なかなか話が進まないことで悩んでいる系主です。
予定では30話くらいで終わらせるか、20話くらいで失踪するかだったんですけどねぇ。
皆さんのおかげです。ありがとうございます。
「グラントリノはワンフォーオールの件もご存じだ。むしろそのことで君に声をかけたのだろう。」
オールマイトは昔のことを思い出したのか、引きつった笑みを浮かべながら話す。そして、あらかた説明が終わると、出久を帰して純狐と二人きりになり、いつもの仮眠室へ向かった。
仮眠室に入ると、オールマイトは純狐に腰掛けるように言い、いつものお茶を用意する。
「…でだ、落月少女。君の純化の件についてはまだグラントリノにも話していない。君の許可を取っていないし、私としても話さない方がいいと考えたからだ。」
「お気遣い感謝します。私としてはどちらでもいいですよ。口の堅い方でしょうし、何らかの理由で漏洩したとしても、私はまだプロではないので影響も小さくて済むでしょう。」
そう言って、用意されたお茶を飲む純狐。オールマイトは、そんな純狐を少し訝むような目で見ると、小さく息を吐いて再び話し始めた。
「まあ、君には千件以上の指名があるからその中で選んでくれても全然かまわないよ。私が一個人としてグラントリノを押しているだけだ。」
純狐は、順調にいけば確実に時代を支えるヒーローになるであろう。そう思っているオールマイトは、その心構えを身に着けさせるためにも、自分を育ててくれたヒーローの元へ純狐を送りたかった。
実は、グラントリノに純狐を推薦したのもオールマイトである。元々グラントリノは出久にしか指名を出していなかったが、オールマイトに頼まれたため、純狐にも指名を出したのだ。
そして、これは純狐が待ち望んでいた展開でもあった。今回のことに関してはステインの行動パターンが分かってもどうしようもないことに気づいた純狐は、ステインに会うためには主人公のそばにいることが最適と考えたのだ。
「せっかく先生から直々に話してもらったのを無下にはしませんよ。過去にオールマイトを教育した経験もあるらしいですし、私としても興味があります。」
笑顔で答える純狐を見て、オールマイトは安心したようなため息をつき、背もたれに寄り掛かる。ここで純狐に断られれば、グラントリノにまた小言を言われることになることは免れなかっただろう。
「よかった。私も推薦した甲斐があったよ。グラントリノは今は隠居してらっしゃるとはいえベテランだ。学ぶことも多いだろう。存分に頑張ってくれ!」
オールマイトのその言葉を最後に、二人は解散して純狐は帰路に就いた。すると、教室のそばで待っていた出久、麗日と目が合う。出久たちは純狐と目が合うと、その場で二言ほど話して純狐に近づいて来た。
「ねえ、落月さん。飯田君から何か聞いてない?」
「お兄さん…インゲニウムの事件の後から、少し様子が変なの。何か知ってることがあれば教えてほしいな、って…。あっ、勿論秘密にしなきゃいけないことなら話さなくていいよ。」
(へぇ、飯田君のことをこのタイミングですでに心配していたわけか。観察眼は私の想像していたもの以上みたいね。ここで話してあげたい気持ちもあるけれど…やめときましょう)
話しかけられた純狐は、申し訳ないと思いつつ、知らないと二人に言う。二人はその言葉を聞き、少し残念そうな顔をするが、すぐに表情を戻して一緒に帰ろうと純狐を誘ってきた。純狐は特に断る理由も無いため、二人の誘いに乗って一緒に下校を始める。
「あの後、オールマイトと何話してたの?グラントリノのこと?」
「ええ、そうよ。私もグラントリノのとこでお世話になることにしたわ。」
「グラントリノってヒーローは私知らないんだけど、どんな方なの?」
三人はそんな会話をしながら校門まで歩いて行く。校門を出ると、出久たちと家の方向が違う純狐は、そこで別れて一人で歩き始めた。
(今日も終わりか。インターン前に体の調子確かめないとね。幸い、目の個性を使った反動みたいなのは今のところ無いけど、細部には影響があるかもしれないし)
純狐が現在使える力は、この世界に来た直後の7割ほどである。かなり衰退はしているが、それでもオールマイトと肩を並べるほどの力である為、そこに特に問題は無い。
目の個性を大々的に使ったことで何らかの大きな影響が出るかとも思われたが、それも今のところ確認されていない。その理由として純狐が考えているのは、今まで得体のしれない力という事で皆が畏れていたものがはっきりとした形をもって現れたことで畏れが薄まったという線と、ヘカーティアが介入して来たという線だ。
この世界は個性というものが元々存在しており、不思議な現象もそれで片付けることができてしまう。そのため、今までは思考の純化によってどんなことが起こるか分からなかったのが分かるようになり、恐れが薄まったという事だ。
ヘカーティアが介入して来た場合については、今の純狐ではどうしようも無いので考えていない。なるようになれ、というやつである。
(まあ、今考えても仕方ないわね)
純狐はそう思い、考えをいったん切ると、急いで家に帰っていった。
◇ ◇ ◇
職場体験当日。1-Aの皆は、バスに乗って近くの駅まで移動していた。
「コスチュームは持ったな。本来、公共の場なら着用厳禁のものだから落としたりするなよ。」
相澤からの注意点の再確認も終わると、各々が別の方向へ向かいだす。純狐も、飯田と話し終わった出久と共にプラットホームに向かい、新幹線を待っていた。
「ねえ、出久君。グラントリノについて何か調べた?」
「うーん…調べはしたんだけど、情報がほとんど無かったんだよね。オールマイトも最近は隠居してらっしゃると言ってたし、どんな人かは分からないかな。」
話しかけられた出久はポケットからメモ帳を取り出して話す。それを聞いた純狐は、原作とのずれが無いことに安心すると、無言でいるのも寂しかったので再び出久に話しかけた。
「出久君はどんな分野を強化したいとか、克服したいとか考えてる?それともそれを探しに行く感じかな?」
スケジュールのぎっしり書かれた手帳から目を離した出久は、悩むしぐさをしながらぶつぶつと30秒程話すと、いびつな形になった右手を見ながら話し始める。出久にとっての戒めであるそれは、気持ちを整理したりすることにも役立っているようだった。
「まずは個性の調整かな。こんな怪我を続けるわけにもいかないしね。その後は…あまり考えられてないな。個性の調整に慣れたり、その状態で動くことができるようになる練習が必要なのは分かってるんだけど、それがどうなるか…。落月さんはどうなの?」
「私?私はそうね…体育祭で自分の実力とかは確かめられたから、プロの現場の空気を味わいたいわね。あと、出久君が良ければ、サポートもするわ。」
純狐の話に出久が頷いていると、新幹線がプラットホームに入ってきた。二人は人並みに飲まれるようにそれに乗り、予約していた席を探してそこに座る。
「指定席にしといてよかったね。自由席なら座れそうになかったよ。落月さんのアドバイスのおかげだ。ありがとう。」
「いや、こちらこそありがとね。こっちの方が値段高かったのにわがまま言って。」
純狐はそう言うと、あらかじめ買っておいたジュースを出久に渡す。出久がこういうことを気にするたちでは無いことを純狐は知っていたが、こうでもしないと罪悪感がぬぐえなかったのだ。
(私もこの世界にかなり情が移ってきてるわね。これはこれで心地いいんだけど)
純狐は、ジュースを受け取ることを断り続ける出久の胸にジュースを押し付けながら、そんなことを思う。まあ、情が移ったとはいっても、この世界を消すときに少し寂しくなる程度ではあるが。
「落月さん。ゲームしない?」
やっとジュースを受け取った出久は、カバンの中からトランプを取り出してシャッフルを始める。真面目な出久が職場体験に遊び道具を持ってくるというのは純狐にとって予想外であった。おそらく、移動時間中の純狐との時間潰しとして持って来たのだろう。
純狐はそのことを察すると、出久と共に色々なトランプゲームを始めるのだった。
◇ ◇ ◇
「……ここで合ってる…よね。」
「………。」
新幹線から降りて歩くこと十数分。純狐と出久は廃屋としか思えないようなボロボロの建物の前にいた。外壁のタイルは大部分がはげ落ち、無数のひびが走り、つたも伸びてきている。
(想像以上の廃れ具合ね。この調子だと寝床も掃除、片付けからしなきゃダメか)
純狐は絶句する出久の横でそんなことを考えながら、二階三階の窓を見る。そもそも、窓が割れているところもあるので、まともに使える部屋はいくつあるのだろうか。
と、ここで純狐はあることを思いついた。そして、早速それを実行に移そうと、扉を開けようとしていた出久を引き留めて話し始める。
「ねえ、出久君。知ってた?この町の噂。」
「い、いや、知らないけど…。」
突然話しかけられた出久は、困惑しながらも足を止めて純狐の話に耳を傾ける。
「この街にはね、大昔に退治された凶悪なヴィランの怨念がいるらしいのよ。そしてそれはおじいさんの姿で現れる。道端とかで困っているおじいさんに不用意に近づいたら……そのままの連れ去られちゃうんだって。」
出久はごくりと唾を飲み込む。突拍子もない話であるが、純狐の語り方が異常にうまいせいで出久はその話に飲み込まれそうになっていた。
「でもね、安心して。困っているおじいちゃんとは言っても、明らかにおかしいと思われるような困り方をしてるらしいから。例えば、致死量と思われる血を吐きながら倒れていたりとかね。それに、撃退方法もあるわ。」
「げ、撃退方法って?」
出久は恐る恐る純狐に尋ねる。出久はこの話を信じたわけではないが、あくまで知識としてそれを知っておこうと思ったのだ。決して怖いからではない。……怖いからではないはずだ。
「大きな奇声を上げて近づけばいいのよ。そうすると、自分を倒したヒーローのことを思い出して逃げるらしいわ。」
あからさまにホッとした様子を見せる出久。これから起こるであろうことを知っている純狐は、笑いをこらえながら扉を開ける出久を見守った。
「雄英から来た緑谷出久です…よろしくお願いしまぁぁああああ!!」
原作通り、グラントリノは玄関先で倒れていたらしい。出久は大きな悲鳴を上げ、扉の前にいる純狐の方を向く。
「ら、落月さん!」
「見て!出久君。明らかにおかしいわ。これが噂の奴ね…!白昼堂々こんなところに現れるなんて!やってやりなさい出久君!!」
必死を装いつつ話す純狐の言葉に駆られた出久は、意を決して倒れていたグラントリノの方に向き直り、息を大きく吸い込んだ。それと同時に、純狐は耳を塞いで少し離れた場所に移動する。
「ほわああああああ!ふぃぃぃいいいい!!ぬううああああああん!!」
「疲れたもー…じゃない!な、なんだお前!!気でも狂ったか!?」
いきなり奇声を大音量でぶつけられたグラントリノは、さすがに身の危険を感じて跳び起き、出久から離れる。それでも出久は諦めず、一生懸命奇声を発し続けた。
混沌とする現場。その中で唯一この状況を理解できている(この状況を生み出した)純狐は、腹を押さえて笑っていた。グラントリノはそんな純狐を見ると、出久の頭を殴って気絶させ、理由を聞こうと近づく。
「挨拶はいいから質問に答えてくれ。この小僧はどうしたんだ?こんな奴が来るなんて聞いてないぞ。」
柄にもなく真面目な口調になるグラントリノ。純狐は倒れている出久を起こし、ソファーに寝かせてやると、グラントリノの方に向き直った。
「グラントリノほどの方に指導をしてもらうことが嬉しかったようです。普段はこんな子ではないんです。」
「いや、普段からこんな子なら俺も受け入れてないわけだが…。まあ、いいや。こいつが起きるまでお前の調子を見といてやる。」
グラントリノは床に散らばったソーセージとケチャップを片付けて純狐の持っているユニフォームの入った箱を指さす。純狐はそれに頷くと、トイレで着替え、準備の出来ているグラントリノの前に立った。
「では、よろしくお願いしま…」
「実戦じゃ挨拶はねえぞ。」
純狐が挨拶を言い終わる前にグラントリノは飛び出していた。その動きは純狐が飯田戦で見せたものと同様に三次元的で捉えにくい。だが…
「何?」
純狐は、グラントリノの肘の部分をそっと触って拳の軌道をずらす。グラントリノの動きは捉えにくくはあるが、飯田のレシプロに迫る速さを出すことのできる純狐のものほど速いわけではない。また、純狐と違って限られた壁しか使うことのできないグラントリノの動きを読むことは純狐にとって難しくなかった。
「やるなお前さん。だがヒーローはヴィランを捕まえなければならない。避け続けるだけではだめだぞ。」
「……。」
純狐はグラントリノの動きに注意しつつどう捕らえるかを考える。さすがはプロヒーローだ。グラントリノはさっき動きを読まれたことから学習し、スピードや足場に緩急をつけて動きが読みにくくなっていた。
(点で捉えられないなら面で捉える)
純狐はそう考えると、この建物に入る前に念のために採取していた、つたの種を数個ポケットから取り出してばらまいた。グラントリノはそれが何を意味するものか分からないため、距離を置こうとするが、その判断は純狐の能力発動と比べると少し遅かったようだ。
「っく……さすがだな…。」
生命力に純化された種は、一瞬でつたを部屋中に伸ばし、グラントリノをからめとる。勿論、純狐もそれに巻き込まれたが、自身の周りのつたを“枯”に純化して動けるようにしていた。
「ありがとうございました。」
純狐はお礼を言って、数分かけて部屋中のつたを枯らし終わると、そのゴミを風で集めて窓の外に出した。
(本当に規格外の力だな。俊典の奴が推薦するのも分かる。だが、力がありすぎるのもちょっと困るな。俊典が言ってたように、楽しみに走り出した時、誰もこいつを止められなくなる。人を助けることが楽しいと思わせることが必須だな)
グラントリノはそんな純狐の様子を見ながら脳内でプランを考える。
その後、純狐とグラントリノはお菓子などを食べながら出久が目覚めるのを待ち、出久が目覚めると原作通りにことが進んだ。
「お前はワンフォーオールを特別に考えすぎなんだな。ほら、お前の隣を見て見ろ、よっぽど特別な奴がいるだろ。こいつほどハチャメチャでなくてもいいからもっと柔軟に考えろ。」
グラントリノはそう言うと、夕飯を買いに外に出た。純狐はその間に覚悟を決めて二階に上り、自分の寝床の確保を始める。だが、部屋は想像よりは散らかっておらず、掃除するだけでよさそうだった。
「ふう、これからが本番ね。出久君はすでにフルカウルに近いことはしてるから、後れを取ることは無いでしょう。」
純狐はそう言って机に向き合い、スケジュールを確認すると、一階から聞こえてくる出久の声に耳を傾けるのだった。
― ヘカーティアside ―
「HEYオールフォーワン。ステインの件はどうかしら?」
「大丈夫そうです。落ち着きを取り戻した後は冷静に話をしてくれました。死柄木の糧になってくれることでしょう。保須に戻るそうですが問題ありません。」
オールフォーワンはいつも通り突然現れたヘカーティアの方を向いて頭を下げる。ヘカーティアもいつも通りの椅子と机を用意してお菓子を食べ始めた。
「ところで…」
オールフォーワンはパソコンに何かを入力し終わると、ヘカーティアに話しかける。
「ステインの暴走…あれヘカーティアさんのせいですよね。何か考えがあったのですか?ステインの保須に戻る理由として掲げていたのが、変な服装をした奴への復讐という事でしたし…」
「んん?今誰の服装が変だと…」
「いえ!ステインがそう言っていただけで、私は素晴らしい服装だと考えています!」
すかさずフォローを入れるオールフォーワンを睨みつけながら、ヘカーティアは再び椅子に腰かける。オールフォーワンは冷や汗をたらたら流しながら、ヘカーティアの答えを待った。
「秘密よ、秘密。…まあ、あなたならもう感づいてるだろうけど。」
ヘカーティアはそう言い残すと、職場体験中の純狐と話すために家に帰っていった。
― side out ―
読んでくださりありがとうございます!
文が読みにくいですね。いろんな本を読んでを見て勉強します。
次回、職場体験続き