やっぱり週一投稿は無理だったよ…。
ごめんなさい。
投稿初めて約一年となりました!応援ありがとうございます!
『サンキューセメントス!ヘイガイズ、アァユゥレディ!?』
セメントスによるステージの施工がほぼ終わり、ついに雄英体育祭一年の部の最終種目、トーナメントが始まろうとしていた。
『色々やってきましたが!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくてもそんな場面ばっかりだ!』
プレゼントマイクの実況に影響され、観客の声援も大きくなっていく。注目されている場所で全力を出すという、ヒーローにとっての必要条件を試すような場に、進出者以外の生徒も心を躍らせていた。
『心技体に知恵知識!総動員して駆け上がれ!!』
(客観的に見ると、注目されているのがよく分かるわね)
そんなスタジアムの様子を、純狐はA組の皆と共に眺めていた。せっかくこの世界に来ているのだから、なるべく多くの試合を生で見ようと考えていたのだ。
「落月ちゃん、どっちが勝つと思う?」
「出久君が心操君の個性を知っているかどうかね。知らなければ勝てないと思うわ。」
右隣に座っている麗日の疑問に答えながら、プロヒーローや取材班の動きを確認する。彼らの動きは、これからのイベントの発生に干渉する可能性がある為、見ておく分に損は無い。
(出久君たちの試合には、それなりに興味はあると言ったところね。でもやっぱり、私や轟君がいる時ほど動きは無い。出久君は元々インターンシップの指名が無かったからあんまり関係ないか)
純狐が難しい顔をしながら、そんなことを考えていると、プレゼントマイクの声で対戦する両者の簡単な紹介が行われ、最終種目初戦の幕が開かれたのだった。
◇ ◇ ◇
(代り映えしないわね)
純狐は控室に設置されたモニターから目を離して机に突っ伏す。決勝への進出者には、公平を期すためか、各自控室が用意される。その部屋にはモニターも設置されており、対戦するかもしれないライバルの様子を観察することも出来るのだ。
そして今、モニターに映し出されていたのは、第三試合、飯田対芦戸の戦闘シーンだった。
最初からずっと飯田が優勢ではあるが、芦戸が粘り、場外に出すことができていないのだ。また、試合が進むほどに、地面に撒かれた酸の量が増え、飯田も動きにくくなっている。そのような状態が3分ほど続いており、純狐は飽き飽きしていたのだ。
「第一戦は原作通り出久君の勝利。第二戦は轟君の圧勝。で、多分この勝負は飯田君の勝利。」
今までの流れを整理し、ため息をつく純狐。だが、そうしていることも時間の無駄だと思い、どうやって瀬呂に勝利するかを考え始める。
しかし、できることが多すぎてなかなか決まらない。それに、どの勝ち筋もそこまで派手とはいかなかった。これでは、瀬呂をドンマイの代名詞にすることはできない、と純狐は頭を抱える。
(いや、待てよ。派手にできないのならば…)
ここで純狐に電流走る。そして、何か含んだ笑いを浮かべると、第三試合が飯田の勝利で終わるのを見てステージへ向かった。
『さあ、次の試合だ!優秀!優秀なのにそのぬぐい切れない地味さは何だ!ヒーロー科瀬呂範太!!』
なかなか酷い実況と共に瀬呂がステージに上がってくる。表情は強張っていて緊張が抜け切れていないようだ。まあ、相手が相手なのでそれもしょうがない。
『1位の座を譲らない問題児!今度は何もしないでくれよ!同じくヒーロー科落月純狐!!』
紹介された純狐は、盛り上がる観客たちに向かって笑顔で手を振る。今までの行動で植え付けられた、問題児というイメージの軽減を図ったのだ。何だかんだ言っても純狐は美女であるため、それの効果は高い。
「なあ、落月。怪我はしたくねぇぞ。」
「そこは、『俺が勝つ!』くらい言ってほしいわね。」
観客から目を離した純狐は、弱気な瀬呂をジト目で見る。純狐が求めているのは少年漫画的な展開であるため、瀬呂の態度はあまりいただけなかったようだ。
『それではお二人さんとも準備はOK!?』
プレゼントマイクの声が聞こえ、瀬呂は冷や汗を流しながら、純狐はいつも通りの余裕そうな態度を崩さずに相手を睨みつける。
『第四試合!レディィイイ……START!!』
試合が始まると同時に、瀬呂は純狐から離れるように跳び、その途中で純狐に向かってセロハンを伸ばした。瀬呂は細かい作業をしながら試合の主導権を握るような立ち回りを得意としているが、純狐にそんな小細工は通用しない。そのため、今の瀬呂が純狐に対する上での最適解は速攻だと考えたのだ。
(あいつはそこまで運動神経がいいわけじゃない。それにあいつは騎馬戦の時のセロハンの速度に慣れているはず。この速度でやれば捕まえられる!さあ、あいつがどう動くか…)
セロハンが順調に伸びていくのを感じながら、純狐の次の手を考える瀬呂。彼は純狐には勝てないと感じながらも、勝負も諦めていたわけではない。それにここはアピールの場でもある為、全力は出していたのだ。
しかし、そんな瀬呂の作戦は思いもよらない方法で破られた。
『ん?あれ…?瀬呂の対戦相手はどうした!?』
瀬呂の対戦相手がいなくなったのだ。瀬呂は何をされるか分からないため、セロハンを引っ込めて周囲を窺う。試合を一段高いところでずっと監視していた主審のミッドナイトすら、瀬呂の対戦相手がどこに行ったか分からず、セメントスと目で会話していた。
『オイオイ、どこ行っちまったんだー。実況することがねぇから早く出てこいよー。』
10秒程経っても姿を現さない瀬呂の対戦相手に、あれだけ盛り上がっていた観客たちのテンションも下がっていく。今回の試合では派手なことを期待していたため落差も大きいのだろう。
その後も何の変化も無く、20秒、30秒、と時間だけが過ぎていった。瀬呂の緊張もだんだんと緩んでいき、構えを解いて肩の力を抜き始める。
その時だった。瀬呂は背後で、フッ、と優しい風が吹くのを感じる。そしてそれは、彼がこの試合で感じた最後の感覚となった。
『……は?瀬呂が急に倒れたぞ!?What?何が起こった!そしてお前いつの間に移動したんだよ落月ぃ!!』
急に倒れた瀬呂と、倒れた瀬呂の背後に佇む純狐。観客も何が起こったか分からず、お互いに顔を見合わせる。その一瞬の静寂の後にスタジアムは大盛況に包まれた。
「えー!?気づかなかったよ!あの子どこにいたの!?」「いや、俺も分からん…。とにかくすごいことが起こったという事は分かった。」「瀬呂って生徒。あれは運が無かったですね。ドンマイです。」
(…うん。やっぱり“隠”への純化は楽でいいわね。でもちょっと強すぎるみたいだから多用はしないようにしましょうか)
純狐はドンマイコールが起こっていないことに若干の不満を覚えながら、“隠”への純化の使用を控えるよう心に決める。
“隠”への純化は文字通り、何事からも隠れてしまうという事だ。姿を隠し、音を隠し、影を隠し、名前を隠し…と、何者からも認知されないようになる。これだけ聞くとただの便利な能力だが、使いすぎると人々の記憶から純狐が完全に隠れてしまい、問題が起こる為、乱用はできない。
(まあ、月の民以上のレベルの奴らは、結構簡単に攻略してくるんだけどね…。少なくとも、この観客の中にはそんなやつはいないか)
純狐はスタジアムを見渡しながら、手刀により気絶した瀬呂を抱き上げてステージの端まで運んでいく。そして、場外に瀬呂を置くと、まだ信じられないものを見たかのような目でこちらを見ているミッドナイトの方に振り返った。
「せ、瀬呂君場外!落月さん二回戦進出!」
ミッドナイトの宣言を受け、再び大きく盛り上がるスタジアム。だが、純狐の勝ち方が直接自分に響いてくるような人たちは、そう騒いでばかりもいられない。その中の一つである1―Aの生徒が座る観客席は、不気味なほどに静まり返っていた。
「…なあ爆豪。」
「んだよ。」
「あいつはいつまで“落月純狐”だった?」
轟の問いに対し、舌打ちをして顔を逸らす爆豪。その反応を見て轟は、爆豪の野生の感をもってしても感知できなかった純狐のスキルに改めて愕然とする。
他の生徒も、会話はしていないが、純狐の凄さは理解できた。いや、理解できたからこそ会話ができないのだ。
(瀬呂君が倒れるまで僕は落月さんのことを“瀬呂君の対戦相手”だとしか認識できなかった…。もし僕が轟君に勝って、勝ち上がってきた落月さんと対戦することになれば、あれをどうすれば…)
出久もこれまでまとめてきたノートを見返しながら考えるが、一向に対策が思い浮かばない。葉隠のように姿を消すだけならば対処法はあるが、記憶からも消えてしまうとなれば今の出久ではどうしようも無かった。
もちろん、その光景を見ていたのはスタジアムの中の者たちだけではない。スタジアムの外に設置されたモニターでその試合の様子を見ていたMt.レディはアイスを加えたまま目を見開いて隣のシンリンカムイの方を見る。
「アレ何ですか?自分何が起こったか分からないんですけど。」
「…奴の個性は【純化】。自分を対象にすれば、その概念そのものの化身にしてしまうことができる。障害物競争や騎馬戦を見る限り、何かしらの限界はあるようだが…」
「とんでもない奴だとは思っていたが…。雄英はあれを管理できるのか?もはや生き物の持っていていい力を逸脱してしまっているだろう。」
悩むシンリンカムイの元に、バックドラフトもやってきて意見を出す。二人の意見を聞いたMt.レディは、場外に出された瀬呂が映る画面を見ながら苦笑いをした。
「仕事減るんだろうなぁ」
おそらくこの場にいるヒーロー全員が思っていることをMt.レディが口に出すと、三人はパトロールに戻って行く。
一方そんなことは知りもしない純狐は、瀬呂が救護ロボに運ばれていくのを確認してからステージを降りていき、すかさず取材班とスカウトマンたちのいる方を確認する。
(想像以上に影響が大きいみたいね。確かにチートではあるけれど、広範囲の無差別攻撃などに対しては弱いし、純化は“力”へのもの以外同時に使えないからチャンスでもあるのに)
まあ、今までの流れからしてそこまで求めるのは酷か、と純狐は考え、早足で自分の席に向かって行く。
純狐が席に着くころには、1-Aの生徒も、いつもの雰囲気を取り戻していた。各々が、深刻な雰囲気でいても緊張するだけだと気づいたのだろう。
「お疲れ様、落月ちゃん。すごかったわね。」「よぉ、落月!どうやったんだアレ!」
純狐はいつも通り質問の山をさばいていく。最初の頃は、このようなことに慣れていなかったため戸惑いも大きかったが、今となっては得意分野になっていた。
「次は飯田君か。どうしようかしら。」
皆からの質問が一段落したところで、純狐は小大対塩崎の試合を観戦しながら呟く。勝つ方法ならばいくつかあるが、その中で楽しめそうな方法が見つからなかったのだ。
機動力に優れる飯田と戦うとなると、下手に気を抜くことができないため、それなりに本気を出さなければならない。だが、そうなると勝負は一瞬で決してしまう。
(“速”への純化とかを試してもいいけど…あれ制御難しいからなぁ。それに“速”への純化は体力をかなり消耗することが分かってるし…)
純狐が考えていると、行われていた試合が塩崎の勝利で終わる。小大も序盤はいい動きをしていたが、如何せん戦闘力に差がありすぎたようだ。
その後の常闇対八百万の試合は、原作通り常闇による速攻で勝負が決まり、切島対鉄哲の試合に移っていく。お互い防御力では優れた個性を持った者同士の戦いである。特に派手なことは起きないが参考になる事があるだろう、と多くの人々が注目を向けていた。
(防御ねぇ…飯田君の攻撃を完全に防ぎきるのもいいけれど。飯田君じゃなくてもいい、ってなっちゃうのよね。それに、私は攻める方が性に合ってる)
どうしたものかと考えながら、純狐は切島たちの試合に目を向ける。放課後の訓練で純狐に散々鍛えられた切島の方が今のところ優勢といったところだ。
「落月さんは“硬”への純化があるよね。あれと切島君ってどっちが硬いの?」
「私の方が硬いと思うわよ。比べたわけではないけれど。」
「ケロッ、まあ、落月ちゃんのは“硬い”という事の概念だからね。それ以上のものは無いんじゃないかしら。」
試合の展開が変わらないためか、話しかけてきた出久の疑問に答えると、近くにいた蛙吹も会話に加わってくる。出久は今聞いたことをノートに書きながら、いつものようにぶつぶつと呟き始めてしまった。
その様子を見て、純狐と蛙吹が苦笑いを浮かべる。すると、試合を終えた八百万たちが戻ってきた。純狐が、お疲れさま、と二人に言うと、八百万が顔を上げて純狐の方を見て、ため息をつきながら隣に座る。
「負けてしまいましたわ…。落月さん。試合を控えている方に聞くのは失礼かもしれませんが、アドバイスとかいただけますか?」
八百万は責任感が強いのか、普段はあまり人に頼ることをしない。そんな彼女がここまで言うという事はかなり追い詰められているのだろう。そう思った純狐は、飯田との対戦のことをいったん忘れて八百万のことについて考えだす。
「そうねぇ…、基礎の身体能力を鍛えるのが第一かしら。肉弾戦ができるレベルにまでなれば、戦略の幅も増えていくはずよ。それと同時に、物を創造する速度を上げることができたらいいわね。」
特に画期的なアイデアがあるわけではなかったが、純狐の話を聞いた八百万は少し元気になったようで、純狐にお礼を言うと、少し離れた席で試合の観戦を始めた。
(速さに硬さ、それに身体能力…。ああ、こうすればいいのか。難易度は高そうだけれどやってみる価値はありそうね)
八百万の気分が落ち着いたことに安堵していた純狐は今までの会話の内容を思い出す。すると、面白そうなアイデアが浮かんできた。そして、早速次の試合で試そうと、脳内でシミュレーションを始めるのだった。
― ヘカーティアside ―
「恐ろしく速い手刀。私じゃなきゃ見逃しちゃうわね。」
いつもの居間で純狐の試合を観戦していた地球のヘカーティアは、テープを巻き戻しながら呟く。あれは速さではなく気づけないことが問題なのでは、と一緒にいたクラウンピースは思ったが、ヘカーティアの気分がよさそうだったため、別の話題を振ることにした。
「そろそろインゲニウムのイベントが起こる時間ですね。あっちの方は何か仕掛けているんですか?」
「ああ、そういえば何もしていなかったわねぇ。純狐の次の試合まで時間もあるし、何かちょっかいをかけて見ようかしら。」
ヘカーティアはそう言うと、純狐が映っていたテレビのチャンネルを変え、ちょうどステインがパトロール中のインゲニウムを発見した場面を映す。そして、数秒間悩むようなしぐさをすると、何か思いついたのかニヤリと笑ってクラウンピースの方を向いた。
「クラピちゃん。悪いけどもう一度あっちの世界に行ってくれるかしら。あの包帯ぐるぐる巻きのおっさんに松明を少しだけ見せるだけでいいから。」
ヘカーティアはゲートを開いて、画面に映るステインを指さす。すでに狂ってそうだなぁ、と思いながらも、クラウンピースはステインの姿を覚え、開かれたゲートに向かって歩き出した。
「それでは行ってきます、ご主人様。あ、それと脳無さん。私が帰ってくるころまでにカフェオレを作っておいてください。砂糖多めですよ。」
クラウンピースの指示を聞いて、その辺の執事よりも上品なお辞儀をした脳無。それに満足したクラウンピースは、松明の炎を怪しく揺らしながらゲートの中に入っていった。
読んでくださってありがとうございます!
はい。内容が薄いですね。申し訳ないです。
投稿初めて約一年ですが、あまり成長が感じられない気がする……。
引き続き、失踪予定ですができるところまで頑張ろうと思います。
次回、飯田戦