としてしまった。

 

 現状を理解できていない純狐は、落とした豊姫を確認しようと斜め後ろを見る。しかし、そこにいた豊姫は、勝ち誇ったような顔で純狐を見降ろしていた。

 

「クックック…!ハーハハハハ!あー面白い!ねぇねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち!?」

 

 もはや醜悪と言っても遜色ない豊姫の顔が純狐の目の前に広がる。純狐はそれから目を離し、ヘカーティアの方を勢い良く振り返った。

 

「ごめんなさいねぇ。」

 

 ヘカーティアはバツの悪そうな顔をして、ポケットからとある紙を取り出す。

 

「そ、それは…!魔法のカード!」

 

 そう、ヘカーティアが持っていたのはスマホと組み合わせることで様々な力を発揮することができる魔法のカードだった。その力は絶大で、ツクヨミとアマテラスの数年単位の戦争を終わりに導いたとか導いていないとか。とにもかくにも、物凄いものだ。

 

「そう、元からヘカーティアはあなたの味方ではなかったのよ。」

 

 豊姫は自分の腹に貼られた偽物のお札を剥がしながらヘカーティアに近づく。そして、もう一枚魔法のカードを渡すと、満足げに純狐の姿を見た。

 

「私がこの札の存在を知らないと思った?だてに仕事をさぼってコミケに行ってないわよ。この札の扱いは私が誰よりも知っている。これのおかげで依姫に仕事を回すのが楽になったわ。」

 

豊姫は懐からたくさんの同じお札を見せびらかすように取り出して嗤う。そして、そのお札をしまうと、純狐の方に扇子を向けた。

 

「あなた、さっき裏路地の壁に埋めるって言ってたわよね。いいアイデアだわ。でも、裏路地じゃあちょっとつまらない。よし、ではこのスタジアムの外壁に埋めてしまいましょう。」

 

 豊姫はそう言うと、純狐にゆっくりと近づく。純狐は諦めたのか、うつむいたまま抵抗もせずに豊姫が近づいてくるのを待っていた。

 

 だがその時、急に豊姫の歩みが止まった。いや、止められた。

 

「へぇー、豊姫さん。ちょっとさっきのことについて詳しく説明をしてもらってもよろしいでしょうか。」

 

 豊姫の歩みを止めた声が豊姫の後ろから聞こえてくる。豊姫は特に暑いわけでもないのに、汗を滝のように流しながら後ろを振り返った。

 

「…ご機嫌麗しゅうございます、依姫殿。」

 

 豊姫の予想通り、後ろには物凄くいい笑顔を浮かべた依姫が立っていた。そこにいるのは、ホログラムで映し出された依姫だが、その威圧感は変わらない。そのホログラム投影機は、ビデオ通信機能も備えつけているからだ。

 

「これを通して、あなたの言葉は一言一句漏らすことなく記録しました。勿論、すでに上にも内容は伝わっています。」

 

 依姫の言葉がいったん途切れると、場は静寂に包まれる。それを最初に破ったのは純狐の小さな笑い声だった。豊姫は壊れた人形のような動きでヘカーティアの方を見る。だが、ヘカーティアも何も知らなかったようで、純狐の方を驚いた表情で見ていた。

 

 そう、純狐は最初から自分には仲間がいないという前提で事を進めていた。一応、ヘカーティアにお札のことを頼んでいたが、それもあまり信用はしていなかった。

 

 純狐は霊力のスペシャリストである。お札をヘカーティアから渡された瞬間に、それが偽物であることは見抜いていた。そして、ヘカーティアが敵側だと分かると、わざと騙されているふりをして豊姫に近づいて視界を狭め、通信機を“隠”に純化して足元に落としたのだ。

 

「詰めが甘かったわね。」

 

(まあ、私も途中で依姫とつながっていることを口に出すっていうミスはしたけれど…)

 

 今度こそ勝ちが確定した純狐は、ヘカーティアにお札を剥がしてもらうと、力なく崩れ落ちた豊姫を見ながら、口を滑らせたことを反省する。その後、すぐにやってきた使者たちを確認し、オールマイトとの話し合いのためにスタジアムへ向かって行くのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「あのさぁ…」

 

 言われた通り、休憩室3の部屋に入った純狐を待っていたオールマイトはひどく疲れた顔をしていた。

 

「何か考えがあってのことだとは思うけれど…やりすぎだ。最悪死者が出ていたんだぞ。」

 

 オールマイトはため息をついて純狐の目を見る。普通の人間ならば、表情はごまかせても、目の動きなどである程度は感情が読み取れたりするものだからだ。オールマイトはそれで純狐が本当に反省をしているか図ろうとしていた。

 

(はぁ、いつも通りよく分からないな)

 

 だが、オールマイトは純狐の感情を少しも読み取ることはできなかった。純狐の瞳はいつも通り、あらゆる干渉を拒絶するような漆黒であった。

 

「そうですね。さすがにやりすぎました。その点は深く反省しています。勿論、この後、危険にさらしてしまった同級生たちにも謝るつもりです。」

 

 純狐は反省の色を滲ませた声でオールマイトに頭を軽く下げる。それと同時に純狐は、周囲の様子を把握するために、霊力を薄く展開する。

 

(隣の部屋にはミッドナイトとリカバリーガール、それにセメントス。真下の部屋には私の知らない教師が4人。上の部屋にはブラドキングとエクトプラズムね…。しょうがない、言動には気を付けないと)

 

 純狐はそれが終わると、顔を上げてオールマイトの方を見た。オールマイトはいつもより少しだけ険しい表情をして純狐を見ている。リカバリーガールからあのような忠告を受けた直後に純狐がやらかしたのだから警戒するのは当然だろう。

 

「まあ、そこまで分かっているなら大丈夫だ。以後このようなことが無いように。君も時間が惜しいだろう。もう帰ってもいいといいたいところだが、いくつか聞いておきたいことがある。」

 

 オールマイトは湯呑に入ったお茶を一気に飲み干すと、純狐に向かって、この部屋に入ってから最も強い意志のこもった目を向ける。対する純狐は、予想の範囲内の出来事であるため動じるようなことは無い。

 

「君は自分の力が無くなることに恐怖を感じないのかい?残念ながら今の社会で無個性の人間はあまりいい扱いをされない。出久君と仲がいいならその辺の話は聞いているだろう?」

 

「もちろん怖いですよ。ですが私には個性以外の力もあります。それを個性だと言って生きていけばそこまで問題は起こらないでしょう。」

 

 純狐は軽く持ち上げた手のひらの上で弾幕を作って見せる。

 

「そうか…では次の質問だ。第一種目で君はしきりに森の方を警戒していた。それにあの怪我。君ほどの実力の持ち主があれほどの怪我を負うような事態はあのレースでは起きないはずだ。何があったんだ?」

 

「怪我に関しては完全にドジをやらかしました。ほら、ブラックボックスに入る前に鉄を気化させたでしょう?あの時、中にまだ冷え切ってないものがあったらしく、少し服が燃えてしまったんです。その後もいくつか爆弾に触れてしまいました。」

 

 純狐は頬を掻いて恥ずかしそうな演技をしながら話す。“寒”への純化は目には見えず、ブラックボックスの中で行われたことであるため、純狐の言葉が嘘かどうかオールマイトたちに確かめるすべはない。

 

「森の中を警戒していたのは、どんな個性の子がいるかどうか分からなかったからです。身近なところでも、B組の黒色君のような個性の子もいますし、油断はできなかったんですよ。」

 

 森の方を気にしていたという質問に関しては、あまり考えていなかったため結構きつい言い訳になってしまう。しかし、オールマイトは何か深読みをしたのか、険しい顔をした後に、分かったという一言で終わらせた。

 

「では、最後の質問だ。君がヒーロー科に来た理由は何だい?」

 

 純狐はここで初めて少し驚く。この質問を想定していなかったわけではないが、オールマイトから尋ねられるとは思っていなかったからだ。

 

「…自分の個性について知る為です。ここ以上に自分の個性を使う事の出来る場所は無いですから。それに、私の個性が暴走したとき、それを止めてもらえる場所としてもここ以上の場所はありませんからね。」

 

 もちろんヒーローにもなりたいですよ、と付け加えて純狐は口を閉じ、オールマイトの言葉を待った。そしてオールマイトから、もう質問は無いため、退出して大丈夫だと言われると、席を立って最終種目の発表が行われるグラウンドの方へ向かう。

 

(最終種目は毎年サシで行われている。改変される確率は低いわね)

 

 そんなことを考えながら歩く純狐に、どこからか轟と緑谷の声が聞こえてくる。

 

(ああ、轟君の過去の話か。エンデヴァーは雰囲気が変わっていたから、ヘカーティアが何かしたんでしょうね。かわいそうに)

 

 純狐はそのイベントに干渉すれば、後々面倒なことになってしまいかねないため、声の聞こえてくる方向を避けるように歩いて行った。しかし、声が聞こえなくなる直前、轟たちの会話に純狐の名前が出る。気になった純狐は、声の良く聞こえる位置に戻り、轟たちの会話を盗み聞くことにした。

 

「…俺は落月に現時点では勝てない。いや、勝ち負けの付く勝負にすらならないかもしれない。だが、俺が本気のあいつに挑んで勝たなければクソ親父は認めてくれないだろう。緑谷、お前はどう思う?」

 

 数秒空いて、出久が話し出す。

 

「僕なんて、轟君よりも数段弱いからためになるかどうか分かんないけど…落月さんは個性の性質上、進んで本気を出すことができないんだと思う。それは手を抜いているってことじゃなくて、れっきとした弱点だ。そこを突けばいいんじゃないかな。」

 

「わざと危険に飛び込んでいって、あいつの出来ることを制限するってことか…。」

 

(面白そうなことを話しているじゃない。そして、やっぱり轟君は性格が丸くなったみたいね)

 

 ちょうどその時、昼休憩終了の5分前を知らせる放送が入ったため、純狐は急いでグラウンドに出る。すると、観客席からはざわつきが起こり、生徒たちは純狐に道を開けるように離れていった。

 

「ドンマイ。」

 

 何とも言えない顔になっている純狐の肩に瀬呂の手が乗せられる。純狐は再び、瀬呂を同じ目に合わせてやろうと決意を固めた。

 

「で、あの子たちは何してるの?」

 

 純狐の目線の先にいるA組の女子は皆チアガールの格好をしていた。分かっていたことであるが、スルーするのもおかしいため、後ろにいる瀬呂に尋ねる。

 

「ああ、峰田と上鳴が相澤先生の言伝だと言って着させたんだよ。峰田たちもどうかとは思うが、あいつらも服が用意されていない時点で気づくべきだよな。」

 

「お前も仲間に入らなくていいのか?」

 

 瀬呂が話し終わると、上鳴が笑いながら近づいてくる。純狐は一瞬、それもいいかと考えたが、手の鍵穴の先にいる存在のことを思うと、拒否せざるを得なかった。

 

『さァさァ、皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目!総勢16名からなるトーナメント形式!一対一のガチバトルだ!!』

 

「トーナメントか…!毎年テレビで見た舞台に立つんだ!」「結局出場する人は決まったのかしら。」

 

 種目の発表を終え、やはり生徒たちは決まっていなかった出場者が気になるようだ。そんな中、ミッドナイトが壇上に上がり、生徒たちを見渡す。

 

「えー、まずは出場者ね。本当は5位の心操チームまで全員出場させる予定だったけれど、心操君以外の人が昼休みに棄権を申し出たため、二人分空いちゃったのよ。よって、最終盤まで上位だった鉄哲チームから希望を募ろうと思います!」

 

 ミッドナイトの説明が終わると、鉄哲チームは集まって話し合いを始める。そして、すぐに鉄哲と塩崎が選ばれ、最終種目への進出者が出そろった。

 

「決まったようね。それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始となります!それじゃあ1位のチームから順番に引きに来て。」

 

 その後は順調に組み合わせが決まっていき、電光掲示板で組み合わせが発表される。

 

 

緑谷 vs心操

轟  vs上鳴

飯田 vs芦戸

落月 vs瀬呂

塩崎 vs小大

常闇 vs八百万

鉄哲 vs切島

麗日 vs爆豪

 

 

(やっぱり少しは変わってるか。まあそんなに不都合は無いわね。それに…)

 

 純狐は、最初に当たる相手を確認して冷や汗を流している瀬呂の方を向く。

 

(ドンマイと言い返す機会がこうも早く訪れてくれるとは)

 

 決勝の進出者たちは、自分の初戦の相手やその次の相手を見て一喜一憂している。その光景を見ながら、純狐は誰が上がってくるか、どう動くかを考え始めた。

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!』

 

 プレゼントマイクの放送が入り、生徒たちはそれぞれの場所に移動していく。純狐も特にすることは無いため、月のヘカーティアと駄弁りながらレクリエーションを楽しもうと屋内に向かって歩いて行った。

 

「どこ行くの、落月ちゃん?」

 

 だがその歩みは、数人の女子によって止められる。そのうちの一人、八百万の手には、何故か純狐の体に合わせたようなチアガールの服が握られていた。

 

「まさか一人だけ抜け駆けしようなんて思ってないよね。」

 

 純狐の左肩を掴んでいる耳郎の力が強まる。純狐はその後、クラスメイトたちの必死の説得でその服を着ることになった。実年齢は3000歳を優に超えている純狐がそんな恰好をしているところを見て、純狐のことを知っている者たちは目を点にすることだろう。

 

「…まあ、失ったものは多いけど、親睦が深められたからよしとするか。」

 

 純狐は自分にそう言い聞かせ、おそらく会議中であろうにも拘わらず大声で笑っているヘカーティアを無視してオリエンテーションの時間を潰していくのだった。

 

 

 

 後日、『止まらないヘカーティア』と共に月で素材にされたのは言うまでも無いだろう。

 





ここまで読んでいただきありがとうございます!

前書きにも書きましたが、アンケートに協力して下さった方ありがとうございます。
アンケートに無い項目(例えば、中途半端なネタやめい、など)がありましたら、指摘していただけるとありがたいです。
まだまだ拙い文ですが、少しでも改善できるよう頑張っていきます!

次回、瀬呂死す!

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