少し時間かかりました。
そのくせ、いつもに増して読みにくい気がする……
ごめんなさい。一度時間をおいてから編集すると思います。
色々あった雄英体育祭1年の部も最終盤。例年以上に才気に溢れた生徒たちがしのぎを削り、後世に語り継がれるような出来事もいくつか起こった。
そして、この体育祭の最たる問題児、純狐は決勝戦を前に控室で頭を抱えていた。もはや控室で頭を抱えていないことの方が少ないとも思えるような頻度である。
「ステインが一般人を襲った?それにヒーローの被害も異常に多い。絶対何かしらの干渉が入ってる。」
起こってしまったことは仕方がないと、普段なら簡単に割り切ることができる純狐だが、これに関してはそう簡単に割り切ることができない。ステインは今後のイベントにおけるキーパーソンの一人であるからだ。
「彼はヴィラン連合とは会えたのかしら。いや、これに関しては黒霧の能力を考えれば会えた可能性が高い。一番の問題は彼が保須にとどまる可能性がかなり低くなったことね。」
この体育祭の後のインターンシップ編では、飯田の成長やヴィラン連合の巨大化などがステインという人物を軸に行われる。もしもステインが保須から去ってしまえば、大きな軸を一つ失うことになり、林間合宿編あたりでも影響が出かねない。
「うん、取り合えずインターンシップでステインに遭遇することが最優先ね。これまでの行動パターンや今回の被害状況をさらに詳しく調べて予測しましょう。私レベルの実力があればインターンシップである程度の自由行動が可能になる…はず。」
「ああ!?」
純狐が今後の方針を決めたところで爆豪が部屋に入ってくる。自分の控室と間違えたのだ。純狐は、特に話すことも無いためそのまま笑顔で見送ろうとしたが、爆豪は入口で立ち止まり、振り返って純狐に近づいてきた。
「オイ、女狐。」
「どうしたの?安心して、出し惜しみはしないわ。」
「そんなことは当たり前だ!それよりお前…、いや何でもねえ。俺が勝つ。」
そう言うと爆豪は、いつも通りイライラした様子で部屋を出て行った。そして再び一人になる純狐。その表情には、少し緊張に色が混ざっている。
「うむ…さすがにばれたか弱体化…。轟戦で強化を使いすぎたかな。でも、ここまで実力を見せていれば雄英側も私に手を出しにくくはあるでしょう。そう考えればいいタイミングだった。」
純狐には爆豪が最後に話そうとしていたことの内容が分かっていた。そしてそのことに気づいたのは爆豪だけではないであろうという事も。
純狐の弱体化は、一般人であっても気づけるくらいの早さで進行している。それに皆が気づいていないのは、強化を使ったときに出る光や音に邪魔されるという事が大きな理由だ。
もちろん純狐の調整が巧みであることや、強化を使う頻度を下げていることなども理由としてある。しかし、純狐が最も警戒している相澤にばれていない理由としては上記の物が最有力だろう。
しかし今回の轟戦。光などが出ているため、インパクトの瞬間のずれなどは相変わらず見にくいが、氷の壊れ方などで威力の衰えはどうしても浮き出てくる。かなりの回数強化を使ったという事もあり、轟の氷が硬くなったという事だけでは言い逃れできないレベルの威力の衰えをさらしてしまったのだ。
だが、純狐の言う通り、このタイミングでばれたことは不幸中の幸いでもあった。この体育祭で実力を様々な方面に見せつけた純狐は、ますます手放すには惜しい人物となったからだ。
それに、これからヴィラン連合も本格的に動き出す時期であるため、ここで純狐を手放すのは絶対に避けたいことであるだろう。
「まあ、大丈夫ね。決勝に行きましょう。」
今は問題なしと結論付けた純狐は、目の前の決勝戦に集中する。せっかくの決勝戦の舞台を楽しまないという選択肢は純狐に無かった。
『さあいよいよラスト!雄英一年の頂点がここで決まる!!決勝戦、爆豪対落月!』
両者がステージに上がると、大きな歓声と共にプレゼントマイクの実況が聞こえてくる。純狐は、この感覚もこれで終わりかと噛み締めながら試合開始の合図を待った。
『今、スタート!!』
合図と同時に、純狐は爆豪に向かって風の塊を放つ。爆豪は難なくそれを避け、続く攻撃をさばきながら純狐に近づき手を構えた。簡単そうにやってのけているが、純狐の攻撃を避けるだけでも相当な技術である。
手を向けられた純狐は、横に飛びのきつつ爆豪の足元を“柔”に純化する。だが爆豪は、爆破を使って地面から少しだけ浮いて移動しているため、それを意に介すことなく純狐を追って加速した。
その速さに純狐は対処しきれず、一撃もらってしまう。しかし、それは速度重視の攻撃だったためか、威力はそこまで大きくない。
(なる程、ヒット&アウェイか)
再び離れたところから突撃を始めた爆豪を見ながら純狐はそう考える。確かに純化には集中力を必要とするものも多く、このように動かれてはやりにくい。また、一度に純化できるものは一つという制限もある為、高速で、しかも進路変更以外は地面に触れずに動く爆豪に狙いを定めて使うのも難しい。
だがしかし、純狐にとってこれは、厄介だなと思う程度の物であり、特に危険というわけでもない。わざわざ点で捉えなくとも面での攻撃が可能であるため、対処法はいくつもあるのだ。
「フフ、これでどう?」
純狐は自分を中心に水を作ってそれをばらまき、すかさず氷にする。すると、純狐を中心として氷柱の林が出現した。これによって爆豪は動きを制限されるだけでなく、体温も上がりにくくなる。
「チッ」
爆豪は作戦の変更をせざる得なくなり、いったん純化の範囲から出た。結局まともに攻撃を当てることができたのは数回である。さらに、空中移動を繰り返したことで、手も痛み出していた。
しかしそんなことは純狐の知ったことではない。足を強化して爆豪に近づくと、その勢いのまま拳を振り抜く。爆豪はそれを驚異の運動神経で見切り、突き出された腕の軌道を変えて直撃を避けた。
しかし直撃しなくとも、強化された腕から発せられる風圧によって爆豪はふらついてしまう。純狐はその隙を突こうと蹴りを放つが、強化されていない足では速度が足りず、爆破で無理やり姿勢を戻した爆豪に簡単に避けられてしまった。
「あなたも強いわよね。何か練習してるの?」
「てめぇに教える義理はねぇよ!」
「残念。」
純狐は言い終わると同時に、爆豪の目の前に再び小さな風の塊を作る。それは氷の柱も数本巻き込んだことで、想像を絶する暴力性を持つものとなった。
それを避けられないことを悟った爆豪は、体の前に手を突き出して爆破で風と氷を打ち消し、生まれた煙幕に身を隠すようにして純狐の正面から移動を試みるが、煙幕は移動し終わる前に再び生み出された風によって吹き飛ばされてしまった。
「なあ緑谷…、これは詰みじゃないか?」
攻撃手段の減っていく爆豪と、いくらでも武器を生み出すことのできる純狐。すでに一方的な戦いになり始めている決勝戦を見て、峰田は出久に近づく。彼の言葉は彼だけのものではなく、この場にいる全員が感じ始めていることだった。
中距離からの戦闘も可能ではあるが負荷の大きい爆豪は、どうしても純狐に近づかなければならない。だが、近づくには襲い掛かる数々の攻撃をかいくぐる必要がある。また、たとえ近づけたとしてもその先には強化や硬化を使った鉄壁ともいえる守りがあるのだ。
「…確かに、かっちゃんにここから挽回する手は…」
爆豪の強さを良く知る出久も、難しい顔をして試合を見守る。爆破という個性は確かにシンプルな強さがあり、ちょっとした小細工では通用しない。だがそれ故に、それを上回るパワーや速さを持った相手には上から叩き潰されてしまうのだ。
「正に、万事休す、という事か。」
準決勝で爆豪に敗れた常闇も劣勢の爆豪を見て目を細める。自分が圧倒されて負けた相手が苦戦している姿を見るのは複雑なのだろう。
「だけど、かっちゃんはまだ大規模な爆発を使っていない。可能性があるとすればそこかな。」
出久の言う通り、爆豪はいまだに麗日戦で見せたような大規模な爆発を使っていない。純狐もそれに気づいており、爆破の届く範囲に入らないように遠距離から攻撃を続けていた。
(うーん、ハウザーインパクトでも使う気かしら。でもあれを撃つような隙を私が与えるとも思ってないでしょうし…。もしこのまま終わったら拍子抜けね)
遠距離からの攻撃をボロボロになりながら避け続ける爆豪。敗色濃厚なのは確定的であるが、爆豪の目には闘志が宿っていた。
『またもや落月の風爆弾!爆豪吹き飛ばされる!さらに落月、追い打ちで風爆弾を追加!爆豪これには爆破を使い、自分を地面に叩きつけることで場外を回避!だが、落月の攻撃はまだ続く!落ちた場所には底なし沼だ!』
『爆豪は良くやっているが、相性が悪いな。いつまで体力が持つか…。』
爆豪は純狐が“柔”への純化を解く前にその場所を脱する。休まず頭と体を使い動き続けているタフネスには、スタジアムの誰もが驚きを隠せない。しかし、それ以上に目立っていたのは油断を無くした純狐の圧倒的な能力だった。
「もうあれが最つよでしょ。誰が勝てるのアレ。」「轟って生徒は遠距離も出来たからまだどうにかなっていたが…」「しかも落月って奴の恐ろしいところは遠距離だけじゃないってことだよな。遠距離、中距離、近接、全てにおいて最上位クラスだ。」
改めて純狐の規格外さを見せつけられ、スタジアムの歓声がだんだんと小さくなっていく。そして、それと並行するかのように、純狐のテンションも下がっていった。
(このまま爆豪君の体力が尽きるまでこれを続けてもいいけど…つまらないわねぇ。爆豪君は私を疲れさせる気なのでしょうけど、残念ながら強化と霊力の大量使用以外は疲れも微々たるものだし…)
いっそのこと突っ込んで接近戦に持ち込もうかとも思う純狐だが、自ら圧倒的優位を捨てることとなり、舐めプと批判されるかもしれないため決行しにくい。だからと言って今のままだと、おそらく何も起きないまま純狐の勝ちで終わってしまう。
(爆豪君もまだ隠し玉を持ってそうだからそれも見てみたい…)
「何考えてんだボケェ!」
純狐がそんなことを考えていると、いつの間にか爆豪が近づいており、横腹に一撃食らってしまう。なんと爆豪は純狐の作った風を利用したのだ。
「あなた、そういうところが侮れないのよね。やっぱ天才って怖いわ。」
「あんだけ何度も食らったら誰でもできるわ!舐めてんのか!!」
「普通はできないのよ。」
追撃を加えようとしてきた爆豪を強化した手で弾き飛ばし、再び間合いを取る純狐。だが、今まで頼ってきた風を利用されるとなっては、遠距離攻撃の手段がかなり減ってしまい、今までのように安定した戦闘はできなくなる。
純化する範囲を広げて風の威力を増せばいいと思うかもしれないが、作り出した風は制御することはできないため、自分ごと吹き飛ばしてしまう危険があるのだ。
しかし、その程度のことは純狐の障害になりえない。
「フフフ、面白くなってきたわね!」
「あ゛!?」
懐に一瞬で潜り込む純狐に反応できずに、爆豪は殴り飛ばされてしまう。すぐに姿勢を戻しはしたが、目の前にはすでに純狐の拳が迫っていた。爆豪はそれを避けられないことを悟り、わざと拳に顔を近づけ、拳に合わせるように首をひねって衝撃を逃がす。
『うお、風を攻略された落月が接近戦に切り替えた!何度見てもえげつねぇスピードだなオイ!』
『これで爆豪は自分の攻撃範囲に落月を入れることができたが…落月は接近戦でも強い。どう攻略するかだな。』
(クソッ、速え)
爆豪は純狐と距離を取りながら唾を吐く。飯田戦の観戦を通して純狐のスピードについて理解したつもりだった爆豪だが、見るのと実際に体験するのでは感じ方が全く違った。
「ほらほら、次行くわよ。」
爆豪が予測の甘さを痛感していると、いったん攻撃を止めていた純狐が再び拳を握りしめる。その様子を見る限り、おそらく今の攻撃は様子見であり、次の攻撃で終わらせる気なのだろう。
そして次の瞬間、純狐から神速の拳が放たれた。しかし、緊張で力みすぎていたのだろうか。放たれた拳は爆豪の腹をかするような軌道であったため、難なく避けられてしまった。そして純狐は、強化した手に引っ張られて体勢を崩してしまう。
爆豪はこの隙を見逃さない。爆発で体を浮かせ、さらに爆破を使い体を回転、そして加速させていく。
ハウザーインパクト。現時点で爆豪の最大火力を誇る技である。流石の純狐も姿勢を崩している状態でこれを食らってしまえば、場外に出てしまうのは確実だろう。
一段と大きくなった声援を背に、爆豪はさらに加速していき、瞬きを許さぬ速度で純狐に接近する。正に絶体絶命の純狐。だが、そんな状況であるにも拘わらず純狐は笑っていた。
そして次に爆豪の目に映ったのは地面だった。状況を確かめようにも、今までの疲れからか体が言うことを聞いてくれない。
「今のあなたの技…、確かに攻撃は最大の防御という言葉を体現したようで面白いわ。横は爆発や回転があるから干渉しずらいし、前から受け止めるにしても難しい。だけどね、頭という弱点がむき出し、という弱点もあるのよ。」
純狐はそう言うと服についた煤を払い落とす。そのしぐさを見た爆豪はやっと自分が何をされたかを理解した。
(こいつ…ッ、大技を誘いやがった!)
そう、純狐はミスをしたふりをして爆豪の大技を誘い、そこにカウンターを入れたのだ。
接近戦になれば、体力、霊力の消耗は避けられない。また、無いとは思うが、妨害が変なタイミングで入れば負けてしまう危険もあったため、早期決着を図ってのことだった。
(やっぱり彼は凄いわね。風の攻略とか、それを成し遂げる精神力、体力。さらに一瞬の隙も見逃さない判断力。どれもあっぱれとしか言えないわ)
沸き起こる歓声を浴びながら、純狐はこの試合を振り返る。だが、爆豪が少しだけ動いたのを見て、思い出に浸る前に場外に出してしまおうと、端の方で寝ている爆豪に近づいていった。
「いい勝負だったわ。機会があればまたやりましょうね。」
純狐は満足した顔で爆豪に言葉を投げかける。その時純狐は気づくべきだった。まだ爆豪の目に闘志が宿っていたことに。
純狐が爆豪を持ち上げようとした瞬間、爆豪は足を純狐の腹部に絡ませ、それを基点に体を持ち上げて純狐に抱き着く。
あまりに唐突なことだったため、純狐は後ろに倒れないことで精いっぱいで、何かをする余裕は無かった。しかし、それでも純狐は気付いた。いや、気付かざるを得なかった。爆豪の体操服が異様なまでに濡れていることに。
そこまで気付けば、純狐の優秀な脳は勝手に爆豪の次の行動を予想する。
(まさかッ、手汗を染み込ませていたの!?自爆する気!?)
その予想を決定付けるように、爆豪の手がゆっくりとニトロの染み込んだ体操服に触れるために動き出す。ここまでくれば、もう【純化】では間に合わない。教師たちも爆豪のやろうとしていることに気づき動き出したが、それが遅すぎることは明らかだった。
「セメントス!」
「ダメだ!耳を塞いで!」
主審であるミッドナイトも個性を発動させて爆豪を止めようとするが、間に合わないと判断したセメントスに止められ、せめて自分へのダメージを抑えることができるように耳を塞ぐ。
数舜の間。しかし、聞こえるはずだった爆発音はいつになっても、誰の耳にも届かない。
それの代わりに皆が見たのは、倒れている爆豪。そして、禍々しい赤に染まる純狐の両目だった。
(あれ、私また何かやっちゃいました?ってふざけてる場合じゃない。無意識に発動しちゃうのかコレ。私としては負けても問題なかったんだけど…)
純狐は目の個性を止めながら、今度こそ気絶した爆豪を場外に出し、耳を塞いだままのポーズで固まっているミッドナイトの方を見る。しかし、いつまでたってもミッドナイトは焦点の合っていない目で虚空を見つめているだけであった。
しょうがないので、純狐はミッドナイトに近づき、ぽん、と肩を叩く。それでやっと意識を取り戻したミッドナイトは、驚いた様子で周囲を見回した。
「大丈夫ですか、先生?」
「えっ!あ、ごめんなさい!」
何とか周囲の状況を理解したミッドナイトは急いで壇上に戻り、純狐の勝利を宣言する。だが、観客からの歓声は小さく、明らかに様子がおかしかった。
その様子を見た純狐は実況席の方を見て、何か言うようアイコンタクトを入れる。それに気づいた相澤は、今思い出したかのようにプレゼントマイクの肩を叩き、気を確かにさせた。
「ん、俺は何を…」
「詳しいことは後で話す。落月が勝った。早く放送入れろ。」
まだ状況が読み込めていないプレゼントマイクだったが、相澤の焦った様子を見て真面目な顔になり、すぐに放送用のマイクに向かう。こういうところの切り替えの早さは、さすがプロと言ったところだろう。
『HEY!皆大丈夫か!?あまりの驚きに声も出なくなったって?HAHAHA、冗談はよしこちゃんだぜ!さぁ、これで全競技終了だ!荒れに荒れた今年度雄英体育祭一年の部、優勝は……A組、落月純狐だ!!』
読んでくださりありがとうございます。
戦闘シーンが単調でどうしようもねぇな。
次回、失踪はまだしないはず